推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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四十二 学校にテロリストが攻めてくるやつ

 俺と奈留島がきのたけ禁断の関係本で気まずい雰囲気になっていると、不意にそれは起きた。

 

 ――警報だ。

 

 学園内部に魔人が侵入した、という警報。

 現代において、魔人襲撃は普通起こらない。

 魔祓師の警備がしっかりしているし、まほろば学園の結界は優秀だ。

 襲撃しようとした段階で潰されるのが普通である。

 何より魔人の長であり最たる脅威、七大魔人は現世に攻めてこない。

 各地でその部下たる最上級魔人は活動しているが、基本的に彼等の方針は魔祓師の各個撃破とまほろば境界破壊の模索。

 警備の厳重なまほろば学園を襲おうとはしない。

 そういうことが起きるのは、大崩壊によって七大魔人が現世に現れ、魔人の活動が活発化してからだ。

 

 だからこそ、今回の襲撃は異様。

 本来、まほろば学園は創設以来一度も魔人に襲撃されていない。

 大崩壊編で、初めて襲撃が発生するのだ。

 ある意味で、それが二年早まっている。

 

「ま、魔人だ魔人だ!? あっはは、学生諸君は現実が理解できず興味本位で外に出てるぅー!」

 

 俺の隣で、奈留島が煽るように窓から外の様子を眺めて実況していた。

 現在、魔人の襲撃警報により学生は寮や学校の教室に隠れるよう指示がでている。

 しかし多くの学生は、襲撃という状況を飲み込めず、中には外に出て様子を伺うものもいるくらいだ。

 

「アレだめじゃなーい? 最悪死人が出ちゃうよー!」

「……さっきとは、雰囲気が偉い違いだな、奈留島」

「えー、アタシ的にはこれが普通のつもりなんだけどー!」

 

 さっきまできのたけ本で、死ぬほど気まずい空気になってたやつと同一人物とは思えないくらい、奈留島はイキイキしている。

 これが“衝動的に煽りたくなる”というやつなんだろう。

 

「奈留島は、クラスメイトが無惨に殺されてもいいと思ってるのか?」

「えー、そうは思わないけどー、無理でしょ。この平和ボケっぷりで、まともな対応なんて無理無理ー! どっかで死人がでちゃうねぇ!」

 

 さっきまで奈留島は、日常の当たり前を謳歌する、普通の学生だった。

 特級という立場から、外に出ている生徒たちみたいに軽挙な行動は起こさないだろうが。

 彼等と生き方に大きな違いがあるとは思えない。

 しかし今、奈留島はそんな彼等を煽って悪辣に微笑んでいる。

 これが這い寄る混沌の“影響”だとしたら、普通に悪辣だ。

 

「それにしても、セオくん平然としすぎじゃなーい? そもそもこの襲撃って、セオくんが原因みたいなものでしょ? 七大魔人を討伐して、鵺にちょっかいかけて。だから襲撃されてるんだ! なのにこの態度。セオくんの方が酷いかも!」

「……俺のせいだから、だよ」

「んえー? どういうことー?」

 

 俺は、窓の外から辺りを見渡す。

 ミホノがこちらを監視していないか探しつつ、これから起こる出来事を奈留島に告げた。

 

 

「これが想定内の出来事だからだよ。当然、対策済みだ」

 

 

 ――直後。

 俺と奈留島以外の視界に映る全ての学生が――

 

 ()()()()()姿()()()()()

 

「――は?」

 

 そしていつものように目を丸くする奈留島は、なんというか、普段の奈留島に戻ったかのようだった。

 

 

 ◇

 

 

「……()()()()()()()、完了しました」

「ご苦労だったな。以後は俺達がお前を護衛する、そこでじっとしていろ」

「もー、ルトは相変わらずかったいなー。シュリちゃんもリラックスリラックス」

 

 ――そこは、まほろば学園の屋上。

 普段は立入禁止になっており、実質そこを根城にしているリズの特等席となっていた場所。

 そこに、リズとルト、それからシュリの姿があった。

 

「それにしても、シュリちゃんは訓練通りできて偉いねぇ」

「あ、は、はい。その、いっぱい練習しましたので!」

 

 シュリの頭をわしゃわしゃと撫でるリズに、シュリは緊張しながらも答える。

 魔人襲撃の警報がなった直後、シュリは事前の練習通りに屋上へ転移した。

 その直後に駆けつけたルトとリズがシュリを守るように配置され、そしてシュリが――()()()()()()()を対象に、夜行招来による転移を行ったのだ。

 そんな大規模転移が可能なのか、と言えば()()()()()()()可能だ。

 シュリの夜行招来は非常に優秀で、数分程度の準備期間で数十人を一斉に転移させられる。

 以前、白面金毛が襲撃したときに学生を逃がしたように。

 

「にしても、何時間もかけて学園の学生全員を転移できるようにセットアップして、そのセットアップを()()()()ことで、いつでも全員を転移できるようにするなんて、セオくんは考えることがちょっとおかしいわねぇ」

「愚弟なら当然だ」

「嬉しそうにしちゃってー」

「黙れ」

 

 今度はルトをからかうリズ、普段からこんな感じなんだろうなぁ、とシュリは思った。

 

「にしても、セットアップの維持なんてどうやってやるのさ。ふつーに考えて、一日中能力のことを考えて行動するなんて無茶でしょ」

「あ、えっと。セットアップとあることを結びつけるんです。私、そのことなら一日中考えてられるので。朝起きたらまず“それ”を見て、脳内にそれをいっぱいにするんです」

「あることって?」

「あ、おい」

 

 何気ない様子で問いかけたリズ。

 それを「まずい」と思ったルトが止めようとするも、間に合わず――

 

 

「セオタード仮面様のチェキです!!!!!!!!!!!」

 

 

 シュリは豹変した。

 リズは笑顔のままなんか「ん?」となる。

 そして――

 

「セオタード仮面様のことなら、私一生同じことを考えてられます! かっこいいんですよセオタード仮面様! すっごく強くて強くて強くて眼帯がかっこよくてかっこよくてあああああああ!」

「落ち着けシュリ! もうすぐ魔人どもが来るぞ!」

「はっ!」

「……シュリちゃんって、変わってるね」

 

 そう、シュリは自身の転移能力のセットアップをセオタード仮面と結びつけた。

 そもそもシュリの魔祓刃はセオタード仮面に脳を焼かれたことで完成したものだ。

 このくらいのセットアップ、なんてことはない。

 ともあれ、こうして学園から生徒はいなくなった。

 転移先は以前白面金毛が襲ってきたあの山で、そこにも何人か護衛の魔祓師が待機している。

 転移に気づいてそっちに向かう魔人もいるだろうが、本隊は学園にやってくるだろう。

 それをルトやリズが迎撃すればいい。

 他にも教師達が今回の魔人襲撃を対策して、準備をしている。

 

「――全ては、愚弟が働きかけたから、か」

「なになに、嬉しそうだねルトー」

「黙れ。……あいつはこうやって自分の策を容易に通すため、あのような暴挙に出たのだな」

「白面金毛討伐と、件妨害は、それだけ無視できない功績だったわけだ」

「ふん」

 

 なんて話をしていると、ふと一人の少女――ミホノがルト達の元へやってくる。

 

「ルトー! セオ様をどこにやったですかー!」

「うお! 瀬戸場ミホノ! 俺はセオのことは知らんぞ!」

「どこにもいないですー! これから作戦開始なのに、どこにもいないですー!」

「それ、大丈夫なの?」

「……あいつのことだ、なんとでもするだろう」

 

 どうやらミホノはセオを探しているようだ。

 しかしあいにく、ルトもリズもセオがどこにいるかは知らない。

 ただ一人、シュリだけが居場所を知っているのだが、シュリがその事実を口にするよりも早く――

 

「まぁ、セオ様はミホノのことを世界で一番大好きなのでー、特に問題はないとおもうのですがー。見つからないとイガイガするので、ミホノは別の場所を探しに行くのです!」

 

 一人でそうやって納得して、どこかへ行ってしまった。

 ああ、と手を伸ばしたシュリ。

 しかしもうミホノの姿はそこにない。

 

「にしてもさー、ミホノちゃんってちょっとセオくんのことに関して、慢心してない?」

「まぁ、愚弟はアレで瀬戸場ミホノを大事にしている。アレは慢心ではなく自負だろう」

「あ、また愚弟呼びに戻った」

「黙れ」

 

 そんなリズとルトのやり取りを横目に、シュリは大丈夫かなぁと内心思いながらも各地で始まる戦闘に意識を向ける。

 

「ま、何にしても……私達は私達の仕事をしましょうか」

「……ふん、そうだな」

 

 そしてリズとルトも――

 

「――さぁ、遊ぼうか! “天上天花”!」

「――ふん、消え失せろ。“色即絶空”!」

 

 自身の魔祓刃を展開する。

 かくして学園最強とも謳われる天才魔祓師二人が肩を並べ、魔人を屠るべく戦闘準備を整えた。

 

 

 ◇

 

「わ、わぁ、わぁー! またそうやって無法を働く! セオくんってばそういうところだよ!」

「俺としては、そうやって慌てふためいてる奈留島の方が、普段通りって感じがして安心するな」

「なんてこと言うの!」

 

 俺と奈留島は、誰も居なくなってあちこちで魔人と魔祓師の戦闘が始まった校内を走る。

 俺も時折、襲ってきた魔人を光弾で足止めしつつミホノの刀で切り裂いて進む。

 奈留島は片腕を狼の鉤爪に変身させて、迫ってきた魔人だけを薙ぎ払っていた。

 

「この後どうするのー?」

「元凶を叩く」

 

 仮にもまほろば学園なんていう、魔祓師の大拠点を狙う魔人だ。

 その黒幕は、最上級魔人以外にありえない。

 そして俺の想定どおりなら、今回の魔人は下手したら最上級魔人“以上”の力を持っている可能性がある。

 故に、俺がなんとかするのだ。

 しかし問題は二つある、一つは――

 

「……どうしたものかな」

「何悩んでるの?」

「奈留島の手を借りるかどうか」

「借りてよ! 私だって魔祓師だよ! 特級の!」

「……そうなんだけどさぁ」

 

 一つは、奈留島。

 そしてもう一つは――さっきからミホノが見つからない。

 なんというか、お互いにお互いを探してすれ違いまくってる気がするんだよな。

 俺の作戦だと、ミホノがいないと今回の親玉は倒せない。

 とはいえここに、もう一つ代案が存在する。

 方法は――奈留島と協力すること。

 

「……奈留島はどう考えているんだ。俺と協力するの」

「どうしてそんなこと聞くの?」

「あー、なんだ。……奈留島にも色々と秘密とかあるだろ」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あやふやなまま、ここまで来ているのだ。

 正直、踏み込むリスクは非常に大きい。

 奈留島の後ろにいるのは本物の神格だ。

 俺は生ける炎の力を引き出せるけど、それは引き出しているだけ。

 流石にいきなり神格本体とやり合うのはリスクが大きい。

 しかもそれが這い寄る混沌ともなれば……

 

「秘密? んー、アタシの秘密、そんなに知りたいのぉ? だったらぁ、教えてぇ――」

「――っ! 危ない!」

「あ、げ……へ――?」

 

 その時、俺は俺と奈留島の真後ろから迫りくる魔人の攻撃を()()した。

 咄嗟に奈留島を掴んで飛び退き、更に具現化したナイフを攻撃してくる魔人に対して投げる。 

 俯瞰は眼帯をしている方の目で見た解郷による探知、反撃は毒の具現化を付与したナイフだ。

 結果、迫りくるイタチの魔人をナイフが掠め――

 

 

 俺達の眼の前で、イタチは溶けた。

 

 

 ナイフには魔人化解除の薬と、具現化毒が付与されている。

 具現化毒には前者の効果が作用したら毒が作用しないようにしてあり、こいつはもう魔人から人に戻れない個体というわけだ。

 なので、魔祓師の常識としては介錯してやるのが情なわけだが――

 

「……ちょっとグロいな」

 

 溶け方が少しエグかった。

 毒が回った時点で即死しているので、これが苦しみに変わることはないが、絵面が酷い。

 結果――

 

「ひっ――」

 

 奈留島がガチでドン引きする。

 本当にいつも通りの、奈留島のリアクションだ。

 それを見ていると――

 

 

「……まぁ、奈留島なら大丈夫か」

 

 

 仮に裏に這い寄る混沌がいても、奈留島は奈留島なのだ。

 ならば何も問題ないだろう、と俺は判断し――

 

「大丈夫って何さー!?」

 

 奈留島の普段通りの絶叫が、辺りに響き渡った。




慢心ミホノ、大丈夫ニイア。
本当かー?
次回長いです、あんまり見所がなくて次々回と繋げたので。
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