ニイアが俺を異空間に引きずり込むのは、正直想定していなかったわけじゃない。
というか、
這いよる混沌の”ルール”、それを守っている限り奈留島ニイアは無敵だろう。
だが、ルールがある以上それは完璧な無敵じゃない。
必ず、俺にも勝ちの目がある。
いや、言い換えよう。
勝ちの目が
でなければ、奈留島アルラは倒せなかった。
「……おらあ!」
炎をまき散らしながら、俺はニイアに切りかかる。
刀が纏う焔と冷気は健在だ。
むしろ、冷気を制御に回さなくてよくなった分、より煌々とそれらは輝いていた。
対するニイアも、両手を刃に変えて迎え撃つ。
剣戟が始まる。
「あっはははは! やっぱこの状態のセオくんは強いねぇ!」
「一応、誰にも負けないつもりなんだけどな。正面から追いついてこないでくれ!」
「それは無理! だってアタシたち、現状この星で一番強いんだもん!」
俺の刀は、ニイアとほぼ互角に打ち合えている。
護摩行の成果で、さらに出力が上がり制御が安定したのだ。
そして俺とニイアは、ニイアの言う通り強くなった。
七大魔人だって、海外の魔人だってもはや相手にはならないだろう。
あの曲者ぞろいの七大魔人――特に酒呑童子とぬらりひょんが何の手も打たないとは思えないが。
それでも、今この瞬間は俺たちの方が強い以上、現状の”頂上決戦”が今まさに行われているというわけだ。
ああ、それは――
「……たぎるよな。この世界で一番強いやつと戦えるなんて。なぁ、ニイア!」
「あっはは、男の子っていっつもそう! 最強とか、テッペンとか、そういうのばっかり!」
「最初に言い出したのはそっちだろ!?」
「そうだけど、アタシにとって一番でありたいのは――」
ニイアの気配に変化がみられる。
接近戦以外の攻撃方法を使うつもりだ。
おそらくそれは―ー
「セオくんの中の一番だけなんだから!
俺を罵倒する言葉に、ニイアの現実改変の力が混ぜ込まれている。
直後、俺の周囲の空間が歪み、何もない場所から複数の”武器”が襲い掛かってくる。
いや、違うこれは――
「きのことたけのこ!?」
お菓子のほうじゃない、リアルきのことたけのこが、俺に向かって襲い掛かってくるのだ!
「人に愛の告白と性癖さらしを同時にやってんじゃない!!」
思わず叫んでしまった。
身をひねって回避し、さらに襲い掛かってくる黒板とチョークを叩き落す。
しかしこれによって隙が生まれてしまい、俺はニイアの腕が変化した剣をかわせなくなってしまう。
「この剣、ケーキ入刀みたいでしょ!」
「さっきから言ってることとやってることが支離滅裂すぎるんだよ!」
俺はその剣に、炎をぶっ放す。
白面金毛の狐火を、上から塗りつぶすようにかき消した炎だ、ただの剣にも当然有効。
振りぬかれた剣は炎に溶かされて消えてしまった。
否、それは正確ではない。
剣は確かに消すことができる、所詮能力の一端に過ぎないからだ。
だが本体、ニイア自身はニイアが強すぎて溶かしたりはできない。
結果――ハグを求めるかのようにニイアが突っ込んでくる。
「あっははははは! 好きッ!」
刀で反撃しても、ニイアの手を止められる位置関係に俺たちはない。
ニイアが俺をつかめば、俺を魔滅場開放の対象にできるだろう。
ゆえに、ここは受けられない。
かといって回避は不可能。
俺はとっさに刀の具現化を解除して、ニイアの腕をつかんで止めた。
「お前の魔滅場は、手で”つかむ”ことが発動条件だな!?」
「あはっ、せいかーい!」
腕をつかまれたニイアが、かまわず顔を俺に近づけてくる。
ほとんど鼻と鼻がぶつかる距離で、ニイアは三日月のような笑みとともに愛を嘯く。
「んで、なんだっけ? 支離滅裂? あっはは、そりゃそうだよ。だって混沌だもん! もうめちゃくちゃなんだもん!」
「めちゃくちゃ……?」
「セオくんに言われた通り、前に進んだの。自分のやりたいこと全部やることにしたの! セオくんへの愛も、アタシの性癖も、鵺への友情も、ミホノちゃんへの嫉妬も、全部全部全部アタシ! 混ざって混じって混ぜこぜになって! 今のアタシは――誰にも負ける気がしない!」
直後――俺の腹にニイアのけりがたたきつけられた。
「ぐ、おっ!」
途端に吹っ飛んで、何度もバウンドしながら地面を転がる。
いや、地面とも呼べない混沌の中を跳ね回るのだ。
何とか刀を具現化しなおして、空間に突き立てることで無理やりバランスを取り着地。
そのまま空間を引き裂きながら、俺は数歩後ろに後退した。
「どーお、セオくん。アタシ……強いでしょ」
「ああ、……そうだな」
なんというか、まぁ。
言ってることが支離滅裂であっち行ったりこっち行ったりするからわかりにくいが、ニイアの言いたいことはそれぞれ並列しているわけだ。
俺に好きと言いたい。
自分をさらけ出したい。
周囲への感情をまき散らしたい。
――俺に強さを見せつけたい。
どれもこれも、全部ニイアだ。
だとすれば――
「いつだったか、ニイアは自分の中に”這いよる混沌”と”俺への好意”しかないって言ったが……全然そんなことないな」
「……何が?」
「そんだけいろんなことが自分のうちにあるなら、それはもう――」
刀を構える。
「――誰でもない、奈留島ニイアってことだ!」
すでにニイアの能力は知れている。
強敵だ。
炎鬼天生をつかって一撃を受けたのは、これが初めてかもしれない。
というか、普段の戦闘は俺のスペックが低いせいで、一撃でも受けたら俺は死んでしまう。
その関係上、普通の戦闘を含めても俺が一撃をもらったのはあれが初めてか。
「それが何! そんなこと言ってもアタシは止まらない! だってアタシは、這いよる混沌! 生ける炎の宿敵! セオくんとは、殺しあうしかないんだから――!」
ニイアにはいろいろと言いたいことがある。
こうして、今のニイアの本質を指摘するだけじゃ、全然たりない。
それに、今の俺の言葉はニイアには届いてない。
ニイアがいろいろとめちゃくちゃになって、混沌としていることは事実。
そしてそんな混沌を落ち着かせるには、一度俺が勝たないと。
だからここで――決着をつける。
「ニイア……!」
ニイアの武器は、自身の変化と他者の変化。
後者は空間自体を変化させたことで、どこからでも攻撃ができる厄介な手札になった。
だがそれも、この空間がニイアによって生み出されたものだからこそ起きる現象。
であれば――その突破方法は、すでに俺自身が見出している!
「生ける炎よ! この空間は這いよる混沌の世界そのものだ! だったらーー」
「……何をするつもり、セオくん!」
「
俺は刀を、空間そのものに突き立てる。
すると、刀によって空間は裂け、その裂け目からあふれんばかりの焔が吹き上がる。
「利用させてもらうぞ、この世界!」
「世界を生ける炎で浸食するつもり!?」
普通の空間は、いくら生ける炎でもこんな風には切り裂けない。
でもここは這いよる混沌の空間、天敵である生ける炎なら、切り裂くことはたやすいだろう。
というよりも、さっき俺がニイアの腕の剣を炎で解除したときと同じことが起こっている、というほうが正確か。
そして切り裂いた先からあふれる炎は、ニイアの手数を崩す最も有効な手段となる。
「行くぞ……!」
「くっ……!」
ニイアもまた、空間から無数の武器を生み出し、迎え撃つ。
しかしそのことごとくは焔に飲み込まれていく。
本体であるニイア自身は激しく俺と打ち合いを続けながら、空間の中を飛び回る。
だが、それは悪手だ。
俺が刀を振るう度、空間そのものが灼けていく。
すでにそのほとんどが黒焦げになり、炎をまき散らし、ニイアを追い詰める檻へと変わる。
「これで――終わりだ!」
「……セオくん!」
俺の刀が振るわれて、ニイアの腕が変化した剣が迎え撃つ。
そして――
ニイアの剣が、勢いよく俺の刀によって切り飛ばされた。
腕が、元の状態に戻っていく。
焔は完全に世界を満たし、正面の打ち合いで俺がニイアを圧倒する。
趨勢は、ここに決していた。
あけましておめてどうございます。
支離滅裂なニイアが書いてて楽しかった覚えがあります。
今年もよろしくお願いします。