転界録:リムル・テンペスト オラリオ編   作:るにゃは

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第十一話 冒険者の決意

オラリオの朝は喧騒とともに始まる。

 

市場の呼び声、鍛冶屋の金槌の音、そしてギルド本部前に列をなす冒険者たちのざわめき。

そんな喧騒の中で、ベルは肩で息をしながら受付の窓口を目指していた。

 

「はぁ、はぁ……早く並ばないと……っ」

 

昨日のダンジョンで得た魔石と素材を売却し、次の探索準備を整える。それが新米冒険者にとってのルーティンだった。

 

「ベル、こっち」

 

声をかけたのは、リムルだった。

彼はすでに手続きを終えたのか、壁際に立っている。朝日を受けた銀の髪がまぶしいほどに輝いていた。

 

「リムルさん! おはようございます!」

 

「おはよう。……昨日の素材、だいぶ重かっただろ?」

 

「はい、でも頑張りました! 僕、もっと早く運べるようになりたいです……!」

 

その言葉に、リムルは少し笑って肩をすくめた。

 

「焦らなくていいよ。俺だって、最初は効率なんて考えずに動いてたしな」

《訂正。貴方は最初から最適行動を心がけていました》

 

(シエル、今は黙っててくれると嬉しい)

《了解》

 

ベルはリムルの横に並ぶと、ふとその横顔を見上げた。

 

「リムルさんって……本当に強いんですね。昨日も、一人で三体をあっという間に倒してて……」

 

「あれはたまたまだよ。モンスターの動きが単調だっただけだ」

 

「でも、それを瞬時に見抜けるのがすごいです」

 

素直な尊敬の眼差しに、リムルは少し居心地悪そうに頬をかいた。

 

「……ま、多少場数は踏んでるからな」

 

《過去の戦闘記録、約三万七千件以上。『多少』という表現は不適切です》

(シエル、それを言うなって……)

 

そのまま二人は、今日の探索ルートを確認しながら歩き出す。

 

 

第5層──昨日よりも一層深い階層に進んだ二人は、注意深く通路を進んでいた。

 

「ベル、耳を澄ませて。音の反響が変わった……分かるか?」

 

「え……あ、確かに……足音が少し、重たくなったような……」

 

「この先、開けた部屋がある。たぶん、群れがいる」

 

リムルの声には緊張も焦りもなかった。ただ冷静に、状況を分析する。

 

(こんな風になれたら……)

 

ベルの胸に、新たな目標が生まれる。

 

戦うだけではなく、読み取ること。判断すること。

 

「行くぞ。俺が前を引く。後ろは任せた」

 

「はいっ!」

 

突入の瞬間、シャドウウルフの群れが牙をむいた。

だが、ベルはもう以前のように慌てなかった。

リムルの背中を信じ、自分の戦場を探して動く。

 

剣を振る。

跳躍する。

斬る。

 

すべてが、昨日の自分を超えていく。

 

そして、数分後。

 

群れは沈黙した。

 

「……うん。上出来だ」

 

「やった……!」

 

ベルの額に汗が光る。

それは苦しさではなく、確かな達成の証だった。

 

 

その夜、二人はいつもの屋台にいた。

 

ベルは焼き串を頬張りながら、静かに口を開く。

 

「僕、決めました。もっと強くなります。リムルさんと、肩を並べられるくらいに」

 

「へぇ、そいつは頼もしいな」

 

「そして、いつか……僕がリムルさんを助けられるくらいに……なりたいです」

 

リムルはしばらく黙っていた。

けれどその瞳の奥には、どこか懐かしい光が宿っていた。

 

「……ありがとう、ベル。期待してるよ」

 

その言葉に、ベルは胸を張ってうなずいた。

 

新しい冒険者としての一歩。

それは、確かに今、踏み出された。

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