楠木リズ。
原作における風魔コウタロウの師匠にして、コウタロウを魔祓師の世界にいざなった張本人。
その性格は、破天荒という言葉が非常によく似合う。
何せ魔祓師最強、八傑の一人、まほろば学園の教諭、実質的な大崩壊後の魔祓師の指導者という肩書を持ちながら。
学生時代は反省文の提出枚数歴代一位という他に誰も成し得ない記録を打ち立て、教諭になってからも授業の八割が自習で本人はサボリ、という。
あまりにもダメすぎる実績が多い女性だ。
主人公の師匠で最強キャラ、物語の始まりそのものとも言えるヒロインの立ち位置。
これで人気出なかったら嘘だろ、みたいな属性を山盛りにされたことで、当然ながら読者人気も高い。
『魔祓師フウマ』の看板は、まさに主人公のコウタロウと楠木リズの両名が担っていると言ってもいいだろう。
今の時代は、そんな原作開始の約十年前。
だからリズ先輩も、中等部三年の学生に過ぎない。
それでも現状この学園で三人しかいない魔滅場開放の使い手にして、
代わりに問題児としても有名で、いつも兄様が頭を痛めながらそのフォローをしていた。
どうでもいいけど、原作だと兄様ってリズ先輩の奇行に我関せずだったんだよな。
結果として兄様も問題児扱いされていたわけだけど、この世界における兄様の評価は「ツンデレ苦労人」だ。
一体誰のせいなんだ……リズ先輩はもう少し反省してくださいね……(目逸らし)。
◇
さて、そんなリズ先輩がどうして俺達といっしょにいるかというと、俺が協力を頼んだからだ。
なんたってリズ先輩は学園最強、力を貸してくれるならこれほど頼りになる人は居ない。
白面金毛戦に誘わなかったのは、白面金毛討伐を俺の実績にしたかったからだ。
リズ先輩……というか楠木家は御三家の一角なので、リズ先輩が参加していると実績を持っていかれる心配があった。
けれど、今はもうそれを気にする必要もない。
早速俺はリズ先輩に協力を頼み――二つ返事で了承を受けた。
ある条件を提示されたうえで。
「――というわけで、やろうかぁ! 魔祓師始まって以来の問題児くん!」
「そう言われると、なんだか照れますね」
「……まさか、まほろば学園始まって以来の問題児という、リズの肩書を超えるものが現れるとはな」
「いやははは! ま、何にしても協力するなら一回戦ってよ。それで白面金毛に連れて行かなかったこと、チャラにしてあげる!」
それが――模擬戦だ。
現在俺は、まほろば学園の運動場に、リズ先輩、兄様、そして俺の三人で集まっている。
ミホノもいるけど、スマホで動画見てて興味なさそうだから居ないものとカウントしていいだろう。
多分バイオレンス映画を見てるんだと想う、サブスクで。
そういう顔だ。
ともあれ、凶暴な笑みを浮かべてリズ先輩は宣言した。
「それに私ってねぇ、天才だから。誰よりも優れていたいし、優れてなくちゃいけないの」
「……噂通りですね」
正確に言えば
これだ、俺のよく知るリズ先生……もといリズ先輩の言動そのものである。
「だって私は、人々を救済しなくちゃいけないんだから! さぁ行くわよ! ”
「……いきなりですか!」
天上天花、リズ先輩の魔祓刃だ。
その効果は――
「そぉら! これくらいは受け止めてよね!」
「っ! 速ッ!」
――自身の強化。
あまりにもシンプル極まりない、そして最強にふさわしい効果だ。
俺はそれを、タキシードと刀を具現化してなんとか受け止める。
いや、受け止めきれずに吹っ飛んだ。
なんとか突っ込んできたリズ先輩の蹴りに刀を差し込んで、受け止めただけ!
「でもってぇ!」
しかも、リズ先輩は止まらない。
あるものを懐から取り出す。
それは――
「どっかぁーん!」
しかもミホノみたいに具現化したものではない、本物だ!
「オイバカ、やりすぎだ!」
「ルトの弟くんでしょ!? これくらいへーきへーき!」
そして威力は、”天上天花”によって増幅されている。
リズ先輩の強化は、彼女の手にしているあらゆる武器に有効なのだ。
――ロケットランチャーが炸裂する。
「いやぁ、やっぱこいつが一番だわ。魔人共の事務所を襲撃すればタダで手に入るし」
「むー、ミホノは弾丸をだらららってばらまく方が好きなのです」
「ミホノちゃんわかってるわねー、ま、そこは棲み分けってことで」
スマホを見ていたミホノが一瞬だけ顔を上げて発言した。
なんというか、この二人の武器は似通っているのだ。
そもそも原作では、リズ先輩は魔人達のアジト――ヤクザの組所だったり――を襲撃して手に入れたチャカやらなにやらを振り回す魔祓師にあるまじき人だった。
それはこの世界でも変わっていないが、銃火器大好きミホノとのキャラ被りを気にしてか、現在は爆発物を得物にしているようだ。
ロケットランチャーの他には、手榴弾とかだな。
これに関しては、実は原作よりもリズ先輩を強化する要因になっている。
リズ先輩の天上天花は使い慣れた武器ほど威力を増す傾向にあるのだが、原作のリズ先輩は銃火器と爆発物をどっちも扱っていた。
なので、爆発物一本に絞ったほうが将来的な威力は向上する。
原作だとリズ先輩は気分屋なので、どっちかに絞ろうとはしなかったが。
変なところで原作改変といい方向へのバタフライエフェクトが発生していた。
さて――そろそろ爆風が晴れるな。
「……いや、開幕から遠慮ないですね」
「ほらやっぱり。まぁ一応直撃しても死なないように加減はしたから、大丈夫よ。私天才だから、そこ間違えないし」
「どうだかな」
爆風の中から、俺はあるものを抱えて現れる。
それは――盾だ。
警察が使うライオットシールド。
デザインなどは入っていないシンプルなもの。
「――不壊の概念を付与した盾です。これを突破することは、リズ先輩でも難しいですよ」
「――――アハ、言ってくれるじゃん」
直後。
リズ先輩が俺に肉薄した。
正面から、無数の拳を盾に叩き込んでくる!
しかも――
「ドカドカドカドカッ!」
「……っ! 足元に手榴弾ばらまきましたね!?」
正気じゃない! 自分ごと爆破するつもりだ!
俺は慌てて、光弾で手榴弾を盾の内側に入ってこないようにする。
こうすれば、盾を突破されることはない。
――直後、発破。
不壊の概念を付与した盾は、そうそうのことでは壊れない。
それでも、衝撃は盾越しに伝わってくる。
手榴弾も、拳も、とんでもない威力。
分体白面の一撃並だ!
とはいえ――
「ん、おろ――」
「……今!」
「おわっ!」
俺は、
「おわわーっ!」
それをリズ先輩は、バランスを崩しまくりながら、ギリギリで回避していった。
マジか。
「……おおー、先輩すごいです」
「アレを初見で回避できるのは、この世でリズただ一人だろうな」
「ふたりともわかったふうに言うじゃん! なにこれ! うわわ!?」
何をしているのか、答えは簡単で――毒だ。
具現化によって生み出した毒を、現在周囲に散布している。
この毒の厄介な点は、マナに干渉するということ。
前に話した通り、毒に耐性があるモノには毒が効かないわけだが、その耐性はマナによって獲得される。
だから
まぁそういう毒を作るって発想は魔祓師や魔人の間ではありふれているのだが。
俺の毒が厄介なのは、この毒が概念によって作られたものであること。
薬にしろ魔祓刃にしろ魔装にしろ、作られた毒はいくつかの効果に分散される。
しかし概念毒は一つの効果だけを一点突破、よっぽどの毒耐性でないと貫通してしまう。
ただ効果の強い概念毒は言ってしまえば針の大きい注射器、毒耐性が硬いと貫通できなくなる。
なので俺の使う概念毒の効果は微小。
具体的には――
「――身体強化だけを狂わす毒か!」
「さすが先輩、理解が早い」
身体強化は、あらゆる魔人と魔祓師が必ず行う必須技能。
誰に対しても効果があり、よっぽどの強敵――七大魔人でもなければ効果がある。
まさに使い毒、もとい使い得な概念毒!
しかし――
「――――でも私って天才なんだよね」
リズ先輩は笑みを浮かべていた。
……まさか。
「もう、
そう言って、先輩は再び俺への攻撃を再開してきた。
慌てて盾を構える。
「その不壊の概念の弱点もわかった!」
……マジか!
「いくら概念って言っても、所詮はマナで作られた概念。すなわち――より強力なマナで上から叩けば……壊れる!」
ピシリ、と嫌な音がする、これは長くは持たないな。
そしてさすがは天才、読みが鋭い。
他にも兄様の色即絶空とぶつけても、不壊の概念の方が負けたりした。
要するに、出力勝負に弱いのだ。
そこに気付けず普段通りの出力で戦おうとする相手だけを殺す初見殺しなんだよな、これ。
ともあれ、しょうがないな――!
「さぁさこれで終いかな!」
「まぁ、決着は付くでしょうね!」
言葉とともに、リズ先輩は手榴弾を大量にばらまいてくる。
これで命を取らないように加減してあるって、本当だろうか。
とはいえ俺も、ここが正念場だ。
俺も破壊されそうな盾を突き出しながら、前に一歩踏み出し――
修練場を、爆発が覆った。
「うわっぷ」
「やりすぎだ、バカども!」
煙にミホノがやられ、兄様の呆れた声が響く中。
俺とリズ先輩は――爆発の中から互いに武器を相手に向けた状態で停止していた。
俺は刀を、リズ先輩は拳銃を。
「……拳銃は使うんですね」
「取り回しがいいからね」
というかそもそも、この拳銃は原作でも登場する大事なものだ。
流石に触れるとおかしいので、ここではスルーするけれど。
原作の、あの拳銃だ。
少しテンションが上がる。
「それで戦いは……引き分けか?」
「ん、まー、そうだね。そうしておいて貰っていいかな?」
「あ、はい。そうですね」
兄様の問いかけに、俺達はなんとも言えない返事を返す。
爆風のせいで兄様には見えなかったかも知れないけれど。
まぁ、最後の攻防は色々あったのだ。
「――それにしても、いやぁすごいねぇ! アレだけ色々手札を用意してくるとはね!」
「こっちとしても、色々試したいことを試せてよかったです、先輩!」
……さて。
今回の模擬戦、俺としてもぶっちゃけかなり楽しみにしていたのだ。
なにせ、あの楠木リズと魔祓刃トークができるのである!
原作キャラで一番強い人! 一番魔祓刃を扱えて、一番俺の言っていることを理解してくれる人!
「それにしても、身体強化にだけ効く毒ってのは面白いねぇ! アレなら七大魔人にも効くんじゃない?」
「どうでしょう、あまりにも敵が強すぎると、今回の不壊みたいに上から叩き壊されそうです」
「ああ、結局は具現化で作った概念でしかないんだもんねえ。そこまで特別なもんじゃないか」
お互いに、相手の言っていることがわかる! 冷静にツッコミなしでやりとりができる!
すごい! こんなにもスラスラとお互いに情報を交換できるの、初めてだ!
「……なぁ、瀬戸場ミホノよ」
「今いがいがしてるので話しかけないでください」
「……あいつら、引き合わせるべきじゃなかったんじゃないか?」
「いがー」
そんな俺達をよそ目に、呆れた様子の兄様と俺と話が合うリズ先輩が気に入らないらしいミホノが、ジト目をこちらに向けてくるのだった。
少年漫画としては最強キャラは男だろという思いと、ラノベ的には女だろという思いが両方あり、最終的に少年漫画でも女の最強キャラはいるよなということで女になったリズ先輩です。