推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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三十九 這い寄る系営業妨害

 さて、現在の俺は鵺との戦いに備えて色々準備をしているところだ。

 先日リズ先輩とやったあれやこれやもその一環。

 だが、中でも大事なのが鵺対策。

 一応正面からやれば、生ける炎の力である炎鬼天生を使えば勝利することは可能なはずだ。

 先日のアレを見るとなんとも言えないが、対策は必要だ。

 何せ鵺は仮にも大崩壊編の実質ラスボスなのだからして。

 というわけで俺は、原作知識を用いて原作で行われていた鵺対策を、この世界でも行えるよう準備することにした。

 

「というわけで、対策要員の勧誘を行うぞ」

「おー、ですです」

 

 さて、俺は現在ミホノと二人で、教師に用意してもらったある”リスト”を手に”勧誘”を行っていた。

 誰を勧誘するかっていえば――一言でいうと()()()()()()()()()()だ。

 

「すいません、成瀬ミサキ先輩ですよね」

「え、あーしに何のよ…………百鬼セオ!?!?!?!?!?!?」

 

 俺は通路でだるそうにスマホをいじっているギャルっぽい少女に声をかけた。

 高等部二年の成瀬ミサキという人らしい、金髪の典型的ギャルである。

 ところで、そんなに驚かなくてもよくない?

 

「お、落ち着いてください。ちょっとお時間いいですか?」

「え、本物? ひっ、食べないで!」

「食べませんってば! 今日はちょっと頼み事があって来たんです!」

「た、頼み事……?」

 

 怯えた様子の先輩を宥めつつ、ついでになんか俺の腕に抱きついてきたミホノもなだめる。

 一緒に勧誘するって言ったのはミホノなんだから、すねなくてもいいだろ。

 ……というか、女性と話をするから牽制のために参加してるだけだな?

 まぁ、ミホノはいいのだ、手を出さないように我慢してくれてるからな。

 偉いぞ。

 ともあれ、俺は早速本題にはいる。

 

「――鵺対策の魔祓刃を習得してもらいたいんです」

「……は?」

「ええと、一から説明しますね」

 

 まず、俺は七大魔人”鵺”を討伐するために活動してることを先輩に伝える。

 次に、どうしてそうなったのかの経緯と、現状について。

 最後に、どうして鵺対策の魔祓刃を習得してもらいたいか、だ。

 

「理由は――先輩の開発可能数に余裕があるからです」

「ああ、まぁ……それはそうね」

「そして()()()()()()()()()()()()ことも、教師から聞いています」

「あーしのプライベートどこいったんだっつの。いやまぁ、七大魔人……だっけ? そいつの討伐のためなら必要なんだろーけどさ」

 

 七大魔人なんていう、この国最大級の脅威を討伐するのに、どうして魔祓師にならない人間を勧誘するのかって?

 そもそもこの裏稼業世界において、魔祓師にならない選択肢が存在するのかって?

 存在するんだなぁ、これが。

 

 どういうことかというと、何も魔祓師に生まれた人間が全員魔祓師になるわけではないのだ。

 中には才能がなかったり、戦いに向いていなかったりして、魔祓師になれない――もしくはならない人間もいる。

 実を言うと、俺も本来はこの枠に入るはずだった。

 才能はないけど、色々と他の人間にはない視点で魔祓刃を開発しているからだ。

 悪路王を討伐した頃にも話した気がするけど、当時魔祓寮は俺を研究者にしたかったみたいだな。

 魔祓師にならなかった人間の進路は二つ、俺みたいに研究者になったり魔祓寮の事務員になるか、フロント企業に就職するかのどちらかである。

 前者に関しては言うに及ばず、後者はそもそも魔祓師は古くからこの国の経済界に色々と影響力を持ち、色々と表で商売をやっているのだ。

 そこに就職し働くのである。

 ちなみに、こうやってフロント企業に就職して外部に出ていった人間が結婚して戻って来ることで外部の血を取り入れ、魔祓師全体に血の袋小路が発生しないようにする目的があったりするぞ。

 

「戦闘に使うわけではなく、具現化のような魔祓刃で対策用の魔祓具を制作してもらう感じなので命の危険もありません。ですから、どうでしょう」

「ま、いーよ。どうせ今後一生魔祓刃なんて使うこともないだろうし」

「ありがとうございます、先輩」

 

 話を戻すと、俺はそういったもう魔祓師にはかかわらないけど魔祓刃を習得する余裕がある……って人に鵺対策の魔祓刃を習得してもらおうとしているのだ。

 何せ鵺対策の魔祓刃は()()()()()()使()()()()のだ。

 魔祓師になる人に習得してもらうと、開発可能数が完全に無駄になる。

 その点先輩は魔祓師にならないことを決めてるからな、スマホを弄って現代に馴染んでるのはその証拠と言えるだろう。

 

「それに、鵺討伐に参加すれば、一生食うに困らないっしょ?」

「抜け目ないですね」

 

 それに、先輩にとっても悪い話じゃない。

 鵺討伐――七大魔人の討伐に参加したとなれば、その報酬はとんでもないことになる。

 俺も白面金毛討伐の際にかなりの額を貰ったが、使い道がないので家に預けてるしな。

 何にせよ、話は決まりだ。

 

「というわけで、よろしくお願いします」

「よろしくね、――セオくん」

「ええ、よろしく――」

 

 なので最後に、俺は手を差し伸べて、にこりと営業スマイルを浮かべると

 

 

「――奈留島」

「はーい。……って、なんでバレたのぉ!?」

 

 

 この()()()()()()()の正体を、口にした。

 するとぽんっ、と先輩の体が煙に包まれて、奈留島ニイアが姿を表す。

 変身前も後もギャルじゃないか!

 

「バレたかバレてないかで言えば、バレてないよ。でも可能性があるからには確認しておくべきだろ」

「くっ……このくらいでいい気にならないでよね!」

 

 ――俺は基本的に奈留島を警戒している。

 這い寄る混沌の化身である奈留島は、どこでいらんことをするかわかったもんじゃないのだ。

 白面金毛の時は普通に助かったが、いつ俺達の邪魔をしてくるかわからない。

 今回みたいに、な。

 何より今回俺が話をした先輩――ああ、ダメだなもう名前が思い出せない。存在しないんだから当然だが――は原作キャラじゃない。

 原作キャラじゃないということは、這い寄る混沌の化身――というか奈留島のなりすましの可能性がある。

 逆に原作キャラは安心だ。

 今のところは推測だが、奈留島は原作キャラに変身することはできないだろうからな。

 代わりに原作キャラは魔祓師として何かしら役割があるということなので、鵺討伐にはスカウトできないが。

 

「次は、ぜーったいにバレないようにしてみせるんだからーっ!」

 

 そう言って、奈留島は脱兎の如く逃げ出していく。

 失敗したものはしょうがない、切り替えていくとしよう。

 

「……ところでセオ様。ニイアって魔祓刃で変身すると、元に戻れないはずだったとおもうですけど、どうしてもとに戻れてるんでしょう」

「多分、魔祓刃で変身してないからだと思う」

「ですですかー」

 

 なんて会話をミホノとしながら、俺は次の候補を探すためリストとにらめっこしながら歩き出すのだった。

 

 

 ◇

 

 

 ――それから、俺達は何人も生徒を勧誘した。

 地雷系ファッションの黒髪ギャル、突然踊りだすパリピ系ギャル、ヤンキー系のギャルなどなど。

 様々なギャルを勧誘し――そのことごとくが奈留島だった。

 二人目の時点ではん? と思う程度だったが、途中からあまりにもギャルだらけ過ぎて奈留島が本気で正体を隠そうとしてるのか疑問に思えてきたほどだ。

 でも、なんか正体を見破ったときの反応を見る限り素っぽいんだよなぁ。

 

「というわけで、リストの生徒が全滅したんですよね……どうなってるんだこの学園、存在しない生徒しかいない……」

「なかなか大変みたいね」

「ええまぁ、はい。シュリ先輩の方はどうですか?」

「んー、まぁぼちぼちってところかしら。一応、形にはなったと思う」

 

 あのあと、ミホノと別れた俺はシュリ先輩の元を訪れていた。

 そんな事すると、またミホノがイガイガしないか? と思うかも知れないが、これは予定されている接触だ。

 ミホノも、まぁ何とか飲み込んでくれるだろう。

 というわけで、学園の中庭にあるベンチに腰掛けながら、俺はシュリ先輩に奈留島の件を相談していた。

 で、シュリ先輩が何をしているかと言えば――

 

「でも、本当に難しいわ。夜行招来はすごく強力な魔祓刃だけど、私にそれを扱える才能がないから」

「そんなことありませんよ、シュリ先輩は優秀な魔祓師です」

 

 夜行招来の修練だ。

 俺は、そのアドバイザー。

 今回、シュリ先輩には()()()()をしてもらうため、魔祓刃の修練に勤しんでもらっていた。

 一応問題なく夜行招来を行使できるところまでは来たようだ、後は実戦でそれが成功するかどうか。

 なんにせよ以前、鵺のパワハラを目撃したときも、シュリ先輩は俺達と一緒にいた。

 アレはシュリ先輩に、鵺討伐の協力を求めたためだ。

 戦闘要員としては流石に力不足だけど、それを補って余りあるくらい夜行招来の転移能力が便利なのである。

 

「うう、セオくんにそう言われたら頑張らないといけないわね……そっちはどうなの?」

「とりあえずなんとか奈留島対策を立てないと、存在しない生徒の名簿しか先生がくれなくなりますね。そこをなんとかしないと」

「ニイアちゃん、いい子だと思うんだけど……」

「奈留島はまぁ、そうですね。でも、そうも言ってられない事情もありまして……」

 

 奈留島は警戒対象だ。

 でもそれは奈留島のバックにいる這い寄る混沌を警戒しているのであって、俺個人は奈留島をそこまで嫌ってはいない。

 あんまり酷いことをしたいわけではないんだよなー。

 鵺討伐チームには加えないけど。

 

「シュリ先輩は何かいい案ありませんか?」

「案? うーん、少し考えさせて」

 

 そう言って、シュリ先輩はイヤホンを取り出すと何かを聞き始めた。

 するとなんか……トランスし始めたのである。

 

「あっあっあっ」

「……先輩? 何をしてらっしゃるんで?」

「これはセオタード仮面様ASMR……セオタード仮面様のお言葉を直接脳に届けて、アイデアを得るんです……」

「それはアイデアじゃなくて発狂ですからね?」

 

 絶対見えちゃいけないもの見えてるよ!

 というか一体どこからそんなもの……え、ミホノ提供!?

 これを渡せばシュリ先輩が満足するから渡したのか……いやまぁ俺も頼まれたら()()ならやりますけど。

 それにしてもミホノって、こういうところは結構寛容なんだな。

 寛容っていうか、油断かもしれないけど。

 とか思っていると――

 

「はっ! そうだわ、洗脳とかどうかしら!」

「いやダメでしょ」

 

 何か天啓を得たらしい先輩の言葉を、俺は一度即座に否定してから考える。

 洗脳、確かにそれなら奈留島を這い寄る混沌の影響下から脱せられるかもしれない。

 というか、そもそも。

 

「…………待てよ?」

 

 俺は、奈留島の何を知っているんだ?

 あいつとは学校に入ってそれなりに付き合いもあるし、這い寄る混沌の化身だろうことも知っている。

 でも、――それだけじゃないか。

 だから、ぽつりと、

 

 

「ありかもしれない」

 

 

 そう、零した時。

 

 

「いやちょっとまてぇい!」

 

 

 ――ベンチの下、俺とシュリ先輩の間からにゅっと奈留島が生えた。

 

「奈留島!?」

「君たちさっきから、なんかとんでもない話してるでしょ!」

 

 どうやら奈留島は、俺達の間に挟まって邪魔をする機会を虎視眈々とベンチの下で狙っていたようだ。

 というか、やっぱ奈留島の神出鬼没さを考えると、大体の話は奈留島を通して這い寄る混沌に聞かれてるよなぁ。

 ここらへん、何か対策が必要かもしれない。

 ともあれ。

 

「いや、その、別に洗脳じゃなくてもいいんだよ」

「洗脳じゃなくてもいいって何!?」

「――俺、奈留島のことなんも知らないなぁ、と思ってさ」

「つ、つまり」

 

 つまりは、アレだ。

 

「――奈留島って、普段何してるんだ?」

「……洗脳とのギャップ、ありすぎでしょぉ!」

 

 それはまぁ、はい。




魔祓師の就職に関するお話は、世界観が広がる感じで個人的に好きな描写です。
フロント企業云々は、蒐集院がSCP財団に吸収されずにSCP財団と同じことをしてるイメージですね。
あとセオは必要ならASMR制作もきっちりやります。あいつはそういう男です。
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