転界録:リムル・テンペスト オラリオ編   作:るにゃは

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第一話「静かなる来訪者」

静かな風が草原を撫でる。

 

 

 

リムルは都市──オラリオ──の方角へと歩みを進めていた。

 

 

 

《都市の外周に巡らされた魔力障壁を検出。強制結界ではありませんが、内部構造の検知は困難です》

 

「入るだけなら問題なさそうってことだね。なら……行こうか」

 

 

 

道を歩む足取りは軽い。だがその一歩一歩は、まるで世界に問いを投げかけるような静謐さを帯びていた。

 

 

 

やがて、石畳が見えてくる。

 

そこは都市の正門の一つ──西門。旅人や商人、冒険者らしき者たちが行き交っていた。

 

 

 

「おい、見たか? あの人……なんか変じゃねぇか?」

 

「すげぇ綺麗な髪……銀髪? いや、青っぽいぞ」

 

「貴族? いや、雰囲気が違う……」

 

 

 

リムルが歩くだけで、人々の視線が集まる。

 

それは単に“見た目”のせいではない。“気配”そのものが、彼を異質と感じさせていた。

 

 

 

──だが、彼自身はそれを理解していた。

 

 

 

(うーん、やっぱり気づかれるか……。魔素濃度、抑えてるはずなんだけどな。これでもだいぶ)

 

 

 

《外見上の違和感は、空間振動の余波および魔素密度の影響です。現在、干渉波長を再調整中》

 

「ありがと、シエル。少しでも目立たないようにお願い」

 

 

 

そう呟いたその瞬間、彼の身体を包む空気の“層”が微かに揺らぎ、波紋のように散っていった。周囲の視線も次第に逸れていく。

 

 

 

「……今の何だったんだ?」

 

「いや、気のせいかもな」

 

 

 

《錯視干渉により認識負荷を軽減。目立たない一般人の一部として処理されます》

 

「さすがだね」

 

 

 

門前に立つ門番がリムルに声をかけた。

 

「そこの人、身分証はあるか? 冒険者ならギルドカードでも構わん」

 

 

 

(あ、そっか。こっちの世界の手続きがあるんだね)

 

「ごめん、初めて来たんだ。どこかで登録できるかな?」

 

 

 

門番は眉をひそめたが、敵意はない。

 

「……初来訪か。ならギルド本部へ行け。街の中心部、バベルのすぐそばにある。あそこなら身元登録もできるし、宿も紹介してくれる」

 

「ありがとう。助かるよ」

 

 

 

通行許可が下り、リムルはついに“神の都”の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

オラリオ──その名が示す通り、神々と人々が共に生きる巨大都市。

 

 

 

街の至る所に様々な種族の人々が行き交い、商人の声、武具の音、酒場の賑わいが混ざり合って独特の“生”を形作っていた。

 

 

 

(まるで文化のるつぼ……だね。まさに異世界って感じ)

 

《推定:この都市は“ダンジョン攻略”を軸とした複数経済圏と生活圏が密集しています。各ファミリアによる権益競争、迷宮からの資源供給、神々による社会構造の分散支配が特徴です》

 

 

 

「……つまり、いろいろカオスってことか。ふふ、ちょっと面白くなってきたかも」

 

 

 

リムルは街の案内看板を頼りに、ギルド本部へと向かう。

 

すると、その途中──

 

 

 

「あっ、そこのきみっ!」

 

 

 

少女の声が飛んだ。

 

リムルが振り返ると、そこには鮮やかな蒼の瞳を持つ小柄な少女がいた。腰に装着された紐のようなものが、特徴的な存在感を放っている。

 

 

 

(あれ……もしかして)

 

 

 

「きみ、初めて見る顔だけど、もしかして冒険者志望? それとも他所のファミリア?」

 

 

 

「あー……実は、これからギルドに行くところで」

 

 

 

「やっぱり! じゃあ、ボクのところに来ない?」

 

 

 

「え?」

 

 

 

少女はにっこりと笑った。

 

 

 

「ボクはヘスティア。ヘスティア・ファミリアの主神で今、団員募集中なんだよ!」

 

 

 

──まさかの、“神”との邂逅だった。

 

 

 

リムルは小さく笑い、そっと問いかけた。

 

 

 

「神様って……本当に、こんなふうに出歩いてるんだね」

 

 

 

「ふふん、どう、悪くないだろ?」

 

 

 

(……面白い。やっぱりこの世界、ちょっと好きかも)

 

 

 

彼の目が、わずかに細められた。

 

それは、久しく忘れていた“興味”という名の光。

 

 

 

──神と魔王の出会いは、こうして始まった。

 

 

 

だが、その出会いがもたらす運命を、この時まだ誰も知る由もなかった。

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