推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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七十八 決着と真実

 時間は静止していない、なのに空気は完全に静止して周囲は微動だにしない。

 そんな状況で、事情を知っている俺とミホノだけは、構うことなく動き出す。

 既にティナは眼の前まで迫っていた。

 時間は停止しない。

 まだ、リキャストが完了していないから。

 ()()()()()()

 

「百鬼セオ――!」

「させるかよ!」

 

 接近してくるティナに対し、俺は光の人型を大量出現させる。

 無数に群がるように。

 

「邪魔だぁ!」

 

 薙ぎ払う。

 一振りで無数の人型が吹き飛び、消滅。

 しかしすぐさま次の人型が出現。

 この一つの動作で――一秒稼げる。

 ティナが俺にたどりつくまでには、ちょうど三秒。

 

「けど……ちょうどよかったかも!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ティナにとっては、動けなくなった俺を仕留める絶好の機会だと思うだろう。

 ためらうことなく時間を停止させ――

 

 

 再び、俺が生み出した人型に群がられた。

 

 

「な、ぁ!?」

 

 どうして、動いている。

 表情はそう語る。

 俺に、そして人型に。

 

 ――俺がこれまで開発してきた魔祓刃において、ぶっちぎりで一番強い魔祓刃は、言うまでもなく決まっている。

 ()()()だ。

 概念を付与するという、他の誰にもできない特技。

 けれど、普段はそれをあまり有効に使えていなかった。

 理由は単純で、結構マナの消費が激しいから。

 戦闘前に事前に用意して、それを持ち込むという形でしか使えていなかったのだ。

 炎鬼天生なしの純粋戦闘で、俺がお荷物という問題もある。

 しかし、マナの燃費が改善されたら、どうなるだろう。

 答えは、とても単純。

 

「再生の概念を付与したんだよ。俺自身と光の人型全てに! 停止した時間の中でも、”再生”できるように……!」

「んなっ!」

 

 生み出した光の人型全てに、時間停止の中でも動けるよう概念を具現化する。

 相変わらず、一つの概念しか付与できないという弱点はあるし、光の人型は元を辿れば光弾という一つのまほろばだ。

 同時にすべての人型に、同じ概念を付与することしかできないけれど。

 それさえできれば――状況は非常に単純である。

 

「は、離せ! こんな! さっきより数が多い!」

「さっきは時間を稼ぐためにあえて数を減らしたからな!」

 

 大量の人型が一斉にティナを覆い、その身動きを封じる。

 こうなれば後は――

 

「ミホノ!」

「あいあいです!」

「しまっ――」

 

 ミホノが、どうにでもしてくれる。

 ()()()()()()ながら、ティナを押しつぶす光の人型の上を行き、そしてミホノがティナの帽子を狙う。

 これでチェックメイト――と行ってくれれば、話は早いのだが。

 

 

「させ、るかぁ!」

 

 

 ()()()()()()()()出現し、ミホノに襲いかかる。

 これは――

 

「未来から自分を送り込んだのか!?」

「は、はは! 僕達ティンダロスの猟犬は、時間を遡行できるんだぞ!」

「こいつ、邪魔です!」

 

 結果、ミホノは出現したティナに足止めを喰らってしまった。

 厄介なのは、このティナが帽子を被っていないこと。

 戦いが終わった後に乗り込んできたのだろう。

 要するに、こっちのティナから帽子を奪って勝ったことにするってのはできないということだ。

 そして、現在のティナはそろそろ光の人型を脱出しそうだ。

 何にしても、俺が動くという切り札は切ってしまった。

 ここで決着をつけるしかない!

 

「だから……こうするんだよ! ミホノ!」

「あいです!」

 

 だから俺は、ティナの頭上へとミホノに自身を招来してもらう。

 招来空間は、俺自身を将来することもできる。

 この状況まで取っておいた、昔から使えた最後の一手――

 

「なっ」

「思っただろ。光の人型が動くのはともかく、俺が動けても炎鬼天生がないと役に立たないって――!」

「百鬼セオ――!」

 

 ティナはなんとか俺を防ごうと体を動かそうとするが――

 

「弾けろ!」

 

 光の人型が()()()()()()()()()()()()を思い出し、炸裂。

 瞬間、一瞬だけのけぞったティナに手を伸ばし、

 

 

 俺は、その水泳帽を掴み取った。

 

 

 +

 

 

 時間が再び動き出す。

 観客たちには、突然俺が水泳帽を取ったようにしか見えないだろうが、まぁそもそも彼らの意識はそれどころではない。

 ただ混乱しているところに――

 

「決まったぁ! どうやらセオくんがバッチリ水泳帽を奪ったようだ。今回はサポートしかしないつもりかと思ったら、美味しいとこだけもっていくぅ!」

「ねぇ待って!? あの駄犬さっきなんて言った!? ねぇなんて言った!?」

 

 リズ先輩がいい感じにマイクを入れたら、まぁなんとなく流されてしまうだろう。

 ニイアは普通にうろたえていたが。

 歓声と拍手が上がり、戦闘は終わったのだと実感した俺は息を吐いた。

 中には血涙を流しながら拍手する奴もいて、やっぱりこの後が怖いと俺は思う。

 

「……終わったな」

「ですです!」

「ミホノ、調子はどうだ?」

「まだ行けるです! 後一戦くらいよゆーよゆーなのです!」

 

 ぴょんぴょんと、嬉しそうによってきたミホノに調子を問う。

 どうやらミホノはまだまだ調子がよさそうだ。

 俺だったらそろそろ限界が来てるんだがなあ。

 これが若さ……才能!

 

「それで」

「うー……!」

 

 俺たちはティナに視線を向ける。

 未来からきたティナはいつの間にか消えていて、帽子を取られたティナが悔しそうにぺたんとへたり混んでいた。

 俺もティナ達も、現在は陸に上がっている。

 

「……どうすんだ、これから」

「番はダメです、殺すです」

「負けたから……それは言わないでおいてやる。でも、次は負けない!」

「次も勝つです。二体一でボコボコです! いー!」

 

 正直、ティナは別に俺たちの敵ってわけではないだろう。

 七大魔人とは関係がないのだから。

 だからまあ、個人的には穏当にすんでくれればそれが一番だ。

 

「で、さあ」

「うお、なんだニイア」

 

 そう考えていると、後ろからニイアが声をかけてくる。

 だがその雰囲気は少しだけ違った。

 というか、これは――

 

()()()はさぁ、言ったよね? ティンダロスの猟犬が攻めて来るって」

「……お前、這い寄る混沌か」

「アハハ、それはどっちでもいいでしょ? 問題は――」

 

 這い寄る混沌、あるいはニイアの這い寄る混沌としての側面。

 そいつが、どういうわけか――めちゃくちゃ()()()()顔で、ティナを見ていた。

 

 

「――なんでこの子、人型なの?」

 

 

 そう、そうなのだ。

 言われてみれば、あるいは言われるまでもなく。

 あふあふさんがそうであるように、人型ではない真生生物が人型になるとき。

 それは()()()()()()()()()だけ。

 すなわち、ティナは俺達が発狂しないように、人の姿でここにいる。

 

「いやね、アタシは普通に猟犬がそのまま来ると思ってたんですよ? でもなんで個体名もってるの? なんで人型なの? セオくんまた何かやったでしょ!」

「決めつけるなよ! ……いや否定できないけど」

 

 だって、でなけりゃ会って早々に俺を番だなんて言ったりしないだろうし――待てよ?

 そういえばティナは()()()()()()()()()()様子だった――

 

 その時だ。

 

「……っ! 山に侵入者あり! シュリちゃんここにいる人達全員飛ばして!」

「え、あ、はい! リズ先輩気をつけて――」

「何いってんの()()()()()()()()()()の! ここにいていいのは、セオくんとミホノちゃんとニイアちゃんだけ!!」

「へ!?」

 

 山の結界が、揺さぶられた。

 何かが来る。

 そう確信したリズ先輩が指示を出して――この場から、俺とミホノとニイア以外が掻き消えた。

 すなわち、()()()()この場から消失したのだ。

 俺とニイアは周囲を見渡し、ミホノは招来空間で俺とミホノの衣装をもとに戻す。

 ニイアは……まぁ水着のままでもいいだろ、多分。

 頭の上に鵺が乗っかってるから、合体はできるし。

 ……この状況でも寝てるのは結構図太いな、こいつ。

 ともかく、シュリ先輩がティナも対象に含めたのではない限り――

 

 

『うるるるぅ』

 

 

 ティナを連れ去ったのは、別のやつということになる。

 どんなやつが連れ去ったかは、見るまでもないだろう。

 痩せこけた人型の怪物。

 鋭い針のような下。

 見たものの正気を揺さぶってくる、悍ましい造形。

 

「ようやく――本命のお出ましってことか」

 

 ティンダロスの猟犬。

 本来の姿で()()()()が――

 

 

 九体の、ティンダロスの猟犬が、そこにいた。

 

 

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