「おっしまいだぁ♪ もうだめだぁ♪」
「たのしそうだなこいつ……!」
俺達は、ティンダロスの猟犬に囲まれていた。
その数は総勢九体。
どこぞの狐を思い出す数だ。
しかし、一応あの狐は俺達と戦った時点で八体だった。
更に言えば、そのうち七体は当時の俺達でも倒せる相手。
九日之死はそこそこ厄介だけど、それでもなんとかなる相手だろう。
けど、今回は――すこしヤバいかもな。
「
「しれっと見るなよ、未来を」
「面白ければ何でもいいじゃーん。……でも未来だと、ティンダロスの猟犬は今目の前にいる、
這い寄る混沌が、それまでのこちらをからかうような物言いから、真面目な物言いへと口調を変える。
ニイアが見たのはティナではなかった――あるいは、
這い寄る混沌ですら読み違えるような”何か”がここでは起きている。
「まず件が食い殺されてるってのが驚きだな。まぁ、鵺がいなくなったいま魔人側も持て余してたんだろうけど」
「でもね? どういうわけかティナちゃんが食い殺してたの。な~んでだと思う? これ」
「
「どっちもせいかーい♪」
ティンダロスの猟犬は、言葉を発する様子がない。
だから
それによれば、本来ティンダロスの猟犬は基本、十体からなる”群れ”を形成しているらしい。
なぜ十体なのかと言えば、「角がない」から。
漢字とかローマ数字だと一切角がない漢字だからな、十って。
そんな理由で、しかも漢字を理由に十体になることなんてあるのか……といえば、ある。
言葉っていうのは力なんだ。
逆に、力が言葉に影響を及ぼすこともある。
ティンダロスの猟犬が十体で行動するから、漢字やローマ数字は角がない数字になったんだよ。
とかなんとか。
色々おかしいだろそれ!
「まぁアタシの言う事だしぃ? 適当に聞き流してよ」
「自分から言っていくのか……」
その時だ、ついにしびれを切らしたのか、一匹の猟犬が動きを見せる。
『うるるう!』
「――今セオ様が話してるところだから、邪魔すんな……です!」
それを迎え撃ったのがミホノだ。
前に出て、攻撃を受け止めて――吹き飛ばされる。
しかし、猟犬もミホノのスペックを一蹴できないほどだと悟ったのか、一旦引いた。
「ミホノ、大丈夫か!?」
「こいつら強いです……ティナより強いかもです!」
「ティナは加減してくれたんだよ、アレで。あいつらは完全に殺すつもりだからな。容赦が一切ない」
ともあれ、今考慮すべきは一つの大きな事実だ。
すなわち――
「それにしても、未来が変わったのか」
「そんなことあるですか?」
「今まさに、俺達の戦いで未来を変えようとしていたやつがいるだろ。そして未来を変えたってことは――」
「ティン◯ちゃんたちに、目をつけられるってわけだー」
今どこからともなくピー音が聞こえてきたぞ。
マジで這い寄る混沌なんでもありだな……
何にしても、ティンダロスの猟犬は時間改変を許さない。
そして、時間を改変しようとしたやつに目をつけたら、そいつを狩るまで執拗に追い続けるのだ。
じゃあ、一体誰が過去を改変したのか。
言うまでもなくそれは――
「ティナちゃんとセオくんだろうねぇ、アハハ!」
めっちゃくちゃ楽しそうにニイアは笑って見せた。
すると、雰囲気が少し変わる。
要するに――もどったのだろう。
「アレ、アタシまた乗っ取られて……ひいい!? なにこれ!? なんで猟犬がこんなにいっぱいいるわけ!? たすけてー! アタシは悪くない!! 悪いのはセオくんだから! セオくんだけ殺してー!」
「しれっと俺を生贄に差し出そうとするな」
「そうですそうです、仮に襲いかかってきたら、まず真っ先にニイアを囮にするです」
「やだー!」
ともあれ、現状がまずいことに変わりはない。
猟犬は、俺達をゆっくりと包囲して逃さないようにしている。
俺達の会話にほとんど割って入ってこなかったのは、こうして包囲網を作るためだろう。
包囲される俺達を嘲笑うため、でもあるか。
何にせよ、こいつらは今直ぐ襲いかかってきてもおかしくない。
だから少しでも時間を稼ぐ意味を込めて、俺は問いかけた。
「なぁ、おい!」
『うるるぅ……!』
「答えろ、猟犬!
ティナのことだ。
いや別に、ティナを擁護しようってわけではないんだけど、知りたいだろ。
「歴史を捻じ曲げる俺はともかく、同族であるティナを狩りの対象にするっていうのは、よっぽどのことだろ。そもそも、普通なら俺を狙うのはティナだけでいいはずだ。それがどうして、群れで俺達を狙うなんてことになる!」
『うるる……』
その言葉に、猟犬たちは顔を見合わせる。
やがて、彼らは一つの結論を出したようだ。
それは――
『うるるるるるるぅううう!』
咆哮。
だが、その咆哮に込められた意味は俺達にもわかる。
侮蔑、蔑視、そして――嘲笑。
こいつらは俺の言葉を、ただただ愚かだと笑っているのだ。
「何故笑う? 何がおかしい? 答えになってないぞ!」
『うるるるぅ!』
「っ!」
猟犬の一体が、俺に肉薄する。
一瞬のことだ、眼前に迫っていた。
俺は即座に無数の光弾を出現させ、炸裂。
俺自身をそれに巻き込むことで、後方に自分を吹き飛ばした。
これは更には目眩ましもできる、猟犬からの追撃はない。
地面を転がり、停止。
反撃を警戒して即座に起き上がる。
「セオ様!」
『うるるるるるるぅううう!』
再び、嘲笑。
こいつらが一斉に襲いかかってこない理由はあまりにも明白だ。
俺達を、弄んでいる。
瞳を見ればわかる。
こいつらは愉しんでるんだ。
俺たちを追い詰めて、勝利を確信している。
きっと、俺とティナ達の戦いを見てきただろう。
殺しは無しという、お互いに加減が入った状態で、俺が炎鬼天生を使わなかったとはいえ、俺たちは互角だった。
あの場にいる者たちの中で、九体の猟犬部隊をどうにかできる奴はいない。
勝ちを確信しているから、遊んでいる。
だが、実際、この状況はあまりに絶望的だ。
どうする? どうすればいい?
普段から俺は、色んな方法で窮地を脱したり、強くなる方法を見出してきた。
でも今回は、いくらなんでも状況がヤバすぎる。
こんな状況をひっくり返す方法なんて――
「――――ぐっ!」
一瞬、一瞬だけ意識がそれた。
考えるために、この状況をどうするか思案するために。
しかしそれを、猟犬は見逃さない。
気がつけば、鉤爪を振るわれていた。
刀を差し込めたのは、本当に運が良かったからだ。
ちょっとの違和感を、見逃さなかったから。
だがそれでも、猟犬の膂力を受け止めるにはあまりに俺が弱すぎる。
即座に刀ごと俺はその鉤爪に切り裂かれ――
「セオ様!」
――ることはなく、ミホノが間に割って入った。
鎌を振り上げ、猟犬に斬りかかる。
猟犬は深追いせず、後方に退避した。
『うるるるるる!』
嘲笑、向こうは余裕の笑みだ。
愉快そうに俺達を見ている、ここで終わらせるつもりはないと瞳が語っていた。
――――ダメだ、炎鬼天生でも対処できるヴィジョンがない。
一体を倒せても、九体は無茶だ。
どうする、もう無理なのか?
「セオ様、諦めないでください!」
「……ミホノ」
俺の思考を読み取ったのか、ミホノが叫ぶ。
隣に立って、猟犬たちを睨みつけながら。
そして――
「
そう、言ってのける。
以前、ミホノは俺に止まってほしくないけど、止まってほしいと言った。
そして俺はそれに応えたのだ。
――だからといって、俺が弱くなったわけじゃない。
決して、ミホノが足かせになることはないのである。
むしろ――
「ああ、そうか」
――ミホノは、いつだって俺の背中を押してくれたじゃないか。
「なんだ――――簡単なことじゃないか」
止まらなければいいんだ。
「……セオくん?」
俺は、具現化であるものを作り出す。
猟犬たちは動かない、俺の作り出したものに意味があるとは思えないから。
大してニイアは、俺の作り出したモノを視て顔を青ざめさせた。
「……ねえセオくん? な、何をするつもり?」
「……普段、俺は自分たちが勝つために最善の策を取るようにしてるけど、よっぽどのことがない限り無茶なことはしない。例外は生ける炎をその身にやどした時くらいだ」
「いやあの……本当に大丈夫? ねぇミホノちゃん。君セオくんの押しちゃ行けないスイッチを押さなかった、ねえ?」
「…………」
ミホノは答えない、覚悟の上だからだろう。
いや、ちょっとだけ青ざめている気がするけど、多分気のせいだな。
何にしても、俺は止まらないと決めた。
だから、この手を使うのだ。
具現化したもの、それは――――
すなわち――
「つまり――正直、大丈夫じゃないとおもう」
俺は、カメラをつかって解郷を使用した。
触手になった。