その日、俺は青春を謳歌していた。
「あっはははは!」
「ふふ、ふふふふふふふ!」
「セオ様ー! セオ様ー!」
ミホノとリズ先輩に囲まれて、人生で最も幸福なんじゃないかと思う時間を過ごしている。
何をしているかと言えば、単純。
北極並の極寒の地で、俺が用意した「不壊」概念を付与した盾をリズ先輩がぶち壊して回っているのだ。
え、なにそれって?
文字通りだよ。
つまり、俺は正気を失っていた。
「――滅却! 滅却滅却滅却滅却滅却滅却! 滅却滅却滅却滅却滅却滅却滅却滅却滅却滅却滅却滅却! あーっははははははは! あはは! あっっはははははは!」
「すごい! 不壊を付与してるはずの盾が豆腐みたいだ! はははははは!」
「帰ってきてください! セオ様! セオ様ー!」
何故こんなことになっているのか――
『なんとかかんとか、かんとかかんとかー、故に招来空間、まほろばかいほー、招来空間・氷鬼あふー』
現在、俺達はミホノのなんか気の抜ける口上とともに呼び出された魔滅場の中にいた。
ミホノの魔滅場開放「
ここは完全に外界と隔離されており、この空間内でどれだけ暴れても外に被害が出ない。
更には防諜にも使えて、非常に有用な空間なのだ。
故にここは、リズ先輩と
何故かミホノは、正式な口上を口にしようとしないけど。
今行っているのは、リズ先輩のスペックチェックだ。
ミホノや兄様は長年の付き合いで何ができるかだいたい把握しているけれど、先輩はそうではない。
これから一緒に戦う上で、先輩のスペックを測るのは非常に大事である。
け、決して原作のアレヤコレヤを間近で観察したいわけじゃないんだからね!
「とまぁ、いまのが私の魔滅場――“天上天花・唯牙独尊”の基本技、滅却だね」
「すごい……すごい威力ですよ、先輩!」
滅却、魔滅場を開放したリズ先輩の通常攻撃。
リズ先輩は通常の魔祓刃で自身と自身が手にした武器を強化できるが、魔滅場になるとこれが自分の身体に限定される。
代わりにその強化量は常軌を逸したものになり、ケリ一つで最上級魔人の首を消し飛ばすほどだ。
「いやそれにしても、本当にすごいですね。不壊の盾を一撃ですか!」
「まぁ、慣れれば壊すこと自体は簡単だからね」
俺の不壊の概念は万能なんだが、それを構成する具現化は所詮汎用魔祓刃でしかなく、一定以上の負荷をかけると土台になっている魔祓刃そのものが壊れるのだ。
具体的に言うと、普通に攻撃するだけだと壊れないが「不壊である」と認識したうえで、通常時に攻撃を放つのに消費するマナの倍のマナを消費して一撃を放てば壊せる。
大事なのは「絶対に壊れないのではなく、不壊という概念が付与されている」と意識すること。
ただし、壊すにしても最低でも最上級魔人の全力程度の威力がないといけないので、とにかく初見殺し性能と足切り性能が高いんだよな。
「いやあ、こうやって必要以上にマナの消費を増やすようにすると、マナ総量の成長がいつもより早いんだよね。お陰で、滅却の威力もだいぶ上がっちゃった」
「それはよかったです!」
へへ、へへへ、俺のアイデアでリズ先輩がさらに強化されていく……原作が崩壊する音がするよぉおお!
たまんねぇなぁおい!
「セオ様がおかしくなってしまったのです……」
「はっはっは、ごめんねミホノちゃん! お詫びに――」
そういえば、リズ先輩には特徴的な代名詞と呼ぶべきものがある。
そもそもリズ先輩は現代火器と超特大火力が大好きだ。
しかし、魔滅場開放すると現代火器が使えなくなってしまう。
唯一「ほとんど自分の体の一部」と自認しているあの拳銃だけは使用できるものの、それでは満足しないのがリズ先輩。
加えて、リズ先輩は考えた。
この世で最も火力の高い現代火器ってなんだろう、と。
結論を出し、そしてリズ先輩は――
「――アタシの全力、見せてあげるよぉ!」
「はわ?」
要するに。
「
――その日、ミホノの魔滅場が展開された空間に。
でかいでかいキノコ雲が、出現した。
「はわーーーーっ!?」
「お、おお……おおおお……」
ミホノの魔滅場が揺れる。
立っていることすらおぼつかない状況で、不壊の盾で何とか自分たちの身を守りつつ、俺は打ち震えていた。
なぜなら――
「せ、セオ様……泣いてるです?」
「ああ……本物だ……本物の滅核だ……ああ……」
俺は、感動にむせび泣いていたのだ。
いやだって、『魔祓師フウマ』におけるもっとも代表的な必殺技の一つなんだよ、滅核って。
初めて使用された魔滅場開放で、それまで苦戦していた敵を一方的にボコって、更にその〆に滅核を使うシーンは原作において特に人気が高い。
かくいう俺も、滅核は本当に大好きな技の一つなので、こうして実際にそれを目の当たりにして感極まってしまった。
いやぁ、すごかった……大迫力……
「余計おかしくなっちゃったですけど!?」
「おかしくなっちゃったって言うのはいいんだ……」
「もともとセオ様はおかしいですので……いへへ」
「そっか……」
はっ、俺が感動で震えている間に、なにか失礼なことを言われているきがする……
気を取り直して、俺はリズ先輩に問いかけた。
「
笑みを浮かべて、それを指摘する。
さっきの感動はなんだったのか、と一瞬リズ先輩は俺を見た。
それはそれ、これはこれ、ですよ。
「ん、ああそうだね。ただちょっと問題があってさぁ」
「実戦的じゃないんですよね? チャージに時間がかかりすぎる、とかで」
「お、よくわかったね。ほら、アレだよ。ロマン砲ってやつ」
「わかります、いいですよね……ロマン砲」
これは単純な話で、滅核はほぼ溜め無しで放つ最強技なのだ。
だったら、溜めれば更に威力が上がるのは当然の成り行き。
しかしそれだと、余りにも使いにくい。
リズ先輩が溜めてる間に他が時間を稼ぐより、リズ先輩が火力を出し続けるほうが基本的には強いのである。
そこで俺は考えた。
「実は俺も、一つロマン砲を持ってるんですけど」
「おお!」
「……セオ様? さっきのアレみたいなことセオ様もできるです? いつもの
「まずこうやって、強化の概念を付与した鏡を二つ用意して……」
「セオ様!?」
俺は興奮のまま、用意した鏡の間に光弾を奔らせる。
「こうして、光弾を鏡の間を行ったり来たりすると、強化の概念が光弾に付与され続けるんです」
「おお、こりゃすごい! でも、しばらく光弾を強化し続けたら、鏡が壊れるんじゃないかい?」
「強化の概念は光弾の強化だけじゃなく、鏡の強度にも効果があるんです。まぁそれがあっても、長時間光弾を行ったり来たりさせる集中力が必要なんですが」
「セオ様! あ、これ聞こえてないです! 興奮しすぎて聞こえてないですー! セオ様ー!」
何やらミホノに引っ張られつつ、俺は光弾を操作し続けた。
やがて、その光の強さがどんどん大きくなっていって、空間全てを光が覆い始める。
「うわー、まぶし!」
「何も見えないですー! はっ、もしや今ならセオ様にあんなことやこんなこともし放題……?」
「んでこいつをぶっ放すと、さっきの滅核くらいの威力になるんですが……」
「いへへ、セオ様……いへへ……ん? 滅核くらいの威力?」
やがて、その光が限界まで輝きを帯びたところで――
「というわけで撃ってみましょう」
「滅核とぶつけ合おっか!」
「はい!」
「待ってくださいです!?」
俺に抱きついたミホノが止めるが、それよりも先に俺達は滅核と光弾をぶつけ合った。
カッ(全てが無に帰す音)。
――――
――
「――様、セオ様! 目を覚ましてください!」
「……はっ! お、俺は一体……たしか強化しまくった光弾とリズ先輩の滅核をぶつけ合わせて……その衝撃で気を失ってたのか……」
「いえ、その衝撃でトリップしてて、今正気にもどったです」
「そっか……」
こほん。
正気に戻った俺は、周囲を見渡す。
するとそこは、今もミホノの空間の内部だった。
ただなんかこう、真っ暗な空間になってしまっている。
負荷に耐えきれず、空間自体の処理が停止してしまったみたいだ。
「にしても、この状態でも空間そのものは崩壊してないの、すごいな」
「あふあふさんが頑張ったです。いへへ」
「あふあふさんかぁ……」
ご迷惑おかけします。
……と、それはそれとしてリズ先輩は無事だろうか。
光弾には「非殺傷」の概念を付与したので、死んではいないと思うんだが。
「いやー、あっはっは! セオくんはすごいねぇ! まさかあの炎鬼天生以外にもこんな切り札があるなんて!」
「……あ、アフロになってる……」
髪がアフロになって、服が焦げてボロボロになっているけど、無事だった。
そういう生態の人種なんだろうか……
「というわけで、いまのが俺のロマン砲なんですけど」
「うんうん、いやすごかった」
「――同じことを、リズ先輩の滅却でもできませんか?」
「ん? んー」
リズ先輩は考え込む。
先輩の魔祓刃は、一言で言えば対象を“強化”する能力だ。
天上天花状態では武器を強化できる、これは俺が鏡に付与した強化の概念に近いものがある。
「俺の光弾は強化の概念に触れさせることで、その威力を上げていきましたけど、先輩の場合は両手を使うんです」
「あー、両手の間でマナを行ったり来たりさせると、同じ効果が期待できるってこと?」
「そうです、あくまで仮説なんですけど」
どうだろう、行けないだろうか。
これ、前世の頃からずっと考えてたんだよな。
リズ先輩の滅核の上位技はすごいロマン砲で、成功すれば絶対に勝てるんだけど成功した回数が一回しかない代物なんだ。
漫画にすると明らかに持て余す代物なので、もれなくリズ先輩も持て余していたけど。
強化すれば、どうにかこうにかいい感じに使えないだろうか。
もはや原作は完全に木っ端微塵になっているので、これくらい強化しても文句は言われないだろう。
とはいえ、練習が必要なので今すぐに結果がでるわけじゃない。
なので俺は――他の案をリズ先輩に話すことにした。
「そうだ、リズ先輩って半人半魔ですよね?」
「お、詳しいね。ルトから聞いた?」
「そんなところです。それでなんですけど――」
それから、俺とリズ先輩はやいのやいのと案を出し合った。
リズ先輩は原作における最強キャラで、現時点でもポテンシャルの塊なのだが、だからこそもっともっと強くなってほしいのだ。
俺の知っている、超スーパーつよつよリズ先輩になってほしいいいいいいい!
というわけで、俺は持ちうる全ての案をリズ先輩に話す。
そして、前回もそうだったが、リズ先輩は俺の提案をドン引きすることなく聞いてくれる。
結果、俺は更にヒートアップし、リズ先輩もそれで盛り上がり――
「うう、どうしても必要だからって場所を貸したですけど……やっぱり貸すんじゃなかったですー!」
そんなミホノの叫びが、無に帰した魔滅場空間に響き渡るのだった。
前口上をセオの前だと言えないミホノとかたのしそうなセオの回。
準備回とも言います。
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