推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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七 転生者は視ている

 原作開始から約十年ほど前、俺の時間軸からしても約十年後。

 空から降ってきた隕石と、それに由来する魔人の存在から始まった大きな事件。

 通称「大崩落」と呼ばれるそれは、数年にわたる大戦争の後、この国の魔祓師を壊滅させた。

 結果として魔祓師は深刻な人材不足に陥り、若い子どもですら前線に駆り出されることとなる。

 それが「魔祓師フウマ」の根底にある大きな時代の枠組なわけだが、そんなこととは関係なく事件は起きる。

 

 少なくとも、俺の母親が死亡する事件が、それだ。

 父様に俺の修行が露見してから一年。

 俺が六歳になった時、それはおきた。

 百鬼家が守護するエリアのすぐ近くでおきた、比較的大きな魔人の出現。

 結果として父様は、守護のために出撃。

 屋敷には俺達家族だけが残される。

 その状況に置かれた時、俺は確信した。

 

 ()()()が来たのだ、と。

 

 兄様――百鬼ルトは天才だ。

 わずか八歳にして、規格外の才能と固有の魔祓刃を有する。

 しかしそれはあくまで、同年代の中では規格外という話。

 実践経験もなく、そもそも修行もまだ始めていない――才能ゆえに驕った兄様は、俺の修行を見ても自分には必要ないと切り捨てていた――兄様はまだまだ魔祓師としては未熟。

 実力で言えば父様とどっこいというのが今の兄様である。

 本人の自意識に反して、まだそこまで絶対的ではないのだ。

 だからこそ、俺達の屋敷に規格外の魔人が現れれば、母様が危ない。

 故に俺は、一人こちらに来るかもしれない魔人を発見するべく、解郷を使用していた。

 

「おい、何をしているんだ、お前」

「あ、兄様」

 

 外で解郷を使っていると、兄様に声をかけられた。

 空は黒ずんでおり、怪しげな気配が漂っている。

 現在俺達がいるのは疑似まほろば結界と呼ばれる結界の中で、魔祓師と魔人が争うためのよくある都合の良い空間の中だ。

 これが展開されると、マナを所有する生物は全員結界内に閉じ込められる。

 なので、外に出ているのは危険なのだ。

 兄様が声をかけてきたのは、母様の言いつけで危ないことをしているかもしれない俺を止めるためだろう。

 

「今は解郷を使用しています」

「見ればわかる、そんな使えない魔祓刃で何ができるんだ。俺の手を煩わせるな、屋敷に引っ込んでいろ」

 

 現在俺は片手を目の辺りにかざし、その隙間から瞳を魔眼のように光らせている。

 これが解郷を使用していることを示しており、かっこいいが前にも言ったように解郷は使えない魔祓刃として知られている。

 なお、例の俺がおかしくなった件で母様はやはり解郷を禁止するべきでは? という話にもなった。

 が、なんとか最初の約束を守ってもらう形に落ち着いた。

 解郷は一般的に使い道のない魔祓刃だが、俺はそうは思わないからだ。

 

「解郷は視界を媒体に発動する魔祓刃です。効果はまほろばを視るというだけのものですが、まほろばを視ている間、視界はまほろばにあります、つまりですね兄様」

「……いい、やめろ。お前がまたおかしなことをしているのはわかった」

()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()なわけです」

「いや本当に何を言っているんだ」

 

 こうすることで何ができるか、理屈としては単純だ。

 現実から発動するとまほろばが見えるなら、まほろばから解郷を使えばどこが見えるか。

 すなわち――

 

「二重使用すれば、()()()()()()()()を視ることも、鍛えることによって可能なのですよ」

「いやまて、それはおかしいだろ。そんな使い方ができるならば誰かがそういう使い方をしているはずだ」

「習得難易度が高いのですよ、俺も()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()

「――――は?」

 

 この使い方は、前世の頃から考えていたものだ。

 原作において、「まほろば」から解郷を使う場面が一度だけあった。

 その時、現実の光景が視界に映ったのである。

 これを登場人物が試した時、周囲の人間はそんな使い方初めて見たと驚いていた。

 だから、こういうこともできるのではないか――と。

 

 俺が解郷を習得したのは、光弾を習得してすぐのこと。

 ミホノとの会合で光弾の話をした直後くらいかな。

 それ以来、俺は常に解郷を使用していた。

 寝ている時以外は、ずっと、ずっと。

 使っていると常に目が光って鬱陶しいので、眼帯をしながら。

 以前解郷であるものを視てぶっ倒れた時に、手癖で眼帯を手に取ろうとした時もあったよな。

 あの時、俺がおかしくなったのもあって、あのあと眼帯の使い方を母様に追及されて危なかった時もあったっけ。

 習得してわかったのは、習得難易度がえげつないということ。

 俺はマナにまつわる才能は皆無だけど、根気強さにだけは自信がある。

 そんな俺が、半年かけてやっと習得できたものを、他の人間が習得するとなると――中には()()()()()()()()人もいそうだな。

 俺も、片目でまほろばを見ながら、もう片方の目で迫りくるマナを回避する修行とかをやって、やっとだ。

 とにかく。

 

「――そんなことより兄様。こちらに接近している魔人がいます」

「いやまてそんなことじゃないだろ、いい加減お前のそのおかしな頭が……何? こちらに?」

「はい、父様たちが戦っている戦場ではなく、この屋敷に一直線に」

 

 俺はようやく、本命だろう魔人を見つけた。

 正直、最悪だと吐き捨てたくなる相手だが――その魔人の名前を口にする。

 

()()()です。最上級魔人の」

「な――」

 

 兄様は、俺に対する絶句とはまた違う絶句の仕方をした。

 先ほどのそれは、完全に理解を拒んでいるような感じだが、今回は怒りとありえないという感情がないまぜになったような。

 どちらの脅威度が高いかはともかく――

 

「ここは危険です兄様。母様を連れて逃げてください」

「いやまて。最上級魔人だぞ、お前死ぬつもりか――」

「……俺がそう言わなければ、兄様がここに残りますよね」

「――!」

 

 魔人。

 俺達魔祓師の敵にして、人類の敵。

 その始まりは、今から太古の昔、人類の中からまほろばに到達したものが出現したことから始まる。

 まほろばは豊かな土地であり、時には楽園とも呼称される場所だ。

 そこを自分のものにしようとした人間は、まほろばの現住生物――真生生物を狩った。

 真生生物は人だったり獣だったり様々な姿をしているが、その中でも獣の真生生物は人間にとっては餌にしか見えないものだ。

 結果として真生生物を食らった人間は――マナを得た。

 これが魔人の始まりである。

 

 その後、人型の真生生物が人類の世界に逃げ出し、人に救われ結ばれる。

 そこから生まれた子どももマナを有しており、善性の人間は魔祓師に、悪性の人間は魔人に分類されるようになった。

 真生生物を食らった魔人は、人をやめ強大な力と長い寿命を手にする。

 そして長く生きた魔人を、最上級魔人。

 悪路王はその中の一体だ。

 前世の伝説上の人物だか妖怪と同じ名前をしているが、存在は全く別物である。

 漫画のモチーフとして、妖怪の名前を使っているというだけだな。

 何にしても――

 

「流石に最上級魔人となれば、俺でも兄様でも勝てません。二人で挑んでも同じです」

「ふざけるなよお前、俺は天才だ。この世で最も優れた存在だ。だから――」

 

 きっと原作では、兄様は悪路王に戦いを挑んだのだろう。

 天才としての驕りと、母を守るという使命のために。

 そこに間違いはなかったと思う、でも――結果として母様は死ぬ。

 それは、避けたい。

 だから――

 

「兄様にとって、俺と母様。どちらを優先するかは明らかですよね」

「……!」

 

 俺は、そう告げる。

 兄様は俺を見下しているし、避けている。

 慕っている母様より優先する理由はない。

 だからこう言えば、兄様は母様を優先してくれると思ったのだ。

 しかし――

 

「だが……」

 

 兄様は、どういうわけかためらった。

 もしかして、俺にも多少なりとも情のようなものがあったのだろうか。

 俺が死んだら母様が悲しむだろう、とか、そんな感じの情かもしれないけど。

 でもそうだったら、少しうれしい。

 とはいえ、今は口論している暇はない。

 もうまもなく悪路王はここまでやってくるのだ。

 ――そういえば、そうだ、一つ言い忘れていることがあった。

 

 

「それに、俺には勝ち目は薄いですが、悪路王を倒す算段があります」

「ああ、それなら任せた」

 

 

 あっれぇ?

 なんかめちゃくちゃすんなり受け入れられてしまった。

 そこはもうちょっとこう、疑ったりするものじゃないんですか兄様?

 なんか、兄様の俺に対する認識がおかしいな? と思いつつ。

 

「母様は絶対反対するでしょうから、むりやりにでも連れて行ってください」

「わかっている」

「魔祓刃を使うと探知されると思うので、使うこともないように」

「そのような子どもの言いつけみたいなことを言うな」

 

 結局、トントン拍子で兄様は去っていってしまう。

 直後、なんか言い争う声が遠くから聞こえたと思ったら、凄い音がして屋敷が揺れた。

 ……兄様、母様を無理やり連れて屋敷をぶっ壊しながら脱出したな?

 いやまぁ、いいんだけど、疑似まほろば結界が消えれば破壊もなかったことになるし。

 でも後で兄様と二人で説教は確定だ。

 

 ――さて。

 それから少しして、俺の悪路王を捉える解郷の視界が、だんだんと屋敷に近づいてきた。

 そして――

 

 

『なんだ、百鬼ルトはいないのか? おい、小童(ガキ)。百鬼ルトはどこだ』

 

 

 ついに、悪路王は現れる。

 巨大な鬼だ。

 数メートルもある鬼が、俺を見下ろしている。

 

 ――さぁ、ついにこのときはきた。

 二年間、俺はこの時のために準備をしてきたのだ。

 その成果を、命をかけて披露する時が、やってきた。




能力の変な使い方を思いつくことに関しては、一種の天才とも言える主人公です。
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