そもそも、ミホノはいつの間に魔滅場開放を使えるようになったのか。
それは、俺とミホノがまほろば学園に入学する少し前のことだ。
サトリを討伐し、その後処理もまぁまぁぼちぼち終わって、そろそろ入学の準備を始めないとなあと動き出していた頃のこと。
ちょうど、冬の気配が部屋を色濃く覆っている時期だった。
「夜分遅くに失礼するでーす」
「うお、本当に夜分遅くだな、どうしたんだミホノ」
ミホノが突如として、俺の部屋にやってきたのだ。
古式ゆかしい日本家屋の和室で、今日もそろそろ魔祓刃の特訓を終えて眠ろうかと準備している時でさる。
「セオ様のパジャマ姿……セオ様のパジャマ姿……いへいへ」
「興奮するだけなら自分の部屋に帰ってやるんだぞ」
「あうん、酷いのです。今日はちょっとご相談があって来たのです」
興奮した様子で俺に擦りついてくるミホノを引っ剥がしつつ、相談とやらを聞くことにする。
ミホノと二人で布団の上に座り込んだ。
「実は――最近、あふあふさんが夢に出るのです」
「あふあふさん?」
「はい、あふあふさんなのです」
ええと、あふあふさん、というのはなにかの生物なのだろうか。
ひとまずそのあふあふさんが何者なのか、問いかけてみることにする。
「あふあふさんは、北極にいるのです。ひえひえなのです」
「北極? で、氷に関係している?」
「はいです」
うーん、なんかそういう魔人なんだろうか。
この時期に海外の魔人が攻撃してくるなんて原作、俺は知らないぞ。
やっぱり、俺の知らない原作が襲いかかろうとしている……?
「なんでそれが、ミホノに接触してくるんだよ」
「ミホノが
「その言い方はなんか照れるな……ん? つまり、ミホノが俺に関係あるからそいつは接触してきたのか」
「ですです」
ええと、北極に居て、氷に関係していて――俺とつながりがある。
んで、あふ……あふ――――まさか。
「……
凍れる炎。
生ける炎――クトゥグアが生み出したとされる神格だ。
封印された邪神を解放する役目を持って、地球の北極に封印されている。
重要な点は、この北極に封印されているという点。
ようするに、この『魔祓師フウマ』の世界にクトゥルフの神格がいるなら、北極に
「その神格と、ミホノは接触したのか!?」
「多分そうでーす」
「ゆるいなぁ……何か体に変化とかはなかったか? 変なものが見えるようになったりしてないか?」
「いへへ、もう見えてるので大丈夫です!」
それは本当に大丈夫かなぁ!
「そもそも、あふあふさんはミホノのお友達なのです、酷いことはしたりしないのです」
「お友達? どんなこと話してるんだ?」
「セオ様いいよね……いい……なのです。いへへ」
プロは多くは語らない……!
え、つまり何か? あふあふさんは俺のファン……?
詳しく聞いてみると、どうやら凍れる炎は生ける炎が大好きらしい。
そんな凍れる炎にとって、生ける炎の力をその身に宿す俺はまさにファン垂涎の存在なのだとか。
ミホノにとっても、俺は大好きで仕方がない存在、意気投合した二人は夜な夜な俺談義で盛り上がっているそうだ。
じゃあ……二人はそれでいいんじゃないかな……
と思っていると、どうやら本題はそこではないらしい。
「そしてなんと、あふあふさんとお話してたら――魔滅場開放が使えるようになったのです!」
「えっ」
「その名も……招来空間・氷鬼阿封! ぱちぱちー」
「魔滅場開放って、そんな気軽に使えていいものだったかなぁ!?」
原作では、覚醒するまでに一悶着も二悶着もあった気がするんだが。
気軽に使えたのはそれこそ兄様と楠木リズくらい。
もし本当にミホノが魔滅場開放を使えるなら、今のミホノのポテンシャルはその二人に並ぶということになる。
……まぁ、並びそうだなぁ、今のミホノなら。
「しかも、あふあふさんが力を貸してくれて、ミホノの魔滅場、とってもスペシャルになったのです! いへへん!」
「おお……どういうところがスペシャルなんだ?」
「あふあふさんが、覗き見を防止してくれるです。あふあふさんくらいすごい奴がいても、侵入もできなくなるです」
ええと、それは例えば――
「……例えば、這い寄る混沌とかがミホノの魔滅場に干渉しようとしても、できない?」
「いへへ、多分、そうです!」
「そいつは……すごいな」
なるほど、それは使えるな――とはいえ今すぐに這い寄る混沌が介入してくるかどうかについては、何とも言えないけど。
ちなみに、干渉を防ぐ以上のことは残念ながらできないらしい。
いくらミホノが普通じゃなくなってても、神格の力をその身に宿したら自壊してしまうとのこと。
生ける炎の力を借りれるのは、残念ながら俺だけなのだ。
……なんてことを知って以来、俺は他の誰かに見られたくない一番大事な実験はミホノの魔滅場内部でやるようにしていた。
光弾を強化しまくるロマン砲を、奈留島アルラが見抜けなかったのもこれが原因だ。
その度にミホノの魔滅場をめちゃくちゃにして、あふあふさんに「それでこそ生ける炎様の力をその身に宿した方です」とか称賛されたけど。
まぁ、要するに、色々とミホノの魔滅場にはお世話になっているということだ。
そして今回も、生ける炎の力で寝込んでいる俺を回収してもらって、一週間安全に経過させてくれたのはあふあふさんあってのこと。
ミホノとあふあふさんには、感謝しないとな。
ちなみに、あふあふさんは体の大事な部分を氷で隠している感じの全長数十メートルの巨女である。
+
「ん、ここは――」
俺は、ぱちぱちと燃える暖炉の音で目を覚ます。
そこは、なんとなく真冬のコテージといった感じの部屋だった。
レンガの暖炉では木が燃えていて、ほんのりと室内は温かい。
どことなくシックな内装に視線を向けていると、ミホノが部屋の片隅で読書をしているのを見つけた。
「ミホ、ノ……」
「あ、セオ様、やーっと起きたです。いへへー」
ぱたん、と本に栞を挟んで閉じると、それをテーブルにおいてミホノがこちらに寄ってくる。
どうでもいいけど、あの本任侠モノの小説だよな……ミホノが精一杯雰囲気だそうとしつつ、内容は趣味に走っているのが見て取れるぞ。
「お加減はどうですか? まだあちあちですか?」
「ん、や……今回はただ反動で倒れただけだからな、特に異常はないよ」
「反動で倒れたのを、”ただ倒れた”と表現しないでほしいのです」
「それは……すまん」
いやほんとに、そればっかりは完全に俺が悪いです。
無茶するなと言われても、やらないと大変なことになるからやるしか無い。
今回も奈留島アルラは排除できたけど、残念ながらニイアが暴走してしまった。
鵺だって、アレで死んだとは到底思えない。
「あのあと、みんなはどうなった?」
「変化はなっしーんなのです。時折バカニイアがミホノのあふーくーかんに干渉しようとしてたのはあふあふさんから聞いたです」
「なんかこう……ソシャゲのメンテが明けないかなって凸ってるみたいな感じだな」
「おバカなのです。いへへ」
ムリだってわかってるだろうに……ともあれ、どうやらニイアは宣言通り俺以外を攻撃することはなかったみたいだ。
まぁ、今は本当に俺しか見えてないんだろうな。
「……でも、本当にどうするですか? ニイアの奴、七大魔人も比じゃないくらい強くなってるです」
「あー、それなんだがな。一応、勝算はある」
俺の言葉に「本当ですかぁ?」と猜疑的な視線を向けてくるミホノ。
対する俺は、「ある」と力強く頷いた。
「ニイア……というか、這い寄る混沌には”ルール”みたいなものが在るみたいなんだ」
「ルール……ですか?」
「そう、そのルールに従わないといけないから、こないだの戦闘で這い寄る混沌の本体は俺を攻撃できなかったみたいだ」
「むむむー、どんなルールなのです?」
「残念ながら、それはわからない」
けど、これではっきりしたこともある。
「勝算ってのは、このルールを見つけ出して、その弱点を突くことで俺達にも勝ちの目があるって話だ」
「ルールがわからないと、勝ち目がないってことですー」
「まぁ、そうなんだけどな。でも――やってみる価値はある」
俺は、意識を失う前のニイアの姿を思い出す。
本当に楽しそうに――とても愉しそうに、「俺を殺す」と笑っていた。
「これはゲームなんだよ。俺とニイアの――命を賭けた本気のゲームだ」
「うー、命は賭けないでほしいですけど、バカニイアはぶっ飛ばしたいです」
「ああ、だから――」
それは、俺がニイアにそれ以外の楽しみを教えてやれなかったからおきたことだ。
だから俺は、ニイアを止めないといけない。
「――このゲームを、勝ちに行こう」
「えいえいおーん、です! いへへ!」
さぁて、相手は今まで以上の強敵。
だけど俺は、今回だって負けるつもりはない。
ニイアに「道を探せ」と言ったのは、俺だ。
その責任は――絶対に俺が取ってやる。
というわけで、中盤戦はここまでとなります。
お付き合いいただきありがとうございました。
後半戦は、早ければ今月中にでも。
評価とか感想お待ちしてます、よろしくお願いします!