「魔祓師フウマ」における俺の推しは、瀬戸場ミホノという。
原作においては、主人公である風魔コウタロウが通う「まほろば学園」の教師の一人だった。
教師でありながら、見た目は学生にしか見えないほど幼く。
学生からは友人のような距離感で親しまれている先生。
セトミホとかミホっちゃんとか一部のキャラに呼ばれていて、ファンの間での呼称もセトミホが多い。
そんなミホノだが、性格はかなりおっとりしていて、それでいてどこか抜けているところがある。
日常パートにおける癒やし、みたいな扱いを序盤の頃からされていて。
出番はそこそこあるし、ビジュアルがいいから男性ファンからは人気があるけれど。
あまり作中で大きく扱われることのないキャラ……と、思われていた。
とあるエピソードで焦点が当たるまでは。
そのエピソードは、最初のうちはちょっとした日常の小さな事件から始まり。
ミホノはその事件を解決するために主人公たちと協力することとなる。
最初の事件を解決したところで、一件落着となり。
ミホノを掘り下げつつ、箸休め的なイベントを描くパートだったのか、とファンは最初思った。
しかしどんどん話はシリアスで重い方向へと向かっていき、その中でミホノは主人公たちと行動をともにすることとなる。
だんだんと「これ大丈夫か……?」みたいな空気がファンの間で広がっていく中。
ミホノは、最終的に敵の幹部格と戦って、敗北、死亡した。
その壮絶な死に様から、多くのファンを獲得。
俺も、ミホノの死に心を奪われたファンの一人となった。
そんな瀬戸場ミホノが、この世界にも生きている。
なんとか、俺はミホノに生きてもらいたい。
しかし、仮に原作の死亡イベントを生き延びたとして、その先はどうなる?
二次創作よろしく、フェードアウトして出番がないならまだいい。
また別のタイミングで死亡しかねないくらいには、「魔祓師フウマ」の原作は過酷だ。
そもそも前日譚の大崩壊を、この世界でも生き延びられる保証はどこにもないのである。
だったら、ただ死亡イベントを破壊するだけじゃだめだ。
俺にとっての推しはセトミホとかミホっちゃんとか呼ばれていたあの原作におけるミホノだけれど。
この世界のミホノはそんな事実と関係なく生きている。
だとすれば、俺がやるべきことは――俺にできることは――
ミホノを、魔改造することじゃないだろうか。
+
その日、俺は父に連れられて魔祓師の集まりに顔を出していた。
それは言ってしまえば中世風ファンタジーとかにありがちな「社交界」に近いものだ。
ただ、現代だからか、日本だからか豪華な晩餐会兼舞踏会みたいな感じではなく、もっと直接的に飲み会である。
そこに魔祓師一族の子どもたちが連れてこられ、交流を持つ。
将来的なコネを作るための場所。
本来ならまだ六歳にもならない俺ではなく、八歳の兄様が顔を出すべきなのだろうが。
兄様はこういった集まりがとことん嫌いなのと、父様的には兄様より俺にコネを広げてもらいたいらしく。
もっぱらこういう集まりに顔を出すのは俺の役目になっていた。
俺としても、
その人物というのが――
「――セオたん、セオたん、セオたんのいうとーりにしたらー、マナ? がすっごいふえたみたいですぅー」
年は俺と同い年。
この場に同年代が俺とミホノしかいなかったことで、自然と俺達は交流を持つようになった。
「そ、そうか? それはよかった」
「いへへ、あいがとーございます」
いへへ、という原作でもあった独特な――どこか力の抜ける笑い声を零しつつ、楽しそうにミホノは語る。
ふわっとした栗毛の髪は座ると下敷きにしてしまいそうなほど長く。
まだ原作開始まで十五年以上あるにもかかわらず、全体的な雰囲気は原作と殆ど変わらない。
ミホノと話すと、俺は少し緊張してしまう。
推しの前だから、というのもあるが。
現在の俺は幼い子どもで、周囲は目上の相手ばかり。
敬語で元気よく振る舞えば、それなりに子どもっぽく見えるから、いい。
しかしミホノは、同年代の対等な立場の相手。
普通に振る舞うと、どう考えても子供っぽく見えないのだ。
「あ、セオたんセオたん、セオたんってまはらばできるよーになりましたです?」
「わかるのか?」
「わかりますよぉ。わたし、セオたんのたんれんほー? ですごくすごくなりましたから。むん!」
そういって、力こぶを作って見せるミホノ。
ミホノは原作において教師という立場だった。
「魔祓師フウマ」において教師陣は、少年漫画における味方側の幹部格にあたる。
中でもミホノは、教師としてはそこまで強い方ではない。
だけど、才能がないというわけではないのだ。
もともと、瀬戸場家は百鬼家ほどではないけど、あまり魔祓師としての立場は強くない。
おかげで俺みたいな落ちこぼれ魔祓師一族の人間でも交流が持てているわけだが。
中でもミホノは、瀬戸場家の中では才能があるほうだった。
ただ、どういうわけかその才能があまり原作では伸びなかったのである。
何故か?
「でもでも、たんれんほー? を変えるだけでこんなにちがうんだって、みんなびっくりしてましたよぉ?」
鍛え方が悪かったのだ。
五歳の段階からマナを鍛えるというのは、珍しいことだがないわけじゃない。
才能を期待されたミホノは、幼いころからマナを鍛える簡単なトレーニングを行っていた。
が、あまり結果は出ず、将来を不安視されていた過去がある。
これは原作でも触れられていたな。
最初のうちは期待されていたが、段々と芽が出ず周囲から見放されていった……と。
原作でそれを解決したのが、主人公の風魔コウタロウだった。
彼の考案した鍛錬法が、劇的にミホノを成長させたのだ。
というか、俺が現在利用している鍛錬法のほとんどは原作主人公考案である。
というのも、主人公の風魔コウタロウは名前から分かる通り、実は特殊な出自の人間だ。
詳細は省くが、魔祓師とは別の方法で魔人と戦う“忍”の一族がいて、その最後の生き残りが原作主人公である。
魔祓師とは違う視点を持っているからこそ、革新的な鍛錬法を考案できたわけだな。
原作だと、ミホノが主人公の鍛錬法を試せた期間は短かった。
であれば、話は単純だ。
幼いうちから、この鍛錬法を教えてミホノに強くなってもらえばいい。
今はまだ、子どもとしてはそれなりのマナ総量になった、くらいのものだが。
将来的には、なかなかのものになるんじゃないだろうか。
俺としても負けていられない……わけなのだが。
「いへへ……セオたん、セオたん」
「ど、どうしたんだ?」
なんというか、色々と不思議なのだ。
俺は正直、ミホノには色々と壁を作っていると思う。
原作キャラだから、推しだから、とかそんなの関係なく。
単純にミホノくらいの美少女――今はまだ幼いが――とまともに話をしたことなんてないのだ。
おっかなびっくりになってしまうことがほとんどである。
なのにどういうわけか――
「ぎゅー、ですっ!」
「うわっ!」
ミホノの好感度が、とてつもなく高い。
具体的には、いきなり俺に抱きついてくるくらいに。
このくらいの年頃なら、男女の区別もあってないようなものかもしれないけれど。
転生者の俺としては、困る。
オタクとしても、色々と困る――!
というか、ミホノの好意は、ただ人に対する好意以上のものを、俺は感じてしまう。
なにせ――
「あのあの、やっぱりセオたんじゃなくて……“セオしゃま”ってよんじゃ……だめ、ですか?」
――どこか、
「え、ええと……お互いの立場的にまずいかと」
「むー! セオたん、こういうときばっかり、たちば? をもちだします。ずるいです!」
きっとこれも、俺の知らないところでミホノの掘り下げがあったからに違いない。
どうなってるの、知らない原作。
できれば実際に摂取したかったよ、知らない原作――!
次回がミホノ視点(三人称)です。
今回で光弾の解説までいきたかったけど難しかったので次回こそ…