推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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六十一 もはや痴話喧嘩

 停止した時間の中で、リズ先輩とともに鵺に致命的な一撃を入れる。

 神討滅核だけでなく、ここまでこっそりチャージを続けてきた俺の強化光弾も叩き込んだ。

 確実に屠ったとは言えないが、流石に大きなダメージにはなっているだろう。

 そして――光が晴れて、時間が動き出した時。

 

 鵺の姿は、そこになかった。

 

「鵺!」

「もらったです!」

 

 そこで動くのが、鵺がやられたと察したニイアと、それを隙と見て取って攻撃を仕掛けたミホノだ。

 

「流石にそれはちょっと性格悪いよ、ミホノちゃん!」

「悪くてもいいです! セオ様を殺そうとする悪い虫は、ここで消えちゃえ!」

 

 巨体から、響くように声が聞こえてくる。

 凍れる炎の力を借りての巨大化。

 ミホノの切り札だ。

 俺の炎鬼天生――すなわち神格を”見る”ことによりその力を宿す行為と、それは殆ど同じことをしているように見える。

 ただ、実際には少し違って、凍れる炎の影響を受けているのは()()()の方だ。

 すなわちミホノ本人ではない。

 だから本質的には俺の持っている生ける炎と凍れる炎の力を宿した剣に、性質は近い。

 直接その身に取り込んでいるのが俺で、取り込んだ道具を使っているのがミホノというわけだ。

 当然、危険性も出力も俺と――それからニイアには及ばない。

 

「ああもう、鬱陶しいなぁ! ミホノちゃんにはちょっと高度すぎてわからないかな! この殺意によって育まれた愛の深さが!」

「愛する人を害することを、人は愛とは呼ばないです! 愛する者のために、邪魔する全てのものを排除してこそ、愛なのです!」

「どっちもどっちじゃないか!」

 

 いいながら、俺は戦闘に介入する。

 鵺の姿がない以上、今集中するべきはニイアの方だ。

 俺はニイアに、刀を振りかざす。

 そして、ニイアもまた片方の手を刃に変えて、それを受け止めた。

 

「ほーらみたことか、です! セオ様はミホノを味方してくれました! つまりミホノのことが好きなのです!」

「いーや違うね! 殺し合いをしようっていったアタシに、こうして攻撃してきてくれたんだ! つまりセオくんはアタシのことを殺したいほど愛してるってこと!」

「人の話を聞いてくれ!」

「マゾ!」

「メンヘラ!」

 

 ふ、ふたりとも俺のことを取り合っているのに、俺を無視して罵りあいを始めた!?

 じゃあもう二人で話をつけてくれないかな、と言い出すと二人に声を揃えて「だめだ」と言われるのが容易に想像できてしまったぞ。

 ええい、鵺がやられたなら、兄様とリズ先輩の力を借りれるってことだ。

 俺はすがるように二人をみると、なんか二人は視線を反らしながら……

 

「この痴話喧嘩、ほんとに私達が介入したほうが良い?」

「……介入した後が怖いぞ」

「ぐっ……下手したらミホノが二人を攻撃し始めて乱戦になりかねない」

 

 そうでなくとも、ミホノはでかくなって的を絞りにくくなっているんだ。

 普通に誤射が発生する上に、これが俺とニイアの戦いなら、ミホノ以外が関わるのは無粋というのもわからなくはない……

 

「アハハ! じゃあこうしよっか! 先輩たちは()()()()()()()!」

「ぐ……これは……」

「あはは……戦闘に参加しない言い訳ができちゃった……」

 

 そこでニイアが、現実改変で二人を釘付けにした。

 この現実改変、神格の力を借りた上で、ばかみたいな精神力がないと防げない。

 この場においてその要件を満たすのは俺とミホノだけ。

 つまり、どっちにしろニイアがこうすれば兄様達は動けなくなってしまうのである。

 ちなみに、「死ね」と命令するのは、流石に効果がない。

 今は兄様もリズ先輩も強化されて、ある程度存在の格が上がっているから耐えられるのだ。

 

「そ、れ、と……ミホノちゃんも! 今は口を挟まないでよ!」

「嫌です! ミホノはセオ様の許婚です! セオ様を狙う悪い女に抵抗する義務があるです!」

「そんなこと言ってさ……自分の感情、言語化できないでしょ!」

「……っ!」

 

 ふと、そこでミホノが驚いたように息を呑む。

 感情を言語化できない? どういうことだ……?

 いや、なんとなく解る。

 ()()()()()

 兄様と護摩行の最中に会話した時、同じような話をした。

 ちょっと違うけど、本質は同じだ。

 

「アタシはできるよ! セオくんが好き! 殺したいほど愛してる!」

「……恥ずかしげもなく!」

「恥ずかしくないもん! だって本気だから! 本気で愛してるから!」

「ミホノだって、気持ちは絶対まけてないです!」

「気持ちは負けてなくても、言葉では負けてる! 言い返せないのがその証拠! だからさぁ――!」

 

 不意に、ニイアの気配が強まる。

 ”何か”をしてくる予兆。

 まずい、という感情が先走り――

 

「避けろ、ミホノ!」

 

 俺はそう言って、同時に自分の眼帯を取っていた。

 

 

「アタシに”先”を、譲ってよ!」

 

 

 直後、ニイアはミホノを吹き飛ばした。

 俺の瞳が、二つの光景を同時に見る。

 一つは――余りにも、強大すぎる一つの炎。

 生ける炎が、横たわっている。

 こちらには目をくれず、ただそこにいるだけの神格。

 しかしそれでも、今回だけはどことなく、意識のようなものを感じた。

 まぁ、そりゃそうだろう。

 だってここには、生ける炎にとって、この世で最も許されない存在。

 禁忌とも呼べる存在が、いるのだから。

 

「や、ああ!」

 

 吹き飛ばされたミホノがたたらを踏んで、数歩下がる。

 結果として、その場には俺とニイアだけが残り――ニイアは、俺に刃を向ける。

 

「――――アタシがアタシである限り」

 

 それは、祈りだ。

 ニイアはここまで、魔滅場開放を使っていなかった。

 奈留島アルラから取り込んだ力と、制御できるようになった獣応無人だけで戦っていたのだ。

 つまり、ここからがニイアの本気。

 

「アタシはアタシの道を征く! 故に、獣応無人ッ!!」

 

 本物の――

 

 

「魔滅場開放ッ! 獣応無人・煌縛來落(じゅうおうむじん・ごうほうらいらく)ッッ!!」

 

 

 ニャルラトホテプ。

 

 ――世界が歪んでいた。

 黒と白と、それからあらゆる色を混ぜ込んだ何とも言えない禍々しい空間。

 地上ではない、宇宙でもない、まほろばでもない――まったく別の、それは。

 

「ようこそ、”アタシ”の中へ」

「……魔滅場開放で、空間そのものを”変化”させたか」

「ついでに、邪魔な人はぜーんいん排除しちゃった。まぁ、ここからの戦いにおいては”足手まとい”になるし、セオくんだって大事な人をアタシに殺されたくないもんね?」

「そこは感謝しておくよ」

 

 ニイアの、心象世界とでも言うかのような。

 その中央に、奈留島ニイアは立っていた。

 

「セオくーん、やっぱりその姿……とっっっても素敵! 似合ってるよぉ! ねぇねぇアタシと一緒にプリとらない?」

「全部終わったらな」

「えーやだやだ、アタシセオくんと禁断の関係結んじゃうの!」

 

 そうしてニイアは、自身の両手で自分を抱きしめて、叫ぶ。

 

「アタシのふっといので、セオくんの中をぐっちょんぐっちょんにして、ずっこんずっこんにしちゃうんだから!」

「……それ、意味解って言ってんだよな?」

「えー、これから本気でセオくんをー、ぶ、ち、こ、ろ、す! って意味だけどぉ?」

 

 ……ニイアに性知識がない可能性は結構ある。

 そういう風にして、這い寄る混沌が作って愉悦している可能性があるからだ。

 でも、奈留島アルラを取り込んだ以上、その知識はニイアにも備わっているはずなのだが。

 ……まぁ、その奈留島アルラにも知識がない可能性は普通にある。

 なにせ、あの頓死っぷりだからな、あいつが本当に本体かっていうのも怪しい話だ。

 いや、何真面目に考察してるんだよ。

 そんな場合じゃないだろ。

 

「じゃーあ、第二ラウンドってことでぇ!」

「……まったく、解ってるよ!」

 

 生ける炎は、奈留島ニイアを殺せと叫ぶ。

 奈留島ニイアは、俺を殺すと嘯いている。

 言うまでもなく、それが最も両者にとって当然の形だからだ。

 けど、俺は違う。

 俺の目的は二つ、ニイアに勝って、そして――

 

「行くぞ、ニイア!」

「あはは、かかってきなよ、セオくん!」

 

 ――互いの名前を呼びあって、俺達は戦いの火蓋を切った。

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