「実は街を歩いてたら、真生生物がそこらをほっつき歩いてるのを見つけてな、送還しようにもなかなか捕まらなくって困ってたんだ」
「ええー? それでアタシに助けを求めたの? 他の人でもよかったんじゃなーい?」
「残念ながら、近くには本当に奈留島しかいなかったんだよ」
今日は日曜。
もう少し探せば、他のまほろば学園生をこの辺りで見つけることもできるかも知れない。
ただ、知り合いは完全に全滅だ。
ミホノは海外で銃火器を見てくると言ったまま昨日から連絡が取れていない。
兄様とリズ先輩は遠征で遠くまで出かけていて、シュリ先輩もセオタード仮面様の集いに出かけると言っていた。
兄様とリズ先輩以外はなにそれって理由なんだが、とにかく土日は学園にいない。
そして知り合い以外のまほろば学園生は――なんか、全員奈留島が変身してそうなんだよな。
「まぁでも、奈留島が居てくれて良かったよ。奈留島の能力は真生生物探しに向いてるからな」
「そーお? っていうかそれなら具現化で探知用の魔祓具を作っても良かったんじゃない?」
「もちろん作ったよ、それで数匹は捕まえたけど、数が多いんだ」
「あ、じゃあじゃあ色んな場所にいるわけだー。一人じゃ手が足りないってことね♪」
「そうそう」
というわけで、俺達は早速その真生生物を探すことにした。
探す真生生物は、リスみたいな感じで小さくてすばしっこい。
これがまた、探すのが大変なんだ。
「んー、でもタダで探すのはぁ、ちょっとニイアの主義に反するかなー?」
「なんか奢るか?」
「奢ってもらうのもいいけど、真生生物を探すには色んな場所を歩き回らないとでしょ?」
言いながら、奈留島は数歩先を歩いてから振り返る。
人混みの中で、俺だけをまっすぐ見据えながら。
「アタシと――色んな場所を回りながら探してよ」
「……デート、ってわけにはいかないぞ。俺にはミホノがいるんだから」
「あはは、わかってるってー。でも、一緒にお買い物くらいならしてくれるでしょ」
「ミホノに殺されないなら、いいぞ」
「物騒すぎない? まぁ、それでも行くんですけど」
言いながら、今度は俺の方によってきて、俺の手を取ると――
「行こっか」
奈留島は、満面の笑みでそう言った。
それはたとえば、ミホノをからかうだとか、俺をからかうだとか。
そんな普段であれば感じるはずの意図を、一切感じさせない笑みだった。
+
「やっぱさ、こういうときの定番ってゲーセンだと思う」
「まぁ、俺も奈留島も趣味はある程度共通してるし、無難だよな」
言いながら、二人でゲーセンの中を歩く。
そこには色んな人が居て、俺達みたいに男女で遊んでいるものもいれば、同性同士で遊んでいる者もいる。
一人で遊んでいる奴も、そこそこ。
全体的に、同年代の学生が多い。
「そういえばこういうところって、普通の学校だと子どもだけじゃ入っちゃだめって言われるんだっけ?」
「あーまぁそうだなぁ。まほろば学園だとそういうのないけどさ」
「うちは色々と放任だよね」
「疎いだけだろ、現代のあれこれに」
言いながら、二人で音ゲーをプレイする。
UFOキャッチャー、音ゲー、定番のレースゲームやらなんやら。
一通り、学生がプレイするには必要なものが揃っているゲーセンだ。
「ま、その点アタシ達はぁ、多分誰も声とかかけてこないだろーね」
「そうか?」
「だってセオくん、すっごく大人っぽいしぃ? 中等部とは思えないくらいしっかりしてるしぃ?」
「ああはいはい」
「冗談で流さないでよぉ!」
それから、ぱぱっといくつかのゲームをプレイして、俺達はゲーセンを出る。
――その前に、奈留島が在る筐体を指さして、俺に告げた。
「んでさぁ、アレ、やってこうよ。――プリクラ」
「ええ……それこそ見つかったらマジでミホノに殺されるぞ」
「男女でゲーセン来たのにプリクラやらないとか、それこそお天道様に殺されちゃう!」
「また妙な表現を……」
現代の若者なのだか、古臭い考えの人なのか、よくわからない表現だ。
まぁ、奈留島らしいといえば、らしい。
「――セオくんってさ、アタシのこと、どう思ってる?」
そんな奈留島が、プリクラの筐体の中で二人になった途端、そんなことを聞いてくる。
「なんというか、心は許してないよね? こうして二人で遊ぶくらいなら付き合ってくれるけど、大事なことにはアタシを誘ってくれない」
「それは……」
「だからこないだの件は、結構嬉しかったの。牛鬼の討伐に、アタシを加えてくれて」
俺と奈留島の関係は複雑だ。
這い寄る混沌の化身である奈留島には、化身としての側面がどうしようもなくある。
でも、普段の奈留島は今もそうだが、ごくごく普通の少女だ。
そんな奈留島に対する親しみは、間違いなくあった。
「本来ならアタシはミホノちゃんの代わりで、アタシがいなくても牛鬼は討伐できたかもしれない。――でも、あそこにアタシがいた」
「……」
「そのことが、アタシにとってはどれほど嬉しかったか」
ああ本当に、そうやって語る奈留島を、俺は敵だと思えないのに――
「ねぇ、セオくん。セオくんはアタシが他のすべてを裏切ってアタシだけを見て、って言っても、応えてくれないよね?」
奈留島ニイアは、這い寄る混沌なのだ。
そうやって笑うニイアの表情は――きっと本人は気付いていないのだろうが、喜悦に歪んでいた。
「……そうだな」
「あはは、いいよいいよ、急に変な質問だったし。何よりそこで裏切るって応えたら、それこそアタシが気に入ってるセオくんじゃなくなっちゃう」
奈留島には、二つの側面がある。
普通の少女としての奈留島ニイア。
そして――這い寄る混沌の化身としての奈留島ニイア。
果たしてどちらが本物なのだろう。
きっと、どちらもが本物で、どちらもが奈留島なのだ。
だから本人は、自分の心境を普通に吐露しているつもりのはず。
いや、実際吐露しているんだろう。
さっき奈留島に声を掛ける時、奈留島はびっくりするほど能面みたいな表情をしていた。
だから今は、抱えているものを吐き出せて少しうれしいはずだ。
ただ、その能面に這い寄る混沌の気配がありありと浮かんでいるだけで。
「――誰にも自分を譲らないのが、セオくんだもんね」
「……ああ」
だから俺は、言葉で奈留島に何かを言ってやることは、できなかった。
求められていないからだ。
けど、何もしてやらないってのは……それこそなにか違う気がする。
「このプリクラが終わったら、真生生物を探そう」
「そーだね」
「その時に、奈留島の力を貸してほしいんだ」
「わかってるって。ちゃんとお代の分は働きますよ」
「そうじゃなくって――」
プリクラが、写真を取る。
切り取られた一枚は――
「この方法は、奈留島にしかできない方法だから」
――ほんの少しの驚きを含んだ笑顔が、こちらを見ているものだった。
◯
『ねーえ?』
「なんだ?」
『アタシにしか出来ない方法とは言ったけどさ。正直、トキメイちゃったよ、言われたときは』
「ああ」
『だけどさ――』
俺達は現在、町中の裏路地にいた。
人気のない場所を選んでのことだ。
ぶっちゃけ人に認識されないよう疑似まほろば結界を展開すればそれでいいのだが、まぁ雰囲気って大事だからな。
そんな中で――
『これは無くない?』
ダウジングマシンに変身した奈留島が、俺にぶーぶーと文句を言っていた。
「安心しろ、件の時もそうだったけど、俺も奈留島の変身を解除できるようになったからさ」
『そういう問題じゃなーい!』
ダウジングマシンは、言うまでもなく真生生物を捜索するためのもの。
ドラゴンにすら変身できる奈留島が、全力で変身したダウジングマシン。
これによる真生生物の捜索は、奈留島にしかできないことだ。
ついでに、探知の概念を付与して効果を高めてある。
「んじゃ、このまま捜索を開始するぞ」
『なんか思ってたのと違うー!』
とまぁ、案の定最初は文句多めだったものの、探索は開始された。
奈留島の探知は非常に性能がいいので、ぽんぽん真生生物は発見されていく。
『あ、見つけた。そっちの街路樹の上にいる!』
「はいよ」
奈留島がガイドをしてくれるというのも、非常に助かる要因だ。
俺は勢いよく飛び上がって、街路樹の上に居たリスを見つける。
そのまま、ささっと送還を済ませて着地。
周囲には俺がおかしなことをしても「何もおかしなことはない」よう思わせている。
『これで五匹目ー、順調だねぇ』
「割とノリノリだな?」
『う……成果が出るのって楽しいんだよぉ』
途中から、奈留島も興が乗ってきたのか、いい感じにこっちをアシストしてくれる。
根本的に楽しくて成果が出ることが好きなんだろうな。
そういうところは、本当に今どきというか、なんというか。
『えーと、近くにいる真生生物はこれで最後かな?』
「後一匹か、最後は?」
『あー、学園の山』
「あそこか……まぁ、妥当だな」
学園の山、真生生物が集まりやすい土地で、以前俺達が実習に出かけた場所。
その時は白面金毛が出てきてそれどころじゃなくなってしまったが、本来ならあのリスは全部この山に集まっててもおかしくはない。
早速俺達は、山にはいることとした。
「これでこのまま学園に帰れば、ちょうどいいしな」
『だねー。あ、あっちだよ』
森の中を二人で駆ける。
といっても、奈留島はダウジングマシンと化しているのだが。
『そういえばさぁ、アタシの獣応無人って自分を変身させる魔祓刃じゃん? やっぱり魔滅場開放になれば、他人を変化させられるようになるのかな』
「どうだろうな、そこら辺は本人の精神状態に影響されるから」
ふと、そんな雑談が始まる。
奈留島の魔滅場開放か。
魔滅場は魔祓刃の発展になることが多いから、まぁ普通に考えれば他者を変化させられるようになるんだろう。
兄様もリズ先輩もそんな感じだし、原作でもそういう魔滅場が多かった。
例外は、自分以外の存在の影響を受けて魔滅場を開放させたミホノくらいだな。
『魔滅場開放ってさ、どうすれば使えるようになるの?』
「どうって、魔滅場は世界だ。確固たる自分の世界を持った上で、より高みに登りたいと思った時、自然と覚醒するものなんだよ」
ふうん、と奈留島が気のない返事をする。
『アタシには、まだ無理そうだなぁ』
「どうかな、実力的には問題ないと思うし、きっかけ一つかもしれん」
『えー、適当言ってない?』
実力に関しては、適当は言ってないつもりだ。
きっかけに関しては……どうだろうな。
とか、話をしていると、そろそろ奈留島の探知した真生生物の近くにたどり着く。
『ん、セオくん。アタシをもとに戻してもらって良い?』
「どうしてまた」
『最後くらいさぁ、自分で送還やってみたいじゃん。前回の研修はセオくんが真生生物全部あつめちゃったから、できなかったんだよ、アタシ』
ああ、あの時は盆踊りで真生生物をまとめて集めたからな。
そうこうしているうちに、最後の真生生物が視界にはいる。
奈留島がこんなことを言い出したのも、この真生生物を察知したからだろう。
「よーし、待てぇ!」
「あ、あんまり騒がしく近づくと逃げられるぞ!」
「先に言ってよぉ!」
そして奈留島は真生生物を逃がした。
ここまで追い詰めておいて……
その後、改めて真生生物を捕獲。
二人で送還を行う。
「達者でねー」
「……終わったな」
「だね」
帰っていく真生生物に、奈留島は手を振って笑みを浮かべていた。
「あー、楽しかったなぁ」
「二人で遊んで、真生生物を追いかけて……まあ、休日のスケジュールとしては充実してた、か?」
「だね、なにかできたって感じがして……アタシは楽しい」
何者かになりたい奈留島。
それって、きっと特別ってことじゃないと思うんだよな。
「何かをした」と自分で思えることが、大事なのだろう。
無為に休日が過ぎていく感覚は、どうしたって焦燥を覚えるものだ。
だからこそ、奈留島はこう零すわけだ。
「アタシ――こんな毎日が、ずっと続けばいいと思うんだ」
だけど、ああ、それは――
まるで、そんな退屈な日常は許されないと言わんばかりに、山に何者かが侵入する警報が鳴り響く。
「侵入者!?」
また白面金毛の時みたいなことが起こるのかよ、と俺は慌てて周囲を確認する。
すると、一番の変化にすぐ気がついた。
「――奈留島?」
奈留島ニイアが、どこにもいない。
ほらきた!