推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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四十 奈留島ニイアのひ・み・つ

 奈留島ニイア。

 まほろば学園の中等部一年生で、特級生徒。

 使用する魔祓刃は固有魔祓刃の「獣応無人」。

 様々な存在に変身できて、その能力を模倣できる。

 人間だったり、真生生物だったり、更には魔人――それも七大魔人にすら安全に変身できてしまうのは、強いなんてもんじゃない。

 本物のスペックには及ばないそうだけど、白面金毛を一匹なぶり殺しにできてしまう存在に変身できれば、十分じゃなかろうか。

 問題は二つ、一つは変身すると元の自分の姿に戻れなくなること。

 もう一つはそもそもこれ魔祓刃なの? という疑問があること。

 俺の炎鬼天生みたいに、魔祓刃とも魔装とも違う第三の力じゃないか、と思わなくもない。

 

 性格は人を煽ったりするのが大好きで、周囲を翻弄するタイプ……だと思い込んでいるポンコツ。

 理解できないこと、想定外のことに弱く、基本的には無害。

 しかし、奈留島は同時に這い寄る混沌の化身だ。

 普段のあれこれを見ていると、本当に化身か? と疑いたくなるときもある。

 だが、人の記憶を改変して、”奈留島ニイアという存在がいる”ということにできたり、こないだみたいに存在しない生徒になり済ませたり。

 ああいう魔祓刃で説明できない能力は、間違いなく這い寄る混沌由来の能力だ。

 本人はどこまで自覚的に使っているのかは知らないが。

 

 ――ここまでが、俺の知っている奈留島だ。

 そして、それ以外のことを、俺は何も知らないのである。

 

「……わ、私のことを知りたいの?」

「そうだな、正直奈留島の趣味とか、俺、マジで知らないし」

 

 そう、そうなのだ。

 奈留島という人間のキャラ……というか、性格は知ってる。

 けど、奈留島の”いつも通り”を俺は知らない。

 だからどうなのか、と思って問いかけたのだが、不意に奈留島が何かを思いついたように笑みを浮かべた。

 おい何を思いついたんだよ?

 と、思っていると――

 

「こほん。もしもアタシのことをよく知りたいならー」

「知りたいなら?」

 

 言いながら、奈留島は俺の耳元まで突然顔を近づけてくる。

 

 

「アタシのことを、いーっぱいほめそやかして、よしよしして、愛でてくれたらー、わかってくるかもよ♪」

 

 

 そして、一気にその笑みを妖艶なものへ変えてみせた。

 こういうところは、這い寄る混沌の化身らしさ、かな。

 奈留島はポンコツだが、見た目だけなら実に妖しい雰囲気のギャルだ。

 妖艶、という言葉だけが見た目だけなら非常によく似合う。

 見た目だけなら。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 そして、何故か奈留島は沈黙した。

 シュリ先輩もさっきから沈黙している。

 ……あ、もしかしてこれ、俺が発言するタイミングか?

 

「あ、悪い。奈留島のそういうところは普通にすごいよな、と思ってて何も発言するつもりなかった」

「せめて何か反応してよー!」

「セオくんって、基本的に塩よね。ミホノちゃんも苦労するわよ」

「いや、ミホノはどうだろうなぁ」

 

 俺は一応、ミホノの婚約者なわけで。

 その点において、できるだけミホノを大事に思っているつもりである。

 原作キャラがどうとか、子どものうちから婚約者がどうとか思うのも今更だしな。

 

「そもそも、ミホノちゃんを差し置いてアタシとお話なんて、いいのぉ?」

「……ダメならミホノが飛んでくるだろ、普段の調子からすると」

「それもそっかぁ」

 

 飛んでこないってことは、まぁ大丈夫ってことなんだろう。 

 多分。

 

 

 ◇

 

 

 さて、結局あの後シュリ先輩と別れて、奈留島と二人で話をすることになった。

 途中、出さなきゃいけない宅配便を出してから、俺は奈留島と二人で学園を歩く。

 

「奈留島は、普段どんなことしてるんだ?」

「どんなことって、普通だよぉ。学校に通って、セオくんをからかって、勉強したり、魔祓師の特訓をしたり」

「……意外だな、もっと変なことしてるかと思った」

「それはセオくんでしょー」

 

 いやいや、俺だって常に変なことをしてるわけじゃないからな?

 授業中は勉強しながら、魔祓刃のアイデアをねったり、今後の魔人対策を考えたり。

 実技があれば、迷惑がかからないようにアイデアを試したり。

 学校が終わったら、ミホノと奈留島が見てるところで魔祓刃の実験をしたり、魔人対策の準備をしたり。

 夜になったら、今日考えた魔祓刃のアイデアを書き出して、色々とシミュレーションをしてみたり。

 なんてことを奈留島に話す。

 

「セオくん魔祓刃のことしか考えてないじゃーん! もっとゲームとかやろうよぉ!」

「一応、有名どころには手を出してるぞ。ミホノが見てるから、毎週欠かさず日曜朝の特撮やアニメとかは見てるし」

「あ、そこは見てるんだ。アタシはゲームとかソシャゲがメインだからそういうのは手を出してないんだよなぁ」

 

 俺達は、二人で寮に向かいながら話をしている。

 もう放課後だからすることもないし、奈留島の部屋で話そうということになったのだ。

 女子の部屋で話すとかいいのか、と思うかも知れないが、まぁ奈留島だし。

 

「というか意外だな、奈留島もそういうオタクコンテンツに手を出すのか」

「オタクコンテンツって言い方が、なんかそもそも偏見じゃないー? 今どき、ゲームや漫画なんて誰でも嗜むでしょ」

「そんなもんかね」

 

 後、ぶっちゃけ魔祓師の世界は考え方が古いから、中世風ファンタジーの貴族学校みたいに、「学園で結婚相手捕まえてこい」みたいな考えが普通に成り立つ。

 なので俺がミホノの部屋に行くことは誰もおかしいとは思わないし、奈留島とも普段からよくいるので、変に思われたりはしない。

 本人たちの実情はともかく、な?

 

「はーい、ついたよー。アタシの部屋ー」

「お邪魔します」

 

 というわけで、奈留島の部屋に案内される。

 中に入ると、そこはいかにも女子って感じの普通の部屋だった。

 某ゲームのマスコットのぬいぐるみとか、キャラのアクスタとか置いてある。

 ただ、基本的に借り物の寮の部屋なので、あまり私物を広げている感じはしない。

 生活感はあるので、この部屋で暮らしていること自体は事実みたいだ。

 

「んー、なんか恥ずいね」

「部屋に男をいれるのは、恥ずいで済ませていいことなのか?」

「セオくんには元から期待なんてしてませーん」

「そんなもんか」

「そういうとこだってばー!」

 

 なんて話をしながら、俺は部屋の中央にある机に案内され、腰を下ろす。

 奈留島はと言えば、ささっとコップを二つ取り出すと冷蔵庫から紙パックのレモンティーを取り出して、二人分注いだ。

 

「あ、レモンティーでよかった? 好きなんだよねぇ、紙パックのレモンティー。常備しちゃう」

「なんでもいいよ。レモンティーは美味いしな」

 

 なんて、本当に何気ない話をしながら、俺は奈留島と交流していく。

 こうして話をしている奈留島は、本当に普通の女子って感じだ。

 ギャルの割には結構オタクで、ゲームの話をしたら俺より詳しい。

 というか、俺が魔祓刃オタク過ぎて他のコンテンツにあまり触れられていないんだよな。

 でもしょうがないじゃない、楽しいんだもの、魔祓刃開発。

 んで、だからこそ思う。

 こうして話をしている奈留島は……這い寄る混沌らしくない。

 

「……奈留島は、どうして人をからかったり煽ったりしようとするんだ?」

「え、どうして?」

「誰かから頼まれたり、そうしなきゃいけない理由でもあるのか、と思ってな。今の奈留島を見てると、人をからかうのは好きなんだろうが、煽るためだけに酒呑童子に変身するほどじゃない気がするんだよ」

「えー、アタシとしてはそれも自然体なつもりなんだけど」

 

 でも今は、俺をからかったりはしていない。

 せっかく自室に連れ込んだんだから、もっと積極的にこっちへアプローチをかけてもいいだろうに。

 どうせ意味ないから、でやろうとしないのは……なんというか、普段の奈留島らしくない。

 

「別に、誰かから頼まれてやってるわけじゃないよ。アタシの欲求にしたがってやってるだけ。その点、セオくんに色仕掛けしないのは、さっきの塩見てもう一度やっても面白くないな、って思っただけ」

「欲求に従ってるだけ、か」

「そ。なんていうかなー、これふざけられるな、って思ったら体が勝手に動いちゃうんだよ」

 

 そんなルーニーみたいな……

 あ、ルーニーってのはTRPGでどんな場面でもふざけた行動を取りたがるプレイスタイルのことね。

 ある意味、もっとも這い寄る混沌っぽいスタイルだ。

 

「ただね、アタシとしても……なんというか、もっと面白いことがしたいんだよ」

「もっと面白いこと?」

「なんていうかなー、()()()()()()()()()()()? それこそ、セオくんがアタシは少しうらやましいかも」

 

 奈留島はレモンティーに口をつけて、少しだけカップの中を眺めてから、ぽつりとこぼす。

 

 

「この世界で、セオくんより自分にしかできないことをやってる人って、いないでしょ」

 

 

 そう言われると……そうなんだろうか。

 まぁ、七大魔人を討伐するために、あれやこれやと準備をしようなんて魔祓師は俺くらいだろう。

 

「アタシはそういうのって、ぶっちゃけないから」

「でも、大多数の人ってそういうものじゃないか? 毎日に目的をもって生きてる人なんて、そういないだろ」

 

 それこそ、俺の前世は本当にただのオタクでしかなかった。

 今こうして魔祓師として好き勝手してるのは、転生という体験を経たからだ。

 人生をもう一度やり直し、更には推しの漫画世界に生まれるなんていうモチベーションの塊を手に入れたら、なぁ。

 

「だから憧れてるって話。いつかはアタシもセオくんみたいに、自分だけの何かを見つけたい……っていうか」

「なるほど?」

「それを誰かに見つけてほしいのかもね……ありふれてるでしょ、こんな願い」

「……そうかもな」

 

 ――ふざけられる、と思ったら勝手に体が動く。

 果たしてそれを、這い寄る混沌の影響ではないと誰が言えるだろう。

 本人は自分の意志でやっているつもりでも、奈留島は化身なのだ。

 どこに、自分にしかない何かを見出すことができるのか。

 正直、俺にもちょっとよくわからない。

 

「後はそうだなー……って、レモンティー終わっちゃった。おかわりもってくるねー」

「おかわりが必要になると思うなら、最初から紙パック持ってくればよかったな」

「先に言ってよー」

 

 なんて、本当に何気ない会話をしながら、奈留島が立ち上がる。

 そしてそのまま冷蔵庫へ向かおうとして――

 

「あっ」

「あっ」

 

 足を本棚に引っ掛けた。

 バランスを崩し、中身がこぼれる本棚。

 俺は慌てて立ち上がると、奈留島が転ばないよう手を掴む。

 魔祓師になって反射神経がよくなったから、こういうことにも咄嗟に対応できるようになったのだ。

 というのはさておいて。

 

「大丈夫か?」

「あたた、小指いたいよー、慰めてセオくん」

「大丈夫そうだな」

「塩だなぁ……って、あ」

「あ?」

 

 平気そうなので、態勢を立て直した奈留島から手を離す。

 すると奈留島が、何かに気づいた様子で声を漏らす。

 そして、なんかめちゃくちゃ顔から血の気が引いていた。

 というか――

 

 

「……きのこの里×たけのこの山?」

 

 

 とんでもなくマニアックな薄い本が、棚の奥からでてきた。

 多分、普段は本棚に隠してあるんだろうな……みたいな。

 それにしてもきのこ×たけのこかぁ……

 

「こ、これは……違うの!」

「いや、何も違わんだろ……」

「ちょっと禁断の関係が癖なだけなの!」

「自爆してるぞ」

「あああああーーーーーーーーっ!」

 

 そして崩れ落ちる奈留島を、俺は受け止めてやることができなかった。




平和なニイアの掘り下げ回でした。
……平和だな!
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