――突然だが、俺の兄こと百鬼ルトは『魔祓師フウマ』の大ボスの一人だ。
原作ファンからはなぜかルト様と様付けで呼ばれる事が多く、俺もそのイメージが強いからか兄様のことは兄様と呼んでいる。
まぁ、家柄上家族を様付けで呼ぶことは何もおかしなことではないのだけど。
そんな兄様の来歴は複雑で、元は百鬼家に生まれた異例の天才児と呼ばれていた。
百鬼家はかつては栄華を誇っていたのだが、現在は衰退して久しい。
そんな百鬼家に、いずれ最強の魔祓師になるかもしれない天才が生まれたということで、大きな話題を集めた。
五歳にして、誰からも教わることなく魔祓刃を習得。
その後も幼くして様々な偉業を成し遂げ、魔祓師としての修行を行う「まほろば学院」へ入学する頃には、同世代どころか大人にも勝てる魔祓師はほとんどいない存在へと成長していた。
だが、その性格は幼い頃から行われていた父の虐待じみた修行により歪んでおり。
もともと才能ゆえに他人を見下す傾向もあったことから、あまりいいものとは言えなかった。
それでも「まほろば学院」ではとある出会いに恵まれ、多少なりともまともな人間性を手に入れかける……のだが。
最終的に、大事な人との死別と、親友との決別を経て「大崩壊」の際に魔祓師を裏切ることとなる。
本編では、敵の大ボスの一人として登場。
イケメンであることと言動が少しおもしろかったことから人気が出て、作品を象徴するキャラの一人となる。
個人的に一番印象的だったのは、とある事情で「まほろば学園」を離脱したライバルキャラと出会い、彼に色々と指導を行ったことだ。
もともと兄様は敵の一人ではあるのだが、その大目標は自分の手で敵勢力”魔人”の親玉を殺すこと。
というか、魔人と魔祓師をどちらも殲滅したかったのだ。
だから、状況によっては魔祓師を利用することもある。
離脱したライバルキャラへの指導も、その一環。
ただまぁここから、少しずつ敵キャラとしての魅力以外も読者に見せたことから人気が加速したりもした。
ようするに、俺から見ると色々とすごい複雑な存在なのだ。
キャラとしても、兄としても。
特に何が一番複雑かって――
どう考えても重要人物である兄様に、後付の掘り下げが行われていないわけがないのである。
父様ですら、悲しい過去持ちであることが判明したのに。
というかすでに、母様の存在が兄様にとってかなり大事なウェイトを占めているとわかっているのに。
これ以上更に大きな爆弾を兄様が握っていたら、俺は……俺は!
さて、なんでこんな話をしているかというと、単純。
「――お前、一人で魔祓刃の修行をしているよな?」
ついに、兄様に修行していることがバレた。
いや、まぁ。
俺はすでに最初の魔祓刃――つまり、俺だけのオリジナル異能を一つ、開発しているのだ。
強い魔祓刃を持つ人間は相手が魔祓刃を所有しているか、ぼんやりとだが理解できる。
なので、魔祓刃を習得した時点で兄様に隠すことはできなくなっているのだ。
加えて言えば、俺はマナを成長させているから、すでに兄様も勘づいてはいたかもしれないが。
俺の知らない何かしらを抱えているかもしれない兄様は、果たして俺にどんな感情を向けているのか。
さっぱり俺にはわからないのだった。
+
――百鬼ルトにとって、この世で最も得体のしれない存在がいるとすれば、弟だ。
父や周囲の人間は、はっきり言ってつまらない存在だ。
ルトの才能に嫉妬し、勝手な期待を抱き、一方的に感情を押し付けてくる。
そのような存在と関わる価値があるのか? 常々ルトは疑問に思っていた。
対して、母上は違う。
母上だけは、ルトを一人の人間として扱ってくれる。
正しい道に導こうとしてくれているのだ。
ルトは自分より格下の人間を見下しているが、一つでも格上だと思う部分のある相手には敬意を抱いている。
そんなルトにとって、母上は体が弱く魔祓師としての才能もほぼ皆無に等しいというのに、人として常に正しくあろうとしていた。
だからルトは、そんな母上の言葉だけは聞く価値があると思っているし。
母上が「正しく生きろ」というから、面倒でも人として生きようとしているのだ。
だが、弟は違う。
百鬼セオ。
その才能は、あまりにも凡百。
百鬼の人間にふさわしい、底よりすこしマシな程度の才。
普通に考えれば、父と同じ見る価値もない人間でしかない。
表面上、弟として兄を慕うような行動をセオは見せていた。
だが、どこかセオからはルトに対して壁があり、きっとセオも父のように自分に嫉妬しているのだろう、とルトは思っていた。
しかし、アレは何だ?
セオがおかしい、と気づいたのは今から半年ほど前のことだった。
どういうわけか成長しているのだ、乏しいと思っていたセオのマナが。
ありえない。
あの年で、才に乏しい人間がマナを成長させることなど不可能だ。
修行の一つでも、始めていない限り。
あの父のことだから、ルトへの嫉妬でセオにおかしな修行をさせることはありえなくはない。
少なくとも、この年でマナを成長させているということは、何かしらの修行をしているということだ。
何をしているのかまでは知らないが、修行を
だが、だとしたら一つおかしな事がある。
無能のセオがマナを得るには、相当に厳しい鍛錬が必要になるはずだ。
だというのに、セオは顔色一つ変えていない。
まるでその厳しい鍛錬を楽しいものであるかと、思っているような。
ありえないだろう、この年の子どもがそんなこと。
もっと言えば、それだけ厳しい修行を繰り返すなら、その原動力は負の感情であるはずだ。
というか、ルトへの嫉妬以外に、厳しい修行に耐えられる要因がセオにあるとは思えない。
なのにどうしてか、セオは今も変わらずルトを兄と慕っている。
魔祓刃を習得したとルトが悟り、ついにセオに声をかけたときも。
「……お恥ずかしい話です、兄様。俺のような無才の魔祓刃に、兄様が興味を抱くとは思いませんでした」
なんて、どこか緊張した様子で、けれどもルトに悪感情を向けず語ってみせる。
まるで兄に、いけないことをしていることがバレた弟のような。
そんな、状況さえ無視すればごくごく自然な反応を見せたのだ。
いや状況がおかしすぎるだろう、何を言っているんだこいつは。
壁はある。
この弟は何かを隠している。
けれども、兄に対して嫉妬もしていなければ、自分の才能に絶望もしていない。
自分から己を無才だと認めるなど、この年の子どもがしていいことじゃないのだ。
だからこそ、異常すぎるとルトは思っていた。
得体が知れない、と。
これは一体何なのだ、と。
本気でルトは思っていたのだ。
はっきり言って性格が悪く、人として褒められた考えではない。
それでも眼の前の異常な存在に対し、今年で七歳になる子どもが抱いた感情としては、至極当然のものではないだろうか。
そして、故にルトは警戒した。
この異常者の覚える魔祓刃は、間違いなく異質なものに違いない。
マナの量から、才能がないというのは心魔の儀をしなくともわかる。
だが、異質濃度と開発可能数は心魔の儀をしなければわからないのだ。
きっとこの弟は、異質濃度に関しては他とは違い才能があるだろう。
なにせ異質濃度は本人の精神性に由来する。
ルトだって、非常に高い異質濃度を誇っているのだ。
この異常者ならば、下手したら異質濃度の一点だけはルトに肉薄しかねない。
だからこそ、ルトは探ろうとした。
セオの持つ魔祓刃を。
といっても、その魔祓刃が異質であればあるほど、セオはそれを隠そうとするだろう。
ルトだって、身につけた魔祓刃の本質を誰かに見せたことはない。
故に、期待はしていなかったのだが――
「俺が開発した魔祓刃ですか? “光弾”ですよ」
セオはあっさりとそう答えた。
――いやまて、今なんと言った。
光弾?
光弾とは、一般的によく知られた魔祓刃の一つだ。
魔祓刃は強力なものになれば他の誰も所有していない固有のものを持つように成る。
しかし中には、汎用的な「まほろば学園」の教科書にのるような魔祓刃もあるのだ。
その一つであり、最もオーソドックスとして知られるのが、光弾。
扱いやすさと拡張性から、才能のない人間が真っ先に習得する魔祓刃として知られているが――
――この弟が、光弾? 固有の魔祓刃ではなく、汎用の?
まるでそれでは
ありえない、なにそれ、こわい。
ルトは、その日初めてセオに恐怖した。
この弟は、自分とは全く異なる生き物だ。
自分にあるのが、才能だとしたら。
セオにあるのは、一体なんだ?
皆目見当もつかない。
セオは、思いもしなかった。
前世の漫画に於いて、強く、傲慢で、自由を体現するかのようだった兄が。
セオという、本人的には平凡も良いところな弟に恐怖しているということを。
結果としてルトは、これから多くの理不尽をセオから味わわされ、セオに対する恐怖を深めることとなるのだが。
その事実を知るものは、今現在、この世のどこにも存在していなかった。
人気出るタイプの悪役と、ドン引き系弟のお話。
オリ異能言ってた割に汎用異能開発してる理由はそのうち触れます。