全然OKだという方はどうぞ温かい目で見てやってください。
第6話 絶望のプレアデス監視塔ツアー
──アウグリア砂丘
そこは草花一つ生えず、生命の痕跡が何一つ存在しない広大な熱砂の大地。
強い日差しと乾いた風が吹き抜ける黄金色の砂漠地帯。その中心を、軋む音を立てながら一台の竜車が疾走する。
「来るぞ──正面ッ!」
叫びと同時に、目先の蜃気楼が歪むように裂けた。
閃光、それはまるで流れ星のように眩い光を放ちながら、一直線にこちらへ迫ってくる。
空気を焼き、砂をガラスのように溶かしながら飛来するそれは美しくも明確な殺意を持っていた。
スバルは愛竜パトラッシュの手綱を強く引く。
竜車は横滑りするように進路を変え、一つ、また一つと最小の動きで的確にかわしていく。
そのわずか数秒後、流星の光は轟音とともに背後の砂丘へと突き刺さる。爆せた衝撃が空気を押し上げ、熱風が竜車を叩く。
「次が来る、それにさっきより間隔が短い!」
直後、空中で分散した無数の光が、無慈悲にも空から降ってくる。避けるにしても数少ない被害が出るのは、先ほどの攻撃から身をもって知っていた。
「アル・ヒューマ!」
荷台から身を乗り出したエミリアが、必死に魔法を展開し応戦する。だが彼女の生み出した氷塊は1発で砕かれる。いくらか威力は落ちているものの、針は空中で弧を描きまるで意識を持つかのように竜車を追尾してくる。
「右だ、右へ!」
竜車が跳ね、車輪が砂に埋もれかけるがなんとか抜け出し持ち堪えた。その瞬間、流星がすぐ脇をかすめ、眩い閃光が一行の影を砂に焼き付ける。
綱渡りのようにギリギリの攻防。それは直感という言葉では説明がつかないまさに最善と呼ぶに相応しい選択の数々。
数回のやり直しの果て、一度目は視認することも叶わず。二度目は明確な殺意の前に、なす術なく蹂躙された。
気を抜ける瞬間などありはしない、それを怠った結果待っているのは呆気ない死だけだ。
「まずいのよ、スバル。あれはさすがに避け切れないかしら」
しかしそんなことを考える暇なく先ほどよりも目に見えて多い光が超速で迫ってくる。
数秒後には串刺しにされ、スバル達はなす術なく殺されるだろう。
「スバル、あれを使うのよ」
「ああ、俺たちの愛の力を見せてやろうぜ!」
──彼1人だけだったのなら
『──E・M・M!!』
それはスバルとベアトリスが開発した魔法の一つ『絶対防御魔法』発動中、身動きが取れなくなる代わりに外部から一切の干渉を受け付けなくする。なまじレグルスの権能の下位互換とも言える力だ。
しかしながらその性能は凄まじく、ベアトリスの知識と技術を総動員しただけあり今もこうして攻撃を弾き返している。
「レグルスに似た効果なのは、ちょっと気が引けるけどなアッ!?」
ただ『E・M・M』は心臓が止まらない変わりに常にマナを消費し続ける。絶え間なく光が降り注ぐこの状況では、時間稼ぎにしかならない。
「ちょば!? まで!? いくらなんでぼぉ!? 多すぎだぁ!?」
それにいくら防御できるとはいえ、その衝撃は全て術者のスバルに伝わってくる。
今のスバルには、間抜けな声を上げることしかできず、その姿は情けないものであった。
衝撃が来ないようちゃっかり後ろへ回り込んでいる相棒に助けを求めようとした彼だが、頼りであるベアトリスは青ざめた顔をしながら振り向いたスバルに残酷な真実を告げた。
「マナが、もう少しで尽きるのよ……」
マナが尽きる。それは『E・M・M』に頼り切りなこの状況では、パーティーの全滅を意味していた。
それだけは絶対にあってはならない。この極限状態の中、ことの深刻さを理解したスバルが導き出した答えは、逃げの一手ではなく攻めの一手、すなわち反撃であった。
「三番目は不完全……二個目の方でいくぞ!」
「わかったかしら!」
頼れる相棒の力強い返事にスバルもまた覚悟を決める。そして新たな魔法を使うため、スバルは『E・M・M』を解除した。
──次の発動まで最低でも数秒
敵からすれば賊を仕留める絶好のチャンス。攻撃は更に苛烈さを増していく。
だがそれはスバルとしても想定内。魔法を切る直前、これからの動きをあらかじめ仲間達へと伝えていた。
「えい! やー!」
エミリアは可愛らしい掛け声から氷の障壁を生成する。激突した針は一枚、また一枚と分厚い氷壁を貫いていく。
やがて最後の一枚、光の速度は目に見えて鈍る。だが、防ぐことはできない。
最後の氷壁を撃ち抜いて、スバルの脳裏に明確な死が浮かび上がる。
やがて亜音速の針が正確にスバルの額へと突き刺さる。
「すまないが、彼を失うわけにはいかない──」
そこには、寸前で光を切り払ったユリウスが雄麗な振る舞いでそこに立っていた。
相変わらずのギザったさと自分の主人であり想い人のエミリアとの完璧なコンビネーションに嫉妬しながらも、魔法の準備が完了した。
「いくぞ! 第二の切り札! 絶対無効化魔法『E・M・T』!!」
スバル達の快進撃はたった今、幕を開け……
***
「威勢だけは良かったけど概ね
その後、未知の攻撃からなんとか逃げ延びた一行であったが、原作通り『E・M・T』によって生み出された空間の捩れに吸い込まれてしまった。
明らかに無事で済むような事態ではないのだが、その様子を上空から見ていたこの男だけは、彼らが塔に入れたことを知っていた。
「むしろあの状況で生き残ったことに敬意を表すべきか、さすがは主人公。まったく、君の行動はいつ見ても素晴らしいものだね」
男は満ち足りた表情でうんうんと何度も頷いている。しかしその後、ただと続け様に呟いた一言には少しの落胆と納得が含まれていた。
「やはり僕は
先ほどまでと打って変わり、男の表情はどこか寂しさと悔しさが入り混じったようだった。
「最初から見ていたが、彼の死を見ることは叶わなかった」
一連の流れを見れば、生死を左右する場面はいくつもあった。
そして、その全てで彼は常に正解と呼ぶに相応しい選択を選び続けていた。
どんなに優れた力や知能を持つ人間ですら、そんなことは不可能だと断言できる。
でなければラインハルト一人で十分だろう。
だからこそ──
「君はどうしようもなく、英雄だよ」
特別なものは何一つ持ち合わせていないのに、犠牲を出さず常に莫大な結果だけを残していく。何も知らない民衆からすればまさに理想の体現と呼べる英雄だろう。
「普通ならその過度な期待や評価に押しつぶされてもいいものなんだけど……さすがは主人公、最高に
どれだけ深い絶望に苛まれても、どれだけ無力を嘆いても、世界が魔女が……自分自身が諦めることを許さない。
「君の歩みを止めれる者なんてこの世界にいないだろうね」
それは俺としても心の底から思っている。実際今までも、そしてこれからも彼を止められた者は、誰一人として存在しない。
「……そして僕もまた、僕の歩みを邪魔する存在を決して許さない」
その言葉とともにレグルスはゆっくりと振り返る。
彼の眼前には、満天の星が夜空をこれでもかと明るく彩っていた。それはまるで一行の旅路を祝福するかのように……そして招かれざる外敵を確実に滅ぼすために。
──それは終わりの凶星
侵入者を追い払う牽制ではなく、明確に脅威となる敵を殲滅するための破滅の光。
スバル達へ向けられたものとは、規模も破壊力も何もかもが違う。
音すら置き去りにして飛来するそれは、夜空の美しさとは正反対の、殺意そのものだった。
「正直に言うと僕が戦う理由は、勝利のためでも、名誉のためでも、命令でもない」
レグルスは見えない敵を見据え、微かに口角を上げた。
「──信じた道が正しかったと証明するために戦うんだよ」
風が吹き、白の外套が揺れる。
その背中には恐怖など微塵もなく、揺るぎない覚悟だけが宿っていた。
「それを聞いてなお僕の邪魔をするっていうんなら、それはもう、僕の意見を無視するってことだ。僕の僕だけの権利を侵害するってことだ。僕の理想と夢を僕から奪おうってことだ。
──それは、いかに無欲な僕でも許せないなぁ」
そして、世界は色を失った。
彼の内側から滲み出したものは、怒りではない。もっと冷たく、研ぎ澄まされた何か。それは霧のように広がりあたりを酷く歪ませた。
やがて彼はゆっくりと顔を上げた。
その瞳は静かだった。激情を宿すわけでなく、嵐の中心のように、あまりにも穏やかで──だからこそ恐ろしい。
「君の正義が刃なら、僕の権利は盾だ」
低い声が落ちる。それだけで、空間に細かな亀裂が走った気がしたが実際には何も壊れていない。
だってこれから壊すのだから。
「先に砕けるのはどちらか──さあ、やり合おう。この手に星を掴むために」
沈黙が一拍。
やがてその言葉が開戦の合図となる。
ギラギラと輝き空を飾った星々は、今ではその全てが兵器としてただ一人の
雲という雲が引き裂かれ、その裂け目からいくつもの光が降り注ぐ。
一本一本が破壊のためだけに存在するような、冷酷無慈悲な閃光だった。
大地は触れただけで崩れ、近くにいた魔獣は影を残す暇なく蒸発していく。
だが、その無差別破壊の中心地に────男は一人立っていた。
レグルスは天を仰がない。逃げもしない。ただ前を見据え、静かに呼吸を整えていた。
周囲で何が起きているなど、もはや些事に過ぎないかのように……
やがてこれでは勝てないと判断したのか、いくつかの光が束となりその輝きと威力が何倍にも膨れ上がった。
最初の極光が堕ちる。
ここまでしてやっと攻撃と認めたのか、レグルスは踏み込み、拳を振るった。
轟音。
破滅の光は、拳の軌道上で砕け散り、無数の光片となって霧散する。
二本目、三本目
剣閃のように放たれる光を、レグルスは拳一つでその全てを撃ち落とす。
一撃ごとに世界が震え、衝撃波は円のように広がり大規模なクレーターを生み出す。
──あり得ない。
それは本来、撃ち落とすどころか触れることすらできない代物だ。
この世界で上位に位置する人間からしても、命の危機となり得る攻撃。
しかしレグルスにとって、それはただの『敵意』に過ぎなかった。
光が収束し、雨となって降り注ぐ。まさに星そのものが彼を拒絶し、排除しようと牙を向く。
誰がどう見ても絶望的な状況にレグルスは、わずかに口角を上げた。
「……数だけは多いみたいだね」
次の瞬間、地を蹴る。
人の身とは思えぬ跳躍で空へと舞い戻ると、降り注ぐ破滅の只中へ自ら身を投じた。
もちろんそんなことをすればどうなるかは分かりきったことだろう。
──そう、蹂躙だ。
連打。
拳が唸り、空間が砕ける
目を見張る破壊の応酬に、光は悲鳴のような音を立てて消えていく。
「勝敗は既に決まっている──ただ、いつ終わらせるかの違いだけだ」
その言葉を最後に、空が沈黙した。
世界を覆い尽くし、空を独占していた眩い光はもう一筋も残っていない。
空中から着地したレグルスの足元には、熱線で融解した砂がガラスとなって散らばり月と星の光を反射して、慎ましくも確かな輝きを放っている。
空と地上、相反する二方面から生み出されるこの幻想的な光景が、あの大規模破壊の後に残ったものとは俄にも信じ難い。
それほどまでに美しかった。
「どれだけ美しい夜空にも過度な装飾は似合わない。慎ましくも、平凡でも確かに輝く安寧の光が一筋でもあったのならそれで十分、まさに僕のようにね」
やがてレグルスは何事もなかったかのように歩き出す。
ある思いを胸に抱いて……
『フッ決まったな、主人公がいないところで凄まじい戦いを繰り広げる人物。素晴らしい! この光景をパンドラにもぜひ見て欲しかったよ! なんだか準備があるとかで遅れるらしいけど……あぁ本当に……」
「面白くなってきた」
彼の言葉を拾えたものは誰一人いなかった。
今宵、彼以外の音を聞くこともなかった。
戦闘描写って難しい…うまくできただろうか?