「……つまり、ボクのファミリアに入らない?」
街中でいきなり神様──それも、自ら「団員募集中」と宣言する小柄な女神に声をかけられるという、なんとも“異世界”らしい展開。
リムルは少しだけ考えてから、にこやかに応じた。
「えっと…俺を見て、いきなり勧誘しちゃって大丈夫なの?」
「ふふん、見た瞬間にビビッと来たんだよ!ボクの直感がそう言ってるんだもんっ!」
自信満々に胸を張るヘスティア。小柄な身体に不釣り合いなほどの大きな自信を纏っている……というか、実際に胸もなかなか……。
「なるほど、神様の直感ってやつかぁ」
「そう! ボクの見る目に間違いはないんだからっ!」
ヘスティアは、得意げにウインクしてきた。
リムルは表情を緩める。彼女のような存在と接するのは初めてではないが、この「ボクっ娘」な神様は妙に親しみやすく、眩しいくらいに人間味に溢れていた。
《補足:神威による感知力は単なる偶発的作用ではなく、高位存在による運命干渉とも推測されます》
(うん、それは……否定できないね。彼女、意外と只者じゃないのかも)
「よし! じゃあギルド本部に一緒に行こうっ!」
「案内してくれるの?」
「もちろんっ! ボクがスカウトしたんだから、責任もって最後まで面倒見るよ!」
そうして、二人は肩を並べてバベルの塔のふもとへと歩き出す。
◆
ギルド本部は、まさしく都市の中心にあった。
白亜の巨塔──バベルの直下に広がるその施設は、厳格さと利便性を兼ね備えた建物だった。訪れる冒険者たちで常に賑わっており、受付の職員も慌ただしく動いている。
「ここがギルド本部。新しく冒険者登録するなら、まず受付で書類書いて、身体測定や魔力測定もあるよ」
「なるほど……」
受付には長い列ができていたが、ヘスティアが隣にいると対応が驚くほどスムーズだった。
「……あの、神様。もしかして横入り?」
「えへへ、大丈夫大丈夫。神様の特権ってやつだよ。特に、スカウトしたての子は優先してくれるのっ!」
(この世界、意外と緩いな……いや、神が運営に関わってる時点でそうなるのか)
◆
手続きは思ったよりも簡単だった。
身元証明はヘスティアが“保証人”として扱われたことで一発通過。必要だったのは、リムル自身のステータス測定のみ。
「じゃあ、次は『神の儀』だよっ」
「神の儀……?」
「ボクがあなたの背中にボクの『神聖文字(ファルナ)』を刻んで、ステイタスを記録する儀式。これがないと、ファミリアには入れないからね!」
(身体に刻む……? まあ、契約みたいなものか)
《注意:魔力構造の接続儀式と類似。相手神の神性領域への一時アクセスを許可する必要あり》
(了解、シエル。問題ないよ)
「じゃ、じゃあ背中を見せてね。シャツ脱いで……っと……!」
神妙な空気が一瞬だけ走る。
リムルがシャツを脱ぐと、彼の背中は白く滑らかで、まるで神像のように整っていた。
ヘスティアの手がわずかに震える。
「……すごい。肌、綺麗……っていうか、無駄がなさすぎる……」
「ん? 何か言った?」
「な、なんでもないっ! いくよー、神の儀、開始っ!」
ヘスティアの指が彼の背に触れ、指先から青白い光が走る。
──神聖な文字が浮かび上がり、リムルの存在を記録する。
その瞬間、空気が一変した。
《干渉検知。神性因子との同期開始──》
「……えっ?」
リムルの背から発せられた“何か”が、一瞬だけ周囲の空間を揺らがせた。
受付の職員が小さく首を傾げ、周囲の空気がほんの僅かに“異質”になる。
だが、それはすぐに霧のように消えた。
「──完了! これであなたも、正式にヘスティア・ファミリアの一員だよっ!」
リムルは静かに目を開けた。
「……ありがとう、ヘスティア」
「どういたしましてっ、リムル!」
神と魔王の間に、ひとつの“契約”が成立した。
だが、この“ささいな登録”が、後に世界に波紋を広げる引き金になるとは──
まだ、誰も気づいていなかった。