俺は、この世界に知らない続編があると気づいた時から、ずっとそれがどんな内容か考えていた。
原作において、ほとんどの魔人は倒され、完全無欠のハッピーエンドが訪れている。
これ以上、話を続けようがないはずなのだ。
だからもし、新たな敵を用意するのだとすれば――それは原作には存在しなかった場所以外にありえない。
そしてそれは幸いにも、ラスボス――隕石の魔人という形で示されていた。
宇宙にまほろばがあるとすれば、どうだろう。
そこに魔人と真生生物がいるとすれば、どうだろう。
それが新たな敵と
答えを確かめる方法は単純だ。
解郷を使えばいい。
もともと、解郷は光弾の次に習得するつもりでいた。
構想にあった二重解郷による現世世界の覗き見が成功すれば、かなり優秀な魔祓刃になるからだ。
そしてその魔祓刃で、宇宙を見ればいい。
宇宙から3つ目の解郷を使用し、宇宙のまほろばにアクセスすればいい。
そこに、宇宙の真生生物と、魔人がいれば、それが答えだ。
――結果として、俺は答えを見つけた。
そこにはいたのだ。
冒涜的で、見たものを発狂させかねない存在を――
神格とでも表現するべき、クトゥルフ神話の神話生物を――!
そりゃまぁ、そんなものを見れば倒れますよね。
その後発狂したのも、SANチェックに失敗したと考えれば当然である。
ただ、これは悪いことばかりではない。
この世界において、人類がマナを体内に取り込む方法はいくつかある。
真生生物を取り込むこと、真生生物と子をなすこと、そして――真生生物の”影響を受ける”こと。
真生生物の中には、見ただけで人体に悪影響を及ぼすものがいる。
それによって下手をすれば人は死んでしまう。
だが、その悪影響を乗り越えれば、体内にマナを発生させることができるのだ。
これは忍――人の身でありながらマナを取り込み魔人と戦うことを選んだ者たちのやり方であった。
魔祓師はマナを重視し、忍は身体を重視する。
これは忍が人としてマナを体内に取り込もうとした名残だ。
魔祓師が身体よりもマナの鍛錬を重視したのは、元がマナでできた生物だったからで。
忍が身体を鍛えることを重視したのは、そうしないと真生生物からの影響を耐えられなかったからでもある。
だから俺は、宇宙の真生生物から影響を受けることで、宇宙の魔祓刃に目覚めようとした。
一度は失敗してしまったから、二度目は可能な限り体をマナと精神を鍛え、挑むことにしたのだ。
母様との約束もあったし、絶対に失敗できない土壇場のほうが、成功率が上がると思ったから。
――そして、俺は視た。
そこに”ある”何かを。
それは、火だった。
けれども炉の火ではなく、松明でもない。
空間の裂け目から滲み出したその存在は、星の怒り、太陽の神経、燃え盛る狂気そのものだ。
炎は燃えているのではない。
意志を持って燃えている。
それは生命であり、知性であり、神だった。
視界の奥で、灼熱がねじれ、形を取ろうとする。
そこに現れた
慈しみに似た感情が伝わってきた。
焼き尽くすという慈悲、消し去るという救済。
あまりにも純粋な焔ゆえに、恐怖すら冒涜だった。
その瞳なき凝視に触れた瞬間、俺の心の内側が焼け落ちる。
言葉ではない。
音ではない。
――――ただ、観察すること自体が、宇宙の条理を焼却する。
――ああ。
視た、視てしまった。
それを、ただそこにあるだけの、それを。
だけど、それを視た時。
感じた時、瞳に炎が宿った時。
俺は確かに、感じたのだ。
強い、願いを。
ただ、目前の敵を、不条理を、理不尽を、破壊し、冒涜し、燃やし尽くすという願いを――――
+
――悪路王は、視た。
己が押しつぶした小童の、その瞳から。
焔が漏れ出る瞬間を。
おかしなものを、確かに視た。
その焔が、生きている。
ありえないものを、目に焼き付けた。
その焔は、マナでもなければ、魔祓刃でもない。
もっと、おかしな、言葉にできない別のなにかだ。
そして、小童は――
悪路王の、足を。
つかみ、そして、力を込めて、
『ぬ、お、おおおお!?』
悪路王を、
――あり得ない。
このような小童に、そんな力、あるはずがないのだ。
たたらを踏んで、顔を上げる。
そして、悪路王は見た。
小童――セオの瞳から溢れた炎が、体中を覆っていくさまを。
「――そうだ、やっと、思い出した」
『なんだ、それは』
炎を撒き散らしながら、セオは立ち上がる。
その瞳には――
「始まりは……怒りだったんだ」
憤怒が、宿っている。
「理不尽に対する怒り、命が失われたことに対する怒り。悲劇に対する怒り――」
『何を……言っている!』
「――俺は、誰かが死んで盛り上がる悲劇が、きっと何よりも許せないんだ……!」
言葉とともにセオの体が、猛然と突っ込んで来た!
先程までの、文字通り児戯としか言いようのなかった攻撃とは、比べ物にならない速度――そして、
『ぬ、おおお!』
――威力!
「ああ、だからこの焔は、俺の体によく馴染む!」
『貴様、なんだ、この、力は……! その、得体のしれぬ炎は……!』
打ち合う。
数メートルの巨体と、六歳の幼子の体が、真っ向から。
押しているのは――幼子の方だ。
――悪路王は焦る。
ありえない、ありえないありえないありえない!
先程までのそれは、単なる遊びだったのか?
この小童は、悪路王が殺すよう言われていた百鬼ルト以上の才能を隠していたのか!?
この
混乱の極みにある悪路王に、わかるはずがない。
今この瞬間にも、セオが自身の暴走のリスクと戦っていることを。
一瞬でも制御を誤れば、セオ自身が悪路王以上の怪物に成り果ててしまうことを。
――この状態が、長く続くものではないということを。
それでも、セオは確信していた。
勝てる――と。
「お、おおおッ! おおおおおおっ!!」
『ぬ、あああ! あああああっ!!』
――焔が、天を衝く。
悪路王が、押し切られる!
『魔装を……!』
「ム、ダ、だあああ!」
――魔装、魔人が持つ切り札。
だが、悪路王のそれはただ純粋に自身の身体能力を強化するというもの。
今、眼の前にいるセオの出力は、
『き、さま――何者だ……!』
「――セオ。百鬼セオ……ッ!」
――知らない、そんな小童の名前など。
しかし、理解した。
百鬼ルトが、いずれ魔人の脅威となる天才かもしれない。
だが、この小童は――百鬼セオは、そんなものでは収まらない。
魔人と魔祓師――その枠組すらぶち壊す人間だ――!
『ク、ハハハハ! ハハハハハハ!』
気がつけば、悪路王は地面に転がり――負けていた。
焔をゆっくりと収めていくセオだけが、そんな悪路王を見下ろしている。
「なにが……おかしい、んだよ」
『ハハハハハ! これがおかしくなくて何だというのだ。俺がこのような小童に負けたのだぞ! 滑稽だろう、なぁ、小童!』
セオは、答えない。
もともと、セオにはそんな余裕がないのだ。
『――だが、お前は勝った。理由のわからん賭けに勝利して、理由のわからん力で』
「……」
『それがお前なのだ。不可解にして、理不尽の権化よ。俺は理解したぞ。お前はこれから、魔人どころか魔祓師すらもめちゃくちゃにするだろう』
やがて、悪路王は消えていく。
塵となって、跡形もなく。
しかし、だというのに――その顔には、一点の曇りすらなく。
『ああ、それをこの目で見られないことが何よりも、惜しい』
――笑みを浮かべていた。
『故にこそ――征け! 百鬼セオ! 貴様の思うがままに、進むがいい!!』
ただ、一夜の死闘を繰り広げただけの相手に、本気の激励を送って。
悪路王は、死んだ。
+
――その日、世界は見た。
破壊と激情の焔を。
天を衝く、セオの焔を垣間見た。
世界は変わる。
セオの知る”原作”からも。
セオの知らない”原作”からも。
この先にあるのは、完全なる未知。
セオが望み、破壊した――真白の未来に進む道だ。
これは、めちゃくちゃになった原作と知らない原作に困惑しながら、原作をめちゃくちゃにして進む主人公に、周囲もまた困惑するの物語――
ここまでで一区切りになります。
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