それから俺たちは、あちこちに色々と連絡を取る。
池の後始末は大人に任せることにした。
学園生に任せると一生もののトラウマになって湖に近づくものがいなくなりそうだからな。
地獄のようになってると言っても、ティンダロスの猟犬の粘液があちこちに散らばっているだけだ。
一応触手がその場に存在していたという事実が精神的悪影響を及ぼすことはあるものの、時間と共にこれは落ち着いていくことだろう。
水を浄化する魔祓刃で体液がなんとかなることは確認済み。
宇宙的恐怖を伴う神話生物も、この世界ではめちゃくちゃやべー真生生物である。
まあ、人間の方法でなんとかならんこともない。
次に、兄様とリズ先輩へ作戦を伝える。
他にも色々と、これまでわかったこともここで共有した。
「へー、白面生きてたんだ……そう考えると、七大魔人って完全に討伐できたの実質件だけじゃない?」
「その白面は大丈夫なのだろうな、敵の敵は味方、でしかないのであれば警戒は怠るなよ」
一番最初に触れるのが白面のことなあたり、それ以外の情報はやっぱり色々理解しがたいものがあるのだろう。
あと、白面本体は倒せてるし、今の白面はどうやら今の鵺に近しい存在のようだから、問題はないと思う。
まあ最悪こっち裏切ってきても、その時はまた戦えるってことだからね!
むしろ警戒はしつつも放置が最適解っていうか……ね!
というとまたいつもの反応をされるので黙っておく。
「しかしティンダロスの猟犬か……あの小娘のスペックからして、今の俺たちでは食らいつくことが精一杯か……」
「ちょーっと気に入らないよね。アタシは最強で天下無敵じゃないといけないのにさ」
「……まあ、お前はそれでいいだろう」
そして、兄様とリズ先輩は難しい顔で言葉を交わす。
半魔モードや火属性付与があるから、二人もパワーアップはしている。
しかし流石に本物の神格とやり合うには、色々と不安が残るのだ。
それでもこの二人は原作最強格の楠木リズと百鬼ルト。
俺は二人ならなんとでもしてくれると、信頼していた。
「ま、こっちはこっちでうまくやるよ、元々あれより弱体化する想定なんでしょ? だったら任せて、なんとかする」
「時間停止対策は考えなければいかんがな」
「それならいい案があるから大丈夫!」
「絶対に大丈夫じゃないだろう! 何をするのか話せ、必ずだ!」
「あはは!」
うん、なんというかこの二人が楽しそうに話しているだけでも俺にとっては満足感のある光景だな。
ともかく。
「それで、大変なのはそっちだよ。まずあの触手をどうするのって話」
「そうだぞ、ことと次第によってはそもそも猟犬との戦闘に入ることすら難しくなる」
「任せてください。いい方法を思い付きましたから」
そして、触手対策も思いついている。
方法は、ある意味で非常に単純なものだった。
+
「――――”解郷”」
そこにはこの世のものとは思えない幻想的な光景が広がっていて、どこまでも夢のような世界だ。
だからこそ、儚い。
多くの人々がそのまほろばに夢を見て、欲望という刃でそれを削ぎ落とす。
原作は、そんな人の悪意が牙を成す物語だった。
「――――”解郷”」
そこは、都会のスクランブル交差点だった。
多くの人々が、それぞれの方向に向かって歩いていて、ばらばらで歪などこまで言っても現実が横わたる世界。
だからこそ、尊い。
多くの人々が現実に自分の神聖を見て、様々な感情で明日に向かって歩いていく。
原作は、そんな人の決意が足を動かす物語だった。
「”解郷”」
別に、唐突に思い出してもそこにエモとかそんなものはないんだけど、俺はさっきから解郷を繰り返していた。
だから自然と、考えてしまうのだ。
何度も何度もまほろばと現世を言ったり来たりしているから。
「”解郷”、”解郷”、”解郷”、”解郷”、”解郷”、”解郷”、”解郷”、”解郷”」
そう、何度も。
果てしない数の解郷を、俺は繰り返している。
何重にも、何重にも。
俺のマナ総量を考えれば、それは本来なら相当な無茶だ。
けれど、現在俺は百鬼夜行という魔祓刃の燃費を極限までゼロに近づける魔祓刃を手に入れた。
一度に何十も光の人型を生み出せるなら、何重にも解郷を重ねることは容易。
制御、という面もそこまで問題にはならない。
これまでは重ねる回数が増えるゴトにマナ消費が増大していって、”大規模な魔祓刃”判定になり制御が難しくなっていた。
しかし今はマナ消費がほぼゼロ、つまり百鬼夜行影響下の魔祓刃は非常に制御が簡単なのだ。
俺が覚えられる魔祓刃の容量が、百鬼夜行でほぼ尽きたことを除けば、最高の魔祓刃である。
そして――
「――――”解郷”」
幾重にも重ねた解郷の末、俺は”それ”を覗き込む。
それは深淵だ。
この世のすべて、夢の果て、まほろばの根源とも言える神の吐息。
何を見ているのかと言えば、俺が呼び出して触手プレイに使った触手の――核。
ただ見ただけでは、某白痴の王の本体を直に見るようなものなので、さすがの俺でも危険極まりない。
そこで凄まじい数の解郷を重ねることで、俺はリスクを極限まで減らしていた。
それでも、多少くらっと来たけど、なんとか正気は保てている。
「よし、やるぞ」
さて、あの触手は、カメラという媒体を通して現世に降臨していた。
だからカメラそのものが触手に変質したように見えても、触手の中に現世へ触手を生み出すための核がまだ残っているのだ。
これを砕けば、触手が現世に現れることはなくなるだろう。
現世に多少は残るかも知れないが、本体と繋がっている状態ならともかく、ただの触手であればティンダロスの猟犬たちが処理してくれるだろう。
まぁ死ぬほど死闘になるだろうけど。
――
はい。
最悪すぎる策ですが、悪意には悪意でもって対抗だ。
かくして、ティンダロスの猟犬が未だにぬらぬらされている光景を眺めながら、俺は指を銃の形に変えて前に突き出した。
そしてもう一度、俺は回収した猟犬の体液を口に含む。
まっず。
こうすることで、再び俺と猟犬は繋がりを持ち、猟犬のまほろば――角ばった時間に干渉できる。
「――光弾!」
放たれた弾丸は、的確に触手の核を撃ち抜いた。
触手はやばくても核であるのはただのカメラ、なんてことはない。
角ばった時間に響く、何かが砕ける音。
直後、猟犬たちは自分たちをえろえろする触手の拘束が、緩んだことに気付くだろう。
「よし、準備完了だ」
そうして、俺は解郷を解除してから振り返る。
そこには――ニイアと、そしてミホノが立っていた。
あれから数日、触手が角ばった時間の外にまで侵食し始めるギリギリまで、俺達は粘った。
だから当然ミホノも起きているし、白面とも顔を合わせている。
過去一、白面に対して警戒心を顕にしていた。
まぁ、そうね……
「とにかく、機は熟した。後は猟犬たちを俺達が狩るだけだ」
猟犬は最後まで触手にエロエロされつづけ、完落ち仕掛けているものもおおい。
今が、最高のタイミング。
人の白面は気がついたら何処かに行っていて、多分勝手に一人で何とかするつもりなんだろう。
兄様とリズ先輩はシュリ先輩にまほろばまで送ってもらう。
そして俺達は、ミホノの招来を借りるのだ。
「はー、ほんとしょーがないなぁ。まぁでも、流石にここまで来たら一周回って面白いし――力、貸したげる♪」
「――セオ様」
ニイアは這い寄る混沌らしい笑みを浮かべて、ミホノは俺に呼びかける。
「どうした? ミホノ」
「
「それは……」
「秘密です。いずれわかるです。ミホノはセオ様を応援してるですから」
――その言葉の真意までは、流石に察せられないけれど。
まぁ、俺だってこの猟犬狩りが、ただの狩りで終わらないことまでは察しがついている。
けどまぁ、まずは眼の前の猟犬だ。
「わかった。そのためにも……まずはティンダロスの猟犬に、勝つぞ!」
「おー、です!」
「おー! ……アタシちょっと場違いじゃない?」
それいい出すとミホノに置いていかれるぞ。
なんてことを思いながら、俺達も角ばった時間へと足を踏み入れるのだった。