少し前から奈留島の様子がおかしい。
具体的にいうと、牛鬼を退治したあたりからだ。
あれからすでに一ヶ月近くが経過していた。
その間に起きた奈留島の奇行について触れていこう。
「セ、オ、クーン! きゃは⭐︎」
「お、おう。どうした。ずいぶんテンションが高いが」
「けーれけーれ」
その日、時刻は昼休み、いつも通りでミホノと二人で昼食を取ろうとしているところに奈留島がやってきた。
以前からたまに昼食を一緒に食べることはあったんだが、こんなテンションの高い奈留島は初めてだ。
そしてミホノは唇を尖らせて奈留島を追い払おうとしていた。
いや、一応話は聞きましょうね?
「じ、つ、はー! セオくんのためにお弁当を作ってきたの! じゃじゃーん!」
「……俺もミホノも、自前の弁当があるが」
「けーれけーれ」
俺とミホノは割と自炊する方である。
古式ゆかしい魔祓師の世界だと、嫁入りする女性は一通り家事を仕込まれるし、俺は前世で一人暮らしをしていた経験がある。
なので、昼飯は俺とミホノが交互で作ることになっていた。
今日は俺の作った、茶色多めの弁当である。
そしてミホノは「けーれ」が鳴き声になっていた。
「まあまあそう言わず、なんなら見るだけでもいいから」
「いやそこは食べろよ、勿体無いだろ」
「けーれけーれ」
奈留島の持ってきた弁当は、割と本人の趣味が感じられる可愛らしい弁当だった。
んで、さささっと中身を俺に見せようとしてくる。
ミホノは「けーれ」のセリフに合わせてリズムを取り始めていた。
完全に「けーれ」というのが楽しくなってきたパターンだ。
んで、出てきたのは、
「じゃじゃーん、モザイク弁当!」
それは、モザイクだった。
白飯に海苔を振りかけてモザイクっぽくしたとか、倫理的に見せられない物が入っているからモザイクがかかっているわけじゃない。
ご飯っぽい部分も、おかずっぽい部分もモザイクがかかっている。
「……」
「どうかなどうかな? 自信作なんだけどー」
「けー……なんですかこれ……」
「わからん……」
思わずミホノが正気に戻る何かがそこにはあった。
恐る恐る、俺は箸で摘んでみる。
モザイクがモザイクのまま持ち上がった。
マジでなにこれ……
「んー、ぽい」
「ああ!?」
俺はまた手元に戻ってきていた例の触手に、一口モザイクを食べさせてみた。
すると触手はそれを美味しそうに口に運んだのち、なんか気持ちよさそうに痙攣を始めた。
「いやマジで何入ってんだよこれ!?」
「あああー!」
結局、モザイクごはんは触手の餌になりましたとさ。
まぁそれだけなら、アレの化身だしいいだろ、そういうこともあるだろ、と思う。
しかし奈留島の奇行はこれだけでは終わらない。
そもそもこの弁当を触手に処理させてなぜか奈留島は嬉しそうにしていた。
「さすがセオくん、すってきぃ!」
だそうで、一体なにが素敵なのかはわからない。
それから別の日、奈留島は俺が一人で歩いてる時に駆け寄ってきてこんなことを聞いてきた。
「セオくん! セオくんはチョーク×黒板前提の黒板消し×黒板ってどう思う!?」
「待て待て待て」
突然の性癖トーク。
こいつきのたけ本を俺に見つかって、死にそうになってた奈留島と同一人物か? と思うくらい、俺と二人きりになると奈留島は性癖トークをしてくるようになったのだ。
「まず落ち着いて聞いて欲しいんだが、俺はその前提ってやつがよくわからん」
「あ、ごめんね。言い換えると……チョークと黒板が付き合ってるんだけど、その裏で黒板消しに黒板が惹かれてるの!」
「そうかなに一つ言ってることが理解できなかった」
いや、一応わからなくはないんだけど、わかりたくないっていうか。
わかったらそれこそ正気を失いそうだなって思ったっていうか。
「チョークと黒板は付き合ってるんだけど、チョークはDV彼氏なの! そのせいで黒板はいつも傷ついてて、それを慰める黒板消しに惹かれちゃうんだ!」
「あ、ああ、チョークが黒板に文字を書くのをDVに見立てて、それを消す黒板消しを慰めてると解釈した、と」
「セオくんって……天才!?」
「大袈裟すぎるだろ」
そこは単純に、話の筋を通せばそうなるだろうってだけの話で、別に俺はなにもしてないと思うんだが。
というかそもそも思うんだけど、奈留島の性癖は「禁断の関係」だ。
たしかに浮気も禁断の関係ではあると思うけど、黒板周りのカップリングならもっと禁断なのがあるだろ、ストレートに。
「というか、そもそも黒板消しとチョークって、普段は黒板を介してしか出会わない存在だろ? だったらそんな黒板消しとチョークの方が禁断っぽくないか? わざわざ浮気させなくてもさ」
「!!!?!?!?!?!!!?!?!?!?!?!?」
「そこまで驚くほど!?」
奈留島は自身の魔祓刃で自分を!?に変化させて、驚きを表現していた。
いや、ぶっちゃけどっちがより禁断かといわれると、素人の俺には判断つかないんだけど。
どうやら奈留島的には黒板消し×チョークの方が禁断らしい。
よくわからん。
――とまぁ、こんな風に最近の奈留島はよくわからないけど俺にコミュニケーションを取ろうとすることが増えた。
それはなんというか、こう……あまり色恋にさとくない俺でももしかして……と思う程度にはこう……意識されてるよな?
「いがーです! 今のニイアはイガイガ虫です! 焼き尽くしてやるです!」
だからか、ミホノが最近めちゃくちゃイガイガしている。
俺の自室にやってきて、俺のベッドを占拠して、ベッドの上でゴロゴロしながらイガイガしている。
そこは俺のまほろば学園における寮。
男子寮だが、ミホノは婚約者なので顔パスだ。
「やっぱ奈留島のやつ、俺を意識してるよな……? でも、そんな意識されるようなことした覚えはあんまりないんだよ」
「いがいが、セオ様は世界で一番かっこいいので、ニイアが惚れても仕方ないのです。いがあああああああ!」
「……ミホノの見識が役にたたないのは分かった」
「なぜですかー!?」
いやだって、俺で淀みまくってるんですもん……
まぁ、うれしいといえばうれしいんですけど。
「しかし……どうしたもんかな……」
「何を悩むですかー! セオ様にはミホノがいるではないですかー!」
「いやだって、奈留島のやつ、明らかに俺を意識はしてるけど、自覚してないだろ」
「むむ……」
「自覚してない相手に“婚約者がいるから”で遠ざけたら、それはそれで痛いやつな気がするぞ」
「むむむーっ!」
ミホノは膨れ始めた。
俺に奈留島を近づけたくないが、そういわれるとそんな気がするという感情が見て取れる。
というか、そもそもの話だ。
「……そもそもあれは明らかに俺を意識しているけれど、“好意”かどうかは、また別の話じゃないか?」
「と、いいますとー?」
ミホノが膨れたまま体を傾げた。
あまりにも傾げすぎて、そのままこてん、とベッドに倒れこむ。
その様子に思わず、俺はミホノののどをゴロゴロしてしまった。
「なーごなーご」
「いやさ、ほら、好意にもいろいろ種類があるじゃないか。んで、奈留島の好意ってこう……」
「ごろにゃーん」
おーよしよし。
と、ミホノを撫でまわしながら言葉を選んでいると……スマホからメッセージが飛んできた。
『聞いてくださいセオタード仮面様! 私、転移での世界一周に成功しました! それもこれも、セオタード仮面様のアクスタが一緒だったおかげです!』
というメッセージとともに、清水の舞台から飛び降りながら俺のアクスタと一緒に自撮りをするシュリ先輩の写真が送られてきた。
なんであの人清水の舞台から飛び降りてるんだよ……
「……奈留島の好意って、こう……シュリ先輩の好意に近いものを感じる」
「ああー」
ようするに、尊敬とか崇拝。
もしくは推しに対する特大感情。
ゆえに俺は、奈留島の感情を純粋な好意ととらえていいのか、なんとも言えないと思っているのだった。
出落ち編中盤開始です、だいたい隔日投稿、たまにズレます。
敢えてこの中盤だけにタイトルをつけるなら「奈留島ニイアの初恋」。
になるのでこんなタイトルです。
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