転界録:リムル・テンペスト オラリオ編   作:るにゃは

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誤字脱字報告ものすごい助かります本当にありがとうございます。
そして少しでも面白いねと思ってくれる方がいてとても嬉しく思います。



第八話「初陣──ベル、ダンジョンへ」

「いったぁぁぁぁぁっ!!」

 

朝のバベル内部、第一層の入口付近にて。

どこか間の抜けた、しかし真剣な叫びが響き渡った。

 

「うぐぅ……モンスターって……こんな……!」

 

「おいおい、情けねぇ声出すなよ。始まったばっかだぞ?」

 

「リムルさぁぁん!! フォロー! フォローお願いしますっ!!」

 

小さな通路を駆ける白髪の少年──ベル・クラネル。

その背後には、トカゲのような二足歩行の魔物《リザードマン》が舌を鳴らして迫っていた。

 

「やばいやばいやばい、近い近い近いっ!!」

 

「ほら、ナイフ構えろ。背を向けて逃げてばかりじゃ何もできないぞ!」

 

背後から涼しい声が飛ぶ。

 

銀髪の青年──リムル=テンペストは、余裕の足取りでベルの後ろを追っていた。

 

「で、でも! 僕、モンスターと戦ったことなんて……!」

 

「じゃあ今が初めてだな。よかったな、経験値ゲットのチャンスだ」

 

「そういう問題ですかーっ!?」

 

悲鳴を上げながらも、ベルは必死にナイフを振るう。

が、素人剣技ではリザードマンの硬い鱗にすら傷がつかない。

 

その刹那──

 

ザシュッ!

 

空気を裂く音とともに、銀閃が走った。

次の瞬間、リザードマンの首が宙を舞い、魔石の落ちる音が残った。

 

「ほら、甘えたら即死だぞ。気を抜くなよ?」

 

「うう……ありがとうございますぅ……」

 

床にへたり込むベルに、リムルは苦笑混じりに手を差し出す。

 

「休憩はあとにしろ。まだ一体目だろ?」

 

「……うぅ、オラリオ、こわい……」

 

 

 

 

第一層の深部。比較的モンスターが少ない安全地帯にて。

 

「というわけで、おさらいな。お前、モンスターと戦うとき、まず何を意識する?」

 

「えっと……敵の種類と距離、動きのパターンを観察して……」

 

「うん。で、自分の動きは?」

 

「ムダに動かない……なるべく少ない歩数で反応できるように、姿勢を低く、重心を落として……」

 

「よし。戦闘の基礎としては合格。じゃあ次は、スキルの感覚を掴む段階だな」

 

「えっ……僕、まだ発現してませんけど……?」

 

「でも気配はある。神様から《ファルナ》もらった時、なにか感じなかったか?」

 

「……体がぽかぽかして、何かが胸の奥に入ってくるような……」

 

「うん、それな。もうお前の中に“それ”はあるんだよ。あとは、トリガーを引くだけ」

 

「……トリガー……」

 

リムルは小石を拾い、遠くに投げた。

その音に反応して、洞窟の奥から複数の影が現れる。

 

「……う、また来た……!」

 

「今度は、ウルフ型か。よし、実戦演習その2。相手は三体、武器は一つ、お前は一人。どうする?」

 

「……戦います」

 

恐怖に膝を震わせながら、それでもベルはナイフを握り直す。

 

「そうか。じゃあ、見せてもらおうか」

 

 

 

 

「うぉおおおおっ!!」

 

ベルは咄嗟に飛び込んできた魔獣の一体を紙一重でかわし、横っ腹にナイフを突き立てる。

 

刺さった。けれど致命傷ではない。

 

「くっ……もう一度……!」

 

その瞬間──

 

ドクン

 

ベルの心臓が強く跳ねた。

 

頭の奥がじん、と熱くなる。

思考が研ぎ澄まされ、時間がゆっくりと感じられた。

 

《スキル発動確認──『リアリス・フレーゼ』低位活性》

 

「――あっ」

 

ベルのナイフが、魔獣の喉を一閃する。

一匹、沈黙。残る二体を前に、ベルはまだ震えていた。

 

けれど──目が違う。

何かが変わった。それは確かだった。

 

「そうそう、それだ。スキルってのはな、戦う意志が芯にあって、初めて目覚めるもんだ」

 

「リムル、さん……!」

 

残る魔獣も、今度は自分の手で倒してみせる。

そう言うように、ベルは構えを取り直す。

 

その姿に、リムルは静かに頷いた。

 

(……やっぱり、こいつは早い)

 

《スキル発動の再現性確認。感情刺激に強く依存。日々の訓練により効率化が可能》

 

(面倒見甲斐があるよ、まったく)

 

その後、ベルはなんとか自力で残りの魔獣を倒し、初めての“勝利”を得る。

 

息を切らしながら、地面に座り込んだ彼の顔には、達成感と喜びが満ちていた。

 

 

 

 

「お疲れさん。初陣としては悪くないよ」

 

「は、はい……! すごく疲れましたけど、でも……楽しかった、です!」

 

「それでこそ冒険者だな。体がボロボロでも、前に進みたくなるやつ」

 

「はいっ……!」

 

帰路。夕暮れの階段を登る二人の背中。

 

リムルはちらりとベルを見やる。

 

(あいつ、これから伸びるな……下手すりゃ、オラリオ中の注目を集めるほどに)

 

《それは保護対象としてリスクでもあります》

 

(ああ。だからこそ、俺が見てなきゃいけない。……放っとけない性分なんだよ、俺も)

 

地下の暗闇から、地上の夕日へ。

冒険者ベル・クラネルの“冒険”は、今、ようやく始まったばかり。

 

そしてリムルの“介入”もまた、この世界に波紋を生んでいく。

 

──それは、英雄譚の胎動。

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