「招来空間! 百鬼阿封ッッ!!」
ミホノは即座に魔滅場開放を行った。
世界が凍てつく冷気に覆われる。
周囲に被害が出るからとか、そういう理由じゃない。
目の前の敵を絶対に逃さないためだ。
「ミホノ、待ってくれ!」
「嫌です! 今回ばかりはセオ様のお願いでも聞けないです! この前はずーっとずーっとニイアニイアニイア! それでもミホノ我慢したのに、今度は見たこともない女を侍らせて!!」
「あう?」
「ミホノのイガイガはもーーーーーーげんっっっかいなのです!!」
途端に、ミホノは呼び出した大量の機関銃を立て続けに発砲する。
銃弾は俺をすり抜けこそするものの、その余波までは考慮に入っていないようだ。
周囲が穿たれ、冷気に支配された世界の足場である氷が弾丸によってガリガリと削られた。
その氷によってあっという間に視界は白へ染まり、余波で俺自身も大きく吹き飛ぶ。
ミホノとティナは、白に飲まれて見えなくなった。
「ミホノ!」
確かにニイアにばかり構っていたのは悪かったと思う。
ミホノには随分と無理をさせてしまった。
だっていうのに、その後の俺はティンダロス対策で修行ばかり、ミホノを心配させてしまっていたはず。
その上これでは、ミホノの怒りは致し方のないことだと思う。
だが、
そうじゃないんだ、俺が待てと言った理由は、ミホノに言い訳をするためじゃない。
「ダメだ、相手が悪すぎる!」
俺の叫び。
直後、白の中から一つの気配が飛び出したのが見えた。
ティナが、今の俺だとほとんど視認できない速度でミホノに突っ込んでいく。
機関銃は相変わらず掃射されていて、弾丸が飛び交っているにも関わらず。
ティナはそれを完全に無視しているのだ。
「なんで効かないですかー!」
「なんで……ってー」
そして、ティナはミホノの目前まで迫っていた。
慌ててミホノは得物である鎌を振るおうとするが、
「君が、弱いからだよ?」
ティナの蹴りが、ミホノの鳩尾に叩き込まれた。
「ミホノ! 大丈夫か!?」
蹴り飛ばされたミホノは大きく吹き飛び地面に直撃。
氷が粉砕され、煙となってあたりを覆った。
俺は慌ててミホノの元へ駆け寄っていく。
「ふ、ざ、く、ん、なーーー! です!」
直後、煙の中からミホノが巨大化して飛び出す。
現状のミホノの最強形態。
でもこれでも、ティンダロスの猟犬……本物の神話生物に勝利できるかは、かなり怪しい!
「ふみふみするです!」
「でかーい! でもそんなの……こけおどしじゃん!」
ティナを踏みつけようとするミホノ、それを掻い潜ってティナがミホノに飛びかかる。
俺は刀を抜き放って身体能力を強化しつつ、二人の方へと向かってかけた。
その間に、ティナはミホノの体を駆け上がり、ミホノはそれを追い払おうとする。
「てい!」
「あう!」
ティナの動きは直線的だった。
常に直線を描くように動き、あるところで急停止すると直角になるよう再び動く。
その特徴的な動き方はティンダロス特有のものだろう。
直線的であるが故に読みやすく、対抗する分には容易に思える。
しかし、それはティナの動きについていければの話だ。
「ていていていていてい!」
「あうあうあうあうあう!」
二人のセリフだけ見ればなんか緩いやり取りだけれど、両者の力の差は歴然。
ミホノはティナの機動力に翻弄され、ほとんど身動きが取れていない
ティナは足元から一気にミホノの体を駆け上がり、打撃を与えていく。
最終的に顔のあたりまで飛び上がると、おでこにぱこんと蹴りを叩き込んでミホノを転ばせた。
「あうーん!」
「ミホノー!」
転んだミホノがしゅるしゅると縮む。
巨大化しては機動力で劣って勝負にすらならないと判断したのだろう。
俺はちょうど、ミホノが元に戻ったところで現場にたどり着いた。
「あんまり無茶しちゃダメだミホノ、相手はティンダロスの猟犬なんだ!」
「ぐるるるー! わかってるですけど、許せないです!」
ティンダロスの猟犬に関しては、すでに情報は共有済みだ。
だからこそこうして、俺は修行を優先していたわけだし。
まさか求婚されるとは思わなかったが。
「んー、その子ずるいぞー! ボクだって百鬼セオに心配されたい!」
「ふんだ、ミホノはセオ様のお嫁さんなのです! ポッと出のワンちゃんには譲らないのです!」
「えー、ボク知ってるよ。二人はまだ結婚できないんでしょー? だったらボクがお嫁さんになっちゃうもん!」
「だいたい、セオ様のどこをそんなに気に入ったです! 禁断の関係に憧れたとか、そんな恋に恋する理由絶対に認めないです!」
なんかニイアに飛び火したぞ?
二人は捲し立てるように言葉のドッジボールを続けている。
俺が入る余地がないな。
「んー、百鬼セオを好きになった理由? んー、そうだなあ」
そしてティナは少し考え込んでから、答える。
「弱いから、好き」
そう、本当に愛おしそうな様子で、言い切った。
「は?」
それに全力で異議を唱えるのはミホノだ。
俺は俺で異論はあるけど、否定はできない部分もあるのであんまり反論もできない。
「そんなことないです、セオ様はさいきょーなのです! ニイアのおばばもコテンパンにしました!」
「どうせそれってニャルニャルのルールの中で勝っただけでしょ? そんなの強さだなんて言えないよ。何より百鬼セオには才能がないじゃん!」
「才能がないのに、ミホノよりずっとずっと強いから……だからセオ様はさいきょーです!」
……まあ、実際。
二人の言葉はどちらも正しいと言えば正しい。
俺には才能がない。
だけどそれでも、なんやかんや色々な方法で敵を倒してきた。
俺自身の才能がなくたって強くなれることを強さとするなら、ミホノの言う通り最強なんだろう、俺は。
正直、どっちかを正しいとすることは俺にはできない。
でもこの場合、俺がどちらに味方するかは、考えるまでもないことだった。
「そこまでだティナ、ミホノは間違ってない。君も間違ってはいないけど、だからと言ってミホノの言葉は否定するべきじゃない」
「むう、自分が一番弱いってわかってるくせに! その子の妄信を味方するんだ!」
「妄信じゃない、ミホノはミホノの意思で言ってるんだ。それに、俺がミホノを味方する理由はもう一つある」
「それって?」
俺は刀に生ける炎の力を纏わせて、ティナに向ける。
「俺だって、強くなりたい。だから弱いって言われたら、それを力づくで否定したくなるんだ」
「セオさま……」
「ふぅーん」
正直、ここで俺たちがティナに勝てるかどうかは、はっきり言って完全に未知数だ。
先程のティナの直角的な動きだけなら、俺はそれに対抗できる。
生ける炎を纏った俺は、それくらい強いつもりだ。
しかし、ティナの強さがそれだけとも限らないのだ。
まず間違いなく、他の手札や切り札とも言えるものを持っている可能性は高い。
それでもこの場で、俺がティナと戦わない理由はない。
ミホノが強いと言ってくれた“俺”を守るためにも。
「
「やっぱり……?」
さっきから気になってたけど、ティナは俺のことを知っている……?
「なんでもいいじゃん! さぁ、やろうよ! そっちの子も一緒に来ていいよ!」
「ミホノを……おまけ扱いするなです!」
一触即発。
今まさに戦いが始まる気配。
俺は眼帯に手をかけて、そして……
「ちょっと、まったー」
不意に、
俺とミホノにとっては聞き覚えのある声。
ティナは不思議そうに上を見上げて、口を大きく開けて驚愕する。
そこにいるのは、先ほどのミホノをさらに巨大にし、大事なところを氷で隠した女性。
すなわち、ティナがその名を叫ぶ。
「ア、ア、ア……アフーム=ザー!?」
あふあふさんが、俺たちの戦いに待ったをかけた。