推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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四十七 奈留島ニイアの追憶

 アタシ、奈留島ニイアはどこにでもいる普通の女の子。

 全方位からツッコミが飛んできそうだけど、やっぱりアタシはどこにでもいる女の子なんだ。

 趣味はゲームや漫画、オタクに優しいギャルってやつね。

 ちょっと人と違うところがあるとしたら、それは魔祓師であるということ。

 魔祓師の学校であるまほろば学園で、一人前の魔祓師になるため日夜努力している。

 でもそれも、周りには同じようにまほろば学園の生徒がいれば、特別ってことではなくなってしまう。

 特待生なんて呼ばれてるけど、それも学園には何人もいるし、同期二人の破天荒さに比べたら、やっぱりアタシなんて全然だ。

 

 アタシは特別になりたいんだと思う。

 具体的なビジョンは何にもないし、未来なんて何にも思い描いてはいない。

 だけど誰でもない自分になれれば、きっと何かが変わると思うんだ。

 でもそもそも、そんなありきたりすぎる願いを何のエピソードもなしに語る時点で、特別とは程遠いってわかっちゃうんだけどね。

 

 アタシには過去がない。

 ミホノちゃんみたいに、一途に誰かを思い続けてきた事もなければ、セオくんみたいに、努力を積み上げ続けてきたわけでもないのだ。

 そもそもアタシの“過去”ってなに?

 思い返してみれば、アタシの過去ってなんだかあやふやだ。

 

 ある時アタシは、どことも知れない場所で酒呑童子になっていたことがある。

 セオくんと白面金毛の決戦の最中、一体の白面をアタシが殺したんだ。

 気がついたら酒呑童子になっていて、後からやってきたセオくんを煽っていた。

 あの時は楽しかったな、セオくんは結構驚いてたし、イタズラが成功したみたいでなんとなく嬉しかった。

 まぁ、その後はセオくんにもっと面白そうな退治の方法を聞かされたり、一人じゃ戻れないのにセオくんに置いていかれたり散々だったけど。

 

 アタシはたまにそうやって、どうしようもなくふざけたことをしたくなる時がある。

 そうなる時は本当に気まぐれで、いつもならもっとふざけてるだろうなって自分で思いながらなにもしない時だってあるくらい。

 ふざけたくなる時は、そうすることで何かが台無しになりそうな時が多い。

 今真面目な話をしてるこの人にカンチョーをしたらどうなるかな、みたいな。

 ある意味で破滅的で、どうしようもない感情だ。

 

 しかもそんな時って大抵、アタシは我を忘れて衝動的に行動してしまうことが多い。

 後々思い返してみれば、どうしてそんなことをしちゃったんだろうって頭を抱える時もあるくらいだ。

 セオくんの無茶を煽って、怖い目にあった時とかね。

 そもそも、完全に前後の記憶がない時すらある。

 その時アタシは、一体なにを思ってどんなことをしているのだろう。

 ああ記憶がないといえば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の?

 七大魔人の一角の顔なんて、見たこともなければ想像すらつかないっていうのに。

 

 それからも、時折アタシは自分がなにをしているのかわからなくなる時があった。

 気がついたらセオくんの前で見ず知らずのギャルに変身していて、セオくんにアタシだと指摘された途端、正気に戻れたこともある。

 牛鬼が襲撃してきた時もそう、アタシは件に変身する前後の記憶がない。

 件の姿も知らないんだから、当然と言えば当然なんだろう。

 あの時アタシは、一体なにを思っていたの?

 記憶が無い時のアタシは、果たしてアタシって言えるの?

 

 わからない。

 わからない。

 わからない。

 

 奈留島ニイアって、一体何?

 アタシの過去って、一体何?

 ママはいる、酒呑童子になったのを直してもらった。

 でも、話をした記憶もなければあった記憶もない。

 ママになおしてもらったっていう認識だけが残ってる。

 

 怖い。

 怖い、怖い、怖い。

 アタシは魔祓師の娘のハズ。

 だったら奈留島家っていう一族があって、魔祓師の社会に属していて、誰かがアタシの過去をしっているはず。

 ――なかった。

 そんなもの、どこにも。

 じゃあ――奈留島ニイアって、一体何?

 

 

 ――あはは、安心してよぉ、アタシもちゃんと奈留島ニイアだからさぁ。

 

 

 そんな時、アタシはふと夢を見た。

 夢の中では、アタシがアタシを見下ろしている。

 そのアタシは、普段のアタシがしないような嘲笑めいた笑みを浮かべているのだ。

 

 ――なぁに? ”この”アタシにそんな違和感あるぅ? 結構表に出てきてるつもりなんだけどなぁ。

 

 ……アンタは、一体なんなの?

 

 ――アタシはアタシだよ。奈留島ニイア。

 ――アンタが記憶を亡くしてるときに、好き勝手してるもうひとりの自分。

 

 そんなのが、アタシにいるの。

 なにそれ、信じられない。

 

 ――別に信じる必要はないよぉ。でも事実。

 ――だってアンタ自身が否定できないでしょぉ? アタシが奈留島ニイアだって。

 

 アタシは……答えられなかった。

 

 ――当然だよねぇ、アンタはアタシのために”創られた”んだから。

 

 アンタのために……創られた?

 

 ――アハハ、今は理解できなくてもいいよぉ。いずれ理解できるときがくるからね☆

 ――それに、今重要なのはそこじゃない。

 

 じゃあ、一体なにが重要だっていうのさ。

 

 

 ――アンタ、百鬼セオが好きでしょ。

 

 

 …………………………………………は?

 

 ――アハハ! そんな解ってない()()しなくていいからさぁ!

 ――牛鬼の時から、ずっと気になってるんでしょ?

 ――自分のことを「見てくれるかもしれない」人として、さぁ。

 

 アタシは……それを、否定できなかった。

 だって、仕方ないじゃん!

 牛鬼とセオくんが戦っている時、セオくんは牛鬼だけを見ていた。

 牛鬼のために対策を取って、牛鬼の過去を指摘して。

 世界でセオくんだけが、牛鬼の全てを見通していたんだ。

 

 衝撃だった。

 七大魔人を討伐したことのあるセオくんにとって、牛鬼は言ってしまえば格下のはず。

 白面金毛を倒した手段で、そのまま倒せば良いんじゃないの?

 温存のためだとセオくんは言ったけど、温存のためだけにあんなヘンテコ対策二つも用意するのはおかしいよ。

 

 だから、セオくんは何時だって全力なんだと、アタシは知った。

 本気で相手のことを「見て」いるのだと、アタシは知った。

 あまりにも衝撃的すぎて、気付けばセオくんのことを目で追うようになっていたんだ。

 

 ――あははははっ! いいじゃんいいじゃん、素敵だよその感情!

 ――でもさ、解ってるよね? アタシ達が、混沌に縛られた存在だってこと。

 

 それは……

 

 ――今のアタシ達に、自由なんて無い。

 ――世界をしっちゃかめっちゃかにして、愉悦に笑う”本体”の言われるがままになるしかないの。

 

 ねぇ、そもそも本体って何?

 混沌って、何?

 

 ――あはは、そこから説明しなきゃだめなんだ。でもだめ、めんどくさいから。

 ――つまり、アタシ達には自分なんてないの。アタシ達にあるのは――――

 

 やがて、夢が終わる。

 そこで、もうひとりのアタシは――

 

 

 ――混沌という柵と、百鬼セオへの愛情だけだ。

 

 

 アタシは、そこで目を覚ます。

 

 なんとなくアタシは気分がすぐれなくて、一人で街まで遊びに出かけた。

 まほろば学園は人里離れた場所にあるけど、少し歩けば人通りの多い場所に出れる。

 魔祓師なら人払いをしつつ、身体強化をして移動すればすぐだ。

 だからアタシは、町中をぶらりと歩く。

 休日だからか人通りは多く、家族や友人同士で出歩くものを多く見かけた。

 そのほとんどが、なんでもない日常を謳歌する人々だ。

 この世界の裏側に魔祓師と魔人なんてものが存在することなどつゆ知らず。

 当たり前を当たり前だと思いながら、日々を過ごす普通の人達。

 誰だって、「何者かになりたい」と思っているだろう。

 けれど、誰もがそんな思いを抱いているから、具体性も主体性もないアタシの願いなんて簡単に人混みへ溶けてしまう。

 きっと、この中からアタシだけを見つけてくれる誰かなんて、いやしない。

 

 ――結局、アタシってなんなのかな。自分なんてものはどこにもなくて、誰も本当の”アタシ”なんて知らないのかな。

 

 そんなことをふと、思ってしまったその時だった。

 

 

「――奈留島! 悪い! 力を貸してくれ」

 

 

 そこには、彼がいた。

 私のことを名字で呼んで、少しだけ距離を感じさせるけど、どこか親しみも感じさせる彼。

 

「……セオくん?」

 

 セオくんが、人混みの中に溶けてしまいそうだったアタシの名を呼んで。

 その手を、強く、離さないよう、しっかりと掴んだ。

 

 心が、とくんと跳ねる音がした。




ニイアがどういう仕様の化身なのかの解説です。
ずっとニイアがメロついてるだけなのははい。
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