さて、目を覚ましたからには俺も色々と準備を始めないといけない。
自分がいつ昏睡状態に陥ってもいいよう、色々とやるべきことはやった……けど。
流石にニイアが覚醒して母親を取り込むのは想定外だった。
リズ先輩曰く、鵺はニイア陣営に加わったらしい。
ただでさえニイアも強いのに、これはかなりの強敵である。
なので、ここからは急いでニイア対策を進めないと。
「――それで」
「はい、何でしょう兄様」
そして、現在俺は兄様と二人で、あることをしていた。
場所はいつも通り……かどうかはわからないけど、まほろば学園の裏山。
ミホノのあふあふ空間でないのには、理由がある……が、それは後述。
「……何故俺は、こんなところで護摩行をさせられている?」
「それは……必要だからですよ」
俺と兄様は、護摩行をしていた。
火をつけてその前で精神統一をするアレだ。
時期はそろそろ夏も間近、前世の一番暑かった頃に比べたらまだ涼しいけど、護摩行をするには地獄みたいな暑さだ。
といっても、それはあくまで常人の話。
流石に俺達魔祓師の肉体は、マナがあるため早々普通の炎を暑がったりはしない。
ただし、それが普通の炎であれば、だが。
「何せコレは、
「正気か貴様!!」
「正気です!!」
護摩行の目的は、言うまでもなく修行だ。
俺達は強くならなければいけない。
ニイアは強敵だし、兄様にも兄様で、強くならなくてはいけない理由がある。
そこで俺は、生ける炎をつかって護摩行をすることを考えた。
この炎は、前に炎鬼天生を使った時に取っておいた炎だ。
普段はあふあふ空間の中に格納してある。
常人が見たら、ほぼほぼ発狂するレベルの代物だからな。
「いやそれでも、コレはないだろう……! 見ているだけで、持っていかれそうだぞ……!」
「そこを耐えるから修行になるんじゃないですか! 現状俺と兄様にとってこれ以上の修行法はないですよ!」
「ぐうううう!」
それでも何とか、俺と兄様は耐えている。
俺の場合、この炎を前にしてどれだけ耐えられるかが、そのまま炎鬼天生の効果時間とかにつながってくるから死活問題だ。
「しかし、なぜこの山を修行場に選んだ。瀬戸場ミホノの魔滅場でもよかっただろう」
「あっちは今使用中なんですよ。ニイアに見られずに使える場所はあそこだけなので」
「……楠木と瀬戸場か」
「はい。そしてこっちは、見られても問題ないですしね」
ただの修行場だからな、こっちは。
新しい技術とかを練習する場所じゃないんだ。
「奈留島ニイアといえば……貴様、あの女に告白されたのだったな」
「まぁ……そうですね。告白されてなかったら、殺されそうになってもいませんよ」
「――どう答えるつもりだ?」
「うおお!?」
「愚弟!?」
兄様が恋バナ!?
俺はその衝撃に、思わず精神を乱してしまった。
途端、内側を覆ってくる狂気。
焔が、焔が俺を見ている――!
「っと、危ない危ない!」
「うわあ普通に復帰するな!」
「落ち着いてください兄様!」
そして今度は、一瞬狂気に呑まれかけたのに、自力復帰した俺にびびって兄様が発狂しかけた。
それを何とか元に戻して、俺は兄様に答える。
「すいません、兄様が恋バナをしてくるとは思わなくて」
「恋バナというな。お前には許嫁がいるのだ、聞いて当然の話題だろう」
「まぁ、そうですね」
俺にはミホノがいる。
以前ミホノと話した時は、”まだ恋心か確定じゃない”と先延ばしにしたが――今はもう、それはできないだろう。
「……別に、貴様が奈留島ニイアを選ぶ分には俺は何も言わん。その後のことにも責任は持たんが」
「そんなこと言ったら、今度はミホノと殺し合いですよ」
多分、ニイアと同じ勢いで殺しにかかってくるんじゃなかろうか。
とはいえ、答えは最初から決まっている。
「……俺にとってはやっぱりミホノが許嫁なんです」
「どうして、瀬戸場ミホノを選ぶか、貴様……言語化できんだろう」
「そう……ですね」
ただ、兄様の言う通り、理由を言語化できてないのも確かだ。
少なくとも、流石に「前世の推しだから」が理由になるとは思えない。
いくらなんでも、それが理由にならないくらい俺はミホノと一緒にいるし、俺はミホノを後戻りできないくらい変えてしまった。
何より――
『あ、セオ様、やーっと起きたです』
なんとなく思い出されたのは、炎鬼天生の反動から目を覚ました時、ミホノが声をかけてくれた瞬間だった。
「……まぁ、ソレに関してはこれからも考えます。今は、眼の前のことをどうにかしないと」
「……そうだな」
言葉にはできなくとも、意思ははっきりしている。
だから今は、とにかく強くなることを考えるのだ。
そう思い、再び眼の前の生ける炎護摩行に集中しようとして――
「――ならば、もっともっと強くならねばならないな!」
ガバっと、兄様が立ち上がった。
「征くぞ愚弟! 炎の勢いを強めよ!」
「兄様!? あ、発狂してますね兄様!?」
原因はさっきの動揺だ。
いきなり恋バナを振ってきたのも、発狂していたことが原因だろう。
「ふはははは! 燃えろ燃えろ! 全部燃えてしまえー!」
うおおお、兄様がヤケになっているー!
もはやこれが普段のストレスが原因なのか、生ける炎を見てしまったことが原因なのか判別できない気がするのは俺だけだろうか。
いや、生ける炎が原因で普段のストレスが表に出ているんだろうけど。
どうでもいいけど、普段兄様って俺のことを愚弟とは言わないよね。
ソッチのほうが親しみを込めた言い方のはずなのに、言葉が強いからか遠慮しているのだ。
今回みたいに発狂していないと、なかなか俺の前では言ってくれない。
ミホノの前で俺を愚弟と呼んだらマジギレするから、という理由もあるんだろうが。
それはそれとして。
「愚弟、燃やすぞ愚弟!」
「兄様――!」
ふははは、と高笑いを上げる兄様に対して俺は――
「いいですね! もっと燃やしましょう!」
乗った。
全力で乗った。
だって、究極的にはその方が効率がいいし。
そろそろ今の火力だと俺は
兄様が良いと言うなら、より強い火力で燃やすしかない。
「ちなみに、どうやって火力を上げるのだ?」
「結局この炎もマナで作られているので、マナを注ぎ込めば一発です。俺だとマナ総量が足りなさすぎるので、兄様頼みます」
「いいだろう、やってやろう愚弟! ふははははは!」
そして兄様がマナを注ぎこみ、勢いよく生ける炎は燃え盛った。
天を衝き、空へと燃え上がり、俺達の妖しい笑い声が響く。
一応、外からは見えないように擬似まほろば結界を展開しているが、大丈夫だよな……? とは思うものの。
それはそれとして、俺もテンションが上がっていた。
兄様と楽しく修行ができるのが、嬉しいのかもしれない。
だってそんなこと、早々起こらないことなんだから。
「さぁさぁ兄様、じゃんじゃん燃やしちゃってください!」
「そぷづをwkfjうえーるえw-つw9-らslfいあいあ!」
「あははは! もはや人の言葉話してませんよ兄様!」
かくして、どんどんやばくなっていく兄様と、どんどんテンションがやばくなっていく俺。
二人の無茶な修行は、そこから一時間近く続くのだった。
――最終的に、一周回って正気に戻った兄様に説教されるのだが、それはまた別のお話。
というか一周回って正気になるのもそれはそれでおかしいですよ兄様!
+
一方その頃――
「はぁ……はぁ……セオくんとお兄さんの……禁断の盛りあい……! はぁ……はぁ……!」
『いやお前……それでいいのか……?』
その光景を自身の能力で観察しながらニイアは発狂し、隣で鵺が呆れた様子でそれを見ていた。
次回更新日は明後日くらいになるかも知れません