推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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八十六 原作ファン垂涎

 角ばった時間は、狭い。

 結果、全員で乗り込むとギュウギュウ詰めになる。

 ティンダロスの猟犬が九体、人間が五人。

 そして――触手の残骸が無数。

 猟犬と人間は即座に戦闘態勢に入ったが、誰からとも無く角ばった時間の”隙間”へと彼らは足を踏み入れた。

 

 角ばった時間は無数の角が迷宮のような構造を作っている。

 中でも広い場所は猟犬の住処となるわけだが、通路だって別に行き来が不可能というわけではない。

 それらの通路に人間が四人、ルト、リズ、ミホノ、ニイアがそれぞれ入り込む。

 するとルトとリズは同じ方向に動いたので、一匹。

 それぞれミホノとニイアにも一匹ずつ、系三匹が追跡を開始。

 残る六匹が、セオを囲んだ。

 

「あっはははは! 九匹って……多くない!?」

「言っている場合か! ……押しつぶされるようなマナの量だ。極限まで弱っているということだが、これで本当に弱っているのか!?」

「全力だったら、多分覚醒ニイアちゃん並に強いねぇ、あるいはそれ以上か」

 

 角ばった通路を、隙間を縫うように進みながらルトとリズは言葉を交わす。

 ティンダロスの猟犬は、二人にまだ追いつかない。

 いや、追いつこうとしていない。

 二人は肌で感じていた。

 触手にひどいことをされて弱っている今ですら、猟犬は自分たちを弄ぶために泳がせている。

 

「今ですら、七大魔人は容易に超えるだろう! 愚弟はアレを六体相手にするなど、無茶もいいところだ!」

「というか、結局白面がここに来てないねぇ。ほんとに来るんかな、あいつ」

「知らん! とにかく今はこの猟犬をどうにかするぞ」

「あいあい!」

 

 とはいえ、ルトとリズも決してただ逃げていたわけではない。

 二人が逃げている理由は――距離を取るためだ。

 

神討滅核(しんとうめっきゃく)ゥ!」

 

 リズの必殺技が、勢いよく角ばった時間を覆い尽くした。

 その破壊力たるや、角ばった時間そのものすらも破壊する。

 リズ達が立っている場所は、戦闘をするのに十分な広さを確保したのだ。

 なおルトは当然の権利のように巻き込まれた。

 

「クソ! 俺がこの力に目覚めていなかったら死んでいるぞ!」

「目覚めたから使ってるんじゃん」

 

 ルトは、火を纏っていた。

 火属性付与、というやつだ。

 生ける炎の焔は、神討滅核よりも更に純度の高い破壊。

 まとっていれば、まあなんとかならんこともないとルトはいう。

 なんとかなっている理由の一つに、ギャグ補正が混ざっていないかとリズは思う。

 とはいえ――

 

「――直撃すれば七大魔人すら倒せんこともないんだけどなぁ」

『うるるぅ……!』

 

 ――ティンダロスの猟犬もまた、神討滅核を問題なく耐えていたが。

 ほとんど無傷だ。

 角ばった時間を盾にしたか、時間を止めて逃げおおせたのか。

 どちらにせよ、完全に効いていなかった……とは考えたくもない。

 全力の時ならともかく、未だに触手のぬるぬるがてかてかな猟犬が、これを無傷で済ませられるとは思えなかった。

 無傷だったら勝ち目がない、というのもあるが。

 何にせよ――

 

「――やるか」

 

 リズが、構えを取る。

 まるで御仏のようないっそ神聖にすら思えるそれは――リズの中で澄み渡る清浄な意識と共に、こう呼ぶことがふさわしい。

 

「明鏡止水」

 

 ――途端、世界が眠りについた。

 まるで、角ばった時間が悟りを開いたかのような。

 どこか神聖さすら感じる光景。

 リズの体に変化が生じる。

 前回は一瞬の解放であったため、ほとんどそれは形にならなかった。

 しかし今回は、完全なる解放。

 自身の根源にある真生生物の血を活性化させ、そして発現させる。

 現れるのは――天狗、と評するのが正しい姿。

 どこか修験僧を思わせる、神聖な姿を身にまとったリズがそこにいた。

 前回の使用からしばらくが立ち、ついに本格的な半魔形態への安定覚醒に成功したのである。

 

「いざ……参る!」

「……ふっ!」

『うるるるぅ!』

 

 かくして三者が、開けた世界で激突する!

 リズとルトのうち、前に出るのはリズだ。

 前回は半魔形態への覚醒に時間を稼ぐ必要があったためルトが前に出たものの、今回はその必要がない。

 であればスペック的に優位であるリズが前衛を担当するのが当然。

 原作であればここで両者のいがみ合いが発生しただろうが、この世界のルトは常識的だ。

 問題なく、リズとルトの連携はかなう。

 原作ファン(セオ)がこの場にいれば、思わず尊さで死にかけていることだろう。

 

『うるるう!!』

 

 そして、弱体化した猟犬とリズはギリギリ戦闘が成立する。

 若干リズが押され気味だが、そこをルトが補えばなんてことはない。

 リズが滅核を拳に纏わせながら徒手空拳で戦い、それを猟犬が直角的な動きで圧倒する。

 本当ならもっと高速機動で動き回ってリズを撹乱するのが猟犬の戦いかたなのだろうが、今は疲れていてできないようだ。

 そしてそこに、どこからともなくルトの色即絶空が飛んでくる。

 厄介そうに猟犬は顔を顰めていて、明らかな苛立ちが見て取れた。

 

『うるるるううううう!』

 

 ゆえにそれは当然の流れだっただろう。

 猟犬が時間を止める。

 こうしてしまえば、もはや戦闘なんて関係ない。

 あとはこの邪魔な連中を片付けてばそれで終わりだ。

 そう、思っていた。

 

 

「ざぁんねん♪ 神討滅核ゥ!!」

 

 

 リズがなんの遠慮もなく必殺技をぶっ放すまでは。

 当然なんの構えも取っていなかった猟犬はそれを直撃。

 勢いよく吹き飛ばされる。

 とはいえ、まだ猟犬は死んでいない。

 むしろ、ダメージこそ受けたものの致命傷というほどではなさそうだ。

 しかし、時間が停止してもなお動くリズに、激しく困惑しているようだった。

 

「あっはは! 時間を止められるのはあんたらだけじゃないってこと!」

『うるるっ!』

 

 そこに、リズは再び攻撃を仕掛ける。

 困惑しながらも受け止める猟犬。

 リズの半魔形態は、概念にすら干渉できる能力、時間すらも停止させられるのだ。

 停止時間でいえば、猟犬の方が上回っている。

 しかし時間に干渉できるということは、相手の時間停止に干渉できると言うことだ。

 これにより、猟犬の優位性は崩れた。

 セオとティナの戦闘が示す通り、猟犬が持つ能力は時間の停止だけだ。

 時間遡行は、ティナにしかできないし、ティナも濫用はしない。

 こうなればあとは、純然たるスペック勝負。

 

「そらそら、さっきまでの威勢はどうした!?」

 

 戦闘はリズ達有利で転がり始めている。

 神討滅核のダメージは、決して無視できない。

 何より、相手の一歩上を行ったことによる精神的な優位は、リズを勢い付かせるには十分だった。

 そして最も猟犬を唸らせるのは、ルトの存在。

 無視できないタイミングで、当たればいたい絶対両断の攻撃を的確に打ち込んでくる。

 これを無視すれば、リズが嫌がらせのように追撃を仕掛けるのだ。

 ……ならば。

 

『うるるう!』

 

 再び猟犬は時間を止めた。

 狙いは当然、ルト。

 リズは時間に干渉できるとしても、ルトはそうもいかないだろう。

 ゆえに、リズを完全に無視して猟犬はルトを狙った。

 ここを落とせば、あとは持久戦でスペックが高い猟犬がリズを押し切るはず。

 そう考えて、しかし。

 

 

「甘いな」

 

 

 猟犬は、真っ二つに切り飛ばされた。

 何が起きたのか、真っ二つにされた状態で、ルトを見る。

 

 その姿が、変化していた。

 

「狙いが明白すぎる。カウンターを決めろと自分から言っているようだ」

 

 ルトの姿は、さながら鬼のよう。

 それは何かといえば、()()()()()()()()()()姿だ。

 人は真生生物の血を取り込むことで魔人となる。

 ルトのそれは魔人の姿。

 ()()()()()()()()()だ。

 

「全く、セオはまたおかしなことを考えるな」

「なんかえらい興奮気味に話してたよねえ」

 

 セオは言う、ルトの色即絶空は全てを両断する。

 ()()()()()()()さえも。

 そしてそれを両断すれば、ルトは魔人から人に戻れる。

 ならば()()()()()()()()()()()

 セオが言い出した、とんでもないルトの強化方法。

 なお、言うまでもないがこれはセオがルトの魔人姿を見たかったから考えたものである。

 

 なんにしても、こうして一体目の猟犬は切り飛ばされた。

 リズとルトは、互いに背中を合わせるという原作ファン(セオ)垂涎の体勢で、消えゆく猟犬に視線を送る。

 残り、八体。




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