「むがああああああ! どーしてニイアがここにいるですか!!」
「そんなこといってもー! 逃げた先が偶然同じ場所だっただけじゃーん!」
戦闘を開始してすぐ、ミホノとニイアは角ばった時間の通路でばったり出くわしていた。
というのも、二人は結構近い位置の通路に逃げたのだ。
結果こうして、二人は顔を突き合わせることとなった。
言うまでもなく、後方からはティンダロスの猟犬二体がそれぞれ迫りつつある。
「一対一で戦うより、逆に難易度あがってるです!」
「ほんとごめーん! いやでもなんとか合わせるからさぁ、ここは二対二でやるしかないよ! 通路は実質ここで行き止まりみたいな感じだし!」
「仕方ないです! 足引っ張らないようにするです!」
かくして、ミホノとニイアは互いに背中を預ける形で猟犬を迎え撃つこととなった。
ちなみにニイアは既に変身済みだ。
鵺が触手のえろえろに対して恐怖し、その痕跡ですら正気を保てるか解らないといい出したからである。
そりゃそうだ。
「来たよ!」
「指図無用! です!」
角ばった時間の、トゲトゲとした角の合わさってできた壁をピンボールのように跳ねながら二体の猟犬が迫る。
猟犬達は互いに笑みを浮かべながら、獲物を追い詰めたと言わんばかりに攻撃を仕掛けてきた。
それをミホノが鎌で、ニイアは腕を剣に変化させて受け流す。
直接受けることはしない、極限に弱体化した今の猟犬ですら、正面から受けるには面倒な出力をしているのだから。
できなくはないが、勢いをそらしてやり過ごしたほうが簡単だ。
『うるるぅ!』
弾かれた猟犬のうち一体が時間を停止させる。
しかし、ミホノはともかくニイアですら、まったくそれによって停止する素振りも見せず動きを見せた。
ニイアの場合は別に理屈なんて無くても時間の中で動くことはできるだろう。
そういう理不尽さも這い寄る混沌の持ち味だ。
しかしあえて理屈をつけるなら、これは合体した鵺の力を借りたものである。
鵺の千変万化を用いて「時間停止の中でも動ける身体」に自分を作り変えているのだ。
「悪いけど、その程度でやられるつもりはないなぁ!」
結果、猟犬はそれぞれひたすらにミホノとニイアを突撃で狙うこととなる。
対するミホノとニイアは、それぞれ迫りくる猟犬を弾くだけでいい。
この状況、思った以上にミホノとニイアにとって、戦いやすい状況だった。
「なんかさぁ、アタシたち結構連携できてるくない?」
「背中を合わせられれば、これくらいのこと誰とでもできるです。……楠木リズは少し怪しいですが」
「あ、わかるぅ。あの人いきなり後ろから蹴飛ばしてきそうだよね、この状況で」
なんて、話をする余裕すらあるほどだ。
そして実際ニイアの言う通り、リズならばそういうことは平気でする。
それが戦闘を終わらせる有効な手段だと判断できてしまうから。
この状況、二人にとって戦いやすいことは間違いないが、決定打と呼べるものがないのだ。
「しっかし攻撃激しいね! 受け止めるので精一杯だ!」
『うるるうぅああ!』
「っ! 口ばっかり動かしてないで、もっとしっかりやるです!」
猟犬の攻撃は直線的で、背中を合わせているから眼の前の攻撃だけを対処すればいい。
などなど、ミホノとニイアが優位に戦闘を運べる要素は山ほどある。
しかし猟犬の攻撃に勢いがあることは事実。
もし一歩でも間違えれば、この状況が瓦解してしまうことは二人にとって明らかだ。
「それにあんまり時間もかけてられないです! そう簡単に猟犬のスペックがもとに戻るとは思わないですが、時間をかければかけるほど、向こうに有利になるですよ!」
「そうなったら厳しいと思う!?」
「お遊びだったティナですら捌くのは厳しかったですから、本気になったこいつらの相手なんて考えたくないです!」
「要するに、何かしらの手立ては必要なわけだ!」
――結果として、リズのようにいきなり味方の背中を蹴っ飛ばす奇策が必要になってくるわけだ。
セオならば、いくらでもそれを思いつくだろう。
リズもまた同様に。
しかし案外、ミホノもニイアも発想力はそこまで豊かではない。
特にニイアは這い寄る混沌の化身にも関わらず、あまり察しがよくない。
というか、アルラもそうだが這い寄る混沌の化身というのは意図的に察しがよくないよう設計されているフシがあった。
何にせよ、二人は打開策を思いつけなかったのだ。
――だが、気付くこともある。
「…………あんまり認めたくはないですが、ニイア」
「うーん、何!?」
「思ったより……戦いやすいです。ニイアに背中を預けるの」
「あ、それアタシも思った。例えばこれがセオくんだとこうはいかないよねぇ」
これがセオだったら、もっと積極的に戦況を動かしていただろう。
ニイアもミホノも比較的受動的に戦うタイプだ。
ミホノはセオに対する狂信と任侠映画に対する愛着以外は普通の少女だし、ニイアは這い寄る混沌のくせに結構まともである。
だからこそ、戦闘中に破天荒な動きはしない。
作戦通りに行動することがほとんど。
今回の場合は、お互いに安心して戦えるからこそ――相手の分析ができた。
「でもってさぁ、ティンダロスの猟犬って――」
「――
猟犬という言葉と群れをなしていることから、ミホノとニイアは少し誤解していた。
彼らは狩りが”得意”な生き物だ、と。
しかしそれは違う。
彼らは決して狩りが得意だなんてことはない。
だって彼らが狩る獲物は、圧倒的に弱者であることがほとんど。
時間に干渉しただけの、哀れで愚かな人間ばかり。
しかし、今は違う。
自分たちに比肩しうる強者。
更には慣れない連携で、猟犬たちには
「なら……ミホノが動くです。合わせるですよ!」
「おっけ!」
二人は、その言葉だけでミホノが何をするのかニイアに伝達した。
当然猟犬は、警戒こそするものの二人が何をするつもりなのかは解らない。
故に、そのまま継続して襲いかかり――!
「ですっ!」
ミホノが
猟犬の攻撃を受けるのに失敗し、態勢を崩したのだ。
すると猟犬は――
連携不足、弱者しか狩ったことがないことによる経験不足。
それにより、眼の前にぶら下がった餌を、猟犬たちは無視できない!
「はぁい残念でした……っと!」
そこへニイアが、自身の腕を複数に裂いて剣に変化させて斬りかかる。
鵺が身体に無数の腕を生やすのと同様に、剣を複数出現させるのだ。
結果、対処の遅れた猟犬二体の足を一本ずつ、剣が勢いよく切り飛ばす。
『うるるううううああ!?』
『うるるるる! うるるぅうう!』
驚愕する猟犬と、猟犬に罵倒を飛ばす猟犬。
もはやここまでくれば、それはいっそ無様だ。
更にそこへ追い打ちを欠けるように――
「吹き飛ぶです」
ミホノが、横っ腹から無数の弾丸を猟犬達に浴びせつける。
猟犬はそれをまともに受け、吹き飛ばされた。
ダメージといえるダメージはほとんどない。
ティナに対してもそうだったように、銃弾は猟犬を貫くほどの威力にはならないのだ。
それでも、吹き飛ばして壁に叩きつけるくらいのことはできる。
後はそこを――二人がそれぞれ狙えばいい。
「――――」
「――――」
お互いに言葉はなかった。
視線だけで、ニイアは右、ミホノは左。
それぞれに猟犬へ狙いをつけ――飛びかかる。
「これで!」
「終いだ!」
結果――両者の一撃が、猟犬の首をほぼ同時に切り飛ばした。
――残心。
二人は同時に大きく呼吸を吐き出して、警戒を解かぬまま緊張だけを弛緩させる。
互いに相手をみて、少しニヤっと笑みを浮かべた後、ミホノが気恥ずかしそうに唇を尖らせて視線を反らした。
「お疲れ様ぁ」
「うっさいです……はやくセオ様のところに戻るです」
「はいはい。……というか、思ったんだけどさ」
「なんです?」
ニイアは完全に戦闘が終わったと判断して両手を普通の腕にもどし、それを後ろに組んで頭を支えながら零した。
「一対一で戦うより難易度上がるって、アタシもまとめて謀殺するからってことだと思ったけど、案外ミホノちゃん普通に戦ってたね」
「…………そうしておけばよかったです」
「やめて!?」
まぁ、無論それは冗談だけど。
冗談を言えるくらいには、ミホノとニイアは今回の戦闘に達成感を覚えているのだった。
残る猟犬は――後六体。