ニイアとの邂逅から一週間が経過。
この一週間はかなりドタバタした一週間だった。
何せそれまで期限がなかった修行にいきなり期限が発生したのだ。
といっても、期限がなかったらこのままずっとダラダラ修行してただろうから、区切りがあった方がいい面もあったけど。
何にしても残り一週間で修行のまとめを行い、俺たちは準備を終えた。
そうして、決戦の日がやってきたのだ。
場所はまほろば学園の裏山に設置された擬似まほろば結界。
俺とミホノと兄様が並び立ち、ニイアと鵺が迎え撃つ。
今まさに、戦いを前にして両者の戦意は高まっていた……!
「神討滅核ゥゥゥゥウウウウウイ!」
それを、突如として横からリズ先輩が吹っ飛ばした。
「な……!」
「へ?」
荒れ狂う擬似まほろば結界。
驚愕の声をあげたのが兄様で、状況を理解できずに間抜けな声をあげたのはニイアだ。
この場にいない時点でなんかやらかすだろうなあ、と察していた俺と、ここしばらく修行の相手をしていたミホノは動じることはない。
即座に俺が展開した不壊の概念盾で神討滅核をやり過ごした。
そんな俺とミホノの視界には、神討滅核の破壊痕がありありと刻まれていた。
それは、言うなれば天地開闢の瞬間だった。
擬似まほろば結界は、一つの小さな世界を作り出す技術だ。
それゆえに、世界そのものを破壊されると、擬似まほろば結界はまるで世界の終焉が如く空間が歪む。
視界のあちこちで空間のテクスチャが剥がれ落ち、世界の中央ではブラックホールのようなマナの捩れが生まれていた。
これがなんとか世界を再生しようと擬似まほろば結界が動くことで、一気に景色が元に戻っていく。
その光景が、世界の終焉と再生を目の当たりにしているように感じられるのだ。
「いへへ、きれいですー」
「言葉に心がこもってないぞミホノ」
「ひとはあきらめるとこころがこわれると、ミホノはしったです。いへへ」
「可哀想に……にしても本当にすごい威力だな、神討滅核」
これこそが以前話をしていたリズ先輩の浪漫技。
速射できる滅核をあえてチャージすることで威力を上げたとんでも技である。
その威力は確かで、原作だと使った戦闘で敵を倒せなかったことがないという抜群の信頼性を誇る代物だ。
ただし、チャージ時間が長すぎてまともに発動させてもらえないことが多い。
不憫なんだか優遇されてるんだか、人によっては評価が分かれる技だな。
悪路王を屠ったことのある技だから、威力は確かなんだが。
「う、うおおおおおお!? 正気か楠木イイイイイイ!」
「兄様! ご無事でしたか!」
「セオ貴様ああああ! 予測できていたなら助けろおおお!」
「それはごめんなさい!」
いつもの癖でミホノしか意識してなかったんです!
ともあれ、ボロボロになって頭がアフロになった兄様が地面を突き破って現れる。
完全にギャグ補正で生き残ってないですか兄様!?
そして手櫛で整えたら一瞬で元のイケメンに戻らないでください兄様!!
「う、うわあああああ!? 死ぬかと思ったあああああ!」
『少なくとも我は貴様が守らねば死んでいたぞ今のは!』
「えへへ、褒めてもいいのよ!」
『感謝はする!』
そしてニイアと鵺が、神討滅核の中心地から出てくる。
どうやらニイアが鵺を庇ったようだ。
その上で、
「アハハ! まさか初撃を回避じゃなくて無傷で耐えるとは、やるねえニイアちゃん!」
「セオくんが防御態勢を取ってましたからねえ、あのクソみたいな火力でも、工夫すれば防御できるとおもってやってみました。結果は正解! ニイアちゃんてんさーい!」
「おいおい、セオくんの影響じゃないか! こっちを強くするだけじゃなくて敵も強くしちゃってるよ! 罪な男だね!」
そして、ことを為したリズ先輩は空中から俺たちをすごい笑顔で見下ろしていた。
どうやって空を飛んでいるのかといえば簡単で、空気を強化して固めているのだ。
見えない足場が、リズ先輩の足元にあると思ってくれればいい。
「不意打ち失敗しちゃった。ごめんよー」
「いえ、まともに受けたら鵺でも持たないとわかりましたし。それに……実際にこの眼で見れて良かったです!!!!!!」
「後者が本音すぎるねぇ」
いやだってマジの神討滅核だぜ!?
本当に時空が歪むんだ……! 火力高すぎ……!
そしてそんな神討滅核でも、破壊用に余計なマナを加えないと破壊できない不壊の概念の堅牢っぷりも確認できた。
収穫しか無い! 大ハッスル!
いだだだだだだだ(ミホノに戦闘へ集中しろと頬をつままれながら)。
「あーもー、余計なこと言っちゃったじゃん、鵺ちゃん!」
『ふん、
「ま、そーだけどさぁ! んじゃ、本格的に始めよっかぁ!」
ミホノに引っ張られて気を取り直すと、ニイアと鵺もやる気を出したようだ。
鵺がニイアから距離を取って、ニイアをかばうように前に出る。
そして――
「
『ああ!』
――アレは、奈留島アルラの現実改変か。
炎鬼天生を使った俺と互角にやりあえるまでに、鵺を強化できる力。
その起動ワードが「がんばれ」とはまた。
「……ニイアらしいな」
「むー、セオ様楽しそうです! バカニイア許せないです! 殺すです!」
少し笑みを浮かべたら、横でミホノがさらに膨れた。
言い方は可愛いのだが、殺意は本気だ。
「んじゃ、アタシたちも行こうか、ルト!」
「俺に指図をするな楠木! ――魔滅場開放、色即絶空・喰即是色!」
「ところでルト」
「なんだ楠木……アレはやらんぞ」
既に魔滅場を開放済みのリズ先輩、兄様は今まさに開放したところ。
二人も準備万端だ。
なお、何やらヒソヒソ話をしているが、内容は聞こえてこない。
「んじゃ……俺もやるか!」
「あいあいでーす、招来空間・氷鬼阿封!」
――ミホノが魔滅場を開放した途端、周囲に猛烈な吹雪が吹き荒れる。
同時に、俺はいつも通りセオタード仮面の装備を手にする、ただ、一つだけ変化があった。
それは俺の手にする刀。
刀が――炎と氷をまとっている。
「へえ、その刀――生ける炎と凍れる炎の力をまとってる?」
「正確に言えば、生ける炎の焔を凍れる炎の氷で制御してるんだ」
「あはっ、どっちにしろ――アタシにとってはセオくんを殺す理由にしかならないなぁ!」
これは、俺が修行によって制御できるようになった焔と氷をまとった刀だ。
着想を得たのは、俺が白面金毛を倒した時に刀へ焔を付与した際、氷まで付与されたこと。
これは、俺とミホノのつながりを通して、凍れる炎が俺に力を貸したために起きた現象だ。
この状態を、炎鬼天生無しで再現できないかと試したのが、この刀。
刀を具現化する際に、事前に凍れる炎に用意してもらった生ける炎の焔を固めた氷を砕くことで使用できる。
凍れる炎的にそれはどうなんだと思ったが、曰く「生ける炎様を凍らせられるとか、捗りすぎる」とのこと。
何が捗るんだよ、中学生の前で言うセリフじゃなかったし、顔でもなかったぞ。
ともかく。
「制御するのに、護摩行で滅茶苦茶精神をすり減らしたが――ようやく制御して、人前で使っても見た人間が発狂しないまでに制御できるようになったんだ。コレさえあれば、俺は最上級魔人とだって渡り合える」
『むしろ、それだけのことをして、ようやく最上級魔人程度のお前の才能の無さが、我には異常に思えるな』
「油断しちゃだめだよ、鵺。セオくんは、それくらい動ければ十分私達の戦いについてこれるんだから」
『解っている。でなければ牛鬼が一介の魔祓師に敗れるものか』
現状、この場にいるのは炎鬼天生とまともにやりあえるほど強化された鵺と、
そして魔滅場を開放した三人の魔祓師。
この中で、俺だけが魔滅場を開放できないんだよな。
偏に、自分の才能のなさが原因で。
まぁ、いいんだけどさ。
「――ほら、全員準備万端なんだ、やるよルト!」
「クソ……どうしてこうなった……!」
と、その時だ。
さっきから何やらヒソヒソ話をしていたリズ先輩と兄様が動きを見せる。
正確に言うと、動いたのは兄様だった。
懐から何かを取り出して――あれは……炎だ。
「
直後、兄様はその炎を自分にぶちまけた。
結果、兄様は燃え盛る。
その光景に――俺は心底痺れたよ。
「えぇ……」
そしてニイアは引いていた。