魔滅場開放。
この世界における代表的な必殺技。
強者なら誰だって使えるし、バチバチにカッコよくて決まってる魔滅場がとにかく多い。
特に兄様とリズ先輩の魔滅場は作品の顔とも言える魔滅場だ。
リズ先輩とか、まず最初にこれから決めたんだろうなってくらい名前も効果も決まってる。
そんな魔滅場だが、名前の通り「魔を滅ぼす場所」であるから、自然とその効果のほとんどは世界を作ったり、長時間効果を維持するものが多い。
ミホノの魔滅場が典型だろう。
一つの世界を作るってのは、魔滅場の醍醐味だ。
前世で中学時代にオリジナル魔滅場について考えてた時、ノートに書いた魔滅場の半数が世界を作るタイプだったと思う。
じゃあ、この世界で俺が手に入れた魔滅場は?
答えは、とても単純。
百鬼夜行の効果時間を極限まで減らす代わりに、炎鬼天生を百鬼夜行の対象にすると言うもの。
これによって何が起きるか。
一瞬だけ、
「ティナ!!」
「百鬼セオ!」
ぶつかり合う、俺とティナが。
無数の影が生まれるのなら、影が生まれる前にここで本体を倒すしかない。
今のティナは影を生み出すのに集中している。
だから、ここが一番のチャンスなのだ。
ここで、押し切る!
――この魔滅場は、持続時間が一瞬だけという魔滅場としては特殊な代物だ。
じゃあ魔滅場として特別なのかというとそうではなく、むしろ逆。
原作にも、そういう人物はいた。
更にはマナの消費も激しいことから、戦闘中に使える回数も限られている。
とにかく扱いにくい魔滅場ってことだ。
少なくとも俺の場合は、炎鬼天生が使えなければそもそも役に立たない魔滅場なのだから、更に輪をかけて扱いにくい。
魔滅場開放した時点で、炎鬼天生を使っているわけだから一週間昏睡はほぼ確定。
まったく持って、厄介な魔滅場だ。
それでも――
「俺は、魔滅場を、手に入れた――!」
「く、うう!」
――これが、俺の魔滅場だ。
俺だけの、俺だからこそ生み出した魔滅場――!
「なぁ、ティナ! 俺はどんな相手にだって勝つぞ!」
「ぐっ……!」
「そうすることで、俺の守りたいものを守れるなら。大切な人の期待に答えられるなら、あいつが俺をライバルと認めてくれるなら――
その瞬間、俺はティナを見た。
その顔は、どこか悔しさに歪んでいる。
果たしてそれは――一体誰に大して向けたものだったのか。
どちらにせよ、俺は――
「俺は、勝つぞ! たとえその相手が――
決意とともに、ティナを壁に叩きつけた。
加減はしたが、全力でやっていればそのままティナを倒していることは明らかだ。
――決着はついた。
俺は、ティンダロスの猟犬に勝ったんだ。
□
「セオ様!」
「ミホノ、無事だったか!?」
「無事です!」
「……ちなみにニイアは?」
「邪魔だから先に送り返したです。ルトたちも送り返したです」
そっかぁ。
何にせよ、戦闘が終わりミホノが駆け寄ってくる。
俺は炎鬼天生の効果を弱めて、もう少しだけ昏睡しないようにしてティナに視線を向けた。
そんな俺に、ミホノは不思議そうに問いかけてくる。
「――自分にも負けないって、どういうことです?」
「……一回目の俺の狙いが、ようやくわかった」
いや、なんとなく想像はしていたんだ。
嫌な予感、とでも言うべきか。
もしも一回目の俺が、俺と同じ存在なら――
「うへ、へへ。やっぱり百鬼セオは鋭いなぁ」
生ける炎にあぶられたからか、少しだけボロボロになったティナが起き上がりつつ言う。
というかまぁ、壁に叩きつける時だけ加減したけど、突っ込んで激突したところは特に加減してないからこうもなるか。
「百鬼セオは、ボクにいろんな事を教えてくれた。言葉や、人の姿になる方法。ボクが思いついた方法の具体的な実行手段。……ほんとに色々」
「……そっか」
「そしてこの方法を実行することで――百鬼セオは自分の目的も達成しようとした」
「自分の目的、です?」
ティナが、光を帯びる。
それはマナだ。
彼女が持っている件から取り込んだマナを、解放しようとしていた。
「――ここにいる百鬼セオを、
ミホノの言葉に、ティナが端的に返した。
「……はえ?」
「もっと直接的に言えば――」
ちょっとミホノはついていけないようだ。
だから俺が改めて、それを口にする。
「一回目の俺は、
「――はにゃ!」
びくっ、と驚いた様子でミホノが飛び上がる。
「同キャラ対決です!? 時空の法則が乱れるです!?」
「そりゃ乱れるだろ。これからティナが乱すんだから」
「何やらかそうとしてるです!?」
「安心していいぞ。二つの百鬼セオが邂逅するのは一時的なことだ。件のマナも限りはあるからなー。マナが切れたら、またこっちの百鬼セオはこっちの時間に戻ってくる」
おお、流石にその辺りは詳しいんだな。
かなり一回目の俺が根気強く教えたと見える。
何にしても、ようするにやるべきことは単純だ。
「そういうわけだ、ミホノ。俺は――俺に勝ってくる」
「……あうう、本来のセオ様はあんまり強さに固執しないですから、こんなこと考えるのはミホノのせいですよね?」
「……多分、そうだろうな。俺に強くなってほしいと願うミホノが、俺を守るために無茶をした。強くならなきゃって、向こうの俺は思うはずだ」
考えてみれば、これが一番しっくりくる考えだ。
ミホノを傷つけたティナにそれでもなお協力するのは、同情も理由の一つかもしれないけど、一番の理由じゃないだろう。
自分にも利点がたしかにあるからだ。
「一回目の俺は、ティナにいろんな事を教えた後――猟犬の群れにも勝ったのか?」
「勝った……と思う。ボクはこっちに飛んだから見てないけど、やれることは全部やるって言ってた。多分、強くなるために、利用するんじゃないかな」
「だろうな」
そして一回目の俺は、俺と同様に自分が強くなるために行動した。
結果、今の俺と一回目の俺は、実力的に差はないはずだ。
完全な対等、魔滅場だって使えると思っておくべき。
「……うう、そういうことなら、ミホノは止めないです。一回目のセオ様が一回目のセオ様だってことはわかるですけど……ミホノが最強であってほしいのは、今のセオ様です」
「ありがとな、ミホノ」
ミホノの頭をぽん、と撫でて俺はティナの方に向き直る。
ティナは無言でそれに頷き、俺に向かって手をかざした。
こっちの世界にやってきてティナが手に入れた件のマナ。
それをすべて、ここで解放する。
結果――世界が歪み始めた。
「セオ様!」
ミホノが俺に呼びかけてくる。
それに視線を向けると、しかしそこにミホノの姿はなかった。
もう既に、時空がねじ曲がってしまっているのだ。
いなくなったのはミホノではなく、俺の方。
そしてきっと――あっちの世界でも俺はミホノの前からいなくなっているのだろうな。
あっちの世界のミホノは、目が見えなくなったという。
けど、それを治す方法は俺なら何かしら考えるはずだ。
だからきっと、状況はほとんどどちらも変わらないはず。
――そして、気がつけば眼の前に黒いシルエットの俺がいる。
向こうも、同じように見えているはずだ。
驚くべきことに、炎鬼天生は効果が終了していた。
だけど、昏睡しない。
おそらくこれは、ティナが俺の時間を少しだけ巻き戻したからだ。
ティナと戦闘をする前の状態に戻っている。
ほぼほぼ万全と呼べる状態。
ありがたい話だ。
何にしても俺は、もう一人の俺を前にして、ふと思うところがある。
俺はこの世界が――この漫画が大好きだ。
最高の能力を開発したいと思っていた。
眼の前に、同じ事を思っているやつがいる。
なら、さぁ。
「――決めるしかないよな! どっちが、より最高の能力を使えるか!」
俺は、叫びながら刀を取り出した。
シルエットも同時に刀を構える。
ああ、やはり、考えることは同じってわけだ。
じゃあもはや遠慮はいらないな。
さぁ、どっちがこの世界をより