推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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九十二 俺の理由

「解郷!」

 

 最初から、出し惜しみはなしだ。

 ティナを越えたあとの”その先”。

 正直薄々思っていることはあるんだが、おそらくそこでも戦闘になる。

 しかし相手は別に俺の昏睡状態を狙ってくることはないだろうから、ここは全力で行くべきだ。

 体を焔が纏い、煌々と目が光る。

 全力の、全開の、俺自身の最大出力。

 

「受け止めて見ろよ――!」

「どっからでも……こい!」

 

 珍しく、俺の方から攻撃を仕掛ける。

 ティナの手札は――あるいは、俺の手札も――すべて見えているからだ。

 ティナもまた、一直線に俺へと突撃する。

 双方は全力で一撃を振るい、激突。

 拮抗した。

 しかしそれは一瞬だ。

 

「正面からじゃ、ボクには勝てないぞ!」

「わかってる……っての!」

 

 直ぐに俺のほうが押されだす。

 これは、きっと一回目の俺とティナが全力でぶつかった時と同じ結果だ。

 俺は先日のあふあふさんとの戦闘で出力が向上している。

 しかしティナの方も件を喰って、一回目の俺と戦った時よりも出力が向上しているだろう。

 出力面では、両者の差は一回目の戦闘とそう変わってはいない。

 変わっているところがあるとすれば、出力を上げた代わりに俺の炎鬼天生の効果時間が短くなっているということか。

 とはいえよっぽど無茶をしなければ、あふあふさんの時のように時間切れにはならないはず。

 まぁどっちにしても――

 

「小手先の技術なら、こっちに分があるだろ!」

 

 俺は自分を圧倒するティナを、うまく受け流して弾く。

 そこから再びティナに接近し――弾かれたティナが直線的に突撃してくるのを、避ける。

 ティナは非常にハイスピードな機動力を持っているが、一直線にしか動けない。

 回避自体は非常に容易だ。

 そして回避直後、ティナが俺の横を通り過ぎるタイミングでケリを放つ。

 

「ぬあ!」

「隙が大きいんだよな!」

「くっそー! それ、前にも言われたぞ!」

 

 放たれたケリに、ティナは手をかざして受ける。

 そのまま吹っ飛んで、ずささっと後方に滑った。

 この辺りは、一回目の戦闘でも行われていたやり取り。

 多分このまま行くと、一回目の焼き直しになる。

 いや、一回目の戦闘でティナは時間停止を使ったはずだ。

 それをおそらく、俺は炎鬼天生由来の方法で対策し、不意打ちした。

 だけど今回はそのやりとりがない。

 この不意打ちが痛み分けの原因なのだとしたら、一方的にこちらがなぶられることになるか。

 まぁ、その心配はいらないだろうが――

 

「――なら、こうする!」

「ティナの影……!」

 

 ティナの横に、ティナがもう一人出現した。

 ティナの影、要するに時空干渉で発生したティナだ。

 こいつは、スペック上ほぼ現在のティナと出力が変わらない。

 要するに――滅茶苦茶厄介だ。

 

「へへ、一対一なら対処できても、二対一なら難しいだろ!」

「だったら……二対一じゃなければいいんだよ!」

「むぅ!?」

 

 しかし俺にも、一回目とは違う手札がある。

 周囲に、光の人型が出現した。

 

「――百鬼夜行」

 

 俺の固有魔祓刃。

 自身の持つ汎用魔祓刃のマナ消費を極限までゼロに近づける。

 それにより生み出された人型は、すべて生ける炎の焔を纏っていた。

 こいつらが無視できない存在であることは、ティナもひと目で判断がつくだろう。

 

「構うものか! いっくぞー!」

「来い!」

 

 今度はティナが仕掛けてくる。

 二人がかりで周囲の人型を吹き飛ばし初めた。

 ジグザグに交差するような動き。

 その突撃に人型がぶつかると、一瞬だけ拮抗してから消し飛ばされる。

 複数体をぶつけても、拮抗時間が長くなるだけ。

 これ単体では、ちょっとした時間稼ぎにしかならない。

 それでも、使い道は無数にあるのだ。

 

「起爆しろ!」

「これ厄介だな!」

 

 群がった人型が、一斉に爆発しはじめる。

 これでティナの動きが更に遅くなるだろう。

 俺はそこに、爆発を気にせず正面から突っ込む。

 

「ひきょーだ!」

「戦術といってほしいな!」

 

 とはいえそれでも、ティナは俺よりも強い。

 少し動きを止めて目を封じたくらいじゃ、ただがむしゃらに周囲を攻撃するだけで一気に近づきにくくなる。

 実際ティナは、見えていようが見えてなかろうがお構いなしに周囲を攻撃しまくっていた。

 ただただ一直線な突撃にどれだけ刀をぶつけようとしても、うまくやらないと押し負けてしまう。

 だがそれも、爆発を受け続けていれば話は別だ。

 

「ぬ!? 体が……ちょっと重いぞ!?」

「……いまだ!」

「ぬぬ! ……何かしたな!」

 

 ティナの動きが一瞬鈍る。

 そこを俺は遠慮なく攻撃した。

 ふっとばされるティナ。

 彼女の言う通り、俺の魔祓刃が彼女の動きを妨害しているのだ。

 人型に”低下”の概念を具現化して付与している。

 これによって、爆発を受けたティナは少しずつ――本当に少しずつだが、スペックが低下しているのだ。

 後はこれを、ぶつけ続けるだけでいい。

 

「……舐めるなああ!」

 

 ――しかしそれも、ティナのゴリ押しの前では無意味に変わる。

 ()()()()()()()()()()()()()

 

「流石にそれは反則だろ」

「まだまだふやせるぞ!」

 

 ――これは、流石にどうにもならないな。

 二体までなら、なんとか対処できる。

 ティナを弱体化させて、倒し切ることも可能だろう。

 でも、三体は無理だ。

 それ以上となれば、もっと。

 少なくとも、今のままじゃ。

 ――だが。

 

「……ふぅ」

 

 俺は、そこで立ち止まる。

 ティナの影は今もなお増え続けている。

 最終的には十体なんて軽く越えてしまうだろう。

 猟犬の群れを相手にした時以上に最悪な状況だ。

 でも、だけど――だからこそ。

 ここしかない。

 ここが最後のチャンスだ。

 ティナに勝つなら、ティナが影を呼び出している今しか、勝ちの目はない。

 

 ――どうやって?

 

 方法は、考えてある。

 ただそのためには、自分と向き合う必要があって――そして、乗り越える必要があるのだ。

 しかしできるのか?

 ここまで才能のなさをずっと突きつけられてきた俺に。

 土壇場での覚醒なんて、そんな無茶なこと。

 やるしかないのはわかっている。

 それでも……

 

 

「セオ様!!」

 

 

 そんな時、声が聞こえた。

 誰の声かなんて、確認するまでもない。

 きっと、戦いを終えてここまで戻ってきたんだろう。

 ごめんなミホノ、びっくりしたよな。

 いきなりティナと俺が戦っていたら、また最初の時みたいに心配するよな。

 でも、()()()だ。

 ミホノが声をかけてくれたおかげで、気づけたから。

 

「……俺に才能はない」

 

 こぼす。

 果たして誰に聞こえているだろう。

 ミホノがいるならニイアもいるだろうし、兄様やリズ先輩もここまでたどり着いているかもしれない。

 あいつはきっと聞いてるだろう。

 ああ、なんでも構わない。

 

「だから土台、いきなり土壇場で覚醒するなんて無理な話だ」

 

 それは大前提。

 なら、どうする?

 

「でも、俺はちゃんとここにくるまで、全てのピースを揃えてる。あとは気づくだけなんだ。そのピースをはめる方法を」

 

 そしてそのピースを、俺は()()()

 疑いようもなく、綺麗にきっちりと。

 

「ミホノ! 俺は、()()()()()()()()()()()()と願ったから強くなれた!」

 

 そうだ。

 始まりはそうだったんだ。

 俺はミホノの願いに応えたいと思ったから強くなろうとした。

 ミホノが、俺の最初に守りたいと思った人だから。

 俺の()()だから。

 そして、

 

「なあ、聞こえてるんだろう白面! みてるんだろう! 俺は勝つぞ! お前に負けないために! こんなところで膝をついてなんかいられない!」

 

 白面もまた、俺の理由だ。

 鏡合わせなんだ。

 あっちが強くなろうとするなら、俺だってそうする。

 だって楽しいだろ、白面と戦うのは。

 ゆえに、

 

「俺は背中を押されて強くなり」

 

 構える。

 チャンスは一度だけ。

 

「負けたくないから強くなる!」

 

 身体中から炎が溢れる。

 生ける炎だ。

 

「故に、魔滅場開放!!」

 

 そして、駆けた。

 ただただ一直線に、勝利へ向かって!

 

 

「百鬼夜行・常勝不敗!!」

 

 

 俺は、魔滅場を開放した。

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