推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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七十九 猟犬は嘲笑する

「おっしまいだぁ♪ もうだめだぁ♪」

「たのしそうだなこいつ……!」

 

 俺達は、ティンダロスの猟犬に囲まれていた。

 その数は総勢九体。

 どこぞの狐を思い出す数だ。

 しかし、一応あの狐は俺達と戦った時点で八体だった。

 更に言えば、そのうち七体は当時の俺達でも倒せる相手。

 九日之死はそこそこ厄介だけど、それでもなんとかなる相手だろう。

 けど、今回は――すこしヤバいかもな。

 

()()()が見たのはさぁ、件がティンダロスの猟犬に食い殺される未来だったんだよねぇ」

「しれっと見るなよ、未来を」

「面白ければ何でもいいじゃーん。……でも未来だと、ティンダロスの猟犬は今目の前にいる、()()()姿()だった」

 

 這い寄る混沌が、それまでのこちらをからかうような物言いから、真面目な物言いへと口調を変える。

 ニイアが見たのはティナではなかった――あるいは、()()ティナではなかったという情報。

 這い寄る混沌ですら読み違えるような”何か”がここでは起きている。

 

「まず件が食い殺されてるってのが驚きだな。まぁ、鵺がいなくなったいま魔人側も持て余してたんだろうけど」

「でもね? どういうわけかティナちゃんが食い殺してたの。な~んでだと思う? これ」

()()でもわからない、と。あるいはネタバレを知ると面白くなくなるから意図的に情報を遮断してるのか」

「どっちもせいかーい♪」

 

 ティンダロスの猟犬は、言葉を発する様子がない。

 だから()()()()()と思ったのだろう、這い寄る混沌としての側面が強くなったニイアが、わざわざ解説を入れてくれている。

 それによれば、本来ティンダロスの猟犬は基本、十体からなる”群れ”を形成しているらしい。

 なぜ十体なのかと言えば、「角がない」から。

 漢字とかローマ数字だと一切角がない漢字だからな、十って。

 そんな理由で、しかも漢字を理由に十体になることなんてあるのか……といえば、ある。

 言葉っていうのは力なんだ。

 逆に、力が言葉に影響を及ぼすこともある。

 ティンダロスの猟犬が十体で行動するから、漢字やローマ数字は角がない数字になったんだよ。

 とかなんとか。

 色々おかしいだろそれ!

 

「まぁアタシの言う事だしぃ? 適当に聞き流してよ」

「自分から言っていくのか……」

 

 その時だ、ついにしびれを切らしたのか、一匹の猟犬が動きを見せる。

 

『うるるう!』

「――今セオ様が話してるところだから、邪魔すんな……です!」

 

 それを迎え撃ったのがミホノだ。

 前に出て、攻撃を受け止めて――吹き飛ばされる。

 しかし、猟犬もミホノのスペックを一蹴できないほどだと悟ったのか、一旦引いた。

 

「ミホノ、大丈夫か!?」

「こいつら強いです……ティナより強いかもです!」

「ティナは加減してくれたんだよ、アレで。あいつらは完全に殺すつもりだからな。容赦が一切ない」

 

 ともあれ、今考慮すべきは一つの大きな事実だ。

 すなわち――

 

「それにしても、未来が変わったのか」

「そんなことあるですか?」

「今まさに、俺達の戦いで未来を変えようとしていたやつがいるだろ。そして未来を変えたってことは――」

「ティン◯ちゃんたちに、目をつけられるってわけだー」

 

 今どこからともなくピー音が聞こえてきたぞ。

 マジで這い寄る混沌なんでもありだな……

 何にしても、ティンダロスの猟犬は時間改変を許さない。

 そして、時間を改変しようとしたやつに目をつけたら、そいつを狩るまで執拗に追い続けるのだ。

 じゃあ、一体誰が過去を改変したのか。

 言うまでもなくそれは――

 

 

「ティナちゃんとセオくんだろうねぇ、アハハ!」

 

 

 めっちゃくちゃ楽しそうにニイアは笑って見せた。

 すると、雰囲気が少し変わる。

 要するに――もどったのだろう。

 

「アレ、アタシまた乗っ取られて……ひいい!? なにこれ!? なんで猟犬がこんなにいっぱいいるわけ!? たすけてー! アタシは悪くない!! 悪いのはセオくんだから! セオくんだけ殺してー!」

「しれっと俺を生贄に差し出そうとするな」

「そうですそうです、仮に襲いかかってきたら、まず真っ先にニイアを囮にするです」

「やだー!」

 

 ともあれ、現状がまずいことに変わりはない。

 猟犬は、俺達をゆっくりと包囲して逃さないようにしている。

 俺達の会話にほとんど割って入ってこなかったのは、こうして包囲網を作るためだろう。

 包囲される俺達を嘲笑うため、でもあるか。

 何にせよ、こいつらは今直ぐ襲いかかってきてもおかしくない。

 だから少しでも時間を稼ぐ意味を込めて、俺は問いかけた。

 

「なぁ、おい!」

『うるるぅ……!』

「答えろ、猟犬! ()()()()()()()()()()!」

 

 ティナのことだ。

 いや別に、ティナを擁護しようってわけではないんだけど、知りたいだろ。

 

「歴史を捻じ曲げる俺はともかく、同族であるティナを狩りの対象にするっていうのは、よっぽどのことだろ。そもそも、普通なら俺を狙うのはティナだけでいいはずだ。それがどうして、群れで俺達を狙うなんてことになる!」

『うるる……』

 

 その言葉に、猟犬たちは顔を見合わせる。

 やがて、彼らは一つの結論を出したようだ。

 それは――

 

『うるるるるるるぅううう!』

 

 咆哮。

 だが、その咆哮に込められた意味は俺達にもわかる。

 侮蔑、蔑視、そして――嘲笑。

 こいつらは俺の言葉を、ただただ愚かだと笑っているのだ。

 

「何故笑う? 何がおかしい? 答えになってないぞ!」

『うるるるぅ!』

「っ!」

 

 猟犬の一体が、俺に肉薄する。

 一瞬のことだ、眼前に迫っていた。

 俺は即座に無数の光弾を出現させ、炸裂。

 俺自身をそれに巻き込むことで、後方に自分を吹き飛ばした。

 これは更には目眩ましもできる、猟犬からの追撃はない。

 地面を転がり、停止。

 反撃を警戒して即座に起き上がる。

 

「セオ様!」

『うるるるるるるぅううう!』

 

 再び、嘲笑。

 こいつらが一斉に襲いかかってこない理由はあまりにも明白だ。

 俺達を、弄んでいる。

 瞳を見ればわかる。

 こいつらは愉しんでるんだ。

 俺たちを追い詰めて、勝利を確信している。

 きっと、俺とティナ達の戦いを見てきただろう。

 殺しは無しという、お互いに加減が入った状態で、俺が炎鬼天生を使わなかったとはいえ、俺たちは互角だった。

 あの場にいる者たちの中で、九体の猟犬部隊をどうにかできる奴はいない。

 勝ちを確信しているから、遊んでいる。

 だが、実際、この状況はあまりに絶望的だ。

 どうする? どうすればいい?

 普段から俺は、色んな方法で窮地を脱したり、強くなる方法を見出してきた。

 でも今回は、いくらなんでも状況がヤバすぎる。

 こんな状況をひっくり返す方法なんて――

 

「――――ぐっ!」

 

 一瞬、一瞬だけ意識がそれた。

 考えるために、この状況をどうするか思案するために。

 しかしそれを、猟犬は見逃さない。

 気がつけば、鉤爪を振るわれていた。

 刀を差し込めたのは、本当に運が良かったからだ。

 ちょっとの違和感を、見逃さなかったから。

 だがそれでも、猟犬の膂力を受け止めるにはあまりに俺が弱すぎる。

 即座に刀ごと俺はその鉤爪に切り裂かれ――

 

「セオ様!」

 

 ――ることはなく、ミホノが間に割って入った。

 鎌を振り上げ、猟犬に斬りかかる。

 猟犬は深追いせず、後方に退避した。

 

『うるるるるる!』

 

 嘲笑、向こうは余裕の笑みだ。

 愉快そうに俺達を見ている、ここで終わらせるつもりはないと瞳が語っていた。

 ――――ダメだ、炎鬼天生でも対処できるヴィジョンがない。

 一体を倒せても、九体は無茶だ。

 どうする、もう無理なのか?

 

「セオ様、諦めないでください!」

「……ミホノ」

 

 俺の思考を読み取ったのか、ミホノが叫ぶ。

 隣に立って、猟犬たちを睨みつけながら。

 そして――

 

()()()()()()()()()()! セオ様。セオ様は、前に進み続ける姿が一番素敵です!」

 

 そう、言ってのける。

 以前、ミホノは俺に止まってほしくないけど、止まってほしいと言った。

 そして俺はそれに応えたのだ。

 ――だからといって、俺が弱くなったわけじゃない。

 決して、ミホノが足かせになることはないのである。

 むしろ――

 

「ああ、そうか」

 

 ――ミホノは、いつだって俺の背中を押してくれたじゃないか。

 

「なんだ――――簡単なことじゃないか」

 

 止まらなければいいんだ。

 

「……セオくん?」

 

 俺は、具現化であるものを作り出す。

 猟犬たちは動かない、俺の作り出したものに意味があるとは思えないから。

 大してニイアは、俺の作り出したモノを視て顔を青ざめさせた。

 

「……ねえセオくん? な、何をするつもり?」

「……普段、俺は自分たちが勝つために最善の策を取るようにしてるけど、よっぽどのことがない限り無茶なことはしない。例外は生ける炎をその身にやどした時くらいだ」

「いやあの……本当に大丈夫? ねぇミホノちゃん。君セオくんの押しちゃ行けないスイッチを押さなかった、ねえ?」

「…………」

 

 ミホノは答えない、覚悟の上だからだろう。

 いや、ちょっとだけ青ざめている気がするけど、多分気のせいだな。

 何にしても、俺は止まらないと決めた。

 だから、この手を使うのだ。

 具現化したもの、それは――――()()()だ。

 すなわち――

 

 

「つまり――正直、大丈夫じゃないとおもう」

 

 

 俺は、カメラをつかって解郷を使用した。

 触手になった。




本日書籍版発売となりました!
色々改稿されたりしてますので、よろしくお願いします!

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また、今回から章の終わりまで毎日更新になります。
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