推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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五十一 正しく書き換えてあげます♪

 炎鬼天生を解放し、本物の鵺と渡り合う。

 這い寄る混沌は、一度鵺を踏み潰したとかほざいていたが、再生させた鵺は俺の知る七大魔人の鵺と変わらない実力をしていた。

 ゆえにこそ、強大であることに代わりはない。

 

『ヌハハハ! どうしたどうした、防戦一方か!』

「……はあ!」

 

 迫りくる無数の手数。

 千にも及ぶ手足と剣、それらを炎をまとわせた刀で薙ぎ払っていく。

 一振りで数十という数の手と剣が吹き飛びながら、敵の手数は到底減っているようには思えない。

 

『どうだ、どうだこの無数の手数! 我が本領の前にひれ伏すが良い!』

「白面金毛を倒した身から言わせてもらうが……」

 

 その攻防を、かれこれ俺は数分続けていた。

 向こうが焦れるのを待っていたが、流石に酒呑童子とぬらりひょんのパワハラを耐え抜く忍耐を揺るがすことは出来ないか。

 だから、やり方を変える。

 

「――お前、白面金毛と同タイプの能力なのに、芸がなさすぎないか?」

『貴様ァ!』

 

 よし、成功した。

 これは原作を読んだ時から感じていたことだが、鵺と白面金毛は能力が近しい。

 自由自在に肉体を変化させられる鵺と、数多の技を操る白面金毛。

 しかし、圧倒的に戦い方が多彩なのは白面金毛の方だ。

 対する鵺は、原作においてもこの手足と剣をぶんぶん振り回す戦い方しかしていない。

 やろうと思えば白面金毛のように、多種多様な能力を開発できただろうに。

 

「もったいない、と言っているんだよ」

『我と奴では積み上げてきたものが違う。奴は弱者から成り上がったが、我は始まりより完成されているのだ!』

 

 怒りで若干攻撃の精度が落ちたことで、俺は攻勢に転じる。

 しかし、それでも鵺が厄介なことに代わりはない。

 鵺がこの戦い方しかしないのは、これが鵺にとってもっとも強い戦い方だからだ。

 

『隙ありぃ!』

 

 少しずつ前に出ながら、俺は鵺を圧していく。

 剣に込めるマナを増やし、一度に屠る手足の数を増やすのだ。

 しかし、その攻勢による隙を見逃さず、鵺は反撃に打って出る。

 こちらの攻撃の一瞬の隙間を、小型のナイフが駆け抜けた。

 それだけではない、俺が前に出たことで狙いやすくなった奈留島をこいつは狙うつもりだ。

 

「わざと見せてるんだ……よっ!」

 

 だからこそ俺は、迫りくる鵺のナイフや、奈留島を狙う攻撃を焔で焼き払う。

 突然の遠距離攻撃、普通であればそのままナイフは焔に焼き払われてしまうはずだ。

 実際、それを見て鵺は奈留島への攻撃を諦めている。

 しかし、

 

『それが、どうしたァ!』

 

 ナイフはまるで焔が放たれるのを最初から解っていたかのように軌道を変え、俺の頬を掠めた。

 ――鵺の厄介な点は、これだけの手数を全て精密に操っていること。

 俺が雑に薙ぎ払っている手足や剣は、鵺が一つ一つ狙いをつけて操作している攻撃だ。

 現に、今こうしてナイフの精密すぎる動作を難なくこなしながら、四方八方から俺を攻撃している。

 何より、このナイフは俺の頬を掠めることができるのだ。

 現在の俺は炎鬼天生によって、極限まで強化されている。

 だというのに、その頬に傷をつけられるということは――鵺は俺を殺すに十分な火力を持っている。

 それを千も操れれば、鵺にとってはそれで全てが事足りてしまうのだ。

 

『これぞ我が千変万化の真髄よ! 貴様がどれほど強大であろうと、数の前にはまさしく無力! 分身は痛みに耐えきれず敗れたようだが、我はそも痛みなど感じない!』

「そのように変化しているから、か」

『しかり。故にこのまま、貴様を嬲り殺すまで我は戦うぞ。その傷を、これから無数に刻んでくれる!』

「なら――」

 

 鵺は強大だ。

 腐っても七大魔人。

 その中でも、体を九つにワケた後の白面金毛と並ぶか、上回る実力は伊達ではない。

 だからこそ――

 

 

「それは意味のない仮定だな」

 

 

 俺は、頬に浮かんだ傷を灼き尽くす。

 最初からなかったことにするかのように。

 

『は――』

「それなら俺が逆に言ってやる。これからお前を倒すまで、お前から受けた傷を全て燃やし尽くしてなかったことにしてやるぞ」

 

 鵺は、一瞬だけ驚愕に顔を染めながら――

 

『知ったことかぁ!』

 

 再び剣を向けてくる。

 俺はそれを、同じく刃を構えて迎え撃つのだった。

 

 

 +

 

 

 ――百鬼セオが、鵺と互角に戦っている。

 否、互角どころじゃない。

 ()()だ。

 はっきり言おう、セオが鵺を圧倒していた。

 それをただ、ニイアは呆然と見ている。

 

「あれ、が……セオくん」

 

 生ける炎、と言っていた。

 ニイアには、それがなにかわからない。

 けれども、本能が言っている。

 アレは敵だ、と。

 だとしても、ニイアの瞳にはセオしか映らない。

 高鳴りと、興奮と、そして助けてくれたことへの感謝が、ニイアの心を疼かせる。

 ずっとずっと、今のセオを見ていたい。

 あの姿を、その目に焼き付けたい――

 

 

「――そんなこと、許されるわけないじゃないですかぁ、()()()()☆」

 

 

 直後、そんな声が聞こえたかと思えば、ニイアは――

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ、え……? マ、マ……?」

「はぁーい、久しぶりですねぇニイア。貴方のママですよぉ」

 

 アルラの腕は、まるで異空間に飲み込まれるかのように消えていた。

 直接生身の体を突き破ったわけではない、ニイアの体に異空間から干渉しているような状態だ。

 

「奈留島!」

 

 その状況に、セオが素早く反応する。

 即座にニイアの元へ割って入ろうとするが――

 

「はぁーい、こんにちわセオさん。でも、邪魔はいけませんよぉ。――鵺、()()()()()()()

()()()()()!』

「く、この……!」

 

 突如として鵺が勢いを取り戻し、セオを釘付けにした。

 まるで、アルラから力の供給を受けているかのようだ。

 

「さぁてぇ、愚かな愚かな私の娘。どうして私がこんなことをしているか、解ってますかぁ?」

「なん、で……」

「わっからないですよねぇ。理解できないように、私は貴方に知識を与えていませんからぁ♡」

 

 アルラはニイアを嘲笑するように言葉を重ねながら、ニイアの中を弄くり回していく。

 それにニイアは、得も知れぬ悍ましさを感じた。

 まるで、自分という存在が組み替えられて行くかのような――

 

「や、め……」

「だめですよぉ、だって間違っているのは貴方なんですから。私はそれを正して上げているに過ぎません」

 

 ニタニタと、アルラは厭らしい笑みを浮かべる。

 その感情は、明らかにニイアを愚弄していた。

 娘と呼んでいる存在を、愚かであるとしか思っていなかったのだ。

 

「よりにもよって、生ける炎の力を借りる存在に惚れるなんて、間違っています。禁断の関係? 自分を見つけてくれる相手にも特別であってほしい? バカバカしい。貴方の存在価値は、這い寄る混沌(わたし)を楽しませることしかありませぇん♪」

 

 ニイアの中で何かが、書き換わっていく。

 それは例えば、思い出であったり、感情であったり――恋心であったり。

 

「だから、私がより正しい方向に貴方を書き換えてあげることにしました。今、こうして貴方の核を組み替えているのがわかりますかぁ? 貴方は生まれ変わるんですよぉ」

「や、だ……けさ、ないで――」

「だぁめです♪ 貴方の正しい在り方を教えてあげます。それは――あの生ける炎を宿した男に、()()()()こと」

 

 セオの方に、アルラは視線を向ける。

 なんとかこちらに向かおうとしながらも、アルラの改変でより強くなっていく鵺に釘付けにされていた。

 

「世界と彼の大切な人を殺して、そして彼と殺し合うんです。素敵じゃないですかぁ? あ、恋心なんて要らないので消しちゃいますけど、最後には戻してあげますよ。その方が素敵な悲劇になりますものね」

「やめ、て……これは、アタシの……恋心、なの……」

「……はぁ? そもそも、彼には婚約者がいるんですよぉ。貴方の恋心なんて、所詮横恋慕の二番煎じじゃないですかぁ」

 

 最初に変化が起きたのは、衣服だった。

 まほろば学園の制服が――まるでニイアの居場所を奪うかのように――黒く染まったドレスへと変化する。

 

「せめて、もっと別の方法で感情を発露させればいいのに。ただの恋心なんてつまらなすぎますよぉ」

 

 次に起きた変化は、瞳だ。

 片方の瞳が――漆黒の、黒く、黎い何かへと変わっていく。

 ただ、闇が深く在るだけのそれ。

 

「さぁ、仕上げと参りましょう。ほら、まずはあの男を――全力で後ろからグサッと刺してあげてください♪」

 

 アルラは、腕を引き抜いた。

 ニイアは、その場に崩れ落ちる。

 汚いものに触れたかのように、何度か手を振って、ニコニコとニイアを見下ろす。

 そして、ニイアは――

 

 

「――――()()()! ()()()()

 

 

 その時、誰かがニイアの名を呼んだ。

 世界でただ一人、ニイアだけが持っている、ニイアの名前を。

 百鬼セオが、呼んでいた。




ピンチの状態で次回に続かないタイプの作風です。
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