推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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七十五 こいつら交尾したんだ!

 最終的に、ミホノの変身は上手く行った。

 俺よりも狂気の汚染が少ないおかげで、昏睡する日数も一日で済むライト仕様。

 もしかしたらこれが続編における正しい神話生物の力の借り方なんじゃ……と思わなくもないものの。

 とりあえず、俺達は目的を果たした。

 俺に関しても、結局あの時発動は敵わなかったけど固有の魔祓刃自体は完成しているからな。

 修業の成果はバッチリといえる。

 そうしてかれこれ十日近く籠もってた俺とミホノ。

 学園の方はそろそろ夏休みに突入した頃のはず。

 日付感覚が曖昧だ。

 そうして戻ってきたのは、俺が修行場にしているまほろば学園裏山。

 そこには――

 

 

「セオくんとミホノちゃん、ご婚姻おめでとー!」

 

 

 ぱん、とクラッカーをならすリズ先輩と、シュリ先輩だった。

 なにそれ……

 リズ先輩はわからなくもないけど、シュリ先輩はなんでいるんだ。

 

「……なんのことです?」

「え、だってずっとミホノちゃんの魔滅場でくんずほぐれずだったんでしょ? 大人の階段登っちゃったんでしょ?」

「登ってませんが? というか誰情報ですかそれ!」

「ニイアちゃん」

「あいつ……!」

 

 そして当の本人はこの場にいないあたり、完全に嫌がらせが目的で嘘を吹き込んだんだろう。

 リズ先輩は、それを冗談だと解ったうえでからかっている。

 大してシュリ先輩は……

 

「うう……やっぱりこの年で不純異性交遊は、たとえ婚約者同士でもまずいと思うのよ。でも魔祓師なら家のしがらみでそういうことがあるっていうのは父さんからも聞いてるし……ううう……」

「完全に鵜呑みにしてらっしゃる……」

「祝福すべきか、説得すべきか迷っていたところを連れてきたのよ」

「あともう一つ聞いてもいいですか?」

「何かな?」

 

 俺は少し沈黙してから、神妙な面持ちで問いかける。

 

「……何故お二人とも水着?」

 

 そう、そうなのだ。

 リズ先輩はノリでそういうのを着てもおかしくないだろうけど、シュリ先輩まで水着とは。

 一体なんなんだ……と思ったけど、そういえば原作でもこの時期に水遊びのイベントがあった気がするな?

 

「いやほら、夏休みに入ったからこの山の大きな池で、皆で水浴びしてるのよ。ルトやニイアちゃんもいるわよ」

「ああ、なるほど」

「ここの水はマナが豊富だからねぇ、ついでに鍛錬にもなるってわけ」

 

 確か、そんな理由を適当にこじつけて、水着回があった気がする。

 割と序盤の頃の、まだ平和だった時期のイベントだから少しど忘れしていた。

 確かあの頃は、まだ原作のミホノ先生も健在だったなぁ……と思ったら。

 

「……ミホノ?」

「……なんか、顔真っ赤にして停止してるわね。……もしかしてほんとに?」

「ないです。……ないですよ、ほんと」

 

 ちょうど最後の方は、ミホノが恥ずかしい格好をさせられていた関係もあって、色々思い出してしまっているんだろう。

 しばらくまっても再起動しないので、そのままミホノを背負って移動することにした。

 背負ったら逆に再起動しなくなるって? それは……まぁ。

 

「……」

「ん、どうしたのかな、セオくん」

「ああ、いえ……気のせいかな」

 

 そして俺はふと、気配を感じた。

 こちらをじっと見つめる気配――けれども直ぐにそれは引っ込んだ。

 警戒しようにも、とっかかりがない。

 気に留めるだけ気に留めておくことにして、俺は池の方に向かうのだった。

 

 

 +

 

 

 ――山の奥にある大きな池には、複数の学園生が思い思いに遊んでいた。

 ガッツリ泳いでいる学生もいれば、水辺で軽く遊んでいるだけの者もいる。

 面白いのは兄様とニイアで、水の中で騎馬戦をしていた。

 兄様は同級生たちに足場を組んでもらって、ニイアはギャルに囲まれている。

 あのギャル本物だよな……? あと、肩にはニイアの鵺が乗っていた。

 お前……人前に出ていいのか……? いや、問題になったら俺が納得させるけど。

 

 そんな中で、もう一つ異彩を放つ者がいる。

 それは――

 

 

「わっふーい!」

 

 

 ――()()()だ。

 ティンダロスの猟犬、俺を狩るためにここへやってきたはずのやつが、何故か学生に混じって遊んでいる。

 ちなみに着ているのは旧スクだった。

 胸元に「てぃな」と書かれている。

 なんで……?

 

「ミホノ、おきろミホノ、ちょっと起きないとまずいかもしれんぞ!」

「はうっ!?」

 

 俺はミホノをおろして、がくがくと肩を掴んで揺すった。

 なんとか復帰したミホノが、あうあうと俺と周囲を見渡した後――ティナが視界に入ったことで、一気に正気へ戻る。

 

「な、なんであいつがここにいるですかー!」

「ん、ミホノちゃん知り合いなの? なんかさー、いつの間にか学園に居たんだよね。セオくんが帰ってくるのを待ってるって。忠犬ハチ公っぽかったから餌付けしたら……なついちゃったのよ」

「懐いちゃったのよ……じゃないですよ! あいつ、あいつがティンダロスの猟犬ですよ!」

「あ、やっぱり?」

 

 この人、解ったうえで餌付けしたのか……

 するだろうなぁ、なにせあの楠木リズだもんなぁ……

 兄様の心労はお察しするところではあるが、その兄様も今は騎馬戦に乗じているので問題は起きていないんだろう。

 

「って、あー! 百鬼セオー!」

「げっ、バレたです!」

 

 そんな時、ティナが俺達に気付いた。

 まぁ、俺達だけ制服姿なんだから、滅茶苦茶目立つししょうがないけど。

 

「やーっと戻ってきたな! ずーっとあの厄介な邪神のところにいて、ぜーんぜん手を出せなくて暇だったんだぞ!」

「そりゃ、手を出させないようにあふあふさんのところに引きこもってたんだから当然だろ」

「いーっ、です! あっちいけしっし、です!」

 

 俺達の言葉に、ふーんとティナがこっちを観察する。

 同時にずんずんと池の方から戻ってきて、陸に上がった。

 

「へー、ほー、……ふたりとも雰囲気変わったじゃん。なに、もしかして交尾したの?」

「こっ!」

「してないよ」

「しててもいいよー? 最終的にボクの隣に百鬼セオが居てくれればそれでいいもん」

 

 覇王メンタル……!

 対するミホノはあわあわしていた。

 くっ……こっち方面で攻められるとまずいな……

 

「で、するんでしょ? ――しょーぶ」

「……まぁ」

「あう……やってやるです」

 

 ニヤッと、笑みを浮かべてティナが腰を落として俺達を下から見上げてくる。

 挑発するその表情に、俺とミホノは視線を合わせてから頷き合う。

 その時――

 

「じゃ、勝負の方法はこれねー」

 

 ――リズ先輩が、俺の頭に水泳帽を被せた。

 同時に、一緒にいたシュリ先輩も――多分なんでそうしてるか解ってなさげな顔で――ミホノとティナに水泳帽を被せる。 

 ええと……

 

「水中騎馬戦、そっちでルト達がやってるやつねー。あ、足場はなし、ガチの水中戦で行こう」

「ええっと……」

「わかったー!」

「……まぁ、ティナがいいなら、いいか」

 

 その方が平和だしな。

 ちなみに視線を向けると、兄様達の水中騎馬戦は鵺が兄様の水泳帽を掠め取ってニイアが勝利していた。

 ありなんだ……それ……

 

「で、どうする? 一応ミホノちゃんにもつけたけど、タイマンで行く?」

「ボクは二対一でも構わないよ」

「……じゃあ、それで」

「構わないっていったけど、ほんとに二対一でもいいんだぁ」

 

 どこか煽る様子のティナ。

 けれど、俺はそれに正面から言葉を返す。

 

「――勝つためなら、何でもするよ、俺は」

「……っ」

 

 その言葉はティナに届いたのか、ティナは息を呑んでから体を上げて背を向ける。

 ゆらりと犬の尻尾が揺れて――

 

「――じゃあ、かかってきてよ」

 

 少し声色を低くして、笑みを浮かべながらそういった。

 

「……ミホノ」

「……はいです」

 

 そうしてミホノに呼びかけると、ミホノはすっと手をかざす。

 途端、俺とミホノも学生服から水着へと姿を変えた。

 セオタード仮面と同じ要領で、ミホノが水着を招来したのだ。

 俺は普通の水着で、ミホノはフリル多めのワンピースタイプ。

 かくして、準備は整った。

 

「戦闘再開と行こうか、ティナ」

「えー、リベンジマッチ……の方がよくない?」

「決着はまだついてない。俺達の強さを――改めてちゃんと見せてやるよ」

「です!」

 

 かくして、なんか状況は変だけど、あふあふさんの介入で有耶無耶になった勝負を――俺達は再開させることとなった。




何かしらの意図を感じる水着回です。
書籍……三巻まで出るといいですね!
交尾はまだしてません。

タイトルを書籍版のものに変更しました。
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