俺は「魔祓師フウマ」が好きだ。
現世とまほろば。
魔祓師と忍。
真生生物と魔人。
様々なものが交錯し、複雑な物語を繰り広げながらも、熱く泣ける展開で毎週読者を魅了してくれた。
最後には多くの仲間とともに、主人公風魔コウタロウは大崩壊を引き起こした隕石から発生した魔人を倒しハッピーエンドを手に入れる。
そんな物語に俺がいたら、なんて子供っぽい想像をしたこともあった。
オリジナルの魔祓刃を学校でノートに落書きして、授業の時間を潰したこともあった。
死んでしまったあのキャラを救うにはどうすればいいか、とネットで談義したこともあった。
それらは、俺のオタクとしての血肉の一つであり、楽しかった過去の思い出だ。
そして今――俺は夢にまで見たその世界の中にいる。
喜ばしいことに、されどおこがましいことに。
何様のつもりだ、なんて思うこともある。
ミホノの成長フラグを先取りして好意を得て――実際にはそれそのものがミホノが俺を慕う理由ではないそうだけど――格好つけるな、なんて。
だけどそれでも、俺はこの世界で生きていきたい。
漫画の中では、死んでしまった人が生きている。
これから死んでしまうかもしれない人が、俺を見守ってくれている。
そんな人達のためにも――いや、それは言い訳だな。
俺はこの世界で、前世の頃からずっと考えてきたことを行動に移したいのだ。
人を救うことも、魔祓刃を習得することも。
――それは願いだ。
俺が勝手に抱いた、エゴと願望。
決してキレイなものではない、けれども誰にも譲りたくない願い。
そしてそんな願いの中に、それはあった。
この物語の続きを見たい。
キレイに完結した物語の幕を再び開けることが、決して幸福につながるとは限らない。
だけどそれでも、もし仮にあの物語に続きがあるなら、果たしてどんなものになるだろう。
俺はそう考え、夢想し、見たいと願った。
そしてその願いは――この世界に生まれ変わったことで、俺にとって大きな課題となったのだ。
俺の知らない原作が、この世界では続いている。
果たして、そこで待っているものは何か。
もしもこの世界の物語が続くとしたら、一体どんな物語に成るのか。
そんなことを、生まれ変わってからずっと、俺は考え続けていた。
ああでも、そもそも。
俺がどうして、この物語に関する様々な願いを抱いたのか。
ああだこうだとは言っているものの、そもそも俺にはその願いを抱く原因があるはずなのだ。
その始まりは、果たしてなんだったか。
幼い頃の俺の夢、抱いた感情、すべてのきっかけは――一体、どんな願いだっただろう。
+
――悪路王。
原作では最上級魔人の一体――その中でも最強とされる七大魔人の一体として登場する。
要するに、敵の幹部格のうち一体だ。
ただ、それはどうも大崩壊を生き残ったことで手に入れたものらしく、前日譚である大崩壊編に登場した時は七大魔人ではなかった。
今も、決して七大魔人ではないだろう。
それでも最上級魔人には変わりない。
俺なんかが、到底敵わない相手だ。
『オイオイオイ、こんなクソみてぇなマナしかねぇガキを殺すために、こんなところまで来たわけじゃねぇんだぞ、俺は』
「クソみてぇなマナで悪かったな。お前の相手は俺だよ、悪路王」
『ガキの割には、物知りじゃねぇか。名乗る必要はねぇってことだな。だが生意気な口を利くなよ。俺の目的は百鬼ルトってんだ。知ってるなら吐きな。吐いたら苦しまずに殺してやるよ』
――どうやら、結果的に今回の事件で死ぬのは母様のようだが、本来の狙いは兄様だったらしい。
おそらく、規格外の天才である兄様を、念の為今のうちに殺すことが目的なんだろうな。
そして紆余曲折の上に、母様が兄様をかばって死ぬ、と。
その時に母様が自分の魔祓刃で時間を稼ぎ、結果的に父様たちが帰ってきたことで時間切れになる、とかそんな感じだろうか。
体が弱く、魔祓刃を使うと命に関わる母様の無茶が、結果として兄様を救ったわけだ。
後々のことを考えると、兄様は魔祓師を殺しもするけど、最終的にいないと人類が隕石の魔人に勝てない。
功罪が大きいな。
「……知らないよ。どこにいるかは、もうわからない。探すなら、俺をどうにかしてから探すといい」
『へへ、素直なガキはきらいじゃねぇ……が、答えは気に入らねぇな。決めたぜ、てめぇは甚振ってから殺してやる』
まぁ、悪路王ならそう答えるだろうな、と内心納得する。
それにしても、そうか。
兄様の母親を殺したのは悪路王だったのか。
言われてみると、兄様はどういうわけか悪路王に厳しく当たることがあった。
大崩壊編でもそれは同じで、きっと展開的に自然だったから当時はそうなっただけなのだろう。
でも、その要素をひろえば――最終的に兄様が育てたライバル枠のキャラが悪路王を撃破すると思えば――自然な因縁なのだ。
相変わらず、こういうところは巧いなぁ、と思う。
ラスボスから”そう”つなげるのはどうなんだ、とか。
色々思ったりはするけれど。
何にせよ、変わらない。
ここは俺の好きな、「魔祓師フウマ」の世界なのだ。
そしてその世界で、俺は生きていきたいと思う。
「悪いけど、それはできない。俺はまだ、死にたくないからだ……!」
『ハッ! ガキの遺言にしては上出来だなぁ、オイ!』
――だから無謀とわかっている戦いにも挑むのだ。
この夢みたいな時間を、もう少しだけ続けるために――!
+
だが、結局世界は無情だ。
才能のない人間が、たった二年鍛えただけで最上級魔人に勝てるなんて漫画みたいなこと、そうそう起きない。
ここが漫画の世界でも、積み重ねというものは必要なのだ。
俺にそれはなかった。
ただマナを鍛え、光弾を身に着けた。
今の俺は、それだけの存在。
故に――
「――が、ぁ、う」
『威勢は良かったが、所詮はガキだな。その年で魔祓刃をここまで使えることだけは褒めてやるよ』
俺は悪路王によって地面に叩きつけられ、踏み潰されていた。
体中が痛い、骨は間違いなく粉々だろう。
生きていることが不思議な状態。
マナが体内になければ、すでにこの状態でも俺は死んでいる。
――抗おうとはした。
光弾を相手の眼の前で炸裂させることで目くらましにしたり。
その状態で拳の形をした光弾をぶつけることで、近接していると誤解させたり。
人の形の光弾を生み出して、存在自体を誤魔化したり。
色々と、打てる手は打った。
光弾を習得してから、解郷とともに修練を続けてきた成果は、間違いなく出ている。
だが、悲しいかな俺の瞬間放出量は、今のミホノにも劣る。
生まれつき極端に少なかった瞬間放出量を、一年ほど五歳の子どもにとって無理のない範囲で鍛えたミホノより。
二年間鍛え続けた俺のほうが少ないというのは、純粋に才能の差といえるだろう。
ようするに――
『どれだけ奇抜な手を打とうが、結局威力が豆鉄砲以下じゃあ意味ねぇよなぁ』
――足りていない、威力が、速度が、何もかもが。
はっきり言って、今の俺では下級の魔人を倒すことすら難儀するだろう。
中級、上級、そして最上級の魔人など夢のまた夢だ。
そして今、その夢が潰えようとしている。
『ハハ、くだらねぇよなぁ。どこの誰だか知らねぇが、ガキ。てめぇの夢も、願いも、ここで意味をなさず消えていくわけだ』
「ぐ、ぁ……ぅ」
『お前が生まれてきた意味なんてものは、なーんにもなかったってこったよ』
――本当に、そのとおりだ。
もしここで俺が死んだら、母様はきっと悲しむだろう。
父様だって、惜しんでくれるはずだ。
ミホノも、きっと。
兄様はわからないけど、母様を救えたことを感謝くらいはしてほしいな。
けど、それだけ。
俺がここで死んだら、それで全ておしまいだ。
でも、それは――
「……それ、は。
俺は、痛みに霞む目を見開く。
片目を限界まで開けて、そこに手を添える。
『ああ?』
「ずっと、ず、っと……かんが、え、てた。このせ、かい、に、ゆめの、つづきが、あると、すれば、
『何言ってやがる、てめぇ」
――「魔祓師フウマ」は、一度終わった物語だ。
使える設定もほとんど使い切り、倒せる敵もあらかた倒した。
続けるには、新しい敵と設定が必要だ。
そのために、過去の要素の再利用が巧い原作において、使えるものがあるとすれば、何か。
この世界の敵――魔人は妖怪や幻想生物をモチーフにしている。
西洋に行けばドラゴンが出るし、日本では見ての通り妖怪が敵になるのだ。
たいていが、土着のモンスターを元にしているというわけ。
ならば。
隕石の魔人は、どこから来た?
地球上の敵を倒して、世界に平和をもたらしたら、次にやってくる敵はどこだ?
もしも――宇宙に魔人や真生生物がいるとしたら、それはなんだ?
そんな規格外の相手に、人類はどのように対抗すればいい?
俺の考えた、「魔祓師フウマ」の続き。
夢の、続きを願うとしたら――
「……”解、郷”ッ!!」
俺は、視界をまほろばにつなぎ、そしてまほろばを通して、あるものを見た。
星空を。
だが、それでは終わらない。
俺は更に解郷を使用し、まほろばにつなげる。
この世界――地球のまほろばではない。
そして――見た。
そこにいる、
俺のすべての願いを、星に託して。
俺はそこにいる、