俺達が戦いの準備を整えると、リズ先輩の主導で生徒たちがぞろぞろと池のほとりへと移動する。
完全に何かのイベント扱いだ。
……こいつらの前で俺やミホノが神話生物の力を使うのは大丈夫なのか?
「一年の特級二人が、ティナ様と戦うんだってよ。特にあっちの男は頭がおかしいから、ティナ様が心配だな」
「何言ってるのよ! セオ様はあのセオタード仮面様なのよ!? もっと崇めなさいよ!」
……大丈夫そうだな。
入学当初は、ごくごく一般的な転生系の学園の生徒達だったのに、いつの間にか結構俺達のノリに順応している。
あと、ティナはなんか一部の生徒に人気が高いようだ。
まぁ見た目はいいしな。
見た目はいい上に俺と絡んでないし、リズ先輩じゃないから、そりゃ人気も高くなるか。
……このあとが怖いな。
「おいこらセオ少年。今ちょっと君のことを殺したほうがいい気がしてきたんだけど」
「そういうとこですよ」
んで、いつの間にかマイクを握っているリズ先輩から圧をかけられるけど、スルー。
リズ先輩と絡み始めた頃は、こうしてリズ先輩をスルーするだけでアタオカ扱いされたものだが、最近はされなくなってしまった。
何にしても俺とミホノは、水の中へと足を踏み入れる。
対するティナは――
「さぁさぁ、どこからでもかかってきてよー!」
「お前それ……」
「水の上に立つのはずっこくないです!?」
水の上に立っていた。
完全に、地上と同じように。
「あっははー! いいじゃんいいじゃん! 勝負に卑怯もクソもないって、百鬼セオが言ったんだよ!?」
「言ったかな……? いや、言うか言わないかで言えば言うけど……言ったっけな……!?」
覚えがない。
言う機会があったら絶対に言ってる台詞だからこそ、って感じだな。
とはいえ、まぁ。
「……別に、俺達は機動力で戦うわけじゃないから問題ない……か」
「ですかー」
「あはは、でしょでしょー! それじゃ……始めるよ!」
開き直ったところで、ティナが構える。
手足を水面につけて、犬のような構え……!
「んじゃ、ルールを確認しようか! お互いに、相手のつけてる帽子を取ったほうが勝ち。ティナちゃんの方はセオくんとミホノちゃんの帽子を両方とも取る必要がある! あと、殺しはダメよ、試合なんだから!」
マイクを握るリズ先輩がそう告げる。
なんか懐かしいな、最後の「殺しはダメよ」。
アレ、原作でも試合のたびに最後に毎回そう言ってるんだ。
自分は散々、対戦相手を殺しかけてきたっていうのに!
いや、そんなこと考えてる場合じゃないな……!
「というわけで……試合、開始!」
リズ先輩の宣言と同時に、ティナが動く。
直線的にこちらを狙う動き、といってもこれはあまりに読みやすすぎる動きだ。
俺もミホノも、開始と同時に横っ飛び。
その間をティナが駆け抜けていった。
「まずは俺からだな……
俺の固有魔祓刃――百鬼夜行。
どんな手を使ってでも相手に勝つという俺の執念は、数多の妖が闊歩する夜にこそふさわしい。
ぬらりひょんの魔装とは名前が被ってないぞ。
その効果は非常に多岐にわたるが――
「これは……”光弾”かなぁ?」
周囲に浮かぶ、闇色の光の玉。
リズ先輩の言う通り、百鬼夜行の根底にあるのは光弾の魔祓刃だ。
俺が人生で最も多く使ってきた魔祓刃。
それらが、中には人の形をして、中には光の玉のまま、中に浮いている。
「俺の百鬼夜行は、めちゃくちゃざっくり言ってしまえば光弾の燃費を極限まで減らす魔祓刃だ」
本来、俺に光の玉を無数に生み出すマナなんてない。
炎鬼天生を使って、生ける炎の力を借りてようやく生み出せるようになる。
それを生ける炎なしで生み出せるようになったのだ。
大元にある思想は、単純。
「俺に才能がないなら、
「――アッハハハハハ! バカじゃん! 傲慢すぎでしょ、それ! アッハハハハハ!」
さっきから、対戦相手じゃなくて司会のリズ先輩とばっかり話をしてるな。
「――――でもさぁ。これって何の意味もなくない? どれだけ生み出しても、威力は全然じゃん」
そこでティナが話に割って入ってくる。
突撃したあと、池の端で方向転換してから、反転。
池中に浮かんだ光の玉の一つを、デコピンで弾いて消し飛ばす。
これ単体では、下級の魔人すら倒すのに苦労するだろう。
「だから、使いようです」
「……!」
ミホノが、冷たく返す。
ティナに対する敵意を殺意に変えて、ミホノもまた招来空間で機関銃を無数に生み出した。
「それ、ボクに全然効かないって前にもやったじゃん!」
「だから、こうするですよ!」
人型の光の玉が、機関銃を
そして、ティナに向けて弾丸を放った。
「無駄無駄! こんなの全然効かな……あいたたた!?」
ティナは当然、前回と同じく弾丸を無視しようとするけど、そうはいかない。
殆どダメージにはなっていないけど、無数の砲火がティナを足止めすることに成功していた。
「威力上がってる!? なんで!?」
「ミホノの武器で俺が武装すると、俺のスペックが上がるんだよ。百鬼夜行も
「このっ!」
俺は、水をかき分けながらティナへと接近する。
ミホノの機関銃は俺をすり抜けるから、一方的な接近が可能だ。
ティナもそれを見てか、両腕に力を込めて――
「じゃまだあ!」
弾丸を弾く。
一瞬だけ弾幕に隙間が生まれ、ティナはすかさずそこを掻い潜って距離を取った。
「こんなの……こうしてやる!」
そしてひたすら弾幕をばらまく光の人型を、一つ一つ潰していく。
本来、ミホノの機関銃は移動ができない。
だからこうなると、一気に潰されて戦局を打開されてしまうのだが――
「逃げるなぁ!」
光の人型は、散り散りに逃げ出す。
弾幕をばら撒く手は止めず、あちこちへ逃げ回るのだ。
一つ一つを止めるのは、非常に面倒が多い。
「いやぁこれは、なかなかおもしろい魔祓刃に目覚めたねぇ、セオくん。解説のルトはどう思う?」
「アイツらしいと言えば、らしい魔祓刃だな。瀬戸場ミホノとの相性は特に素晴らしいが……俺やリズと組んでも、相応の働きを見せるだろう。……それと、解説ではない」
「そうだねぇ、アタシの場合は……アタシが作った爆発物を持って、無限に自爆特攻する囮とか作れそう」
「俺も似たようなものだな。俺の色即絶空を弾丸のように飛ばし、その中にあれを混ぜればどれが色即絶空かわからなくなる」
――俺の魔祓刃の本質は”利用”。
共に戦う仲間の力をより引き出すことで、本来なら勝てない相手からも勝利をもぎ取る。
無論、単独で使ってもこの百鬼夜行は強いのだが――今回は、それを見せるまでもなく決着がつくかもしれないな。
「あーもう! 面倒だ、面倒面倒! もー! 邪魔!」
ティナは弾丸を弾きながら、少しずつ機関銃と光の人型を消し飛ばそうとしているが、上手く行っていない。
逆にこちらがティナの消した分を補充する方が早い。
このままでは完全にジリ貧だ。
ティナの移動は常に直角。
俺とミホノは動き回っているから、それを狙おうにもこの弾丸の中では難しい。
対してこちらは、少しずつだがティナの牙城を崩そうと動いていた。
ティナには、先程から弾丸が当たり続けている。
その中で俺達は、意図的にある一箇所を集中して狙っていた。
――水泳帽だ。
今回のルールでは、水泳帽を取られたほうが負けになる。
だったら、水泳帽を弾丸で少しずつ動かして、取ってしまえばいい。
ティナ本人は頑丈でも、身につけている帽子はまほろば学園製のマナでつくられた頑丈な水泳帽に過ぎないのだ。
結果として、ティナの水泳帽は少しずつズレ始めていた。
このまま帽子をはたき落とせば、俺達の勝利だ――!
なんて、まぁそんな上手く行くはずがないんだけど。