百鬼ルトは紛れもない天才だ。
生まれた時から膨大な量のマナを有し、幼くして魔祓刃に開眼した。
誰かから学んだわけではない、土壇場で覚醒したわけでもない。
自然と使えるようになっていたのだ。
まるでそれが、手足の一つであるかのように。
故に、ルトにとって魔祓刃を振るうことは自身の責務だった。
強者は強者として、弱者を守らなければならない。
それが原作においてルトの根底にあった信条だ。
そしてその信条故に、弱者が強者に依存しかしていないことに憤りを覚えたりもした。
今でもその感情は、決して拭い去られたわけではない。
ただ単純に、それ以上にちょっとろくでもないアレな弟のせいで自分のあり方を見直さなければいけなかっただけで。
百鬼セオ。
ルトの弟にして、ルトがもっとも「弱者」であると思う人間だ。
才能がなく、表面的な性格は平凡そのもの。
頭のおかしいことをしていなければ、セオは本当に普通のどこにでもいる子どもなのだ。
頭のおかしいことをしている時しかないのが難点だが。
それでも、ルトはセオを評価している部分があった。
それは才能に腐らなかったこと。
そして結果を出したこと。
悪路王とサトリの討伐、そして白面金毛すらも打倒してみせた。
あの無能の弟が、だ。
実際、セオが無能であることは変わっていない。
実力の大半はミホノから与えられたもので、戦闘に使う手札は炎を纏うアレを除けば搦め手ばかり。
弱者の戦い方だ。
だからこそ、純粋にすごい、とも思う。
無論、嫉妬もある。
正直自分とは関わってほしくないし、遠いところで元気にやってほしい。
肩を並べるなんてもってのほかで、敵の攻撃よりも味方の行動に動揺して隙を晒してしまうだろう。
それでも、弱者であるセオがああして結果を出したのだ。
兄として、強者として、セオには負けていられない。
――そういう意味で、この状況はルトにとって最善とも言えるものだった。
『……クハハ、よく来たな、阿呆の兄よ。己の相手は貴様か?』
「貴様が”堅陣”の白面か。随分と、退屈そうだな」
『そうさなぁ。己も貴様のようなつまらん魔祓師ではなく、あの阿呆と戦いたかった』
ルトと白面は、誰も居ない山の山頂で相対していた。
随分と退屈そうに、言霊の白面と同じような姿の白面金毛は嘆息する。
阿呆の兄、という発言に思うところはあるが、事実ではあるのでルトは突っ込まなかった。
「ならば、今からその認識を崩してやろう――俺の色即絶空でもって」
『ハ、まずその認識がつまらんのだ。――来い!』
かくして、ルトと堅陣の白面の対決が始まる。
堅陣の白面は、名の通り非常に堅牢な壁を作り上げる白面だ。
これを物理的な方法で突破することはほぼ不可能。
言霊の白面、そしてミホノが激突する予定の”破壊の白面”と並び、真っ当に強い白面金毛と言えるだろう。
ただし――
「――俺の色即絶空の敵ではない」
百鬼ルトの魔祓刃にとってはその限りではない。
ルトは、自身の手に黒色の長剣を作り出す。
それを二振り。
作り出した剣を構えて、ルトは白面へと斬りかかる。
そして白面金毛の生み出した壁と、剣が激突した。
両者はぶつかり合い――そしてルトが壁を破壊する!
「この程度、なんてことはない」
『……ふん、絶対両断の剣か、つまらん魔祓刃だ』
「その余裕も、今のうちだ」
連続でルトは壁を切り崩しながら、突き進む。
堅陣の白面は強固な壁を作り出すことができるが、ルトのそれはあらゆるものを絶対に切断する刃。
それはセオが「切断」の概念を付与した刃よりも更に強力で、セオの切断概念は物理にしか効果がないのに対し、こちらは魔祓刃すらも切り裂いてしまう。
強力無比にして、ルトを天才たらしめる最強の矛。
堅陣の白面のそれもまた、最強の盾ではあるが、最強の矛と盾がぶつかりあった場合、マナが絡む戦闘において勝つのは出力が高いほうだ。
つまり、ルトは純粋な出力で白面を凌駕している。
「故にこそ、貴様は俺には勝てない」
『――それが、どうした。戦闘において有利不利を決めるのは、出力だけではない』
白面金毛がそう告げると、ルトの頭上に巨大な壁が出現。
それが――ルトに向かって降ってくる。
「貴様……!」
『回避は間に合わんぞ、せいぜい気張って破壊するのだな』
ルトは言われるまでもなく、頭上の壁に向かって剣を振るう。
二回ほど刃を叩き込めば、壁はいとも容易く破壊される――が。
降ってくる壁は一枚ではない!
『――ただし、この壁は貴様が敗れるまで永遠に降り注ぎ続けるがな』
壁を破壊するのにも、二太刀は必要だ。
いくら出力ではルトが勝っていても、降り注ぐ速度で押し負けてしまえば意味がない。
そしてこのまま降り注ぎ続ければ、いずれルトに限界がくる。
で、あれば――
「――そんな茶番に付き合うつもりはない」
ルトは、その時。
別のものを切り裂いた。
何か。
――空間だ。
『む――』
ルトが自分の切った空間に飛び込むと、降り注ぐ壁の外――白面の目前までルトが迫っている。
切り裂いた空間は色即絶空によって一時的に”存在しない”ものとなり、擬似的な空間跳躍が可能となるのだ。
「これで終わりだ」
『――そうこなくてはな』
この時だけ、それまで退屈そうだった白面が明確に笑みを浮かべた。
そして迫るルトの剣を、堅陣の白面は正面から受け止める。
自身の目前に、不可視の壁を築いたのだ。
さらにルトの剣がそれを突破する前に、反撃を仕掛ける。
「くっ」
『さぁ、己はこれで終わりではないぞ?』
白面金毛の反撃が始まった。
ルトは剣を振るうものの、それは壁によって弾かれる。
その間に飛んできた白面への反撃は、回避以外の方法がない。
剣はすべて壁で受け止められているのだから。
結果、ルトの攻撃は届かないのに、白面金毛の攻撃は一方的にルトへ見舞われる。
その状況で、少しずつルトは追い詰められていくのだ。
『どうしたどうした、これで終いか?』
「貴様……!」
ルトはなんとか対処しようとするが、少しずつ追い込まれていく。
そして――
『――獲ったぞ』
致命的な隙を晒す。
勝利を確信して、白面が鉤爪を振り上げ――
「――それはこちらのセリフだ」
直後、その腕が不可視の斬撃によってきり飛ばされる。
『なっ――!』
「何時から俺の色即絶空が、この剣からしか放てないと勘違いしていた?」
『貴様……それを誤認させるためにわざと!』
もともと、ルトの色即絶空は一定範囲内に飛ばすことのできる不可視の斬撃だ。
それをルトは、敢えて黒い剣を見せることで剣を振るうことであらゆるものを断ち切る能力に見せた。
もし仮に最初から不可視の斬撃を織り交ぜても、相手は歴戦の魔人、対処されてしまうだろう。
ゆえにこそ、相手が勝ちを確信し、油断する瞬間を狙った。
そしてルトは、ここで慢心することはない。
「色を切り、空を切り、魔を切り、人を切る。すなわち色即絶空。故に――」
『貴様、まさか……!』
その祝詞は、魔祓刃の本来の力を解放させるためのもの。
魔祓刃とは魔を祓う刃、すなわち武器でしかない。
しかしその大本となったまほろばの本質は空間。
すなわち、魔祓刃の本質は――
「魔滅場開放」
魔を滅ぼす空間を生み出すこと――
「
そこに、百鬼ルトの魔を滅ぼす世界があった。
色即絶空・喰即是色。
それは空間内に存在するルトが敵と認識した相手に、無数の色即絶空の概念を付与した微細な刃が襲いかかり――魔を解体する空間。
『ぐ、おお……! 貴様、貴様ァ!』
「もはやこれまで、塵と消えろ」
――かくして、ここに堅陣の白面は敗れた。
相性は確かによかっただろう。
言霊や破壊の白面相手では、ルトは戦闘を成立させられない可能性があった。
とはいえ、ルトがこの戦いで勝利したのは――
「……愚弟の影響を、受けすぎたかもしれんな」
相手の油断を誘う奇策によるものだ。
まるで、弟のようだと自嘲しながら、ルトは白面金毛に勝利した。
あの頭のおかしい弟に、これが本来の魔祓師の戦いであると見せつけるように。
本当は次のミホノの戦闘と一緒にしたかったんですが、思ったより文字数が膨れた結果、タイトルが出オチになりました。
そして評価者数が500人、感想数が1000件を超えました。
応援ありがとうございます。
もうすぐ一章も終盤、どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。