推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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七十三 ミホノのお願い

 俺は基本的に生ける炎の反動で倒れた時、夢を見ない。

 だけど今回は、不思議とミホノの夢を見た。

 ミホノの心象世界である魔滅場で倒れたからだろう。

 あるいは、今のミホノが今の俺と近しい悩みを抱いているからか。

 

 夢の中のミホノは、瀬戸場家の道場で一人修行に励んでいた。

 周囲に親や使用人の姿はない。

 時刻はもう夜も更け日を跨ごうかというところ。

 多分家人は、ミホノがこんな時間まで修行をしていると知らないのだろう。

 

 俺は知っていた。

 何せ俺もそのくらいの時間まで修行するのはよくあることだったから。

 たまに二人で魔祓具を使って通信をしながら修行した時もあったっけな。

 懐かしい思い出だ。

 

 俺の家には道着がない。

 魔祓師の中でも最底辺を余裕でぶっちぎっている家柄の百鬼家では、そんなもの必要ないだろってくらい諦観が満ちていたのである。

 だから、俺が使う道着は常にミホノが用意してくれたものだった。

 二人で同じものを来て、一緒に修行をするとなんとなく連帯感みたいなものが生まれて、これからも頑張ろうって気分になれたのだ。

 

 瀬戸場ミホノは、才能が乏しい。

 瀬戸場家の中では恵まれている方だけど、環境が悪く伸び代を伸ばせていなかった。

 そんな伸び代を、俺という存在が伸ばしたことで、ようやくミホノは人並み程度の才能を手に入れたのである。

 数年で魔滅場開放を成し遂げるのは、一般的には相当早い部類に入るが、ミホノの努力の量を考えれば遅い部類に入るだろう。

 

 原作主人公が魔滅場開放に成功したのは、魔祓師になってから一年も経っていない。

 リズ先輩や兄様は数年かかっているが、この二人はほとんど厳しい修行はしていなかった。

 もし原作主人公や俺とミホノくらいハードな修行をしていれば、半年も経たずに魔滅場を開放できていただろう。

 それくらい、俺たちと兄様達の間には絶対的な才能の差がある。

 

 それでも今のミホノは兄様に負けないくらい強いし、魔滅場開放も使えるが、本人はそれでは足りないというだろう。

 俺だってその気持ちはよく分かる。

 敵はどんどん強くなっていき、俺たちはそれをなんとしても倒さなきゃならないんだから。

 

 ただそれ以上にミホノが強さを求めるのは、俺にも原因の一端があるんだろうな。

 俺が強くなりたいのは、いくつか理由がある。

 そうするのが楽しいから、原作の悲劇を防ぎたいから、そして大切な人を守りたいから。

 でも、ミホノが強くなりたい理由は一つだけなんだ。

 それは、とても単純に、

 

 

 俺に、追いつきたいからだろう。

 

 

 +

 

 

 目を覚ます。

 一週間の昏睡というのは、どうにも毎度重苦しい覚醒を伴う。

 そりゃそうだ、どこをどう切り取っても身体に負担をかけまくっているとしかいえない所業なんだから。

 多分、寿命も削れまくっていると思う。

 具体的には一週間。

 

 そして目を覚ましたのは、今回もミホノハウスの中だった。

 今回もティンダロスの猟犬という脅威が差し迫っているから当然といえば当然だが、這い寄る混沌と決着をつけた後も、実はここで目を覚ましている。

 万が一のことがあったら困るというのもあって、基本的に安全なここで俺を休ませるというのが最近の定番になっていた。

 

 暖かな暖炉の火と、燃える薪の音だけが響く静謐な空間。

 視線を向ければ、以前と同じくミホノが本を読んでいる。

 

「あ、セオ様」

「おはようミホノ、何か変わったことはなかったか?」

「なーんにもです。ルトがまた呆れて、リズが爆笑してたです」

 

 曰く、ついにやったか、と。

 どうやら俺が修行ですら生ける炎を使うのは時間の問題だと思われていたらしい。

 

「ちなみに賭けをしていて、リズが勝ったらしいです」

「兄様はギャンブルやらせちゃダメなタイプだからな……」

 

 リズ先輩も大人になったらギャンブルにハマって酷い目に遭うんだけど、たまに大勝ちするから兄様ほどではない。

 兄様はなんかこう、どんどん深みにハマって行くタイプだからな。

 絶対良くない賭け方するぞ。

 

「それで、ええと」

「ん、ですです」

 

 ある程度近況を確認しあって、俺は起き上がりミホノと向き合う。

 今はあふあふさんもいないから、本当にここは二人きりの空間だ。

 沈黙が辺りを満たす。

 

「ええと」

「あのあの」

「……ミホノからどうぞ?」

「セオ様にお譲りするのです」

 

 お互いに、色々と言葉にしたい思いはある。

 というか、ここしばらく俺とミホノは面と向かって思いの丈を話し合ってこなかったのだ。

 それをどうにか伝えたいとは、お互いに思っていたはず。

 お譲りされてしまったので、まずは俺から口にするべきだろう。

 

「じゃあ……色々と心配をかけてごめん!」

「ん、許すー、のです。いへへ」

 

 ミホノがくったくなく笑みを浮かべる。

 いつも通りの、俺のよく知るミホノの笑顔だ。

 でもなんだか、少しだけ懐かしい気もする。

 

「学園に入学してから、ずっと大変なことばかりしてきて、そのたびに心配させちゃったよな」

「学園に入ってから月一くらいの感覚で炎にぼーぼーなのです。そのたびにミホノはひえひえしちゃうのです」

「悪い」

「悪いと思っててもセオ様は止まりませんし、止まってほしくないのです。その方がセオ様らしいですから」

 

 俺らしい、か。

 俺はここ最近、ちょっと迷走していた。

 魔祓刃を開発できず、成果が出なかったから。

 迷走するくらいなら、ちょっとくらい無茶をした方が、きっと誰から見ても俺らしいんだろう。

 自分でもあふあふさんとの戦いでそれを実感したからなあ。

 

「……でも、ちょっと止まって欲しいって思うミホノもいるです。ミホノ、悪い子です」

「それは……」

「だってセオ様が止まってくれないと、ミホノ追いつけなくなっちゃうですから」

 

 それは、きっとミホノが言おうとしていたことなんだろう。

 今度は俺が、ミホノの言葉を聞く番だ。

 

「ミホノ、セオ様にもっともっと強くなってほしいです。だからとってもとっても心配だけど、セオ様が必要だと思うなら止めません」

「……」

「でも、同じくらい思っちゃうです。ミホノはセオ様の隣にいたい。一緒に景色を見たいって」

 

 それこそが、ミホノの思うところだったんだろう。

 ミホノは嫉妬深いし、執着心も強い。

 だけど、無茶はしない子だ。

 だって俺が強くなる理由の一つに、ミホノを守りたいという意志が含まれているんだから。

 なのにああしてティナに()()()()()()()()()()()()()喧嘩を売ったのは、自分が許せないからなんだろう。

 

「だからミホノは、強くならなくちゃいけないんです! セオ様のために、何よりミホノが強くなりたいから!」

「ああ、分かってる。分かってるよ、ミホノ」

「ありがとうございます。セオ様、ミホノ決めたです」

 

 少しだけ泣きそうになるのを、ミホノはぐっと堪えて意志の強い視線で俺を見る。

 真っ直ぐと、揺らがない瞳が俺を見据えた。

 

 

「ミホノは、セオ様と同じ景色を視るのです」

 

 

 そんなミホノの瞳に光が宿る。

 解郷。

 まほろばを見るためにしか使えない、本来なら意味の薄い魔祓刃。

 それを二重で起動することで、現実を自由に観察できるというのが俺の特殊な解郷だ。

 その特性上、瞳に浮かむ解郷発動の光は、二重解郷を使うと独特に変化する。

 今、俺の前にいるミホノのように。

 

「……分かった」

 

 元々、あふあふさんの力を借りてミホノを強化するには、この解郷が必須だった。

 だから、ミホノはこの一週間で準備を終えたのだ。

 俺の隣に立つ準備を。

 

「視るぞ、ミホノ……俺と、同じ景色を!」

「はいです!」

 

 そうして俺たちは覚悟を決めて、

 

 

「え、人間の身であふあふさんの本体を視ると()()死んじゃうから無理だよ? そっちの頭のおかしい化け物がおかしいだけだよ」

 

 

 あふあふさんにバッサリ切り捨てられた。

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