俺は即座に状況把握に努める。
現状は明らかに敵の襲撃が発生しており、さっきまで展開されていなかった擬似まほろば結界がいつの間にか展開されている。
魔人たちは別に世界を滅ぼしたい連中ではないので、自分たちから襲撃を仕掛ける時は隠密行動でない限り結界を張ってから襲撃を仕掛ける。
その方が自分達もやりやすいからな。
んで、当然のように俺の周囲には、
「下級と中級がわらわらと、しかもどれも人に戻れないところまで堕ちてやがる!」
即座にセオタード仮面の装備を展開。
迫り来る魔人の群れを迎撃する。
相手は良くて中級程度の雑魚ばかり、セオタード仮面であれば屠るのは容易い。
とはいえ、奈留島と分断されてしまった。
あまり一人で行動するべきではないだろう。
こういう時に一番有効な手段が、ミホノとの連絡だ。
マナを介してミホノに呼びかける、俺がまほろばの中にいても通信可能な連絡手段は、しかし。
「ミホノと繋がらない!? くそ、対策済みか!」
まあそりゃそうだ。
俺は一度この方法を件のガス抜きで使っているんだから。
一体どこの誰がそれに気付いたかは知らないが、気付かれたら対策を取られても文句は言えない。
基本的に、相手の意表を突くなら常に初見殺しであるべきだ。
そしてミホノとの通信という一番確度の高い手段が封じられている以上、他の手段も完全に封じられていると考えて動く必要があるな。
一応、この後試してみるつもりではあるが。
「とにかく、今は奈留島と合流だな」
現状、俺が頼れる戦力は奈留島だけ、若干リスクはあるが奈留島の化身としての特性もなんとなく掴めてきた。
力を借りる選択肢は十分アリだろう。
が、しかし。
『させんよ、小童』
その時、突如としてそいつは現れた。
猿のような、虎のような、狸のような、蛇のような。
千変万化にして奇々怪々。
「
七大魔人の一角が、突如として俺の前に現れた。
『驚かんのだな、七大魔人である我が直接ここに現れたことに』
「そうだな、すでに俺は白面金毛を討伐している。今更なにが起ころうと驚かないよ。それにこの山で七大魔人に襲われるのは、二度目だからな」
『ヌハハ! そうかそうか! 稀代の手品師は肝が据わっていると見える』
まぁそりゃ、ミホノと俺のマナ通信を妨害できる上に、鵺を現世に送り込める奴がバックにいるんだ。
それくらいのことでは、今更驚いてなんかいられない。
というか、現状の問題はそこではないだろう。
鵺が俺を『手品師』と評したことの方が問題だ。
『知っているぞ小童。貴様
「お褒めに与り光栄だな」
『だが、貴様は貴様の目的を達するためには他者の力を借りるか、それ相応の代価を払わねばならぬ。特に後者は、戦の中ではあまりに重い代価だろう』
一体誰に聞いたんだか。
俺が基本的に色々な工夫や他者の手を借りて魔人を屠っていることをよく理解している。
そしてそれが無理なら『切り札』を切ることも。
ただしその切り札を切ったが最後、一週間の昏睡という重い代価を支払わなくてはいけないことを。
『だがここには貴様に手を貸す仲間はいない。駆けつけることも不可能だ。ならば切り札を切るか? 選択肢はそれしかあるまい。しかし教えてやろう、それは無意味だと』
「……」
『故に貴様の未来は決した。誰からの助けも得られず、ここで我になぶり殺されるがいい!』
鵺がマナを放出する。
莫大な量のマナ、これを俺一人で倒すことは基本的に不可能だ。
助けは期待できない。
しかし。
「なあ鵺、一つ勘違いをしているな」
『ほう、なんだ?』
俺は、手にする刀に力を込める。
呼吸を一度だけ整えて、
「
鵺に向かって切り掛かった!
『は……』
鵺は一瞬だけ、驚愕に満ちた顔をする。
しかし、直後に――
『……だから、どうしたぁ!』
その表情に脂汗をにじませながらも、笑みに切り替えた。
さすがにそこは七大魔人といったところ。
俺の一撃も、軽々と受け止めて反撃を繰り出してくる。
『我は”千変万化”の鵺なるぞ!』
そう叫ぶ鵺の体から、鬼の左手と猿の右手が体を突き破るように現れ、その手に持っている剣が俺の刀を受け止めている。
膂力は圧倒的に、向こうが上。
鍔迫り合いに持ち込むことすら出来ず、俺は弾き飛ばされる。
――千変万化。
鵺の魔装の名だ。
その効果は非常に単純。
自身の身体を任意のものに変化させることができる。
変化させるものは生物のものにとどまらず、先のように武器すら生み出すことが可能だ。
「具現化! 光弾!」
俺は鵺の反撃が来るよりも早く、具現化であるものを生み出してから光弾を放つ。
放たれた光弾は、回避するまでもなく鵺の後方へと駆け抜けていく。
これの狙いは、鵺に光弾を警戒させること――
『……! 跳弾か!』
俺は具現化で生み出した鏡で、光弾を跳ね返したのだ。
鵺は俺の見当違いな光弾に”何かある”と判断し足を止め、跳ね返ってきた光弾もきっちり回避する。
その間に俺は鵺に最接近し、切りかかっていく。
『ヌハハ! 狙いが在るとしても、この程度のスペックではなぁ!』
しかしそれも軽く防がれ、鵺は反撃に更に腕を生やして俺を殴りつけようとしてくる。
だがそこに――
『――ッ! また跳弾だと!』
光弾が鵺を掠める。
ギリギリで避けたことで、ダメージはないものの鵺の手が止まる。
更に光弾は俺と鵺のちょうど真ん中くらいの場所に落ちてきて、俺は更にそこへ具現化で鏡を生み出す。
『なるほど、跳ね返した光弾を更に跳ね返し続けているのか!』
跳弾は、俺の狙った場所に光弾が飛ばないという結果を生む。
無論、鵺を狙う以上はある程度の指向性は持たせるものの、それ以上は基本ランダム。
故に光弾の軌道は非常に不規則で読みにくい。
これで、鵺の行動を阻害し、上級魔人程度のスペックしか持たない俺でも
しかも――
『――速度が加速し続けている!』
この光弾を跳ね飛ばす鏡には強化の概念が付与されている。
強化のあわせ鏡による強化光弾はロマン技の域を得ないが、こういう使い方をすれば実戦に投入が可能だ。
その間に俺の剣戟も混ぜて、鵺を足止めしつつ鵺を撃破できる状態まで光弾を強化していく――!
『…………ヌハハ!』
しかし、鵺は不敵に笑みを浮かべる。
『この千変万化の手数を舐めてくれるなよ!』
途端。
鵺のありとあらゆる場所から、様々な妖鬼の腕が生えてくる。
鬼、狐、狸、牛、猿、その種類はあまりに様々で、雑多。
その全てに、光弾を弾くべく剣が握られ――
『そら!』
「……くっ!」
一部の剣は、宙を浮いた。
宙に浮いた剣は、俺の方へと襲いかかってくる。
切りかかってくる俺の迎撃に、こいつらを使おうというのだろう。
故に俺は、光弾の着弾地点を鵺から自身の側に切り替える。
これによって、迫りくる鵺の剣を光弾が打ち砕く形で迎撃できるのだ。
とはいえ
『ヌハハハ! どうしたどうした! 大口を叩く割には防戦一方になってきたぞ!』
その間にも、鵺は更に手数を増やしていく。
もはやその体は得体のしれない腕の怪物と化しており、無数の剣が俺を切り刻むべく振り下ろされている。
宙を飛び、四方八方から剣は迫ってくるのだ。
これを、俺は自身の刀と飛び回る光弾だけで弾いていく。
この状況をひっくり返すなら、やはり光弾を鵺にぶつけるしか無い。
「なら、お望み通り反撃してやる……よ!」
強化は十分、この鵺ならば今の光弾でも撃ち抜けるはず、だが――
『ふん! この程度、
鵺は生やした腕を一本、突っ込んでくる光弾にぶつけて無理矢理に光弾の方向を反らす。
光弾はもはや腕を余裕で貫通する威力があるが、こうすれば本体が回避することは可能だ。
「無茶をするな! もはや無視できる痛みじゃないだろうに!」
『ぐ、おお! この程度で我をどうこうできると思うな……いった! これいった! おい流石にやり過ぎだろこの威力!』
「だから言ったのに!」
俺の光弾は、既にこの鵺を屠る威力がある。
リズ先輩の滅核に、そろそろ届こうかという威力なのだ。
それを腕で受け流してたら、そりゃ痛いに決まってるだろ!
けど、鵺は構わず腕で反らし続けている。
「いい加減にしておけよ! もう耐えるのも精一杯だろう!」
『ふん! ぬは、は! この! 程度ぉ! 我は! 七大! 魔人なるぞぉ!』
痛みを堪えながら、それでも俺を穿とうとする鵺。
剣を、腕を伸ばして、しかしそれらを俺は自身の刀で弾いていく。
光弾の痛みに、鵺が限界を迎えている。
もうコレ以上、ここで鵺と争っている暇は無いだろう。
何せ――
「――お前自身は七大魔人でも、今のお前はその
この鵺は本体ではないのだから。
鵺には自身を自在に変化させる千変万化がある、それによって分身を生み出すこともできるのだ。
そもそも、本体であれば俺は躊躇うことなく炎鬼天生を切っている。
俺はこれ以上ここで分身の鵺を相手するつもりはない。
「だから――これで終いだ」
『ふん、この程度で終わるものか! 我はどれだけの威力であろうと耐えてみせるぞ! 七大魔人の矜持に賭け――――』
直後、光弾が分裂した。
『…………』
「……」
『…………無茶を言うなぁ!』
そう叫んだ直後、俺が分裂させた複数の光弾によって鵺は串刺しにされた。
「……ふう」
――俺は消滅した鵺が、完全に消えたことを確認してから一つ息を零す。
とにかくこれで、鵺の分身は排除できた。
問題はこの後、鵺があそこまで粘ったのは時間稼ぎが理由ではないかと睨んでいる。
であれば、今の狙いはおそらく俺ではなく――
「あらぁ、いくら分身とはいえこんな簡単に負けちゃうなんて、鵺って本当に情けないですねぇ」
その時だった。
俺は、
突如として、
後方から吹き上がった、
力の、気配に。
ただ、立ち尽くすことしか出来ない。
「あらあら、あらあらあら、随分と緊張してらっしゃいますねぇ、セオさん。
そして、そこに、”それ”はいた。
ゆっくりと、そいつの方へと俺は振り返る。
異様なまでの力の奔流、これまで相対してきたどんな魔人すらも足元にも及ばないような存在感。
アレは――拙い。
「自己紹介は必要ですかぁ? 必要ないですよね、いつも
この瞳で、覗き見たから知っていた。
神格とは、本来であれば相対することすら馬鹿らしい、絶対の存在なのだ。
ただ見て、触れるだけで俺が魔人すら討伐できてしまうというのに。
「でも、一応名乗っておきますね。奈留島アルラ――這い寄る混沌と言ったほうが、セオさんには通りがいいですかぁ?」
本体とは、これほどまでに強大なのか、と。
俺は、思わずにはいられなかった。
鵺たそかわうそ…