その日、俺は修行を一日休んで街に出かけていた。
俺が目覚めてから既に結構な時間が経っていて、その間ずっと修行漬けだったから流石にそろそろ休憩を取ろうと考えたのだ。
基本的に俺は修行と研究しか脳のない人間だが、休みはきちんと取るようにしている。
でないと、出てくるアイデアも出てこないからな。
他の皆も、思い思いに休日を楽しんでいるはずだ。
ミホノだけが何やら、修行とは別のことで”やること”があるからと、何かしているらしい。
ただ、残念ながらそれが何なのかは俺にも教えてもらえなかった。
そういうわけで、こういう時はたいていミホノがついてくるが、今日は一人だ。
まぁ――
「――――やべっ」
「いや……やべっ、じゃないんだが?」
うっかり町中でニイアと出くわすなんていうイベントが起きてしまった関係上、もし来ていたらそのまま決戦スタートしてたかもしれないし、良いんだけど。
「こ、こーれはご機嫌麗しゅう、セオくんったら今日もいっけめーん」
「俺はそんなにイケメンって感じじゃないとおもうが……」
まだ中一なのもあいまって、だいぶ童顔だよな、俺。
眼帯がいかついぞ。
対するニイアは、普段の制服とは違う私服ファッションだ。
如何にもギャルって感じの露出の多さ、そして形態変化で伸びた髪は据え置きらしい。
んで、そんなニイアの隣には――
「……だから言っただろう、学園の近くで活動するのはうっかり鉢合わせすることもあるのだから、やめておけ、と」
「えー、でもどうせセオくんのことだから、修行三昧で街には降りてこないと思ってたしぃ」
「だったら貴様の力で確認すればよかっただろう、それを怠るからこうなる」
「ちぇー」
背丈は高くすらっとしたスタイル、緑色の髪がまるで尾のように分厚い一本の三つ編みになり腰のあたりまで伸びている。
茶色のコートの下に、黄色の衣服。
この時期にコートは熱くないか? と思わなくもないが、本人は気にした様子もない。
何せ――こいつは、明らかに魔人なのだから。
というか、状況から考えてニイアと一緒に行動する魔人なんて、一人しか該当するやつが居ない。
つまり、こいつは――
「お前……まさか、鵺?」
「そうだが?」
――鵺だ。
女性だったのか!? と思うが、そもそも魔人は元は人間だ。
あの白面金毛だって元は人間で、おそらく人間だったころの姿に近いのが人の白面である。
鵺も身体を自由に変化させられるから、こうして人間に化けているのだろう。
魔人になる前が女性だったのか、ニイアと一緒に行動するのに都合がいいから女性の姿を取っているのか。
どちらにせよ、魔人としての鵺に性別の概念はおそらく無い。
これが酒呑童子やぬらりひょんのような、人の姿を取っている魔人なら性別も判別がつくんだがな。
というか、アレだ。
――多分、この鵺はソシャゲにプレイアブルとして実装された時の鵺だ!
鵺が女性だったという新解釈。
ありうる、『魔祓師フウマ』ならありうる!
「……さっきから難しい顔してるけど、セオくん何考えてるの?」
「我らと出くわしたことで、どうするべきか考えているのだろう。このまま行けば、ここで我らが二人がかりでこいつを殺せば戦いは終わりだ」
「え、あ、そういえばそうだな」
「こやつ……」
いや、言われてみればたしかにそうだ。
俺がここでニイアや鵺と出会ってしまったことは、大変まずい。
周囲に仲間はいないし、やってきた準備も用意がないのである。
でも、俺は一切そのことを警戒しなかった。
理由は単純に、ニイアの性格である。
なんというか真面目というか律儀というか……常識的なのだ、ニイアは。
「えー、そんなことしないよぉ。本気のセオくんに勝ってこそ意味があるんだもん」
「まぁ、それに最悪ここで戦闘になっても鵺だけは道連れにするしな」
「おい当然のように我を殺せる前提の話はやめろ」
「いや、手持ちの装備だと鵺の道連れしかできないって、判断しただけだし……」
「なお悪いわ!」
というわけで、ここでは戦わないということで話がまとまった。
そうなると、このあとことで困ってしまうのが俺達だ。
俺もニイアも、今日は完全に遊ぶつもりで街に来ている。
趣味が近しい上に、娯楽も少ないからここで見て見ぬふりをして別れても、どうせまたゲーセンとかでかち合うだろう。
であれば、いっそのこと――
「一緒に遊ぶか」
「いえーい!」
「それでいいのか、貴様ら……」
ということになった。
+
――んで、前回と同じくゲーセンに寄って、三人でガンシューをしたりした。
鵺がガンシューで遊ぶのか……とか思ったけど、なんか最終的に三人の中で一番熱中してるのは鵺だったから、わからんもんだ。
知らない原作でも似たようなやり取りがあったのかもしれない。
んで、それが終わったらちょうどいい時間ということで、一緒に昼食を食べる。
これがバレたらミホノが第三勢力になりそうだなぁ、とか益体のないことを考えつつ、適当にファミレスで食べることにした。
「こ、ここがふぁみれすとやらか……」
「鵺ってば、アタシが話したらずっとファミレスに行ってみたいってうるさいんだよ?」
「う、うるさくはしていない! 時折ふぁみれすの話題を出していただけだ!」
「一時間に一回は出してたじゃん、あはは」
なんて、これから戦う相手のほんわかエピソードが飛び出してきたり。
「ニイアは何を食べるんだ?」
「ハンバーグ、チーズインハンバーグ! あ、そうだ、ピザのシェアしようよ!」
「六等分は面倒なんだがな……」
「アタシが半分食べたげるよ!」
なんて、傲慢なニイアとやり取りをしたりしつつ。
「お、おお……こうやってふぉーく、とやらで巻き取るのだったな、このすぱげてぃ、とやらは」
「フォークの持ち方がお子様じゃん! セオくん、教えてあげなよ!」
「いや、なんで俺が……」
初めてのナポリタンスパゲティを、おっかなびっくり食べる鵺を二人で見守ったりした。
なお、鵺は案の定というべきか、服をケチャップで真っ赤にしてしまう。
――が、すぐに服そのものを”変化”させて、なかったことにしていた。
ニイアは、その様子に不満げだ。
「しかし……本当にこうして敵同士で昼食なんて取っていていいのか……? 普通に和気あいあいとしてしまった俺が言うのも何だが」
「えー、だってしょうがないじゃん。まだ決戦始まらないんだし」
「それはそうなんだけどさ」
結局三人でファミレスの料理を堪能し、ドリンクバーの飲み物を飲みながらくつろいでしまっている。
俺が烏龍茶で、鵺がメロンソーダ(なんかめちゃくちゃ眼を輝かせていた)、そしてニイアがよくわからない混ぜものである。
ドリンクバーを混ぜる子どもみたいな真似を、ニイアは敢行したのだ。
いや、中一なんだし子どもでいいのか。
俺の感覚がおかしいだけだな。
烏龍茶しか呑まなくて「もったいない」とか「おじいちゃん」とかニイアに言われるし。
「そもそもさ、いつになったらセオくんは決戦を始めるつもりなの!? こっちはずーっと待ってるんですけど!」
「……なぁ、そもそもの話」
メロンソーダの炭酸に苦戦しながらちびちびとソレを飲んでいる鵺をよそ目に、俺はふと思ったことをニイアに話す。
「――ニイアが攻めて来ない限り、こっちはずっと修行してるぞ?」
「えっ」
あ、気付いていなかったのか。
「いやそうだろ、戦力的には俺の目算だと俺達のほうが弱いんだ。準備できるならいくらでも準備するぞ、放っておいてもニイアが一般人を襲ったりしないだろうし」
「……………………………………………………………………………………」
ニイアは沈黙した。
隣で鵺が「ようやく気付いたのか」みたいな視線を送ってやる。
いや、鵺は指摘しろよ、味方だろ!?
「…………一週間後! 一週間後に百倍だから! 覚えといてよね!」
「お、おう」
そう言って、意地になったニイアは立ち上がり、伝票をひったくるとその場をあとにする。
「べー! だ!」
「またなー」
かくして、ニイアは嵐のように去っていった。
決戦は一週間後、区切りもできたことだし、そろそろ修行の纏めに入るとしようか。
「……ところで、鵺は追いかけなくていいのか?」
「めろんそーだを飲み終わっていないだろうが、バカモノ」
そう……