――もともと、俺の提案で八割型受ける方向に意思が傾いていたところを、ミホノのお願いで完全にころんだ感じらしい。
そういうわけで、俺達は次の日からあふあふさんの稽古を受けることになった。
なお、あふあふさんは正気が削られるガチ神話生物なので、慣れている俺とミホノ以外は発狂の危険があり不参加だ。
唯一参加できそうなニイアは、ミホノが直々に出禁を通達している。
「というわけで、よろしくですなのです!」
「おー」
「よろしくお願いします」
その日、俺はミホノと二人でミホノの心象世界――魔祓場を訪れていた。
あふあふさんもやってきて、パチパチと俺達の言葉に拍手をしている。
その一挙手一投足で空気が揺れ、大地が振動していた。
スケールがちげぇや。
「ふたりともー、にあってるー」
「気合い入れたです! ふんすふんす!」
「道着……あるもんだなぁ」
俺達はミホノの家から借りてきた道着を着ている。
雰囲気を出すため、だそうな。
なんでミホノの家かって言えば……百鬼家にそんなものはないからだよ……
「それじゃあかくにーん、二人はどうやって強くなるのー?」
「俺は、魔祓刃の開発が当初の目標だったんだが、それが行き詰まってるので生ける炎関係を本格的に鍛えることにした」
「あのバカ犬をぺんぺんできるようになりたいでーす」
「そっかー」
説明の方向性が違いすぎる……!
「みほみほはー、正直だいぶ伸び代に限界があるねー。一番手っ取り早いのはあふあふを”視る”ことなんだけどー」
「流石にそれは厳しいんじゃないか? 七大魔人でも耐えられなかったんだぞ」
「うー、失敗したらイコール死なのが厳しいですー」
「ならいっそ、失敗しても死なないようにするのがいいかもー」
「まぁ、それは俺も考えたよな」
あふあふさんの現在の姿は、向こうが俺達に合わせてくれたものだ。
人型になるってだけで、削られる正気は随分とマシになる。
なのでそうしていない本体を解郷で”視る”――つまり俺の生ける炎形態と同じ事をやるのが、多分一番手っ取り早い伸び代。
なんだけど、流石にそれをするのは難しい……っていうのはあふあふさんも同じ事を思うらしい。
「ちなみに俺に対してアドバイスは?」
「ないよー」
「そっかー」
まぁ俺は、既にビジョンがあるからな。
本当に何も言うことがないんだろう、それは俺も感じてる。
むしろ問題は、あふあふさんが生ける炎形態を見て正気を保てるかの方だよな。
そっちはそっちで、何かしら考えないと行けない。
「ぎゃくにー、君はみほみほの強化案について何か考えはあるのー?」
「まぁ、やっぱ一番はあふあふさんを”視る”ことだよ。……他にもリズ先輩の半魔形態とかあるけど、アレは特殊な血筋が必要だし……何より半魔形態の方があふあふさん形態より出力低いからな」
原作において、魔滅場開放以上の大幅なパワーアップは二回行われている。
一つはリズ先輩と原作主人公のコウタロウだけが使える半魔形態。
もう一つが、原作終盤でコウタロウが覚醒した隕石の魔人を取り込んだ最終形態。
後者に関しては生ける炎形態並の出力を手に入れることが可能な気がするんだけど、個人的にはこの形態は生ける炎形態とイコールではないかと思うのだ。
隕石の魔人――おそらく続編に置いては神話生物に属することとなるだろう存在――の力を借りる。
これは、生ける炎形態と何ら変わらない。
あふあふさんを見た場合でも、原作コウタロウの最終形態と同じ状態になる可能性は高いのだ。
「結局、安全にあふあふさん形態を視る練習をするのが一番手っ取り早いか」
「だねー」
「ですかー」
じゃあ、どうするのか?
とりあえず一番手っ取り早い方法は、あふあふさんをもっとより近くで感じることだろう。
「というわけであふあふさん、前に話した通り頼む」
「んー」
「……な、なにするですか?」
「ミホノは前に、俺と兄様が護摩行で生ける炎に慣れようとしたのは、知ってるよな?」
「…………猛烈に嫌な予感がするです」
はい。
ミホノはちょっと俺達から距離を取った。
逃がしません。
がしっと、俺はその手を掴む。
「あうー!」
「……よし、あふあふさん。俺達を
「がってーん」
「あうー!?」
かくして俺とミホノはあふあふさんの手によって持ち上げられ、浮く。
そのまま巨大なあふあふさんが、俺達を両手で抱え込んだ。
「あうあうー!?」
「……これは、すごいな」
あふあふさんの体は、不思議な状態にある。
冷たさと暖かさが、同時に襲いかかるのだ。
それがさらに俺とミホノを抱きしめて、なんともすごい状態になる。
「あうにゃみゃみゃー!」」
「意識を強く持てミホノ! 正気を削られないようにするんだ!」
あふあふさんにより近づくことで、正気はさらに削られるだろう。
何より、クソでかい女性に包まれる感覚ってのは、なんとも言葉にし難いものがある。
相手は自分の上位者で、自分はすぐにでもその命を奪われかねないという恐怖。
それと同時に、圧倒的な存在感に包まれる経験は、人から正気をどんどん奪っていく。
俺はともかく、ミホノはこの状態に長く耐えられないはずだ。
そして長く耐えられないのは、ミホノだけではない。
「うあー、生ける炎様の炎にあぶられてうーーー」
「耐えるんだあふあふさん! 生ける炎形態はこんなもんじゃないぞ!」
俺は現在、刀に炎を纏わせている。
それにあふあふさんがやられかけているのだ。
というわけでこうして間近であふあふさんに生ける炎へ慣れてもらいつつ、ミホノにもあふあふさんに慣れてもらう。
これが今回の修行だ。
――だが、それだけではない。
「思うんだよ」
「んにゃにゃー! セオ様はどうしてこの状況でもそんなに落ち着いてるですかー!? ミホノは襲いかかる狂気と大きい女の人の圧でどうにかなってしまいそうですー!」
「ミホノが目指すあふあふさん形態には、この程度じゃ到底足りない、と」
「聞いてないです……あう!?」
そう、まだ足りない。
兄様みたいに、ちょっと生ける炎をエンチャントするくらいなら、この修行で問題ない。
ミホノも今はあうあうしてるけど、そのうち慣れてくるだろう。
でも、ミホノが目指すのは更にその一つ上。
俺と同じ立ち位置を目指すなら――もっと、精神的な負荷が必要だ。
どうするかって言えば、俺がここにいることが答えである。
なにせ、見ての通り俺にあふあふマッサージは必要ないからな。
生ける炎の刀をミホノに持たせればいい。
だから俺は――
「――ミホノ、すごいぞ」
「はにゃ!?」
「ミホノは、とっても頑張ってるぞ。ミホノはこんなにすごい子なんだぞ」
「はにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!?」
それはいうなれば、ASMRのようなものだ。
耳元で囁かれたらぞわぞわするし、その内容に応援や称賛の意図があれば人はそれに影響を受ける。
催眠ASMRというやつがあるだろう、ああいう感じでとにかく耳元でミホノを褒め続けるのだ。
「ミホノはえらいぞ、ミホノは……かわいいぞ」
「んにゃっ、へぐっ」
これは、俺にとっての鍛錬でもある。
ミホノは俺の前世における推し、そしてこの世界においても最も近しい人物だ。
そんな人にこんな風に呼びかけるというのは、さすがの俺だって気恥ずかしい。
それを乗り越えて、とにかくミホノを褒めまくることで、どんなときでも動じない心を育てるのだ。
「ミホノ、ミホノ、ミホノ」
「おひょ、んひゅ、んにぃ」
だから、耐えてくれミホノ――耐えるんだ――!
巨女に抱きしめられ、隣で俺のASMRにも耐えきれれば、ミホノはきっともう一つ上の段階に到れるはずだ――!
なお、この修行が終わってから、一日ほどミホノは完全に正気を失っていた。
先はまだまだ長そうだな……
なんだこの修行
【挿絵表示】
書籍版の表紙が公開されました。
セオと、ミホノと……兄様!
兄様の正統派サスケ系イケメンっぷりが光る。
個人的にミホノはかなりイメージ通りかと思いますがどうでしょう。
発売は4/30です、よろしくお願いしますー