推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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六十九 あふあふさんが通る

 あふあふさん、もしくはアフーム=ザー。

 地球に存在する神話生物の一体で、凍れる炎とも称される。

 そんなあふあふさんとの付き合いは思いの外長く、ミホノが魔滅場開放を使えるようになって以来、ゆるい友好関係を築いていた。

 いや神話生物とゆるい友好関係ってなんじゃーい、と思うかもしれないが。

 なんか……だって……本人がゆるいし……

 

「そこまでー、いかーん、ここでそんなことしてはいかーん」

「な、な、なーんで人間の心象風景の中に凍れる炎が出てくるのさー!」

「それはー」

「ミホノとー」

「あふあふがー」

「マブ!」

「だからー!」

「普通に喋って!」

 

 ティナとしては、子どもの喧嘩に大人が上から介入してきたみたいで、気に入らないのだろう。

 もっと言えばここはミホノの精神世界みたいなもの、そんな場所でガチの神話生物が出てくるとか冗談じゃない。

 ティナはティンダロスの猟犬という種族の一人だけど、あふあふさんはマジモンの神だからな……色々と格が違う。

 

「まぁー、理由はいろいろあるのですがー」

「ですです」

「ねむいから、今日はこのまま……寝てもいいー?」

「ですです」

「じゃあ寝てる間にやるよ!」

「だめー」

「理不尽だなぁ」

 

 だんだんと、ティナはその場で地団駄を踏む。

 そしてミホノはあふあふさんに共鳴してIQが下がり始めた。

 今だ! ミホノをよしよししまくって正気を失わせて沈静化させる!

 

「せめて理由くらい教えてよ! なっとくできない、納得できなーい!」

「えー、めんどうだなー、むにゃむにゃ」

「あうあうあうあうあうあうあうあうあうあうー!」

「そっちはそっちでうるさーい! っていうかボクの前でいちゃこらすんの止めてよ!」

「しょうがないだろ、こうしないとミホノがまたヤンデレモードに突入するんだから!」

 

 ヤンデレは正気にしてならず。

 ミホノが冷静じゃなくなれば、いろんなことが有耶無耶になるんだ。

 いや、ティナとの対決が有耶無耶になるのはちょっと残念なところもあるんだけど。

 勝機が完全に不明なうえ、生ける炎の一週間昏睡はやっぱり代償として重いからなぁ……

 んで、そんなティナはあふあふさんに食い下がって理由を聞こうとしていた。

 多分聞かないほうがよかったと思うような理由だぞ。

 

「えとねー、んとねー」

「もーーーーー!」

 

 やたらともったいぶるあふあふさんと、イライラ有頂天のティナ。

 そんなティナに対してあふあふさんはのんびりとした様子で――

 

「だって……生ける炎様の力を使うとか……あふあふさん尊死しちゃうから……」

「そんな理由!?」

 

 ――まぁ、でしょうね。

 あふあふさんは生ける炎の狂信者だ。

 俺達があふあふさんとゆるい友好関係を築けているのも、俺が生ける炎の力から力を手に入れているから。

 まぁそれくらいじゃなきゃ、神話生物なんて見ただけで発狂するとんでもない存在なんだ。

 俺達人間と、交流を深めたりしないだろう。

 

「むー! もー! なにさなにさ! ボクだって百鬼セオのこと大好きなんだもん! 尊死しちゃうくらい好きだもーん!」

「そうー?」

「いいよ! いいもんね! 今日のところはこれくらいにしてあげる! でも、次は凍れる炎に頼るなんて情けない真似はやめてよね!」

「いやそれは……まぁいいや。今日のところは退いてくれるなら、その方が助かるのは事実だ」

 

 別に頼りたかったわけではないんだが、言ってもややこしくなるだけなので止めておく。

 ティンダロスの猟犬に”勝てる”というビジョンがない俺にも、責任はあるのだ。

 それはそれとして、ティナは俺にヘッドロックされているミホノにあっかんべーをして、その場から消失した。

 足元に砕けた氷の破片が転がっていたから、その角から帰っていったんだろう。

 

「あうううー……はっ! あいつどこ行きやがったですか!」

「帰ったよ。あふあふさんの介入でやる気が削がれたみたいだ」

「むきー! 次はこうは行かないです!」

 

 そして俺がミホノをヘッドロックから解除したところで、ミホノが正気に戻った。

 ちょっと人に見せられない顔してたからな、戻れてよかったぞ。

 

「んじゃー、あふあふさん、ねるからー。あふあふー」

「おつおつですー」

「ちょっとまってくれ、あふあふさん」

 

 んで、それを見届けたあふあふさんがこの場から離れようとしたところで、俺が待ったをかける。

 

「んんー、なにかなー、あふあふさん眠いからー、手短におねがいねー」

「それなんだけど……やっぱり俺の修行に付き合ってもらえないかな。無茶を言っているのは解ってるんだが」

「人の都合にー、付き合うりゆうは……ないかなぁ」

 

 これは前から頼んでいることではあるのだが、あふあふさんに修行の相手になってもらいたいのだ。

 といっても、あふあふさんの言う通りそれにあふあふさんが付き合う理由はない。

 ニイア達との対決にも手は貸さなかったし、あくまで俺達とあふあふさんは気の合う友人という間柄でしかない。

 流石に途中で本物ニャルや例の触手が降臨したタイミングで反応はしたみたいだけど、その時点でほぼ事件は終息していたからな。

 あと単純に、時間的なスケールがあふあふさんと俺達では違う。

 そうして反応したはいいものの、行動を起こしたのは一週間後――つまり俺が目を覚ましたタイミングだった。

 まぁ、ある意味でちょうどいいといえば、ちょうどいいタイミングではあるけどな。

 

「こっちとしても、前回頼んだ時はダメ元だったけど、今回はできれば受けてほしいんだ。もちろん、前回と違ってこっちから提供できる報酬はあるぞ」

「んー、なーにー?」

 

 まぁそれでも、こうやって話を聞いてくれるだけあふあふさんは友好的だよな。

 そこに――

 

「今度は、()()()()()()()使()()()()()()()

「んひょ」

 

 俺は特大の餌をぶら下げた。

 今まで俺は、生ける炎の力を使っての修行は殆どやってこなかったんだ。

 小学生時代は使ったあとの代償が重かったし、一週間になった白面金毛戦以降は、七大魔人や神話生物の脅威があったからおいそれと使えなかったのである。

 だが、今回ばかりはそうも言っていられない。

 相手はティンダロスの猟犬。

 ティナだけなら、まだ今の俺でも打倒できるかもしれないが、果たして話はそれだけで済むだろうか?

 最善を期するためにも、俺は修行をもう一段上のステップに進める必要があった。

 ただの魔祓刃開発じゃ進展が見込めないのも、この一ヶ月で散々わからされたしな。

 

「だ、だめだめだめー、た、耐えられるわけないよー。生ける炎様を直視とか、正気イキしちゃうー」

「正気イキってなんだよ……」

 

 そんな正気が削られることに興奮を覚えるみたいな。

 初めて聞いたぞそんな概念。

 

「だったら段階的にやるから。刀に生ける炎を纏わせるやつなら、もう既に視てるだろ?」

「そ、そうだけどー……アレも心臓にわるかったんだからねー?」

 

 ニャル戦が終わったあとの説明で、エンチャントファイアについてはあふあふさんに説明している。

 というかなんなら、今も実際に刀に炎を纏わせているのだ。

 

「む、むむむー、確かに生ける炎様の炎を見れるなら……あふあふさんにもメリットはある……けどー……あふあふさんが正気を保てるか……わかんないしなー」

「正気を保てないと……どうなる?」

「……地球が保つといいねー」

 

 こわっ!

 いやそれは確かにやばいや。

 やばいけど、神話生物ならやりかねない。

 特にあふあふさんはガチ神格だ。

 こんな感じで緩いけど、普通に話できてるけど!

 と、そんなときである。

 

「あのあの、あふあふさん」

「んー、どうしたのみほみほー」

 

 ミホノが、真剣な顔であふあふさんを見上げる。

 意外な表情だ、普段はあふあふさん並にゆるいか、般若のような顔しかしないミホノが。

 こんなにも真面目に、何かをお願いしようとしている。 

 そしてそれは多分……俺と同じお願いだ。

 けど、はたしてあふあふさんが、それを聞いてくれるだろうか。

 そんな俺の疑問に対して、あふあふさんは――

 

 

「……ミホノからも、お願いするです。ミホノ達に、けーこつけて欲しいです!」

「いいよー」

 

 

 即答した!?




正気イキは邪神にしかできない最高に邪神らしい行為……?
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