さて、ミホノは少しずつだが俺ASMRとあふあふさんの狂気に慣れていった。
最初のうちはだいぶヤバそうだったが、今はちょっと人に見せられない程度で済んでいる。
問題は、あふあふさんの方だった。
どれだけ生ける炎で炙っても、全然慣れない。
いつの間にか尊死してしまうこと数度。
このままだと本当に存在が消えかねないということで、あふあふさんに慣れてもらうには別の方法を考える必要が出てきた。
俺の修行はあふあふさんが慣れないことには進行しないので、これは結構大事なことだ。
「どうしたものかー」
「どうしたものですかー」
「方法はあるんだが……多分反対されると思う」
ミホノハウス――俺がニイアの時に目を覚ました場所――で話し合う三人。
あふあふさんはハウスの外で体育座りをしている。
解決方法は、非常に単純なものだ……が、ミホノにとってもあふあふさんにとってもあまりうれしい方法ではないだろう。
具体的には――
「なっやんでるみたいだねー!」
ぱりーん、空間をかち割って奈留島ニイアが飛び込んできた。
サンタクロースの衣装で。
ミニスカの、肩が露出している感じの。
「……」
「……」
「……」
三者三様、ミホノは存在自体を認識していないような反応を見せ、あふあふさんは外で露骨に嫌そうにしている。
俺は、どうしたものかなぁとそれを観察していた。
「うっふーん」
「おえっ」
「今吐きそうになったの誰ぇ!?」
ミホノとあふあふさんどっちもです。
ともあれ、ニイアがやってきたことで修行自体は可能になった。
あふあふさんは絶対いい顔しないけど、ニイアなら勝手にやってくれるという信頼が俺にはある。
「というわけでニイア、今からあふあふさんとバトってくれ」
「あの、せめてサンタクロース姿に突っ込んでくれない? 今夏じゃーん、とか。ほら、なんか……さ! あと一応セオくんのお手伝いにきたつもりではあるけど、アフーム=ザーと直接戦闘は無茶だよ!」
「というか、だ」
「なぁに?」
俺はちらりと外に視線を向ける。
窓の向こう側では、あふあふさんの様子に変化が見られた。
具体的には――
「あふあふさん、もう既にやる気だぞ」
「ぱちこん」
「へっ」
あふあふさんの足が、今まさに俺達を踏み潰そうと迫っている――!
さらにミホノが指を鳴らすと、さっきまで俺達が休んでいたミホノハウスも消失。
直に足がニイアを狙う。
すでにそうなることを察知していた俺とミホノは、ささっとあふあふさんの足が振ってくる範囲から飛び退いた。
「ぐえええええ! こ、これミホノちゃんに押しつぶされそうになった時と同じやつだあああ!」
「あの時との違いは、相手があふあふさんだから出力が桁違いなのと、ニイアが弱体化してることだな」
「冷静に解説してないでー!」
「ふーみふーみ」
ニイアはなんかこう、思いっきり踏ん張りながらあふあふさんの足を押し留めている。
なんで潰れないのかって、ギャグ補正みたいなものが働いてるんだろう。
メタ的な話ではなく、ニイアは這い寄る混沌の化身だからな、状況が面白ければ面白くなるほど本体から引き出せる力が変わってくるのは当然の話だ。
「というわけで、この状態であふあふさんに生ける炎を纏わせた刀を見せると」
「ふーみふーみ、ふおおおお!」
「興奮する」
「アタシの人生もハッスル気味にあの世へ行きそうだよー!」
「そのまま死んじゃってもかまわないのです」
普段なら、ここから尊さで耐えきれなくなったあふあふさんは正気を失う。
しかし、今回は継続してニイアを踏み続けていた。
「ふおおおおお! ふみいいいいい!」
「ぐええええ」
「普段なら耐えきれない興奮を、這い寄る混沌への殺意が抑えてくれてるってわけだ」
「おおー」
「冷静な解説ありがとー! できれば助けてくれると嬉しいなー!」
後はこれを、あふあふさんが慣れるまで続ければいいだけなんだが。
肝心のあふあふさんは、少し状況が改善しただけで未だ興奮中。
仕方ない、ここは例のアレを試してみるか。
「そういえば、前に話したよな。ニイアが強くなる方法」
「あー、そういえばあったねー! そっかぁ、つまりここで強くなればアフーム=ザーにも対応できるわけかぁ……って、バカ!」
「何がだよ」
「こんなところで覚醒イベントなんてやだ! アタシもっとかっこよく覚醒したい!」
わがままなやつだなぁ。
「ミホノも反対です! あんなやつパワーアップさせる必要なんてありません!」
「いやほら、今のニイアは基本的には味方って認識で大丈夫だから、戦力は多いに越したことないだろ」
「ううー、そうですけどぉ」
「ぐああああああ、そろそろ限界だよおおおおおお! 助けてー!」
だったらパワーアップを受け入れればいいだろ。
ええい、このままじゃ埒が明かない。
俺はこの場にいる”ある存在”に声をかけた。
「鵺! いるんだろ、でてこいよ!」
それは、鵺。
元七大魔人であるあいつは、現在ニイアと行動をともにしていた。
具体的には――ニイアのスカートのポケットから出てきたのである。
「んおー、なんだ……騒々しい……ってなんだこれはあああ!?」
「うわー鵺っち! 死にたくなかったらポケットの中戻ってな!」
「いや、呼び出されたから出てきたんだが……一体何なのだ!」
「っていうか鵺……なんか変わったか?」
ポケットから出てきた鵺は……可愛くなっていた。
前回、這い寄る混沌戦の時に見かけたちび鵺は、元の鵺をただ小さくしたような姿だったが、今は普通にマスコットみたいだ。
「ニイアと二人で色々ビジュアルを相談したからな……」
「かわいくなったっしょー! ってちがーう、それどころじゃないぐええええ」
「ふみー」
おっと、そんな事をしている場合じゃない。
俺は早速鵺とニイアに呼びかける。
「お前ら、ふたりとも這い寄る混沌みたいなもんだろ? だったら
「ゆ、YOU?」
「GO……?」
「まぁ……なんでもいいや」
要するに、ニイアのパワーアップ形態は鵺との合体だ。
現在の鵺は完全にマスコット化していて戦力にならないが、ニイアと合体すればその限りではないだろう。
というわけで、ニイアと鵺は二人でしばらく見つめ合った後――
「スーパーニャルラトパワー・メイクアーップ!」
叫んだ。
……仲いいな。
すると鵺が光を帯びて衣服に変化、更にニイアも髪が伸びて――
「チェンジ完了! スーパーニイアwith鵺!」
「見た目は……前の強化ニイアと同じだな」
「減価償却!」
ああそう……とりあえず、以前アルラを取り込んだ時のニイアと見た目は同じになった。
多分、あの時ほどパワーアップはしていないだろうが。
「よーし行くぞ鵺! うおおおおお!」
「うわーーーーーーー」
パワーアップしたことで、ニイアが少しずつあふあふさんを押し返そうとしている。
しかしあふあふさんも、這い寄る混沌のパワーアップで怒りのボルテージが上がってきたのだろう。
瞳の色から興奮が消える。
「なんのーーーーーーー」
「掛け声は……ゆるいな」
いつものことだが、あふあふさんは緩かった。
しかしこれなら、俺が生ける炎の力を借りても、あふあふさんが尊死しなくて済みそうだ。
「むうー、負けるなです! あふあふさーん!」
そんなあふあふさんを、ミホノが応援している。
ミホノの方も、俺ASMRに対して少しずつだが適応し始めているし、この分なら近い内に修行は次の段階へ進むことが出来るだろう。
ティナが撤退してから、数日。
向こうが次の行動に移るのはいつになるだろうか。
ティナの狙いが俺である以上、あふあふさんがいるミホノの心象風景にいれば危険はないだろうけど、急がなくてはいけないことに変わりはない。
さて、次は……
「俺も一肌脱ぐとしますか」
そう言って、実際に服を脱いだところ、ミホノとニイアが鼻血を出しながら気絶した。
「すきありー」
当然、ニイアはあふあふさんに踏み潰された。
脱ぐ必要はあったのかって? あるんだよ、一応。
このセオ様……すけべすぎる!