あふあふさん曰く。
神話生物とは、その多くが真生生物の一種だ。
そして真生生物の中には、人間界で活動するために人型を取るものがそこそこいる。
これは原作の頃から言われていた話で、たとえば鶴の恩返しで助けた鶴なんかはこれに該当する。
この世界における鶴の恩返しは、偶然まほろばに迷い込んだ人物が真生生物の鶴を助けた後人間世界に送り返され、その後鶴が人間に変身して恩返しにやってくるという話になっている。
魔祓師と結ばれて人に真生生物の血を注ぐ真生生物も、人に化けた真生生物である場合が半数だ。
もう半数は最初から人型だったタイプ。
「だからこうしてー、私は人型になってるわけー」
「まぁ、そう言われるとそうなんだが」
あふあふさんは、俺たちに初めて接触した時からずっと人型だった。
それは俺たちの発狂を防ぐためだ。
「そっちのあたおかドージが神話生物を見てるのはー、ほんとに例外中の例外。普通なら見れるわけありませーん」
あたおかドージて。
あんまり俺のことを名前で呼ばないなあと思ってたけど、そんなふうに思われてたのか。
ひどくない? あ、ちょっとミホノは目を逸らさないで。
「それだったら俺があふあふさんを視る分には問題ないのか」
「理論上はそうだけどー、無理だよー。ってあちょっと、視るなへんたーい」
「セオ様変態さんなのです……?」
「違うわ。というか、視えないな」
「当然だよー、人が視ることのできる神話生物は一人につき一つだけだもの」
神話生物との接触は、固有の魔祓刃みたいなものらしい。
あれも一人が持てる固有魔祓刃は一つまでだ。
何事にも例外があるけど。
誰がどれを視るかっていうのは、やってみるまでわからないんだけど。
ミホノの場合は心象風景である魔滅場にあふあふさんが干渉しているので、あふあふさん一択だ。
これに関しては繋がっているあふあふさん側でも判別できるらしく、あふあふさんも保証してくれている。
「それで、俺が今このタイミングで這い寄る混沌を視ようとしても失敗するのか」
「あの時は這い寄る混沌の体内みたいな場所にいたからねー、例外にもなるさー」
というわけで、普通に神話生物を視ることはできないらしい。
「できなくはないけど、寿命を削るよー。使ったら最後、一生目覚めないかもー」
「やっぱ俺の昏睡って寿命削ってるんだな……」
「眠ってる間に体内を正常に戻してるから、最終的な寿命は変わらないけどねー」
「寿命削るタイプの能力で削るの前借りしてるパターン初めてみた……」
ミホノは、俺ほどではないけど神話生物に対する耐性がある。
でもやっぱり完璧とは言い難いし、もし仮に本物あふあふさんを視たとして起きるまでには一年を要する可能性があるとかなんとか。
一年でもすごいんだけど、現実的とはいえないな。
「でもそれだとおかしいんだよな……」
「なにがー?」
「ん、ああこっちの話」
もし仮にそうだとしたら、原作続編で神話生物の力を借りるようになったという俺の推測が外れていることになる。
だというのに、推測に基づいて行った行動は間違ってはいなかったわけだ。
加えていうと、原作最後で主人公のコウタロウが隕石の魔人と融合したことと矛盾する。
アレも今の俺みたいに神に近しい存在の力を視ることで取り込んでいた。
そしてその形態が解除されるとコウタロウは半年昏睡したのだ。
アレと、今俺が使っている炎鬼天生が無関係とは思えない。
「ぬむぬむですー」
「うーん……ミホノは何か考えはあるか?」
「えう? あう? おうー」
「何も考えてなかったな……?」
考えてそうな挙動をしていたけど、考えていない。
たまにミホノはそういう時がある。
「えとえと、なんかこう、もっと安全にできないですか?」
「安全に、かあ……」
俺はしばし考えて、そして、
「そうだよ、安全にやればいいんだ」
「えう!?」
これだ、という方法を思いついた。
「あふあふさん、もう少し自分の姿を本体に近づけることってできないかな」
「あー」
「おー?」
なんとなく察したらしいあふあふさんが、考え込むように腕組みする。
「できなくはない……と思うし、確かにそうだねーそれが一番いいのかなー……」
「あうあう、なんとかなるですか?」
「なるなるー……よね?」
「理論上は」
多分だけど、原作の続編で神話生物の力を借りる場合、何かしらのフィルターみたいなものを解郷に設けるのではないだろうか。
太陽を観察する時に目を保護するように、神話生物を解郷で視る時にも何かしらの保護をする。
完全に想像だけど、想像による推測をもとに、俺が神話生物による強化を成功させている以上、原作でも同じようなことが起きる可能性はあるはず。
今回はそれをささっと用意できないから、あふあふさんに本体へ近づいてもらって、それを視ることで解決するのだ。
「じゃあ、やってみるねー。ミホノが耐えられなくなりそうなら、ちゃんと止めてよね」
「解ってる」
「でーす!」
というわけで、あふあふさんが立ち上がって――さっきまで、話をするため体育座りをしていた――距離を取る。
やがて俺達があふあふさんの全体を眺められる位置まで移動すると――その姿が変化を初めた。
「……なんだか、どんどんもこもこしてきてるです」
「あふあふさんの本体は羊だった……?」
あふあふさんの体をおおう、冷気のような光。
それは冷気であり、アフーム=ザーの凍れる炎である。
ようするに、俺達は勘違いしていた――あるいは、あふあふさんが認識しないように工夫してくれていた――のだが、アフーム=ザーの本体は、人型の方ではなくそれにまとわりつく冷気の方だ。
それが、ゆっくりとあふあふさんの体を覆っていく。
「……なんだか、見ていて不安になってくるです」
「それが正気を削られるってことだろう」
「セオ様は平気なのです?」
「慣れた」
「えー」
ちょっと思うこととして、こうして本物のアフーム=ザーを直接俺が見た場合、俺も変化するのかという疑問がある。
一応、ミホノがアフーム=ザーの狂気に当てられて変質を起こすタイミングは、俺が狂気に当てられ始めるより早いだろう。
それに、ぶっちゃけあんまり意味もないのではないか、という推測もできる。
だって俺はアフーム=ザーよりもっとやばい神格を、直に見ているんだから。
そして一人につき一つしか神格を視ることができないという制約上、アフーム=ザーの力で変身しているタイミングだと、炎鬼天生は使えない可能性が高い。
まぁ、あんまり意味のあるとは思えないけど、何かに使えないかな。
とか思っていると――
「んにゃ、にゃにゃにゃ」
「大丈夫か?」
「なんかふわふわするですー」
ミホノが、ちょっとふわふわしてきた。
本人だけじゃない、その言動もちょっとあふあふさんに近づいている気がする。
そして――
ぽん、とミホノの服が平常時のあふあふさんみたいになった。
つまり、ビキニスタイル。
「はにゃっ!!」
「うお!」
ミホノは真っ赤になって、両手で大事な場所を覆い隠した。
「にゃにゃー! み、見ないでくださいセオ様!」
「あ、ああ、悪い」
……一応、夏に海へ遊びに行くときは毎年見てるんだけど、そういう話じゃないよな、うん。
「大丈夫だミホノ、あふあふさんはまだ本体になってない。ここから更に本体に近づけば、衣装も変化していくはず」
「あううー! そもそもどうして衣装が変化するですかー!」
「さぁ……」
「ところでみほみほってー、意外とおっぱいでかいよねー」
まぁ、ミホノって割と着痩せするタイプで、身長の割には存在感あるからな……
って、何を言ってるんだあふあふさん。
ミホノは更に真っ赤になった。
――それからしばらくして、あふあふさんの影響でミホノは更に変化するわけだけど、結局へそは出しっぱなしになって、ちょっと恥ずかしそうにしているミホノであった。
……正直かわいいと思ってしまったのは、言うべきなのか言わないべきなのか、俺には判断がつかないぞ。
ちょっといちゃいちゃの波動。
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