推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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三十 ミホノはスッキリしたいのです♪

 そこは、深い深い森の奥だった。

 足の踏み場もない、人の気配など存在するはずもない樹海の奥に、それはいる。

 破壊の白面。

 ただ純粋な破壊力を追求して作られた白面で、戦闘力で言えば間違いなく外界に存在する白面の中では最強。

 そんな白面の前に、ミホノは日傘を手に空中を歩きながら現れた。

 半透明の魔翼機を足場にして、その上を歩いているのだ。

 鬱蒼と生い茂る森の中を歩きたくないがために思いついた方法である。

 

「いへへ、おまたせしましたぁ。貴方が破壊の白面さんですねぇ」

『――』

 

 そうしてミホノは空中で足を止めると、笑みを浮かべて破壊の白面に挨拶をした。

 愛想よく挨拶をするのは、人として当然のことだ。

 対して、破壊の白面は返事をしない。

 否、その表現は正確ではないだろう。

 なぜなら破壊の白面は返事をしないのではなく、できないのだから。

 なにせ――

 

 

 破壊の白面は、干からびているのだ。

 

 

 それはもう、からっからに。

 視るも無惨に、すっからかん。

 本来であれば言霊や堅陣の白面のように、立派な毛並みと巨体の狐であったのだが。

 今は完全に紐である。

 

『きさ、ま――なにを、した――』

「いへへ、セオ様にお送りするマナの提供、ありがとうございました」

 

 ぺこり、とミホノは頭を下げる。

 何をしたかと言えば単純で、セオが一週間昏睡している間、マナを破壊の白面から吸い取り続けたのだ。

 ミホノは元から、セオと共に白面金毛退治の準備を続けていた。

 なので突如として白面金毛が現れても、セオとの打ち合わせ通りに行動していたのだ。

 隠密マントによるステルスが可能かどうか、破壊の白面からマナを吸い取ることが可能かどうか。

 その辺りのセオでは行えないテストを、セオの代わりに実行したりした。

 そして、セオにマナが送られ続けたのである。

 なお、普通にマナを注ぎ込むとセオが魔人化してしまうので、セオは概念でフィルターを作ってそれを回避していた。

 

『おのれ、おのれ、おのれぇ……! 最初、から――注意するべきは、あの、小童、だけでなく……貴様も、だったか……!』

 

 白面金毛はミホノを意識していなかった。

 ミホノはそれまで白面金毛に対して何もしていなかったし、しないようにしていたからだ。

 サトリに対しては随分と警戒されていたが、白面金毛はサトリのミホノに対する警戒を知らない。

 結果として、マナを吸い取られ始めた時、その下手人が誰か白面金毛はわからなかったのだ。

 

「んいー、私はセオ様の手足みたいなものですから、お気になさらず」

『何を、言っている……!』

 

 激昂する破壊の白面。

 対するミホノは、ニコニコとした笑みを浮かべたまま、それを見下ろしていた。

 両者に緊張が走る。

 言葉が不要とわかれば、後はもはや争うのみ。

 ――たとえ、破壊の白面に勝ち目が万が一にもなくたって。

 

『理解できん、理解できん、理解できん! あの小童も理解できんが、奴の戦術は多彩で面白い。しかし貴様は、もはや何の理解も及ばぬ化生。己たち魔人の方がよっぽど人間らしい!』

「もー、失礼しちゃいますよぉ。ぷんぷんです。だから――」

 

 ミホノは笑っている。

 ただ、笑っている。

 ――そこから白面金毛は、何の感情も読み取れなかった。

 

「ふっとばしちゃいますね、いへへ!」

 

 心底楽しそうに笑うのだ。

 そしてミホノの周囲に――

 

 

 無数の銃火器が出現する。

 

 

 現代的な、あまりにも無骨すぎる武器。

 白面金毛も、表の人間たちがこういった武器を使っていることくらい知っている。

 だが、こんなものは普通であれば魔人の己には何の効果もない。

 マナを付与されて威力が上がっているようだが、それでもどうということはないのだ。

 普段通りの白面金毛であれば。

 今は、そうではない。

 これら一発が致命傷になりかねない。

 何より、この武器は異質なのだ。

 なぜなら――

 

『……なんだその、ふざけた落書きは!』

「えー、すっごくかわいいですよぉ、ミホノの大好きなものに大好きなものを合わせたんです!」

 

 やたらとポップなイラストが、銃火器に描かれているからだ。

 まず、銃火器の色合い自体がピンクなどの女子が好むような色になっており。

 そこにデフォルメされた動物やら、魔法少女アニメのキャラクターなどが描かれている。

 それ単体を見れば、若干へんてこだが十分可愛らしい代物と言えるだろう。

 しかしそれを操るのが、いかれた笑みを浮かべた少女であり。

 そんな少女は、銃火器と女子が好むポップなデザインを同列に大好きという。

 おかしいだろ、それは!

 

『ぐ、ぉお! おおおおお!』

 

 何にせよ、もはや進退窮まっている。

 破壊の白面は、最後の力を振り絞って飛び出した。

 

「うてー」

 

 そこに、弾幕が降り注ぐ。 

 本来であればこの弾幕をそのまま飲み込んで弾き飛ばせる破壊の爆発を白面金毛はもたらすことができる。

 しかし、今では一部を破壊して弾幕に穴を開けることしかできない。

 

「――ミホノは、かわいいかわいいまほーしょうじょのアニメが大好きです」

『何を言っている……!』

「でもでも、銃で血がどばばばー、なドラマも大好きです」

『何を、言っている……!』

 

 ミホノの言葉を理解できぬと切り捨てながら、弾幕の隙間を無理やり通り、突っ切っていく。

 この女の頸を噛みちぎらなければ、今すぐにでもこのふざけた弾幕を終わらせなくては――!

 

「それがなぜかといいますとぉ――」

『――獲ったぞ!』

 

 そしてついに、白面金毛はミホノの目前へと迫った。

 いくらマナを吸い取ったとは言え、相手はたかだか十二の小娘。

 マナ総量からして、実力は本来の白面金毛には届かない。

 だからこそ、この状況にさえ持ち込めば、白面金毛は勝利する。

 本気でそう考えていた。

 だから――

 

「――愛しています」

 

 ふと、少女から声が聞こえた。

 

「愛しています、愛しています、愛しています」

 

 それは、

 

「すなわち、招来空間。故に――」

 

 祝詞だ。

 この小娘が!? 一瞬、驚愕に行動が遅れる。

 そして――

 

 

「魔滅場開放――――招来空間・氷鬼阿封(しょうらいくうかん・びゃっきあふう)

 

 

 ――その時、破壊の白面は何が起きたのか理解できなかった。

 ただ、事実としてわかるのは――己の頸が飛ばされていること。

 何に?

 少女の手にしている、鎌に。

 それは、――凍てつくような白銀の刃だ。

 どこまでも透き通り、どこまでも無垢な、彼女の刃。

 おそらく、あの日傘が変化したのだろう。

 

 そして、見た。

 

「ミホノが、バイオレンスなドラマが好きなのは――スッキリするからです」

 

 

 能面のような、凍りついた少女の顔を。

 

 

「この世界には、いがいがすることが多すぎます。セオ様に近づく敵が多すぎます。そういうのを見ていると、いがいがして、いがいがして仕方がありません」

 

 まるで、先程までの笑顔が嘘のような無表情。

 同じ人間かと、疑ってしまうような。

 

「だから、そーいうお話を視るとスッキリします。ミホノは普段から我慢して我慢して我慢しているので、ちょっとくらいスッキリしたっていいですよね?」

 

 結局、破壊の白面は。

 

 

「なので消してもいい貴方を消すと、ミホノはスッキリします。ばいばい」

 

 

 この女の――まるで理解できない存在の、表面すら理解できず。

 消滅した。

 

 

 ◇

 

 

 俺は、三体目の白面金毛を倒すべく、急いでいた。

 次なる白面は翻弄の白面、相手の心理の裏を突いたり、策を弄して敵を翻弄することを好む。

 様々な白面の中で、最も奇策を得意とする白面だ。

 原作ではこいつの存在が非常に厄介だったりもした。

 特に言動が厄介なのだ。

 こっちを煽ったり、不和を生み出したり。

 しかし、俺には原作知識という対処法がある。

 故に、出落ち二体を倒した次は、こいつを俺が請け負うのが鉄板だ。

 というわけで、早速翻弄の白面の元へとやってきたのだが――

 

 

 翻弄の白面が、俺の眼の前で殺されていた。

 

 

 首が折れる音がする。

 言霊の白面よりは少し細身な白面金毛が、ある”鬼”に首根っこを捕まれ、そしてへし折られているのだ。

 理解できない状況である、がしかし。

 俺はその鬼が何であるかを知っていた。

 しかし、理解できない。

 

「――――酒呑童子!?」

 

 どうして、まほろば境界で外に出ることができないはずの酒呑童子がここにいる!?

 ましてや、白面金毛を攻撃しているのはなぜだ!?

 酒呑童子。

 七大魔人の一角にして、最強と謳われる魔人。

 紛れもなく、魔祓師フウマにおける大ボスの一体!

 

 ――いや、まてよ?

 俺は、ふとアイデアを思いつく。

 こいつ――本当に酒呑童子か?

 なにせこの場にいるはずがない存在で、白面金毛を攻撃するのもおかしいのだ。

 とすれば、それが可能な別の誰か、という可能性はないだろうか。

 具体的には――

 

 

「……奈留島?」

 

 

 こいつは、奈留島ニイアが変身能力で化けた存在じゃないか?

 

『――あは、ばれたぁ♪』

 

 酒呑童子の、いかつい男声でギャルっぽい言動。

 いかにも、奈留島のやりそうなことだ。

 

『ねえねえ、どんな気持ち? せっかく決死の思いで倒そうとした白面金毛を先に取られてどんな気持ち?』

 

 こ、こいつ……先回りして白面金毛を倒して俺を煽るためだけにこんなことをしたのか!?

 そ、そんなの……そんなもの……!

 

「いや、普通に滅茶苦茶ありがたいけど」

『で、す、よ、ねーーーーー!』

 

 そりゃ、ありがたいに決まってるだろ。

 奈留島も流石にそこはわかっていたのか、バシバシと自分の体を叩いて笑った。

 や、やめろやめろ! 原作の大ボスにして悪のカリスマ、酒呑童子がそんなことするわけないだろ!

 解釈違いでファンを攻撃するのをやめろぉ!

 

「とりあえず助かったよ。俺としてもこいつを倒す手段は用意してたんだけど、奈留島がやってくれたならありがたい」

『でしょでしょー? もっと褒めてもいいんだよぉ!?』

「――――じゃあ、俺は急ぐから、またな」

『…………待って?』

 

 え、何だよ。

 俺はこのままシュリ先輩に、白面金毛の本拠地まで送ってもらわないといけないんだよ。

 悪いけどこれ以上、奈留島に付き合ってる暇はないのだ。

 

『……その、あの、えっと』

「いや、本当に忙しいからすまんが、後にしてくれ。じゃあな!」

『ま、待ってぇ! アタシこの状態から元にもどれないんだよ!? このまま置いてく気!?』

「すまん、本当に無理なんだ。俺は解呪の魔祓具を具現化できないから!」

『え、え、……えええー!?』

 

 そしてシュリ先輩に、眼の前の酒呑童子は同級生の奈留島です、なんて説明もできないし。

 ほんとにこればっかりはどうしようもない。

 助けてくれたことには感謝するけど、自力でなんとかしてくれ!

 

「いやでも、ほんと助かったよ。翻弄の白面は策士だから、それを倒すにはこちらも奇策を使わないといけない」

『ふ、ふふーん、そうでしょうそうでしょう』

「だから本来ならそのために――」

 

 褒められると調子にのる、わかりやすい奈留島。

 俺は続ける。

 

 

「ダンスバトルを挑むことで翻弄の白面の正気を削って、向こうが混乱している間にダンスバトルで勝つつもりだったんだけど」

 

 

 ――翻弄の白面は、理解できない状況に弱いのだ。

 勢いでダンスバトルを申し込み、その上で勝利する。

 んで、勝利したことで翻弄の白面に難癖をつけ、消滅まで追い込む。

 これが原作における翻弄の白面の倒し方だったのだ。

 そして俺はこのために、盆踊りだの光弾とのダンスだのを時間をかけて練習していたわけだ。

 ……今思い返しても頭おかしいな、これ。

 ともあれ。

 

 

『……そ、それ……絶対そっちのほうがおもしろかったじゃーん!』

 

 

 嘆く奈留島をよそに、俺は最後の戦いへと赴くべく、戦場を後にするのだった。




ミホノちゃんかわいい(ぐるぐる)
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