――アレから俺達は、ほんの短い時間、今回の戦いを振り返った。
一日にも満たない、長い長い楽しい時間。
閃光のように一瞬の煌めきのような、これまでの人生で最も輝ける時間だった。
「やっぱり、いくら確定で死ぬからって味方巻き込んで攻撃してくるのはヤバいと思うんだよ」
『レース開始直後に事故で最速の白面を爆死させた人間にだけは、言われたくないな』
「くっ……」
本当に、諸々のアレヤコレヤを語り合って、ひとしきり満足すると――
『――セオ、貴様は未来が見えているだろう』
「全てが全て、明確じゃないけどな。お前が下級魔人からスタートしたこととかは知らなかったし。……対策を取ろうとは思わなかったのか?」
『どう対策を取れというのだ。己の手足だったサトリはすでに敗れ、他の派閥の魔人と己はつながりがない。それに、未来のことなど興味もなかったからな』
できることがなかったし、やる意味もなかったと白面金毛は告げる。
しかし、やはり分かるものなのだ。
これだけ未来が見えているかのように、普通なら知らない情報を使って敵の対策を取れば。
『貴様はこれから、他の七大魔人を下すか?』
「ああ。酒呑童子とぬらりひょんは絶対に倒さなきゃいけない相手だし、件の対処は必須だ。とはいえ――次の敵は”鵺”になるだろうな」
『鵺か、……まぁ、せいぜい好きにやるといい、貴様であれば負けることはないだろう』
鵺。
大崩壊の原因となった件を生み出した魔人で、大崩壊編の実質的なラスボスに当たる魔人だ。
正直、厄介度で言えば白面金毛とそう変わらない。
実力的にも、生ける炎の力を使えば正面から打倒は可能だろう。
しかし鵺は”みるものによって姿を変える”存在。
その特性は――とある神格と親和性が高い。
一筋縄ではいかないだろうな。
『何が相手だろうと、貴様ならば関係あるまい。理不尽に上回り、勝利するだけだろう』
「流石にそれは、買いかぶりすぎだと思うけどな。……ただまぁ、俺は倒すよ。七大魔人だろうと――」
そうして俺は、空を見上げる。
結局のところ、俺はこの世界を――俺の守りたいと思うものを守りたい。
だったら、そのために。
戦わなくてはいけない相手がいるなら――
「
伸ばした手のひらに、生ける炎の火花が軌跡となって後を追う。
きっと、その言葉を俺が曲げるときはないだろう。
この世界に生まれ直したその時から、俺にとってはそれが一番の夢なのだから。
『クハハハハハハ! そうだな、貴様はそれでいい!』
視線を向ければ、もはや白面金毛はその存在をほとんど保てていなかった。
だけど、笑っている。
アレほど退屈を口にしていながら、原作でも最後まで満足できずに死んでいった白面金毛が――
『最高だったぞ、貴様との戦い! もはや己はここが限界なのだろう。そう、腑に落ちてしまうほどに! ああ、だから――』
満足気に、楽しげに、けれども少しの怒りも込めて。
『貴様は、止まるなよ――百鬼セオ!』
俺の名を呼び、消滅した。
◇
そこからの話をしよう。
俺はアレから、二週間ほど寝込んだ。
白面金毛が消滅した後、まほろばに一人置き去りにされたわけだが、それに関してはミホノが回収してくれた。
招来空間で俺を招来するという、ある意味で最も正しい使い方をしたのだ。
んで、その後は二週間ぐっすり寝たわけだが、意外なことに起床にアラームは必要なかった。
これは俺の個人的な感覚なんだが、生ける炎の力に慣れたことで、昏睡している時間が一週間で済むようになったのではないか。
今回はまだ前回の生ける炎の反動が残っているところに、もう一度生ける炎の力を使ったからああなったが。
多分、次に使う時はアラームなしでも一週間で起きられる気がする。
流石に試すわけにもいかないので、これに関しては実戦で使った後の経過観察次第だな。
後、いい加減このフォームにも名前がほしい。
生ける炎といえば俺の中では伝わるけど、他の人に話すうえでは不便なんだよな。
まぁ、おいおい考えればいいだろう。
で、二週間俺が寝込んでいる間に、世間は色々と大変なことになっていたようだ。
七大魔人が初めて討伐された、というだけでもとんでもないのに、それをやったのがまほろば学園の学生だ。
まぁもともと、俺や兄様は魔祓寮のお偉いさんから「やばい」の三文字に分類されるカテゴリに置かれていた。
だからお偉いさんからは「ついにやったかぁ」としか思われていないけれど、一般の魔祓師はそうではない。
情報が錯綜に錯綜して、「兄様がやった」とか「正義の味方の仮面がやった」とか、色々噂が立ったらしい。
そこをなんとか、教師や父様、母様が各地を飛び回って収め。
なんとか俺が目を覚ました頃には、俺が日常生活を送る分には問題ないくらいにまで落ち着いたらしいけど。
ちょっと見てみたかったな、その大騒動。
ミホノと兄様、それからシュリ先輩については、特にかわりはなさそうだ。
もともとシュリ先輩以外は、周囲から注目を集めやすい立場だし、騒動で自分が揺らぐタイプでもない。
シュリ先輩はそもそも、作戦に参加したこと自体を知られていないからな。
かなり重要な立場ではあるけど、直接戦闘に参加してないし、騒動が起きることは予見してたから「自分の名前は出さないでくれ」と事前に言っていたのだ。
ただまぁ兄様は俺が起きたときに「当事者のくせに一番気楽に眠りこけやがって……」とガチめに恨み言を言ってきた。
いやそれはほんとごめんなさい。
でも今後、俺が生ける炎の反動をなんとかできない限り、一週間は眠りこけることになる。
ので、後始末には今後も参加できないかもしれません……と伝えると。
「だったら少しは無茶せずに事態を解決できるようになれ!」
とのこと。
いやそれは本当にごもっともです。
そういえば、奈留島はなんか普通に学園に戻ってきていた。
俺が目を覚ますなりやってきて「あの時は本当に死ぬかと思ったんだからー!」と文句を言ってきたけど、やったのは自分なんだし、そこは別に俺が悪いわけじゃないと思う……
ちなみにどうやって人間に戻ったのかとおもったら「ママがなんとかしてくれた」らしい。
そのママって要するに本体……というかママなんだ……
ともあれ、戦いは終わった。
これから俺は、七大魔人を攻略するべく動くこととなる。
次の敵は鵺――といったけど、まずはその前に件の処理かな?
件、七大魔人の中では唯一強さではなく「マナの総量」から七大魔人に選ばれた魔人。
その本質は、魔人達がある目的のために真生生物を食わせ続け、件を肥え太らせているという点にある。
その目的はとても単純で、件には「死ぬ時に未来を予知する能力」があるのだ。
これはこの世界においても変わらない。
これを利用して、魔人達は件にあることを予言させようとしている。
それこそがすなわち――隕石が落ちてきて、大崩壊を起こす未来。
で、それを主導している派閥の長が鵺、というわけだ。
故に俺は、大崩壊という原作における特に被害の大きなイベントをどうにかするため――鵺と戦う必要がある。
「――セオ様、セオ様ー」
「ん、どうしたミホノ?」
「さっきから、またまた難しい顔をしていますよー?」
目を覚まし、諸々のあれやこれやをミホノと兄様から聞かされて。
兄様はつかれた顔をしながら帰っていき。
その後、奈留島がやってきたりして、それらもまた一段落。
学園の医務室に、俺とミホノだけが残されていた。
ミホノは俺に抱きついてうりうりと頭を擦り付けているし、俺はそれを撫でながら考え事をしている。
いつもの、変わらない日常だ。
俺が、守りたいと思う日常でもある。
「まぁ、色々とこれからも、やらなきゃいけないことが多いからな」
「そうですか。いへへー」
「なんだか楽しそうだな?」
「だってだって――」
そう言って、ミホノはふにゃっとした笑みを浮かべながら俺を見上げる。
「セオ様も、すっごく楽しそうなんですから」
――ああ、それは、確かに。
俺はこれからの困難を思い描いて――けれどもその困難をどう乗り越えるか考える時、楽しさを感じている。
不謹慎とも言えるだろうし、楽観的すぎるとも言えるだろう。
しかし、この楽しさこそが俺が前に進む原動力の一つなのだ。
怒りと、そして楽しさで以て前に進む。
白面金毛がそうであったように、俺もまた、そうでありたい。
「だから――頑張るよ、俺はこれからも」
ぽつり、と。
誰に言うでもなくそんな言葉をこぼして――俺は、笑みを浮かべるのだった。
というわけで、一章これにて完となります。
お読みいただきありがとうございました!
第二章は早ければ一週間後くらいに投稿したいです。
また、いい感じのお知らせも近々できたらなぁ、と想っています。
もしここまでをお読みいただき、面白いと思っていただけたら、評価、感想いただけますと大変はげみになります。
よろしくお願いいたします!