――俺、百鬼セオには才能がない。
今回のことで、それを俺は強く意識せざるを得なかった。
これまで俺しか使ってこなかった能力――解郷による神格の力を得ること――を他の者達も使い始めた。
やろうと思えば、他の者達も使えるだろう。
少なくともリズ先輩は、方法さえ教えればすぐにそれをマスターするはずだ。
そして天才のリズ先輩は、俺よりずっとそれを使いこなす。
ミホノですら衣装の変化という俺にはない変化を起こしたのに、原作の最強キャラであるリズ先輩が使いこなしたら一体どんな変化に到達してしまうんだ?
別に、そのことに不満はないはずだ。
俺の目的は、この世界をより良い未来に導くこと。
強くなることはそのための副次的なものに過ぎず、決して俺の本懐じゃない。
だから問題ないはずなのだ。
誰が強かろうと、誰が世界を救おうと。
そこへの頓着は大きくない。
あるのはあくまで、自分が使える手札の少なさに対する悔しさ。
ただ、強くなりたいという渇望が、全くないわけではない。
不満というほどではない。
だけど、強くなりたいという気持ち自体はずっと胸の中に潜んでいる。
ならその根底にあるもの――俺が強くなりたいと思った理由は、なんだったろうな?
「いったぞティナ!」
「わうわうわーう!」
俺達は二人がかりでティンダロスの猟犬を追い詰めていた。
残る猟犬は三体……なんだが、何故か一体の反応がない。
解郷でマークしていたから他の誰かに倒されていたからわかるはず……なんだが、気付いたら消えていた。
理由は……一応、想像がつく。
正直、あまり歓迎できる理由ではない。
だけど既に”もっていかれた”以上は、俺達にできることはない。
こっちからできることは何もないし、今は眼の前のことに集中だ。
「わっふぅううう!」
『うるるるぅうう!』
現在俺達がいるのは、俺達が最初にやってきた場所。
すなわち、ティナたちの群れが生活していた場所だ。
このあたりで最も開けた空間であるその場所で、二体の猟犬を俺達は同時に相手している。
基本的にはティナが二匹を同時に追い詰めて、俺はそのサポート。
炎鬼天生を完全解放していないからな、ティナのスペックには追いつけない。
そもそも、猟犬達がそもそもかなり弱体化しているから、本来なら俺のサポートすらティナは必要ないはずだ。
ただまぁ俺はサポートをそれなりに得意としているから、邪魔になることはない。
『うるるるるぅ!!』
当然、ティンダロスの猟犬は俺を狙ってくる。
俺を排除すればそれだけ楽になるという意識もあるだろうが、どちらかというとこの期に及んで弱者をいたぶりたいという意識故だろう。
ティナが相手をしていないほうの猟犬が、俺に鉤爪を振るう。
しかしそれも、俺は
弱体化した猟犬と俺達の力関係は、若干俺達の方が下。
そこを戦術で乗り越えるのが通常の対処方法だった。
猟犬も、ティナはともかく俺に関しては、力押しでもどうにかなると思っていただろう。
だが、それはもうさせない。
「解郷、解除!」
生ける炎を見るための解郷、そのフィルターを一つ一つ外していく。
これにより俺はどんどん炎鬼天生の出力を上げていき、猟犬へと拮抗できるようになっているのだ。
加えて、得物の刀にも工夫をしている。
今の刀は具現化で形を変化させたもの、これには角がない。
刃物というよりは鉄でできた模造刀という方が近いかも知れないな。
けどおかげで、正面から猟犬に触れると、猟犬は弱体化する。
猟犬と戦うという特殊環境においては、これがある意味正解と言えた。
「おおお! らぁあ!」
『うる!?』
そして俺は、地面に猟犬を叩きつける。
完全な驚愕の声。
まさか力押しで自分が敗北するとは思わなかったのだろう。
しかもこの驚愕は、猟犬にとって致命的な隙となる。
「――――貰ったぞ」
ティナが、狙いを変えた。
俺を攻撃する猟犬に向けて、一直線の突撃。
ただただ速度で圧倒する攻撃は、しかし。
それだけで猟犬を轢き潰していた。
『うるるるる!!』
「でもって、気を取られたな――?」
その間、ティナに押さえつけられていた猟犬は動きを止めている。
共に戦っていた猟犬がやられた驚愕、恐怖。
それらによって動きを止め、隙をさらしているのだ。
俺はそれを見越して、ティナが動く前に既にこちらの猟犬へ狙いを定めていた。
『うる――』
「――これで、終いだ」
そして、最後はここまでチャージしていた生ける炎を刃に纏わせて、一閃。
『うるるるるるううううう!!』
――最後のティンダロスの猟犬が、今ここに切り捨てられた。
□
俺とティナの呼吸音、そして猟犬の腐臭が周囲を支配する。
すなわち、静寂だ。
動くものは何もいない、アレだけやかましかった猟犬も、もういない。
「……おわった、な」
「……おわった」
嘆息。
するとまた猟犬の腐臭が鼻に入ってくるので、それに顔をしかめつつ。
俺とティナは向かい合う。
「お疲れ様」
「……ん、ありがと、百鬼セオ」
お互いに、少しだけ笑みがこぼれる。
少しくらい、肩の力を抜いても許されるだろう。
ただ、脅威――俺達の”敵”はここに排除された。
もう悪意を持って、何かをなそうという輩はこの場にはいない。
いや、暗躍してる奴らはいるんだけど、白面とか。
それでも、今回は俺達に攻撃を仕掛けてくることはないだろう。
すなわち――
「残った問題は、
「何?」
「――一回目の俺は、君に何を吹き込んだ?」
いまだ明かされていない謎は、”一回目”の俺が何を目論んでいるのか、という点だけ。
それをしっているのは、この時間軸においてティナ一人だけだろう。
「――――まだ、教えない」
そしてティナは、それを拒否した。
変わりに――四つん這いになる。
それは、構えだ。
「
「それはまた――」
「勝てなきゃ、知る資格はない」
断言された。
やるしかないのだろう。
今のティナは、件の力を取り込み普通の猟犬一体よりスペックが高い。
流石に全力を出せる状態での九対一ならまだ猟犬が勝つだろうが――今相手をしてきた連中とは別格の強さだ。
「百鬼セオは――強くなりたい?」
「……ああ」
「どうして?」
どうして、か。
ここ最近、俺は自分がどうして強くなりないのか、というのを心のどこかで考え続けている。
それだけを意識したことはないけれど、確かに俺は強くなりたいと思い始めていた。
そして、その理由も少しだけつかめているんだ。
「多分、二つの理由が俺にはある」
「二つ?」
「ああ、そしてそれはきっと、俺自身には理由がないんだよ」
俺一人なら、きっと俺はそれなりに踏ん切りをつけて、妥協を選んでいただろう。
そもそも俺の行動の動機は、この世界を少しでも幸せにすること、そして能力を開発して楽しむことなんだから。
だから、要するに。
「俺に、理由をくれた人がいる。理由をくれた奴がいる」
「それが、百鬼セオの強くなりたい理由?」
「……ああ」
言葉にすれば、その輪郭は確かにつかめた。
俺に強くなって欲しいと願った人。
俺が負けたくないと思う相手。
どちらも、俺にとって切っては切れない存在だ。
「だから負けたくない。ティナ、君が俺に勝てと言うなら、俺は君にだって勝つ」
「ボクだって負けるつもりはない。百鬼セオを番にするのは、諦めてない!」
互いに、言葉は全て出し尽くした。
さぁ、もう一戦だ。
俺は百鬼セオとして、強くなるためにティナに勝つ!