「おしまいだー! もうだめだー!」
「セオ様……こうなったらミホノはセオ様と世界の終わりを見届けるです。死ぬ時は一緒です」
そこには、まさしく地獄としか言いようのない光景が広がっていた。
うねる触手。
蠢く触手。
ぬるぬる触手。
眼前を覆い尽くすほどのやばい触手の大群。
先ほどまで生徒たちがのんびり遊んでいたはずの湖が、この世の終わりの始点と化してしまったのだ。
『うるるるるるぅうううう!!?!?!?!?』
その惨状に慌てふためくのは、なにもニイアだけではない。
ティンダロスの猟犬たちもまた、突如として降臨した世界そのものとでも呼ぶべき悍ましい触手を見て悲鳴と困惑を咆哮に載せていた。
猟犬たちに、それほど大した知恵はない。
それでもなお、九体の猟犬全てが「お前マジか」という顔を俺に向けていた。
その状態で、襲いかかる触手から逃げ回っている。
角を使って角ばった時間に逃げたり時間を停止しないのは、意味がないと最初から解っているのか、忘れているのか。
どっちにしろ、その光景は最悪と言っても過言ではなかった。
「よし、とりあえず猟犬達の意識はこちらに向いていないな」
「よし! じゃないよおおお! なああああああんにもよくない! なに一つよくないよこれ! なに考えてるの!? 何を食べたらこんなやばい方法思いつくの!? って言うか仮に思いついても普通はやらないよ!」
「諦めるですニイア、セオ様はもはや理外の領域にまで到達してしまったです。諦めて終焉を受け入れて自害するです」
「さりげなく殺そうとしないでえええええ!」
ニイアとミホノもヒートアップしていた。
何にしても、このまま触手がティンダロスの猟犬を餌にして満足してくれれば万々歳。
アルラの時のように、そのまま触手も消えてくれたら言うことないんだけど、まぁそう上手くは行かないだろうな。
何と言っても今回は、触手に事態の解決を”期待”している。
ホラー映画だったら俺達が被害者になっているパターンだ。
それでもこれ意外に九体のティンダロスを一気にどうにかする方法はない。
俺自身の手でどうにかできないのは悔しいが、ここは触手に期待するしかないだろう。
「む……触手がティンダロスの猟犬を捕まえたな」
「お、おー! そのまま食い殺しちゃえ!」
「ま、待つです! なんか様子が変です!」
そうして様子を見ていると、触手がついに逃げ惑うティンダロスの猟犬を一匹捕獲する。
ニイアの言う通り、これで猟犬が触手にのまれて来れたら言うことはないんだが、残念ながらそううまくは行きそうにない。
触手は、猟犬の四肢に絡みついた。
更には両手両足にも絡みつき、束縛を強める。
全身にまとわりついたかと思うと、猟犬の手を上に持ち上げた。
ええと、これは……
「……ティンダロスの猟犬が触手プレイされてるーーーーーーーーっ!」
ニイアの絶叫が、周囲に響き渡った。
「おえっ! 絵面最悪すぎ、なんでただでさえぶちゃいくな猟犬が、触手にぬちょぬちょされなきゃイケナイの!? せめてティナちゃん束縛してよ!」
「ま、まぁ這い寄る混沌的には、美少女を束縛するよりこっちのほうが面白いんじゃないか……?」
「セオ様が引いてるです……ある意味黙示録と呼ぶにふさわしい光景です……」
ぞわぞわ。
あまりにあまりな光景に、俺達は三人揃って引いてしまった。
じゃあやるなよって? いや、やらないと死んでますし……
とにかく、触手は勢い良く猟犬たちに絡みついていく。
一匹、また一匹と捕縛され――一つの例外無く、エッチな姿にさせられていた。
とりあえず、ティンダロスの猟犬はこのままぬるぬるにされそうだ。
問題は、このあと触手がどう動くか……答えは非常に単純だった。
「クソ、やっぱこっちまで襲いかかってくるか!」
「最悪だよこれー! だってこの触手、アタシ達に殺意むけてるよ!? 猟犬にはえっちなことするのに、美少女にはしないんかーい!」
「そ、それでセオ様! ちゃんとこのあとのこと考えてるです!? 現実逃避もそろそろ限界です、なんとかしてほしいですー!」
いよいよ、ミホノすら悲鳴を上げて逃げ出しそうな状況になってきた。
なにせ俺達に襲いかかるってことは、このまま放って置くと触手が世界に広がって、この星を丸ごと飲み込むということだ。
酒呑童子やぬらりひょんが触手プレイに巻き込まれてしまう――――!
「も、もちろん考えてあるぞ? この触手も、そしてなによりティンダロスの猟犬も真生生物だ!」
「つ、つまりどうなるです!?」
「この裏山の
ここ最近はニイアとの決戦の舞台に使われたり、俺の修行場になったり、水着回の舞台となったり。
色々と変則的な役割がおおかったまほろば学園の裏山。
原作においても、本来の役割を果たしたのは原作序盤の頃だけで、中盤以降はもっぱら修行や息抜き回の舞台として使われることがおおかった。
それでもここは元々、真生生物が迷い込みやすい境界のような場所。
そしてここで学園生は、真生生物に対してあることをする。
「こいつらをこのまま――元いたまほろばまで
「あ、あー! そういえばそんなのあったねぇ! アタシの出番がなかったやつ!」
「メタいこと言ってるじゃないです! っていうかセオ様、そーかんできるです!? 相手は猟犬と触手ですよ!?」
俺達は、触手から逃げ回りながら話をしている。
無数の触手をなんとか木々を使ってかいくぐりつつ、湖の周りをぐるっと周回しているのだ。
「送還の杖を円上に突き刺して行くんだ。というか既にもうやってるけど! この送還の杖は俺が具現化したもので、”送還”の概念を付与している。普通の杖の上位互換として使えるはずだ」
「更にそれをサークルにして、魔法陣みたいにするわけだ。……それでホントになんとかなるのー!?」
「するしかない! ミホノとニイアは触手の迎撃頼む!」
「ううー! ニイアと共闘とか殺してもごめんですけど、今回は仕方ないです!」
「死んでもじゃないんかーい!」
既に氷姫招来を行使しているミホノと、頭の上で寝ている鵺と合体したニイアが並ぶ。
眼の前の触手は、基本理不尽の権化だ。
さっき普通に攻撃してみたけど、まったく切れないし、そもそもすり抜ける。
一方的に掴んで締め上げて殺しにかかってくるのだ。
けど、神格の力を使っていると一応攻撃はできるらしく、弾いたり吹き飛ばすことが可能。
俺が炎鬼天生を使うと後が無いので、二人に護衛してもらいつつ俺が杖を地面に突き刺していく。
「ひゃっはー! エロじゃない触手は消毒だー!」
「ぬるぬるでばっちぃから近づくんじゃねーです!」
両腕を刃に変えたニイアが、触手を切り飛ばせずとも弾いて行く。
同時にミホノの氷の鎌も、周囲を凍てつかせて壁を作ったりして触手の進行を防いでいた。
ティンダロスの猟犬すら捕縛する触手から逃げられるのは、二人の奮闘がやはり大きい。
他にも地の利があるから地形を利用して避けれるのと、何より猟犬たちと比べて触手の動きに真剣さが薄い。
猟犬をエロエロするのに忙しく、こっちにまで意識を向けられないのだろう。
逆に言えば、猟犬をえちえちするのに飽きたら、こっちに本腰を入れられかねない。
そうなるまでが勝負だ。
「よし、あと少し……」
「セオ様! 触手がセオ様の方に行ったです!」
「チッ……やっぱそう上手くは行かないよな!」
刀に生ける炎を纏わせて、迫る触手を防ぐ。
しかし数が多すぎる。
あまりやりたくはないが、やはりここで炎鬼天生を切るしかないか。
――そう考えた時。
「なんだ!?」
「きゅーにどうしたの!?」
「俺が炎鬼天生を使ってないのに、触手が燃えたんだよ!」
「辺りにはミホノ達と猟犬しかいないですー!」
突然の発火、理屈は不明だが――この炎は間違いなく生ける炎だ。
何にしても、そのおかげで隙ができた。
俺は触手から距離を取ると、最後の杖を地面に突き刺す。
「よし、できた! 頼むぞ送還の杖! ティンダロスの猟犬と触手を――あるべき世界に戻してくれ!」
杖にマナを通せば、円の形に配置したすべての杖が一斉に発光する。
木々の向こう、湖で今もえろえろされている猟犬たちが、触手ごと光を帯び――
「セオ様!」
俺の元へ、触手が迫る。
叫ぶミホノ。
しかし、触手は俺に触れる直前――その場から消失した。
ティンダロスの猟犬ごと、まほろばに送還されたのだ。
かくして、世界を終わらせかねないやべー触手は、おなじくやべー猟犬の群れとともに、隔離という形で一旦は消失した。
でもまぁ……触手も猟犬も、まだこれじゃ終わらないよなぁ。