推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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六十 楠木リズ

 この世に楠木リズが生を得た時、リズに天啓が走った。

 

 ――天上天下、唯我独尊。

 

 以来、リズは最強を目指してきたのだ。

 これは『魔祓師フウマ』においても語られた過去である。

 リズは本当に聞いたのだ、その言葉を。

 これは、リズが特別な出生を持つがゆえのこと。

 

 リズは半人半魔であった。

 それは、一言で言えば人と真生生物の間に生まれた子のことだ。

 真生生物の中には人型の真生生物もいて、人型の真生生物は人間と子を為せる。

 魔祓師にとっては、いうなれば”始祖”とも言うべき存在。

 ただし、血は薄まるものだ。

 故に魔祓師は定期的に人と真生生物の間に契を結ぶ。

 真生生物にとっても、これは悪いことではない。

 なにせ真生生物は魔人よりも弱い存在だ。

 人に自身の血を”提供”することで、守ってもらわないといけない。

 お互いにとって利があるゆえに、半人半魔は定期的に生まれてくる。

 そして今代の半人半魔が、楠木リズである。

 

 最強となることを定められて生まれてきた存在。

 故に、最強を目指した。

 最強にならなければならない、その責任がリズにはある。

 生まれだけではない、その立場も、また。

 なにせ魔祓師のトップである御三家の一角、楠木家の次期当主がリズなのだから。

 そんなリズにとって――百鬼セオがどれほど異様に思えたか。

 

 それは今更、語るまでもないことだろう。

 

 

 +

 

 

『ヌハハハハ! どうしたどうした! 強くなったと言う割に、全然我に手も足も出ないではないか!』

 

 楠木リズと百鬼ルトの前に、鵺が立ちはだかる。

 無数の剣を生み出すその手数を重視する戦い方、本来であればリズとルトにとっては相性がいいはずだった。

 得物の火力と耐久性が低いからだ。

 そしてリズは高い火力と連射力を持ち、ルトは絶対切断の能力を持っている。

 

 ――原作でも、リズとルトは鵺と戦っている。

 その時と今では状況がだいぶ違うが、この相性差故に原作では本来勝てない相手だったはずの鵺と多少不利ながらも渡り合えていた。

 しかし今は――

 

「くそ……炎鬼(セオ)の力を取り込んですら、奈留島の強化をひっくり返せんのか!」

「神討滅核すら普通に耐えてくるし……やんなっちゃうねほんと!」

『今の我は……我は最強の七大魔人だ! もはや七大の括りなど不要なほどに……強い!』

 

 ――圧倒されている。

 ニイアの強化によって、それほどまでに鵺は強くなっているのだ。

 それでも何とか戦えているのは、やはりルトの炎鬼招来あってこそ。

 生ける炎を纏うという、セオ以外にとっては蛮行極まりないそれを、ルトは希釈というこれまた一種の蛮行めいた方法で乗り越えた。

 まぁ、考えたのはセオなのだが。

 

「……はあ!」

 

 刃を振るう。

 絶対切断の”色即絶空”を以てしても、容易には今の鵺の刃は切り裂けない。

 それはルトの絶対切断という概念とニイアが鵺に指示した「強くなれ」という現実改変という二つの概念的事象をぶつけ合った上で、ニイアの現実改変が勝つために起こる事象だ。

 しかしそれでも、ルトは更に力を込めることで鵺の刃を切断する。

 セオが持つ不壊の盾を破壊するための方法と、原理は同じ。

 ルトの絶対切断に、炎鬼招来という外付けのバフを加えることで、絶対切断の概念力とでも言うべきものを強化していた。

 そこに加えて、そもそもの炎鬼招来による身体能力向上。

 コレにより、リズとの連携もあいまって何とかルトは強化鵺との戦闘を成立させているのだ。

 

 ただこの状況、リズにとっては歯がゆいものがあった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが。

 敵が自分より強いのは、まだ我慢する。

 しかし、味方が自分より強いことは我慢ならない。

 傲慢だった。

 正しくない考えだ。

 それでも、リズはそういう傲慢を抱えて生まれてしまった。

 百鬼ルトと、同じように。

 

 それは原作においても同じことだった。

 原作のリズとルトは天才だ。

 誰にも負けない才能があった。

 故にこそ、「自分が弱者を導かねばならない」と考えていたのである。

 そこに違いがあるとすれば、ルトは母親からその教えを与えられ、リズは自分でその考えに至ったということ。

 借り物の考えであり、更には父の虐待で歪んでしまったルトは悪に落ち、周囲の助けで考えを改めたリズは守護者としての道を選んだ。

 それが本来の歴史。

 

「おい、どうした楠木! お前はそんなものではないだろう! 最強であるならば戦え、それがお前の責任だ!」

「なんていうかさぁ……まっじでマトモになったよね、ルトって」

「今そんなことを話している場合ではない!」

 

 だが、この世界は違う。

 そうはならなかった。

 百鬼ルトはマトモすぎる。

 これ本当にあの百鬼ルトか?

 ()()した時、リズはそう思ったものである。

 リズとルトには面識があった。

 それはもう、十年以上昔の話。

 幼い頃に、退魔寮にて。

 互いに才能と傲慢を抱えた少女と少年は邂逅し、一瞬にして理解したのだ。

 

 ――こいつとは、終生のライバルとなる、と。

 

 しかし、ルトはいつの間にかマトモになっていた。

 まほろば学園でルトと再会した時、その顔に刻まれた苦労人のシワを見たリズは大層驚き――

 

 

 そして爆笑した。

 

 

 いや、マジで何をどうやったらあの傲慢極まりない少年が、こんな苦労人になるのだ。

 聞けばルトには弟がいるという。

 正確に言えば存在自体は前々から聞かされていた。

 幼くして最上級魔人を屠った怪物。

 宇宙に真生生物が存在するとか言い出す怪人。

 そして何より――才能の欠片もない凡人、と。

 

 ルトや自分ならいざ知らず、一体どうやって魔滅場開放すら使えない子どもが最上級魔人を倒すのだ?

 不可思議極まりない少年は、二年遅れでまほろば学園にやってきて――瞬く間にその存在を学園に知らしめた。

 

 

 七大魔人を討伐したのだ。

 

 

 それも、自分抜きで。

 ”ありえない”、と最初は思った。

 次に”面白い”と。

 そして最後に――”許せない”と。

 原作においては周囲との交流や、自身の鏡であるルトの存在によって少しずつ矯正されるはずだった傲慢は、未だ癒えておらず。

 むしろ、一足先にまともになってしまったルトへの”嫉妬”も相まってリズの中では傲慢さが加速していたのだ。

 

 それでも表面上は、リズはセオとの交流を楽しんでいた。

 というよりも、実際に楽しかったのだ。

 自身の嫉妬はどうあれ、突飛な発想でリズにさらなる強化案をもたらしてくれるのは事実。

 本来だったらロマン砲でしかなかった神討滅核を戦術に組み込めるようになったのは、紛れもなくセオの功績。

 

 ただまぁそのうえで――リズの嫉妬はセオに最初からバレていたのだけど。

 

 

 +

 

 

 ――それは、初めてセオと模擬戦をした時のこと。

 魔滅場開放と、炎鬼天生は使わないというルールの元行われた戦い。

 その中でリズは()()()()()()()()()

 煙で視界を奪った後、リズはセオの足元に設置しておいた地雷を起爆しようとしたのだ。

 煙という、どこから攻撃が飛んでくるかわからない状況。

 四方八方を意識しなければいけない状態で、安全地帯であろう”下”から攻撃する。

 我ながら、冴えた戦法だと思っていた。

 だけどそれを、セオは地面に不壊の概念を付与することで容易くしのぎ、驚くリズに刀を突きつけようとしていたのだ。

 本来であれば、そこでチェックメイト。

 リズは敗北するはずだった。

 

 しかしそこで――不思議なことが起きた。

 

 リズの中に、突如として不可思議な力が湧き出したのである。

 その力に従うまま、リズは拳銃を高速で抜き放ち、セオに向けた。

 負けるはずの戦いを、ひっくり返したとリズは思う。

 しかし直後に――セオは刀に炎をまとわせて加速。

 今にして思えば、生ける炎の残り火を一瞬だけ開放したのだろう。

 結果は引き分けに終わった。

 

 ――引き分け、これが?

 

 そんなわけがないだろう。

 理由のわからない力で敗北をひっくり返したのに、それすら対応されてしまう。

 こんなもの、引き分けとも呼べない。

 一方的な敗北――完敗だった。

 

 楠木リズは百鬼セオに勝てない。

 その烙印を自分の中で、自分に押した瞬間だった。

 

 少し話が変わってきたのは、セオがやたらとリズを慕っていたことだ。

 なんでそんなにリズをすごいすごいと讃えるのかわからないくらい、セオはリズを推していた。

 若干ミホノの目が怖かったほどに。

 ハッキリ言って異様である。

 強者が弱者をすごいと褒めて憧れることは、あまりに歪だ。

 どこかで拒否感を覚えても仕方がないし、セオを不気味に思うのが普通。

 その不気味さに怯えた結果、自分の立ち位置を見直して真面目に更生したのがルトなのだから。

 それが普通のセオに対する反応だ。

 

 

 だが、リズは違う、普通に嬉しかったので嫉妬とかどうでも良くなった。

 

 

 そもそもの話、リズは現在十四才の女学生である。

 傲慢なのは自然なことだし、嫉妬だって当たり前にするのだ。

 褒められれば嬉しいし、認められたら誇らしい。

 何より、すぐに思い直したのだ。

 今自分よりセオが強くたって、これから自分がそれより強くなれば良い。

 常に最強である必要はないのだ。

 何よりセオは、自分に新しい強さをくれる。

 神討滅核もそうだし、あの突如として湧き出した力もそう。

 だったら、それを吸収して強くなってしまえば良い。

 強くなるために、手段なんて選んではいけないのだ。

 だから――

 

「どいたどいたぁ!」

 

 リズは、突如としてルトを支援する戦い方をやめた。

 前に出ることにしたのだ。

 ルトが自分より強くなったことに嫉妬したと自覚した瞬間、それをひっくり返すために。

 無論、他にも理由はある。

 

「神討滅核!」

「おまえ、それを使うときは先に言えと――!」

「言ったら不意打ちにならない!」

 

 神討滅核のチャージが終わったからだ。

 セオから片手間にチャージを行う方法を教わって、リズは神討滅核を戦術に組み込めるようになった。

 その威力は、決してバカにならない。

 

『おのれ、このような破滅的な技を何度も何度も!』

「逆に言うと、これしか”今の”私には対抗策がないんだよねぇ!」

 

 鵺は、その一撃を正面から剣を交差させて受け止める。

 これで受け止めてしまえるのだから、鵺のスペックは末恐ろしい。

 しかし、同時に受け止めている間は身動きが取れない。

 そこを――

 

「もらった!」

『ぬう!』

 

 ルトが攻め込む。

 神討滅核の破壊を自分が歩む場所だけ自身の魔滅場で切断し、突っ込んでくるのだ。

 とはいえ、それでも鵺は崩せない。

 鵺の強さは千の手数。

 神討滅核を受け止めながらルトを相手することも容易。

 

『先程と同じ手で、我が倒せるとは思わないことだ!』

 

 これは先程の焼き直し。

 神討滅核は戦闘開始の後、ルトとリズが鵺の相手を始めてからもう一発発動している。

 そこでも同じようにルトが攻めて来て、そして決定打にならず終わった。

 それをどうして、態々同じことを繰り返すのか。

 鵺には、その答えがわからなかった。

 

「――時間稼ぎに決まってるでしょバカ鵺! 本命はルト先輩じゃないよ!」

 

 そこに飛んでくるニイアの叫び。

 見れば、ニイアはクソでかいミホノに踏み潰されそうになりながら、何とかそれを持ち上げていた。

 何してるんだあれ……ルトと鵺の心が一つになる。

 しかし、リズはそうならなかった。

 

「あはは! あっちも使ったんだ、ミホノちゃんの切り札! なら――」

「本命はリズ先輩だ! 今すぐそっちを攻撃するの、鵺!」

「――私も、切り札をきらないとねっ!!」

 

 ミホノが巨大化して、ニイアを踏み潰そうとしていると知っていたからだ。

 何だこの字面。

 リズは少しだけ冷静になりながら――()()()()()()()切り札の発動を試みる。

 

 

「明鏡止水」

 

 

 その瞬間、世界から音が消える。

 鵺が、ルトが、ニイアが、ミホノが――その時、リズを見た。

 神討滅核からの、それを無視して突っ込むルトの反撃を隠れ蓑としたリズの新たな切り札の使用。

 成功率は、約六割。

 だから失敗してもいいように、何度でも使える時間稼ぎの方法として(セオが)考えたのがルトの反撃だ。

 結果、切り札の発動は二回目で成功した。

 確率的にも、なかなか悪くない結果。

 

 そしてそれが発動した結果、周囲の音と――そして時間が()()したのである。

 

 明鏡止水。

 それはリズが自身の奥から力を引き出すために、必要な境地だ。

 言葉の通り心を落ち着かせ、自身に眠る真生生物としての力を引き出す。

 この力はセオとの戦いで、()()()()()()()()()で発動しかけた力である。

 激情を感じることで、リズの中の真生生物の血が暴れ出すのだ。

 この状態を、半魔形態と呼称する。

 

 メタ的な話をすれば、それは感情の高ぶりによって発生する暴走モードである。

 創作においてはよくある代物だ。

 実際、半魔形態も()()()()に感情を高ぶらせると、暴走が発生してしまう。

 少し他と違うのは、感情の高ぶりが一定以上になると、逆に暴走が制御できるようになるのである。

 そこで原作で使われたのが、感情を完全に律した後、敢えてそれを爆発させることで感情の落差を発生させる明鏡止水の技術。

 50から100になるよりも、0から100になった方が感情の高ぶりの数値は上限が同じだろうと増えるということ。

 

 そうしてリズが半魔形態に到達したことで、時間が停止したのだ。

 リズの能力、天上天牙の最終到達点。

 概念にすら干渉できるほど自分を強化する能力。

 コレにより、時間という概念を無理やり掴み取って停止させる。

 結果として、まるですべてが明鏡止水の境地に到達したかのような”静止”を発生させる。

 とはいえ、この状態は長く続くわけではない。

 ほんの数秒しか時間を止められないため、その数秒で鵺を倒しきらないといけないのだ。

 そこで、神討滅核を防御しているという今の鵺の状態が効いてくる。

 

「焼き尽くせ! 神討滅核!」

 

 リズは神討滅核に力を込め、動けない鵺を飲み込もうとする。

 リズが動けるのなら、リズの神討滅核も動けるのは自然なことだ。

 しかし――

 

「……間に合わない!」

 

 神討滅核が、鵺のガードに使用している剣を破壊しきれない。

 それだけ、ニイアの強化を受けた剣の強度は高かった。

 そもそも剣がそれだけ固ければ、本体である鵺も一撃で倒し切るのは難しいだろう。

 だから――

 

 

「リズ先輩!」

 

 

 そこを、セオが補強する。

 動けるのだ、セオはこの時間が停止した空間で。

 なにせセオは概念に干渉するという点において、リズよりも豊富な経験を有している。

 具現化で概念を付与するという、リズですらちょっと理解に苦しむ方法で、概念を弄くり回してきたから。

 時間停止を無効化する概念を何かしらの道具に付与して、身につけることでリズの時間停止は抵抗可能。

 ゆえに、この状況でリズ以外では唯一動けるセオが動き――

 

 

 神討滅核をガードする鵺の剣を持つ手を、一撃で切り裂いた。

 

 

 方法は――()()()()()()()()()()()()()()()を使ったとかなんとか。

 鵺の千変万化には特殊なマナの変化が発生すると、セオは言っていた。

 それを中和するための専用魔祓刃を開発した、とも。

 これを開発してもらうための人材を探していたと以前セオは言っていたが、結局()()()開発することにしたようだ。

 才能のないセオにとって唯一の才能である開発可能数を、鵺のために消費した。

 

 故に思う。

 ――全く、この少年はどこまでも本気すぎる。

 そんな本気を()()られたら、楠木リズは滾って滾って仕方がないじゃないか――!

 

「これで……」

「終い……!」

 

 かくしてリズとルトが苦戦する鵺の強化された身体を、セオはいとも容易く切断する。

 同時に、セオもまた一体どこで強化し続けていたのか不明な、強化した光弾を解放。

 

 

 かっ。

 

 

 破滅的な破壊の一撃が、鵺に直撃した。

 あと、ついでにルトにも。




兄様ーーーーーっ! 
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