推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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七十七 ティンダロスのスーパーウルトラハウンドドッグ

 まぁ、しかし。

 ティナがこの程度で終わる存在なら、俺たちはそこまで苦労はしていないんだ。

 いくら早いったって、あまりに直線的な動きすぎて速度に追いつける炎鬼天生なら普通に技術でなんとかなるんだから。

 

「……あんまりボクを舐めないでよね」

「くるぞ、ミホノ!」

「です!」

 

 ティナが一旦俺たちから距離を取る。

 機関銃の弾幕から逃れるように。

 そして俺は眼帯を取り外し、

 

「だってボクは! ティンダロスのスーパーウルトラハウンドドッグなんだから!」

 

 ネーミングセンス!

 しかしそれに突っ込むよりも早く。

 

 

 ()()()()()()()

 

 

 まあ、当然といえば当然の話だ。

 時間の改変を絶対に許さないティンダロスの猟犬は、時空を追いかけて獲物をハントする。

 なら、ティナが時間に干渉できるというのは、容易に想像がつく。

 だからこそ俺とミホノは、時間の制止を視認できるのだから。

 なぜ視認できるのかといえば、俺たちの瞳は神格の視認で本来のものから変質しているためだ。

 俺は常に眼帯で覆われた片目が煌々と輝いているし、今のミホノは光のあるところだとほとんどわからないが、両目がちょっと光っている。

 

「アッハ! 吹き飛べえ!」

 

 とはいえ、視認できるからと言って動けるわけではないのが残念なところ。

 目の前ではティナが機関銃と光の人型を、勢いよく吹き飛ばしている。

 高速で飛んでくる弾丸ならともかく、動かない銃弾などティナにとってはただの的にすぎない。

 最終的に近くの機関銃を全て吹き飛ばして、俺たちへ突撃する準備を終えたところで時間は動き出した。

 

 その瞬間。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「んなっ!」

「舐めるな、です!!」

 

 ミホノの瞳は、さらに力強く光り輝く。

 視ているのだ。

 神格を、アフーム=ザーを!

 

「んお! 今何が起こった!? 一瞬で機関銃と百鬼夜行が吹っ飛ばされたぞ!?」

「わからん……また何かおかしなことをしたのだろう」

「あー、あれはティナが時間を止めたっぽいね。あの子時間に干渉できるから」

「おー、ニイアちゃん詳しい! ルトは解説クビね! これからよろしくう! ニイアちゃん!」

「おいちょっと待て!」

「はーい♪」

 

 外野が何やら騒がしい。

 実況席だけでなく、観客たちもかなり困惑しているようだ。

 

「君たち……見えてるね!?」

「分かってたじゃないですか!? セオ様のことを知ってるなら、時間停止を視認できることくらい! です!」

「百鬼セオはともかく、君は知らないよ!」

「なら……!」

 

 そして、ミホノが両の瞳を爛々と輝かせる。

 強い意志と、揺らがない覚悟。

 それらが一つに溶け合って、やがてミホノの体を包んでいく。

 その笑みに、その意思に、俺はただただ祈りを捧げる。

 行け、ミホノ!

 

 

「見せつけてやるです! “解郷”!」

 

 

 途端に、その姿は冷気に覆われた。

 俺の時は体から炎が迸るだけだが、ミホノはより多様な変化を見せる。

 羽衣のように冷気を纏い、衣服も冷気に覆われ変化していく。

 才能の差、とあふあふさんは言っていた。

 ああ、それは少し悔しいな。

 悔しいけど、ミホノが隣にいてくれるなら、俺は嬉しい。

 

「名付けるなら……氷姫招来(ひょうきしょうらい)! ミホノの新しい力です!」

 

 途端にミホノの足元が凍りつく。

 戦闘中、水の上に立てるティナと違って俺たちは不利な立場にあったが、これならティナにも対抗可能だ。

 正面からミホノとティナは組み合っている。

 氷の鎌を生み出したミホノがそれを振り下ろし、ティナが正面から受け止めていた。

 

「これなら、追いつけるです!」

「えー、それはどうかなあ! ボクの方が、まだまだ出力は上だよお!」

 

 言いながら、ティナはミホノを弾く。

 ミホノの氷姫招来は俺の炎鬼天生と比べたら、まだ出力が低い。

 だからこそ俺よりも出力が高いかもしれないティナとは正面からじゃ撃ち合えない。

 けど、

 

「なら、別の戦い方をするだけ……です!」

 

 ミホノはそれをギリギリで受け流しながら、水上を滑り出す。

 違う、ミホノの足元だけが凍りついているのだ。

 その上をスケートのように滑走していく。

 対するティナは、直線的にそれを追った。

 

「追いかけっこのつもりー!?」

「追いつけるつもりならどうぞ、です」

 

 直線的に突っ込むティナを、ミホノは鎌を回転させながら振るって弾く。

 正面から受けるのではなく、完全な受け流す態勢。

 ティナは直線的にしか動けない以上、速度差が大きくなければ対処は容易。

 

「ついでに、こいつもくらってけ」

「また痛い!」

 

 そして光の人型が機関銃でミホノを援護。

 弾丸は俺とミホノをすり抜けるわけだから、足止めには最適だ。

 とはいえ、

 

「それは無駄だって、さっき見せたでしょ!」

 

 時間が停止する。

 そして再び、機関銃と人型が弾け飛んだ。

 10秒の停止時間。

 そして10秒現実の時間が進んだのち、再び停止。

 

「あっはは、動けないからすぐ追いつけちゃう!」

 

 なんとか対処しようにも、リキャストが早すぎる!

 生み出した機関銃も人型も、一瞬にして薙ぎ払われてしまう。

 その度に距離を取るミホノへとティナは詰め寄る。

 攻防の果てに、いよいよティナはチェックをかけた。

 

「ミホノ!」

「んじゃあ、これで一人目!」

 

 俺が叫び、時間が停止する。

 ミホノはティナが迫る方向へと振り返り、鎌を振るおうとしていた。

 でも、停止した時間の中ではそれはあまりにも遅すぎる!

 そう、ティナは思っていただろう。

 

 

 迫るティナに対して、時間が停止しているはずのミホノが動き出すまでは。

 

 

「なっ!」

 

 驚愕と共に、ティナは伸ばした手を鎌で弾かれた。

 さらに時間が動き出す。

 

「あれれ!? さっき時間が止まってたと思うんだけど、ミホノちゃんも動いてない!?」

「それを認識できるあたり、やっぱリズ先輩の天才性やばいなー。ま、そですよー、あの形態のミホノちゃんは時間の中でも動けるから」

「え、どうやって?」

「止まった時間って、凍りついたみたいでしょ? ミホノちゃんが力を借りてる神格そのものに、時間凍結への耐性があるわけ」

 

 解説どーも生真面目な這いよる混沌さん。

 アフーム=ザーに耐性があるから、ミホノにも耐性がある。

 なんとも単純な理屈だけど、だからこそティナにそれをどうにかすることはできない。

 

「こいつ……!」

「いへへ、ミホノは時をかけるミホノになったです!」

 

 そこからは打ち合いだ。

 俺が援護を入れつつ、ミホノとティナが時空の中を駆け回りながら戦う。

 ミホノの速度、威力はティナに及んではいないけれど柔軟な動きと経験、それから時間が動いている最中の機関銃でカバー。

 お互いにほぼ互角の戦闘を繰り広げる。

 時間が飛ぶたびに激しく位置を入れ替える二人の戦いは、時間の制止を認識できなくてもど迫力だろう。

 生徒たちはその度に歓声を上げていた。

 

「さあさあ、そろそろ戦況も佳境へともつれ込む! お互いに手を出し尽くした上での拮抗! こりゃあ次に戦況が動いた時が決着の瞬間ね!」

「いけー! ティナちゃーん! ミホノちゃんをボコボコにしろー!」

 

 ニイアはティナが俺に告白したことを知らないからか、完全にティナを応援している。

 これやっぱり後が怖いな……と思いつつ、俺は戦況が動く瞬間を確信していた。

 

「ああもうムカつくムカつくムカつくムカつく! ボクより弱いくせに! ボクに楯突くなあ!」

「弱くても、勝てばミホノの方がすごいです! セオ様の期待に応えるためにも! ミホノは負けません!」

「……ならっ!」

 

 今だ……!

 

「その百鬼セオから潰してやる!!」

 

 この状況の拮抗を生んでいるのは、実は俺だ。

 機関銃を持った百鬼夜行があちこちにいて、それによる足止めをティナは無視できないから。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その瞬間が、この戦いの決着だ。

 そう覚悟を決めて、

 

 

「いい加減ボクに負けて、番になれ! 百鬼セオ!」

 

 

 あ、やべっ。

 周囲の空気が時間を静止していないのに停止する中。

 最後の攻防が始まる!




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よろしくお願いします!

また、次回更新から書籍販促のため毎日更新予定です。
三章終わりまで突っ切ります。
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