ギルドでの登録を終えた俺とヘスティアは、夕暮れのオラリオを歩いていた。
石畳の道に差す夕陽が長く影を伸ばしている。異世界に来たばかりだというのに、不思議とこの街の空気は心地よかった。
「ふあぁ~、つかれたぁ……」
ヘスティアが大きくあくびをしながら腕を上げる。どう見ても幼い少女の姿だが、れっきとした神様である。
「ギルドの登録って、想像よりずっとめんどくさいもんなんだな」
「うん。でも、これで晴れてキミも“ボクのファミリア”の一員になったわけだし!」
「……あはは。こうやって誰かの“所属”になるのって、久しぶりかもな」
テンペストでは盟主として、皆の中心に立っていた。誰かに“所属”する立場というのは、実のところ新鮮だった。
「で、リムル。ボク、ずっと気になってたことがあるんだけど……」
「ん? なに?」
「キミ、本当に“ただの人間”じゃないよね?」
ピタリと足が止まる。夕焼けに照らされたヘスティアの顔は、真剣だった。
「“神の儀”の時、空気が震えた。あれって……キミの中に何か、すごく大きな“力”があるってことだよね?」
「……まあ、うん。隠すつもりはなかったけど、あえて言うほどでもないかなって思ってた」
俺は苦笑して肩をすくめる。
「でも、俺に敵意はないよ。ただ、新しい世界で、静かに暮らしたいだけなんだ」
ヘスティアは、しばらくじっと俺の目を見ていたが──やがて、ふっと笑った。
「うん、だと思った。ボクもそう感じてた」
「……え、いいの?」
「うんっ。ボクは“今のリムル”を見て、ファミリアに誘ったんだから。それだけで充分だよ」
「……ヘスティア、ありがとな」
俺は心からそう思った。神様ってもっと高圧的だったり、理解できない存在だと思ってたけど……この子は違う。
◆
「で、今夜はどうするの? 宿とか決めてる?」
「んー、金も持ってないし、野宿かなーって」
「それなら決まりっ! 今日からボクの神殿に住もう!」
「……いや、神殿って言っても豪華なわけじゃないだろ?」
「う、うん。廃教会だけど……屋根はあるよ! たぶん!」
「……ははっ、それなら十分だよ。ありがと、ヘスティア」
「えへへ~、どういたしまして~♪」
◆
オラリオの外れにひっそりと建つ、古びた教会──それが俺とヘスティアの新たな拠点となった。
崩れた壁、ひび割れた床、それでも屋根は無事。最低限の生活空間としては問題なさそうだった。
「どう? なかなか味のある場所でしょ?」
「うん、俺はこういうとこの方が落ち着くな。静かだし、隠れ家っぽくてさ」
「それ、ボクにとっては褒め言葉ってことでいいんだよね?」
「もちろんだよ」
俺は笑いながら、草むらに座る。ここからなら、バベルの塔が遠くに小さく見える。
──この世界の中心。神と人の交差点。
「シエル、改めて確認。今の俺たちの状況、整理しとこうか」
《了解。現在地:世界群より隔離された独立位相。神々の物理干渉が可能な霊的高位世界。魔力循環構造は“加護”制度により成立。成長要素:ファミリア加入・ダンジョン活動により段階的上昇》
《現地勢力の分析中。現状、行動優先度:情報収集・信頼構築・潜在脅威の監視。戦闘介入は最低限に抑えることを推奨》
「了解。まあ、俺も派手にやるつもりはないけど……いざとなったら、守るからな」
月明かりに照らされた空は、この世界でも変わらず綺麗だった。遠く、星の瞬きを眺めながら、俺は静かに息を吐く。
「……さて、新しい生活、始めますか」