推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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六十五 面白かった"時間”が終わる

「ん、う……」

「起きたか?」

 

 ニイアが、ゆっくりと俺の腕の中で目を覚ます。

 目を覚まして、直後、自分の状態を把握して――

 

「んっひゃああああああ!?」

 

 飛び跳ねて、俺の手から離れた。

 そのまま、しばらく俺の周囲をぴょんぴょんと跳ねている。

 忙しいやつだ。

 

「……な、ななな、なんであたし、セオくんの腕の中に!?」

「あの奈留島アルラに取り込まれて、捕まってたんだろ。それを何とか救出したんだ。だからこうなってるんだよ」

「な、なぁるほど。ありがとぉセオくん……ってあれ? あたし、セオくんの腕の中にいるっていう激アツシチュを自分から放棄した……!?」

 

 礼を言ってから、ニイアは自分の失態に気付いたらしい。

 顔を真っ青にしてから、泣きそうな顔でこっちに懇願してくる。

 

「も、もう一回抱きしめてぇ~」

「……そろそろこの世界も崩壊する、そうしたら抱きしめられた状態であの巨大ミホノの前に姿を表すことになるぞ?」

「…………いや、ほんとありがとねぇ、セオくん。あたし、ときめいちゃった」

 

 ニイアは自分の言ったことをなかったことにした。

 まぁ、俺もその方が正しいと思う。

 なにせこの世界が崩壊して向こうに戻るころには、俺は炎鬼天生の効果が切れて意識を失ってるだろうからな。

 

「っていうか……勝ったんだね、セオくん……あいつに」

「まぁ……色々あったけどな。……聞くか?」

「やめてきます」

 

 即答だった。

 チッ。

 

「今舌打ちしなかった?」

「してないが?」

「したでしょ! っていうか――」

『――ニイア!』

 

 と、俺達が言い合いに移行しそうになったその時。

 鵺が駆け寄ってきた。

 心配そうに、ニイアの隣に降り立つ。

 

「鵺! え、もしかしてやられたんじゃなくて、やられた振りしてアタシを助けるために潜んでてくれたの!?」

『な……べ、別にそういうわけではない! とにかく無事なのだな! なら、いい』

 

 なんてやり取りを、ニイアと鵺は繰り広げる。

 なんというか……随分と仲良くなったなぁ。

 

「……それで、鵺。お前はこれからどうするんだ? ――お前が本来の鵺でない以上、人様に迷惑かけないなら俺はどうこうするつもりはないが」

『…………ああ、それは』

 

 鵺。

 と、呼んではいるものの、こいつは鵺であって鵺ではない。

 いや、俺にとってはこいつが最初から最後まで鵺なんだけど、奈留島アルラによって生み出された全く別の生命である。

 ”前”の鵺の罪をこいつに問うのも、ちょっと違うだろう。

 とか思っていると――鵺の姿が、何か変化していく。

 というか……小さくなっていく?

 

「うわ、鵺が可愛くなった!?」

『かわいい言うな! ……我は奈留島アルラの被造物。本体が死んだことで、その分力が抜けたのだろう。業腹ながら、今の我は七大魔人を名乗れる器ではない』

「えー、残念ー……ってまって、あのおばさんが死んだってことは、私が取り込んだ力も抜けてる!?」

「ああ、よく見ると元のニイアに戻ってるな」

 

 髪が伸びてパワーアップしたニイアではなく、元のギャル系ニイアに戻っている。

 服装も元通りだ。

 

「あーもー、せっかくパワーアップしたのに! これじゃ私だけ置いてけぼりじゃん!」

「いや、やろうと思えば奈留島アルラを取り込んでいた時ほどじゃないけどパワーアップする方法はあるが……聞くか?」

「い、……今はやめておきます。覚悟が出来たら聞きます」

「そうか……っと」

 

 そこで、俺はふと体をぐらつかせる。

 炎鬼天生が解除されたからだ。

 結果、急激に眠気が襲ってくる。

 また、一週間の昏睡タイムだなぁ。

 

「セオくん!」

『大丈夫なのか、こいつは』

「まぁ、何度もやってるし……な」

 

 そんな俺を、ニイアがゆっくりと受け止めた。

 世界が元に戻りかけているのを考慮してか、そのままゆっくりと地面に寝かせてくれる。

 チラチラと、視界の端に映っているミホノ(でかい)が原因だろう。

 他にも、強化形態を解除した兄様とリズ先輩の姿が見える。

 これ、ミホノだけ俺とニイアがいちゃついてることを警戒して、強化形態解除してないのか。

 こわい。

 

「……そうだ、最後に一つだけ聞かせて?」

「そんなこと……言われてもな、もう意識が――持たんぞ?」

「ああ、大丈夫――」

 

 ゆっくりと腰をおろしたニイアが――

 

 

『ここなら、あたし達の会話は他に聞こえないからさぁ、アハハ!』

 

 

 狂気的な笑みを浮かべる。

 それは、すなわち――

 

「……這い寄る混沌か」

『アッハハ! そうだね、()()あたしが本物の這い寄る混沌』

「悪趣味だな、最後だけこうして声を掛けてくるなんて」

『それが、()()()()()()()()()()()()()ってものでしょぉ?』

「……かなわないな」

 

 こいつは、一体()()まで俺のことを知っているんだ?

 まぁ、下手に聞いて藪蛇するわけにも行かないか。

 

『それはこっちのセリフだよぉ、今回のゲームは完全にあたしの完敗。――面白かったよ、百鬼セオ』

「……最大限の謝辞として受け取っておくよ」

 

 這い寄る混沌にとって、「面白かった」という言葉の意味を、俺は理解できる。

 だから、ただ単純に賛辞として受け取っておくことにした。

 

「それで、本題は? ただ健闘をたたえたいわけじゃないだろ」

『ん? ああ、単純だよ。――どうしてあの時、()()()()()()()()()()()()()()のかなぁって』

「ああ」

 

 あの触手。

 奈留島アルラを飲み込んだ触手。

 俺のカメラが変化した、あの触手だ。

 

「確かに、アレを這い寄る混沌本体に据えてれば、もっと簡単に俺は奈留島アルラに勝てただろうな」

『でしょ? まぁ、確かにあたしを本体にしたほうが面白いと思うけどさぁ』

「答えは……単純だよ」

 

 おそらく、あの触手は奈留島アルラを飲み込むまでは()()()()の一部だとは確定していなかった。

 俺があれを這い寄る混沌の本体だと指名すれば、あれが本体になっていたはずなのだ。

 なにせ、あの触手はニイア以上に俺と長い付き合いなのだから。

 積み重ねとしては、あっちのほうが這い寄る混沌の本体として自然である。

 でも、俺はそうしなかった。

 理由は――

 

 

「あの触手に頼って勝っても釈然としないんだよ、俺が」

 

 

 それだけだ。

 だって、上位存在の力を借りて敵を倒すなんて、他力本願すぎるじゃないか。

 俺は自分の力で、奈留島アルラに勝ちたかったんだ。

 なにせあの触手を本体に指定した時点で、アルラが本体に耐えきれず飲み込まれて終わるからな。

 俺が這い寄る混沌の力を御して、アルラを討伐するパートが丸々カットされた状態であの飲み込まれパートに移行するわけだ。

 そんなの全然、俺の力で勝ったとは言えない。

 大して這い寄る混沌の力を借り受けて御するのは、これまでの俺の戦い方そのものだ。

 こっちなら、俺自身が納得して勝ったと胸を晴れる。

 

『………………………………それだけ?』

「それだけ。というか、俺は勝ちたいんだよ。這い寄る混沌にも、生ける炎にも――あの神格にも、いつかは」

『……へえ?』

「だって勝たなきゃ、いずれこの星が危機に陥るかもしれないだろ? 実際今回、本来の歴史じゃあり得ないタイミングで這い寄る混沌が介入してきた。俺は大切な人を守るために――あいつらに勝ちたい」

 

 その言葉に、這い寄る混沌はしばらく停止した後――

 

『――アッハハハハハ! 勝ちたい! そっか、アタシ達に勝ちたい! そっかぁ!』

「なんだ、何か悪いか?」

『ううん? ――さいっこう! 百鬼セオはそうでなくっちゃ!』

 

 盛大に笑い倒した。

 そこまで笑うこと無いだろ。

 

『――でもさぁ、その願いって、本当にセオくんだけの願い?』

「……? どういうことだ?」

『ああ、自覚ないんだ。ならいいや。……にしても、そうだなぁ』

 

 ふと、這い寄る混沌はよくわからないことを言った。

 

『こりゃ……ニイアはちょっと厳しいかもしれないなぁ』

「いきなりブツブツ何を言ってるんだよ」

『ううん、なんでもなーい。っていうかさぁ』

 

 そこで、這い寄る混沌は更に笑みを深くした。

 

『アタシ達に勝つって、本気? 確かに今回はアタシにはかったけどさぁ、ソレはあくまで”ルール”の上でのゲームだよ? 今のセオくんは、まだまだ神格(アタシ達)には届かない』

「けど、時間はまだあるだろ? だったら、その間に強くなるだけさ」

()()()()()()()()()ならそうかもねぇ。でも――もう少し下をみたら、どうかな?』

「それは――」

 

 這い寄る混沌は、何かを示唆しようとしている。

 それが次なる火種になる、と、そう言っているのだ。

 であれば――

 

『例えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よね?』

「それは――」

『あはっ! ま、楽しみにしててよ! アタシも楽しんで見守ってるからさぁ!』

「あ、おい待て!」

『待たないよー!』

 

 そうして、這い寄る混沌は、奈留島ニイアの一側面へと戻る。

 だが、その前に俺は一つだけ聞きたいことがあった。

 

「なぁ這い寄る混沌、一つだけ答えてくれ!」

『なぁにぃ?』

「――ニイアや奈留島アルラ、それからニイアが化けてた”存在しない先輩”とかがギャルだったのって」

 

 俺は、振り返ってくれた這い寄る混沌に、素朴な疑問をぶつけてみた。

 本当になんてことのない、意味のない質問だ。

 

「……ニャルとギャルをかけてるのか?」

 

 答えなんて求めてない、でも気になったから聞いてみた、それだけの質問に――

 

 

『きゅん……』

 

 

 何故か這い寄る混沌は、胸をときめかせている……みたいなセリフを発してから――消え失せた。

 え、ちょっとまって?

 何今の!?

 どういうことだよ!?

 おい!?

 

 そうして困惑に包まれたまま、俺の意識は炎鬼天生によって闇の中へと沈んでいった。

 

 

 +

 

 

 ――そこは、鵺の拠点()()()まほろばだ。

 既に、魔人の姿はどこにもない。

 彼らは鵺が突如として消えたことで、他の勢力へと吸収されていった。

 だからここに残っているのは、他の勢力が簡単に手を出せない存在だけだ。

 

 すなわち、件である。

 

 本来なら、どの勢力も是が非でも手にしたい魔人ではある。

 だが、まず巨大すぎて外に運び出せない。

 加えて、運び出そうと侵入した時点で血で血を洗う抗争が待っている。

 はっきり言って、白面金毛と鵺が――鵺に関しては”おそらく”ではあるが――消滅したこのタイミングで身内同士の争いなどやっている暇はないのだ。

 結果、酒呑童子陣営もぬらりひょん陣営も、件には手を出せずにいた。

 

 さて、そんな件だが、件は未来を予言する魔人である。

 ソレはすなわち、言い換えれば未来――時間に干渉する魔人だ。

 それが、この日――

 

 

 ――殺されていた。

 

 

 そこには、一人の少女がいた。

 ()のような特徴を持つ、細身の少女。

 食い殺されているのだ、あの件が。

 七大魔人の中でも、マナ総量で言えば随一の怪物が、その少女に。

 

 もしこの光景を、百鬼セオが見ていれば語るだろう。

 眼の前の存在の名を。

 とがった時間から曲がった時間を観察し、時間への干渉を確認すると、干渉した存在をどこまでも追いかける――猟犬。

 

 

 すなわち、ティンダロスの猟犬。

 

 

 件のような、未来予知がそうであるように。

 百鬼セオの原作破壊もまた――言ってしまえば、時間の干渉だった。

 かくして、次なる戦いは間近に迫る。

 七大魔人ではない、本物の神格。

 人が絶対に対峙してはいけない狂気の一角がいまここに、顕現しようとしていた。




というわけで二章はここまでになります。
三章はセオの物語のここまでのひとまとめになる予定です。
投稿は2週間後くらいから……そろそろあれも近いので……

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